報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「霧雨の中を進む」

2015-09-29 22:11:17 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月10日13:00.JR新宿駅新南口(代々木)JRバス乗り場 敷島孝夫、アリス・シキシマ、3号機のシンディ]

〔「只今、13時ちょうど発のバスをご案内中です。1番乗り場では“仙台・新宿”7号、長町駅東口経由仙台駅東口行きをご案内中です。……」〕

 霧雨降るバスターミナルに着いたバスは、夜行用のバスだった。
 独立3列シートが車内に並んでいる。
 敷島達はきれいに横1列に並んだ。
 バスは満席ではなかったが、両側の窓側席は全て埋まり、あとは敷島達のようなグループ客の1人が真ん中席に座るくらいだ。
 だから空いた真ん中席は、しっかり荷物置き場になってしまっている。
「本日は集中豪雨による影響で、東北自動車道が通行止めになっております。その為、臨時に常磐道、磐越道を迂回して運行致します。大幅な遅れが出る恐れがありますが、よろしいでしょうか?」
 運転手がマイクを使わず、わざわざ最前列席の前に立って乗客に呼び掛けていた。
 もちろん、反対する者はいない。
「それでは、出発致します」

 バスは出発時は定刻通りであった。
 A席には敷島、C席にはアリス。
 ど真ん中のB席にシンディを座らせた。
 こうすることで、シンディは両側を警戒することができる。
 着座位置は、だいたいバスの中央部分。
 姉のエミリーの行動に苛立ちを隠しきれなかったシンディは、そのせいでだいぶバッテリーを消耗していた。
 そこで、座席に付いているコンセントで充電を開始する。
 日本の電圧規格、交流100Vに対応しているので大丈夫だ。

『バッテリーが20パーセント以下です』

「う……」
「シンディ。いいから『寝て』なさい。多分、何も無いだろうから」
 アリスが言った。
「はい……」
 シンディは小さく頷いて、コンセントとケーブルを繋ぐと“スリープ”に入った。
 但し、その前に忘れてはいなかった。

『未だ地中に眠る配下の者どもよ。目覚めなさい。そして、敵の居場所を探れ』 

 KR団は元より、その前から別のテロ組織などが廃棄したはずのバージョン・シリーズに呼び掛けることだ。

『お前達が人に仇成し、害を成すだけの存在ではないことを証明せよ』

[同日14:25.常磐自動車道・守谷SA(茨城県守谷市) 上記メンバー]

 バスは相変わらず霧雨のまま、茨城県に入った。
 首都高速では渋滞に巻き込まれたものの、常磐道に入ってからは渋滞もなく、順調なスピードで走行できた。
 つくばエクスプレスの高架線を横目に、バスは常磐道でも大型のサービスエリアに入った。

〔「守谷サービスエリアです。こちらで15分休憩を致します。発車は14時40分です。時間までにバスにお戻りくださいますよう、お願い致します」〕

 東名高速では『バス専用』と書かれているが、こちらでは『バス優先』と書かれている。
 なので、大型トラックや乗用車なんかも止まっていたりする。
 トイレに近い場所にあるのは事実だ。
「シンディのバッテリーは……おっ、50パー超えたか」
「……はい」
 シンディはスリープモードを解除すると、目を開いた。
「降りられますか?お伴致します」
「じゃあ、頼むよ」
 霧雨が降っているので、敷島達は傘を差した。
 シンディは傘を差さない。
 敷島とアリスがトイレに入っていったので、シンディは入口付近で待っていた。
 バッテリーの消耗が激しくとも、周囲をスキャンすることは忘れない。
「!?」
 だが、そこへロイドの反応があった。
 反応のする方へ目を向ける。
 と、同時に右手を背中の後ろに回し、こっそりライフルに変形させた。
「お嬢様、行ってらっしゃいませ」
 それは黒いスーツに身を包んだ執事ロイドだった。
 どうやら人間の女性に付いているらしい。
「…………」
 もちろんそれはキールではない。
 シンディがポカンとしていると、執事ロイドは、
「こんにちは」
 と、挨拶してきた。
「……ん、ああ、どうも」
 シンディは右手を元に戻した。
「北関東や東北じゃ大豪雨だってのに、どこまで行くの?」
「日立市です。お嬢様が、私の製造元を御見学したいと申されまして」
「あそこには……まあ、そういうメーカーのお膝元か」
「はい。あなたは……メイドロイド……にしては、少し仕様が違うように思われますが……」
「アタシはマルチタイプだよ。まあ、メイドロイドの仕事もできるけどね」
「マルチタイプ!?」
「そうだよ。……恐ろしいかい?……まあ、これからアンタの同型機を蜂の巣にしに行くところだけどね。……何か、情報はある?名前をキール・ブルーっていうんだけど……」
「キール・ブルー……」
 執事ロイドはフリーズしかかったのか、少しぎこちない動きになって、右手の白い手袋を取った。
「取りあえず……ハイタッチしませんか?」
「ああ、そうだね」
 シンディも右手にはめている青い革手袋を取った。
 肘まで隠れるタイプだ。
 エミリーがピンク色のナイロン製手袋を着けているのとはだいぶ違う。
 ロイドの掌には赤外線通信レンズが付いており、これで互いの情報を交換する。
 つまり、ロイド同士の名刺交換のようなのである。
「緑川泰造?これがアンタの名前かい?……ああ、日本人顔で設計されてるもんね」
「そういうことです。シンディ・サード様ですね。……データと一致しました。大そう、名のある方とお見受け致します」
「まあ、昔は相当色んなことをやらかして来たからね。……ああ、何かデータ入ってる。これがアンタの提供してくれる情報かい?」
「お役に立てるかどうか……」
「いや、いいよ。ありがとう」

 緑川家のお嬢様とやらは、しばらくこのサービスエリアで休憩するらしい。
 敷島達のバスは時間通りに発車した。
「うま……うま……」
「おま、ソフトクリーム……」
 売店で買ったソフトクリームを美味そうに食べるアリスであった。
 それを呆れた顔で見る敷島。
 しかしそれでも、コンビニで買ったポッキーをポリポリ齧るので、あまり偉そうに言えないのだった。
 シンディは適当に相槌を打ちながら、しかし、再び充電する準備をして、泰造がくれた情報が実に有益なものだと判断した。
 あとはそれをどう作戦に結び付けるか、だ。

 バスは霧雨の中を北進して行った。
 遠回りだが、方向は合っている。
コメント (5)
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