[9月5日11:22.天候:晴 東京都江東区菊川 敷島孝夫&3号機のシンディ]
〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。菊川、菊川〕
事務所の最寄り駅に着いた敷島達は、そこで電車を降りた。
〔2番線、ドアが閉まります〕
京王線から乗り入れて来て、そのまま新宿線内折り返し運転をしていたのだろう。
京王電鉄の電車は、トンネル内で風を巻き起こしながら発車していった。
尚、都営地下鉄の車掌も電車発車時、乗務員室のドアを開けっ放しの状態で身を乗り出している。
それが最近、テレビで放送されているタウンワークのCMを思い起こさせるのだ。
「バイトするなら、タウンワーク!バイトするなら、タウンワーク!頼むよ〜!」
強風でスリットの深いシンディのロングスカートが捲れ上がるが、あまり気にする様子は無い。
何しろ、東京決戦の時は所々赤黒く染まっていても気にしなかったくらいだ。
返り血で、赤黒く染まっていても!
事務所に戻る。
「あっ、お帰りなさい。社長」
久々に登場。
事務員ロイド(メイドロボからの用途変更)、一海。
「おう、ただいまー。やっと通常通りの業務再開だな。えーと、午後の予定は……」
「虚構新聞社の取材が入ってますよ」
「あ、そうか」
ポンと手を叩く敷島。
「なになに?誰が取材を受けるの?」
奥の部屋から鏡音リンがやってくる。
「俺だよ」
「えっ!?」
「数ある芸能事務所の中で、ロイドを専門に扱ってるのはうちを入れて数社しかない。変わり種ということで、取材のオファーがあったんだ」
「ふむふむ。後でリンもさり気なくアピールするチャンスだね」
「あー、シンディ。リンが余計なことをしないよう、監視をよろしく」
「かしこまりました」
「えー、何で何で!?」
「新聞社の経済記事の取材なんだから、ボーカロイドには直接用は無いのよ」
「だーかーらぁ!直接じゃなくて、さりげなくだYo〜!」
「はいはい。リンも午後から仕事なんだから、早く準備してー」
ズルズルと奥に連れて行くシンディだった。
[同日13:15.敷島エージェンシー・社長室内 敷島孝夫&シンディ]
記者から一対一でインタビューを受ける敷島。
時折、同行のカメラマンからフラッシュを焚かれる。
「えー、次の質問ですが、この事業を興そうと思ったきっかけは何ですか?」
「まさか本当に、自分が経営者になるとは思いもしませんでした。一プロデューサーだった頃に、彼女達は絶対に成功すると思っておりまして、財団が無くなっても、どこかの芸能事務所が引き取ってくれるだろうと思っていたんです。その時、私もそこでプロデューサーとして再就職できればそれで良かったんですが……。何故か引き取り手がいなかったんですよ。このままではボーカロイド達が宙に浮いてしまう。最悪、廃棄処分ですよ。そんな勿体ないことはしたくなかったので、こうなったらいっそのこと、自分が事務所を作るしかないと思いました」
「なるほど。アイドルがロボットというのは、芸能界でも初の試みだということで話題ですが、人間のアイドルとの違いについて……」
敷島がインタビューを受けている間、シンディは横に立っている。
ここでは秘書兼護衛という立ち位置だからだ。
そのシンディが時折、ドアの向こうを睨みつけていた。
何故なら……。
「社長、凄いなぁ……。インタビュー慣れしてるよ〜」(鏡音レン)
「そうだね。『警察の事情聴取より楽』だというのは本当みたいだね」(MEIKO)
「わたしもインタビューとかされてみたいな〜」(結月ゆかり)
「あれが大人の男の魅力ですか。ボクも参考に……」(KAITO)
と、ドアをこっそり少し開けて覗いていたからだ。
「ん?」
気配に気づいた記者達が、背後のドアを見る。
シンディはスマイルで、
「ちょっと、失礼致しますね」
と言うと、つかつかとドアの所に歩み寄り、
「向こうへ行ってなさーい!!」
と、雷を落とした。
「はーい!!」
蜘蛛の子を散らすように逃げて行くボカロ達。
ドアを閉めて、
「排除、完了しました。どうぞ、続きを」
記者達にはにこやかな顔を見せるシンディだった。
「え、えーと……。スタッフの方につきましても、人間の社員はプロデューサーさん1人だけで、あとはこちらの秘書さんみたいにロボットだというのもまた初の試みですが……」
[同日14:00.同場所 鏡音リン・レン、8号機のアルエット]
敷島とシンディは記者達をエレベーターまで見送った。
その様子を見ていたレンは、
「最近、ボクもCDジャケ以外は撮影とかしてないなぁ……」
と、呟いた。
「レーン!リンのヘッドセットどこー!?」
奥からリンの声が聞こえた。
「机の上にあるよ!」
レンも仕事に行く準備に取り掛かった。
向こうでもメイクはあるのだが、来る前に軽くセットしておいてほしいということだった。
「あっ、ちょっと待った!」
そこへアルエットが呼び止める。
「髪がほつれてるよ。直してあげるね」
レンは髪を後ろで短く結んでいる。
それを解くと、リンと同じ長さになる。
「え……?う、うん……」
レンは椅子に座ると、アルエットに髪を直してもらった。
「はい、OK!」
「あ、ありがとう……」
「レーン!準備できたー!?」
「こっちはOKだよ」
アルエットが代わりに返事した。
「んじゃあ、行ってきまーす!」
リンはレンの腕を引っ張るようにして、事務所を出ていった。
スケジュールは、完全に自己管理OKなのがボカロの特徴でもある。
[同日15:00.同場所・社長室 敷島孝夫]
敷島はどこかと電話していた。
「……ああ、“カントリーロード”ってあれでしょ?多摩ニュータウンが舞台の某アニメ映画のテーマ……えっ、違う?だって、京王線出てくるじゃない?」
何の電話だ?
「……埼玉在住なもんで、東京都西部はよく分かりませんでね。……ええ、分かりました。じゃあ、うちのボカロで歌えそうなの……ってか、全員歌えるんだけど、適正なのを探しておきますよ。……ええ。それじゃ、また」
電話を切る。
「えー?平成狸合戦だったっけ?多摩ニュータウンって……」
だから、何の話をしていたんだ、敷島?
どちらも世界観と時系列は違うが、舞台は同じだぞ?
社長室ではこんなんばっかやってるいるのだろうか?
〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。菊川、菊川〕
事務所の最寄り駅に着いた敷島達は、そこで電車を降りた。
〔2番線、ドアが閉まります〕
京王線から乗り入れて来て、そのまま新宿線内折り返し運転をしていたのだろう。
京王電鉄の電車は、トンネル内で風を巻き起こしながら発車していった。
それが最近、テレビで放送されているタウンワークのCMを思い起こさせるのだ。
「バイトするなら、タウンワーク!バイトするなら、タウンワーク!頼むよ〜!」
強風でスリットの深いシンディのロングスカートが捲れ上がるが、あまり気にする様子は無い。
何しろ、東京決戦の時は所々赤黒く染まっていても気にしなかったくらいだ。
返り血で、赤黒く染まっていても!
事務所に戻る。
「あっ、お帰りなさい。社長」
久々に登場。
事務員ロイド(メイドロボからの用途変更)、一海。
「おう、ただいまー。やっと通常通りの業務再開だな。えーと、午後の予定は……」
「虚構新聞社の取材が入ってますよ」
「あ、そうか」
ポンと手を叩く敷島。
「なになに?誰が取材を受けるの?」
奥の部屋から鏡音リンがやってくる。
「俺だよ」
「えっ!?」
「数ある芸能事務所の中で、ロイドを専門に扱ってるのはうちを入れて数社しかない。変わり種ということで、取材のオファーがあったんだ」
「ふむふむ。後でリンもさり気なくアピールするチャンスだね」
「あー、シンディ。リンが余計なことをしないよう、監視をよろしく」
「かしこまりました」
「えー、何で何で!?」
「新聞社の経済記事の取材なんだから、ボーカロイドには直接用は無いのよ」
「だーかーらぁ!直接じゃなくて、さりげなくだYo〜!」
「はいはい。リンも午後から仕事なんだから、早く準備してー」
ズルズルと奥に連れて行くシンディだった。
[同日13:15.敷島エージェンシー・社長室内 敷島孝夫&シンディ]
記者から一対一でインタビューを受ける敷島。
時折、同行のカメラマンからフラッシュを焚かれる。
「えー、次の質問ですが、この事業を興そうと思ったきっかけは何ですか?」
「まさか本当に、自分が経営者になるとは思いもしませんでした。一プロデューサーだった頃に、彼女達は絶対に成功すると思っておりまして、財団が無くなっても、どこかの芸能事務所が引き取ってくれるだろうと思っていたんです。その時、私もそこでプロデューサーとして再就職できればそれで良かったんですが……。何故か引き取り手がいなかったんですよ。このままではボーカロイド達が宙に浮いてしまう。最悪、廃棄処分ですよ。そんな勿体ないことはしたくなかったので、こうなったらいっそのこと、自分が事務所を作るしかないと思いました」
「なるほど。アイドルがロボットというのは、芸能界でも初の試みだということで話題ですが、人間のアイドルとの違いについて……」
敷島がインタビューを受けている間、シンディは横に立っている。
ここでは秘書兼護衛という立ち位置だからだ。
そのシンディが時折、ドアの向こうを睨みつけていた。
何故なら……。
「社長、凄いなぁ……。インタビュー慣れしてるよ〜」(鏡音レン)
「そうだね。『警察の事情聴取より楽』だというのは本当みたいだね」(MEIKO)
「わたしもインタビューとかされてみたいな〜」(結月ゆかり)
「あれが大人の男の魅力ですか。ボクも参考に……」(KAITO)
と、ドアをこっそり少し開けて覗いていたからだ。
「ん?」
気配に気づいた記者達が、背後のドアを見る。
シンディはスマイルで、
「ちょっと、失礼致しますね」
と言うと、つかつかとドアの所に歩み寄り、
「向こうへ行ってなさーい!!」
と、雷を落とした。
「はーい!!」
蜘蛛の子を散らすように逃げて行くボカロ達。
ドアを閉めて、
「排除、完了しました。どうぞ、続きを」
記者達にはにこやかな顔を見せるシンディだった。
「え、えーと……。スタッフの方につきましても、人間の社員はプロデューサーさん1人だけで、あとはこちらの秘書さんみたいにロボットだというのもまた初の試みですが……」
[同日14:00.同場所 鏡音リン・レン、8号機のアルエット]
敷島とシンディは記者達をエレベーターまで見送った。
その様子を見ていたレンは、
「最近、ボクもCDジャケ以外は撮影とかしてないなぁ……」
と、呟いた。
「レーン!リンのヘッドセットどこー!?」
奥からリンの声が聞こえた。
「机の上にあるよ!」
レンも仕事に行く準備に取り掛かった。
向こうでもメイクはあるのだが、来る前に軽くセットしておいてほしいということだった。
「あっ、ちょっと待った!」
そこへアルエットが呼び止める。
「髪がほつれてるよ。直してあげるね」
レンは髪を後ろで短く結んでいる。
それを解くと、リンと同じ長さになる。
「え……?う、うん……」
レンは椅子に座ると、アルエットに髪を直してもらった。
「はい、OK!」
「あ、ありがとう……」
「レーン!準備できたー!?」
「こっちはOKだよ」
アルエットが代わりに返事した。
「んじゃあ、行ってきまーす!」
リンはレンの腕を引っ張るようにして、事務所を出ていった。
スケジュールは、完全に自己管理OKなのがボカロの特徴でもある。
[同日15:00.同場所・社長室 敷島孝夫]
敷島はどこかと電話していた。
「……ああ、“カントリーロード”ってあれでしょ?多摩ニュータウンが舞台の某アニメ映画のテーマ……えっ、違う?だって、京王線出てくるじゃない?」
何の電話だ?
「……埼玉在住なもんで、東京都西部はよく分かりませんでね。……ええ、分かりました。じゃあ、うちのボカロで歌えそうなの……ってか、全員歌えるんだけど、適正なのを探しておきますよ。……ええ。それじゃ、また」
電話を切る。
「えー?平成狸合戦だったっけ?多摩ニュータウンって……」
だから、何の話をしていたんだ、敷島?
どちらも世界観と時系列は違うが、舞台は同じだぞ?
社長室ではこんなんばっかやってるいるのだろうか?