[9月1日16:00.天候:雨 宮城県仙台市青葉区 市内の公道を走る平賀のプリウス 平賀太一、敷島孝夫、3号機のシンディ、8号機のアルエット]
フロントガラスの上をワイパーが規則正しく動いている。
「すいません、平賀先生。わざわざホテルまで送って下さるなんて……」
「いや、別に……。エミリーを逃がして、敷島さん達に御迷惑をお掛けして申し訳無い」
平賀はそう言って、煙草に火を点けた。
平賀家でタバコを吸うのはこの男だけだったと思うが、家族持ちで車内禁煙ではないとは……。
もっとも、妻の奈津子は奈津子で自分用の軽自動車を持っていたはずで、そちらは禁煙なのだろう。
保育園に入ったという兄妹達の送り迎えも、それでしていると思われる。
「くそっ!南里先生に、詰めが甘いと何年も前に言われて、気をつけていたのに……!」
「まあまあ、平賀先生」
「エミリーを確保したら、あとの処分はお任せください」
「! エミリーお姉ちゃんを処分しちゃうの!?」
リア・シートに座るアルエットが困惑した顔になった。
「今はまだ報告が来ていないが、人様に迷惑を掛けているとなれば、何らかの処分をしなければならんだろう。シンディの見立てでは、どうもキールの手助けをしたみたいだ。意味が分かるか?」
「KR団に手を貸した時点で有罪、か。まあ、そうだよね」
と、シンディ。
「でもね、ドクター。もし姉さんが手を貸しただけで済んでいたのだったら、アタシに任せてくれない?」
「どうするつもりだ?」
「2〜3発、張り倒すよ。それで手を打ってくれない?」
「いや、あのな!」
「悪堕ちしたオトコに、今でも絆されて一緒に悪堕ちし掛けたバカ女に対してはアタシが責任取るよ。一応、こう見えても3号機だしね。1号機の不始末は、アタシが何とかするよ」
「じゃ、わたしも!」
「アルはいいのよ」
「わたしだって8号機だもん!」
「あなたは続きの番号とはいえ、そもそも規格が違うからいいよ」
「いや、規格は同じなんだが、仕様が違う」
と、助手席の敷島が余計なことを言った。
「とにかく!警察からは性懲りも無く『勝手な行動は取るな』と言われてるんだ。恐らく、今日中はムリだろう」
「村中課長が上と掛け合ってるってよ。もっとも、すぐ上の鷲田警視はガンコ親父なもんだから、首を縦に振らないらしいがね」
「……いっそのこと、バージョン4.0けしかけて、意識不明にしてやろうかしら?そしたら、否定されることは無くなるわけでしょう?」
「まあ、そうなんだけど、許可も出さなくなるな。村中課長も鷲田警視から許可をもらうのを諦めて、もっと上に直訴しているらしいよ。幸い、それくらいの地位の人に、このロイドを警察機関で利用することに積極的な人がいるらしい。ロイドがテロ殲滅に使えることが証明されれば、ゴーサインも出るんじゃないかな?」
「おお〜」
「ま、出たとしても今日中はムリだよ」
と、平賀。
「自分の見立ててでは、キールの修理が終わるのは明日の……夕方とかそんなもんじゃないかな?」
「そうなの?」
シンディは目を丸くした。
「キールのヤツ、右肩から先が完全にやられたわけだろう?」
「ええ。頭をフッ飛ばすつもりで、強化したライフルを撃ったからね」
「その右肩から先を作って、ただ単にくっつければいいってもんじゃない。取り付けた後で、様々な調整が必要となる。あの爺さんの腕なら、それでも明日の夕方以降ってところだな。もっとも、寝ながら作るくらいだったら、もう少し掛かるかもしれないけど」
「よし、分かった。じゃ、明日は俺が立てた予定通りに移動しよう。遅くても、埼玉県に入った時点で許可が出ればモア・ベターなんだがな」
[同日16:30.天候:雨 ホテル・ドーミイン仙台広瀬通 敷島孝夫、井辺翔太、MEGAbyte、シンディ、アルエット]
「社長!」
「おっ、井辺君」
敷島達がホテルに戻ると、ロビーに井辺がいた。
「あれ?市街地散策はもういいのか?確か、ゆかりが先に戻ったはずだけど?」
エミリーの逃走劇の後、ゆかりは井辺に迎えに来てもらって、先に市街地に戻って行った。
「ええ。買い物とかは概ね終了しました。確かにもう少し歩いてみたい気もあったそうですが、東部仙台に大雨、雷注意報が発令されました。大雨はともかく、雷注意報が出たということで……」
「ああ、そうか。じゃあ、ダメだな」
ロイド達にとって、落雷は機能停止を招く恐れがあるほどの即死トラップである。
例えそれを免れたとしても、様々な機器が故障することは避けられない。
なので基本、雷注意報が発令された場合、ロイド達には外に出ないように通達してある。
野外ライブの時はどうするのかというと……実はまだ野外ライブ時、雷注意報が発令されるような事態に遭遇していないので、何とも言えない。
「社長の方はどうでしたか?」
「まあ、何とかな。結論から言えば、一応明日は予定通りの行動をする」
「そうなんですか?」
「但し、埼玉県内でルート変更をする可能性が大いに高い。……てか、そうさせてもらわないと困る」
「なるほど」
「井辺君達はMEGAbyteの3人を連れて、そのまま事務所に戻ってもらいたい」
「えっ?」
「詳しい話は俺の部屋でしよう。あ、シンディとアルエットも部屋に戻って休んでいい」
「恐らくMEGAbyteの皆さんが先に休んでいると思われますが、気にしないでください。一応、鍵は予備を預かっております」
「分かった。ありがとう」
エレベーターで客室フロアに上がる敷島エージェンシーの面々。
「じゃ、俺と井辺君は明日の打ち合わせをするから」
「了解。もしホテルの外に出るときは言ってね。一応、アタシは社長の護衛なんだから」
「分かってるよ」
廊下で別れて、シンディとアルエットも部屋に入った。
そこは和洋室で、MEGAbyteは和室、マルチタイプはベッドを使っている。
「充電コンセントは一杯か……」
MEGAbyteの3人は“お昼寝”中だった。
Lilyは壁を背にして体育座りをしており、俯いて目を閉じている。
腰の部分からは充電用のケーブルが伸びていた。
ゆかりは横になって、やっぱり充電している。
未夢は椅子に座って充電していた。
「アイドルさん達は、大変ねぇ……」
シンディは微笑を浮かべた。
「ゆかりさん、とても歌が上手だったよ」
と、アルエット。
「ま、そりゃそういう用途のロイドだからね。当たり前といえば当たり前よ。どうする?ベッドの所のコンセントが1つ空いてるけど、アルから先に充電する?」
「社長さん達、しばらく外に出ないんでしょう?だったら、お姉ちゃんが先に充電してもいいよ」
「そうか。まあ、いざとなったら、あなたも敷島エージェンシーの一員なんだし、あなたが代わりに社長達についてもいいんだけどね」
そう言って、シンディは片目を瞑った。
シンディは自分の充電の準備をしている間、とても気になっていた。
(それにしても、本当に姉さんは悪堕ちしたのかしら?確かに連絡1つ寄越しやしないけど、もしかして、騙されて電波の届かない所に監禁されていたりしてなぁ……。でも、アタシ的にはその方が被害者ヅラできるから、そっちの方でいてくれるといいかも……)
みたいな感じ。
[同日17:00.埼玉県さいたま市大宮区 KR団本部地下研究所・監禁室 1号機のエミリー]
まるで独房のような部屋の無機質なベッドの上に横たわり、充電ケーブルを繋いでいるエミリーの姿があった。
(充電が・済んだら・ここから・出ることを・考えよう)
実はキールを運んでの行動は体に負担が掛かる為、バッテリーの消耗も激しかったのである。
(シンディ……怒ってる……きっと……。アルエット……泣いてる……多分……)
フロントガラスの上をワイパーが規則正しく動いている。
「すいません、平賀先生。わざわざホテルまで送って下さるなんて……」
「いや、別に……。エミリーを逃がして、敷島さん達に御迷惑をお掛けして申し訳無い」
平賀はそう言って、煙草に火を点けた。
平賀家でタバコを吸うのはこの男だけだったと思うが、家族持ちで車内禁煙ではないとは……。
もっとも、妻の奈津子は奈津子で自分用の軽自動車を持っていたはずで、そちらは禁煙なのだろう。
保育園に入ったという兄妹達の送り迎えも、それでしていると思われる。
「くそっ!南里先生に、詰めが甘いと何年も前に言われて、気をつけていたのに……!」
「まあまあ、平賀先生」
「エミリーを確保したら、あとの処分はお任せください」
「! エミリーお姉ちゃんを処分しちゃうの!?」
リア・シートに座るアルエットが困惑した顔になった。
「今はまだ報告が来ていないが、人様に迷惑を掛けているとなれば、何らかの処分をしなければならんだろう。シンディの見立てでは、どうもキールの手助けをしたみたいだ。意味が分かるか?」
「KR団に手を貸した時点で有罪、か。まあ、そうだよね」
と、シンディ。
「でもね、ドクター。もし姉さんが手を貸しただけで済んでいたのだったら、アタシに任せてくれない?」
「どうするつもりだ?」
「2〜3発、張り倒すよ。それで手を打ってくれない?」
「いや、あのな!」
「悪堕ちしたオトコに、今でも絆されて一緒に悪堕ちし掛けたバカ女に対してはアタシが責任取るよ。一応、こう見えても3号機だしね。1号機の不始末は、アタシが何とかするよ」
「じゃ、わたしも!」
「アルはいいのよ」
「わたしだって8号機だもん!」
「あなたは続きの番号とはいえ、そもそも規格が違うからいいよ」
「いや、規格は同じなんだが、仕様が違う」
と、助手席の敷島が余計なことを言った。
「とにかく!警察からは性懲りも無く『勝手な行動は取るな』と言われてるんだ。恐らく、今日中はムリだろう」
「村中課長が上と掛け合ってるってよ。もっとも、すぐ上の鷲田警視はガンコ親父なもんだから、首を縦に振らないらしいがね」
「……いっそのこと、バージョン4.0けしかけて、意識不明にしてやろうかしら?そしたら、否定されることは無くなるわけでしょう?」
「まあ、そうなんだけど、許可も出さなくなるな。村中課長も鷲田警視から許可をもらうのを諦めて、もっと上に直訴しているらしいよ。幸い、それくらいの地位の人に、このロイドを警察機関で利用することに積極的な人がいるらしい。ロイドがテロ殲滅に使えることが証明されれば、ゴーサインも出るんじゃないかな?」
「おお〜」
「ま、出たとしても今日中はムリだよ」
と、平賀。
「自分の見立ててでは、キールの修理が終わるのは明日の……夕方とかそんなもんじゃないかな?」
「そうなの?」
シンディは目を丸くした。
「キールのヤツ、右肩から先が完全にやられたわけだろう?」
「ええ。頭をフッ飛ばすつもりで、強化したライフルを撃ったからね」
「その右肩から先を作って、ただ単にくっつければいいってもんじゃない。取り付けた後で、様々な調整が必要となる。あの爺さんの腕なら、それでも明日の夕方以降ってところだな。もっとも、寝ながら作るくらいだったら、もう少し掛かるかもしれないけど」
「よし、分かった。じゃ、明日は俺が立てた予定通りに移動しよう。遅くても、埼玉県に入った時点で許可が出ればモア・ベターなんだがな」
[同日16:30.天候:雨 ホテル・ドーミイン仙台広瀬通 敷島孝夫、井辺翔太、MEGAbyte、シンディ、アルエット]
「社長!」
「おっ、井辺君」
敷島達がホテルに戻ると、ロビーに井辺がいた。
「あれ?市街地散策はもういいのか?確か、ゆかりが先に戻ったはずだけど?」
エミリーの逃走劇の後、ゆかりは井辺に迎えに来てもらって、先に市街地に戻って行った。
「ええ。買い物とかは概ね終了しました。確かにもう少し歩いてみたい気もあったそうですが、東部仙台に大雨、雷注意報が発令されました。大雨はともかく、雷注意報が出たということで……」
「ああ、そうか。じゃあ、ダメだな」
ロイド達にとって、落雷は機能停止を招く恐れがあるほどの即死トラップである。
例えそれを免れたとしても、様々な機器が故障することは避けられない。
なので基本、雷注意報が発令された場合、ロイド達には外に出ないように通達してある。
野外ライブの時はどうするのかというと……実はまだ野外ライブ時、雷注意報が発令されるような事態に遭遇していないので、何とも言えない。
「社長の方はどうでしたか?」
「まあ、何とかな。結論から言えば、一応明日は予定通りの行動をする」
「そうなんですか?」
「但し、埼玉県内でルート変更をする可能性が大いに高い。……てか、そうさせてもらわないと困る」
「なるほど」
「井辺君達はMEGAbyteの3人を連れて、そのまま事務所に戻ってもらいたい」
「えっ?」
「詳しい話は俺の部屋でしよう。あ、シンディとアルエットも部屋に戻って休んでいい」
「恐らくMEGAbyteの皆さんが先に休んでいると思われますが、気にしないでください。一応、鍵は予備を預かっております」
「分かった。ありがとう」
エレベーターで客室フロアに上がる敷島エージェンシーの面々。
「じゃ、俺と井辺君は明日の打ち合わせをするから」
「了解。もしホテルの外に出るときは言ってね。一応、アタシは社長の護衛なんだから」
「分かってるよ」
廊下で別れて、シンディとアルエットも部屋に入った。
そこは和洋室で、MEGAbyteは和室、マルチタイプはベッドを使っている。
「充電コンセントは一杯か……」
MEGAbyteの3人は“お昼寝”中だった。
Lilyは壁を背にして体育座りをしており、俯いて目を閉じている。
腰の部分からは充電用のケーブルが伸びていた。
ゆかりは横になって、やっぱり充電している。
未夢は椅子に座って充電していた。
「アイドルさん達は、大変ねぇ……」
シンディは微笑を浮かべた。
「ゆかりさん、とても歌が上手だったよ」
と、アルエット。
「ま、そりゃそういう用途のロイドだからね。当たり前といえば当たり前よ。どうする?ベッドの所のコンセントが1つ空いてるけど、アルから先に充電する?」
「社長さん達、しばらく外に出ないんでしょう?だったら、お姉ちゃんが先に充電してもいいよ」
「そうか。まあ、いざとなったら、あなたも敷島エージェンシーの一員なんだし、あなたが代わりに社長達についてもいいんだけどね」
そう言って、シンディは片目を瞑った。
シンディは自分の充電の準備をしている間、とても気になっていた。
(それにしても、本当に姉さんは悪堕ちしたのかしら?確かに連絡1つ寄越しやしないけど、もしかして、騙されて電波の届かない所に監禁されていたりしてなぁ……。でも、アタシ的にはその方が被害者ヅラできるから、そっちの方でいてくれるといいかも……)
みたいな感じ。
[同日17:00.埼玉県さいたま市大宮区 KR団本部地下研究所・監禁室 1号機のエミリー]
まるで独房のような部屋の無機質なベッドの上に横たわり、充電ケーブルを繋いでいるエミリーの姿があった。
(充電が・済んだら・ここから・出ることを・考えよう)
実はキールを運んでの行動は体に負担が掛かる為、バッテリーの消耗も激しかったのである。
(シンディ……怒ってる……きっと……。アルエット……泣いてる……多分……)