[1月2日09:40.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・東海道新幹線ホーム]
〔新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく15番線に、“こだま”645号、新大阪行きが入線致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から7号車までと、13号車から15号車です。尚、全車両禁煙です。お煙草をお吸いになるお客様は、喫煙ルームをご利用ください〕
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
正月三ヶ日であっても、探偵に休みは無い。
依頼さえあれば、正月休み返上で仕事をする。
今日は当事務所で大きなクライアントである斉藤秀樹社長から、一人娘の絵恋さんを旅行に連れて行き、良い思い出を作るよう依頼があった。
え?こんなの探偵の仕事じゃないだろうって?
そうかもしれないが、うちはまだまだ弱小事務所だ。
来た仕事は例え『何でも屋』の如く、選ばず全て甘んじて受けなくてはならないのだ。
東海道新幹線の乗り場は先述の通り、時期的なこともあって、多くの利用者達で混雑していた。
普段は空いている“こだま”号の乗り場でさえ、さすがに……ま、“のぞみ”や“ひかり”よりは空いている。
列車が到着すると、“乙女の祈り”のメロディーに合わせてホームドアが開く。
ホームの駅員がボタン操作で開閉しているらしい。
JR東海では安全(可動)柵と呼んでいるが、要はホームドアだ。
高橋:「先生!お菓子と飲み物買って来ました!」
愛原:「おー、ご苦労さん」
高橋が戻って来ると、列車のドアが開いた。
愛原:「さすがに先頭車なら空いてるだろう」
高野:「“こだま”は自由席が多いですし、各駅停車ですからね」
乗り込むと、私と高橋君と高野君は3人席に座り、リサと絵恋さんのJC2人は2人席に座った。
〔「本日も新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。9時56分発、“こだま”645号、新大阪行きです。……」〕
名古屋止まりよりも新大阪行きの方が誤乗が多いらしく、各駅に止まる旨を強調し、座席には荷物を置かないように案内が流れていた。
愛原:「斉藤社長の依頼書だと、直接温泉に向かうようになっている」
高橋:「それでいいんじゃないスか?」
愛原:「いや、ついでに観光とかできないかなぁ……って思ってる」
高野:「そうですねぇ……。私も“富士宮やきそば”とか食べてみたいですし、浅間大社とか行ってみたいですしね」
愛原:「まあ、社長には『娘に良い思い出を』と言われてるし、それくらいの寄り道はいいんじゃないかな」
高野:「それじゃ私、浅間大社までのルートを検索しておきますね」
愛原:「ああ。頼むよ」
私は高橋が買って来てくれたホットコーヒーを啜り、発車を待った。
[同日09:56.天候:晴 JR東海道新幹線こだま645号1号車内]
〔「レピーター点灯です」〕
ホームから発車メロディーが聞こえてくる。
すぐ隣のホームには東北新幹線が停車しており、そちらはいつも通りのベルということで、それで区別しているのだろう。
〔15番線、“こだま”645号、新大阪行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「ITVよーし!乗降、終了!15番線、“こだま”645号、ドアが閉まります」〕
車内にも聞こえてくる、甲高い客扱い終了合図のブザー。
それでドアが閉まり、安全柵の“乙女の祈り”も聞こえてくる。
リサ:「サイトー、あの子、何か面白いもの持ってる」
発車間際、リサが東北新幹線のホームを歩いている男子小学生を指さした。
絵恋:「ああ。あれは“シンカリオン”のグッズね」
リサ:「しんかりおん?」
絵恋:「子供……特に男子には随分人気があるみたいだけど……」
リサ:「おー、あれがシンカリオン……」
絵恋:「もしかして、リサさんも興味があるの?確か、劇場版が出たって聞いたね。も、もし良かったらぁ……わ、わわ、私と映画館デートでもぉ……」
リサ:「冬休みに入る直前、1組の佐藤君から『シンカリオンの映画、2人で見に行かない?』って誘われたっけなぁ……」
絵恋:「 それって、もしかして、自称イケメンのなんちゃってモテ期襲来の佐藤公一君のことかしら……?」
リサ:「うん。そう」
絵恋:「私、ちょっと家に電話してきますわね……」
リサ:「サイトー、何か怖い」
スマホ片手にデッキに向かう絵恋さん。
尚、この時、高橋君はその時彼女が放った『呪いのつぶやき』を確かに聞いたそうだ。
絵恋:「あの自称イケメンのクソ野郎、学校から追放だわ……!私のリサさんを……!!」
東京中央学園は私設の学校法人。
そこに多額の寄付金を出している斉藤家が動いたら……【お察しください】。
在日特権も利権も、斉藤家の前では形無しだな。
公立ではそれらがモノを言うのだが。
[同日10:44.天候:晴 同車内]
静岡県に入る前からチラ見だけしていた富士山がガチ見できるようになった。
絵恋:「今日は富士山が良く見えるね」
〔「皆様、進行方向左手に富士山が見えて参りました。……」〕
すると新幹線には珍しく、車窓案内が流れて来た。
年末年始の時期だからなのか、マニュアルで決められているのか、それとも車掌のさじ加減か分からないが、こういうのもあっていいと思う。
〔「写真撮影をされるお客様は、他のお客様に御配慮をお願い致します」〕
とか言ってる。
リサ:「先生、写真撮って。私とサイトーで」
愛原:「ああ。いいよ」
私はリサからスマホを預かった。
絵恋:「り、リサさんと旅行でペア写真……!」
愛原:「絵恋さん、萌えるのは写真を撮り終わってからにしてね」
私はそう言いながら、シャッターを切った。
尚、高橋も私とのツーショット写真を強く希望したことは言うまでもない。
〔新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく15番線に、“こだま”645号、新大阪行きが入線致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から7号車までと、13号車から15号車です。尚、全車両禁煙です。お煙草をお吸いになるお客様は、喫煙ルームをご利用ください〕
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
正月三ヶ日であっても、探偵に休みは無い。
依頼さえあれば、正月休み返上で仕事をする。
今日は当事務所で大きなクライアントである斉藤秀樹社長から、一人娘の絵恋さんを旅行に連れて行き、良い思い出を作るよう依頼があった。
え?こんなの探偵の仕事じゃないだろうって?
そうかもしれないが、うちはまだまだ弱小事務所だ。
来た仕事は例え『何でも屋』の如く、選ばず全て甘んじて受けなくてはならないのだ。
東海道新幹線の乗り場は先述の通り、時期的なこともあって、多くの利用者達で混雑していた。
普段は空いている“こだま”号の乗り場でさえ、さすがに……ま、“のぞみ”や“ひかり”よりは空いている。
列車が到着すると、“乙女の祈り”のメロディーに合わせてホームドアが開く。
ホームの駅員がボタン操作で開閉しているらしい。
JR東海では安全(可動)柵と呼んでいるが、要はホームドアだ。
高橋:「先生!お菓子と飲み物買って来ました!」
愛原:「おー、ご苦労さん」
高橋が戻って来ると、列車のドアが開いた。
愛原:「さすがに先頭車なら空いてるだろう」
高野:「“こだま”は自由席が多いですし、各駅停車ですからね」
乗り込むと、私と高橋君と高野君は3人席に座り、リサと絵恋さんのJC2人は2人席に座った。
〔「本日も新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。9時56分発、“こだま”645号、新大阪行きです。……」〕
名古屋止まりよりも新大阪行きの方が誤乗が多いらしく、各駅に止まる旨を強調し、座席には荷物を置かないように案内が流れていた。
愛原:「斉藤社長の依頼書だと、直接温泉に向かうようになっている」
高橋:「それでいいんじゃないスか?」
愛原:「いや、ついでに観光とかできないかなぁ……って思ってる」
高野:「そうですねぇ……。私も“富士宮やきそば”とか食べてみたいですし、浅間大社とか行ってみたいですしね」
愛原:「まあ、社長には『娘に良い思い出を』と言われてるし、それくらいの寄り道はいいんじゃないかな」
高野:「それじゃ私、浅間大社までのルートを検索しておきますね」
愛原:「ああ。頼むよ」
私は高橋が買って来てくれたホットコーヒーを啜り、発車を待った。
[同日09:56.天候:晴 JR東海道新幹線こだま645号1号車内]
〔「レピーター点灯です」〕
ホームから発車メロディーが聞こえてくる。
すぐ隣のホームには東北新幹線が停車しており、そちらはいつも通りのベルということで、それで区別しているのだろう。
〔15番線、“こだま”645号、新大阪行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「ITVよーし!乗降、終了!15番線、“こだま”645号、ドアが閉まります」〕
車内にも聞こえてくる、甲高い客扱い終了合図のブザー。
それでドアが閉まり、安全柵の“乙女の祈り”も聞こえてくる。
リサ:「サイトー、あの子、何か面白いもの持ってる」
発車間際、リサが東北新幹線のホームを歩いている男子小学生を指さした。
絵恋:「ああ。あれは“シンカリオン”のグッズね」
リサ:「しんかりおん?」
絵恋:「子供……特に男子には随分人気があるみたいだけど……」
リサ:「おー、あれがシンカリオン……」
絵恋:「もしかして、リサさんも興味があるの?確か、劇場版が出たって聞いたね。も、もし良かったらぁ……わ、わわ、私と映画館デートでもぉ……」
リサ:「冬休みに入る直前、1組の佐藤君から『シンカリオンの映画、2人で見に行かない?』って誘われたっけなぁ……」
絵恋:「 それって、もしかして、自称イケメンのなんちゃってモテ期襲来の佐藤公一君のことかしら……?」
リサ:「うん。そう」
絵恋:「私、ちょっと家に電話してきますわね……」
リサ:「サイトー、何か怖い」
スマホ片手にデッキに向かう絵恋さん。
尚、この時、高橋君はその時彼女が放った『呪いのつぶやき』を確かに聞いたそうだ。
絵恋:「あの自称イケメンのクソ野郎、学校から追放だわ……!私のリサさんを……!!」
東京中央学園は私設の学校法人。
そこに多額の寄付金を出している斉藤家が動いたら……【お察しください】。
在日特権も利権も、斉藤家の前では形無しだな。
公立ではそれらがモノを言うのだが。
[同日10:44.天候:晴 同車内]
静岡県に入る前からチラ見だけしていた富士山がガチ見できるようになった。
絵恋:「今日は富士山が良く見えるね」
〔「皆様、進行方向左手に富士山が見えて参りました。……」〕
すると新幹線には珍しく、車窓案内が流れて来た。
年末年始の時期だからなのか、マニュアルで決められているのか、それとも車掌のさじ加減か分からないが、こういうのもあっていいと思う。
〔「写真撮影をされるお客様は、他のお客様に御配慮をお願い致します」〕
とか言ってる。
リサ:「先生、写真撮って。私とサイトーで」
愛原:「ああ。いいよ」
私はリサからスマホを預かった。
絵恋:「り、リサさんと旅行でペア写真……!」
愛原:「絵恋さん、萌えるのは写真を撮り終わってからにしてね」
私はそう言いながら、シャッターを切った。
尚、高橋も私とのツーショット写真を強く希望したことは言うまでもない。