[9月2日12:54.天候:曇 JR会津若松駅・会津鉄道会津線ホーム 敷島孝夫、井辺翔太、3号機のシンディ、8号機のアルエット、MEGAbyte]
改札口から1番離れたホームに行くと、赤を基調とした気動車が2両、ディーゼルエンジンのアイドリング音を立てていた。
「社長、遅かったじゃない」
ホームでは先に列車に向かったロイド達が待っていた。
「あー、悪い悪い。席取っていてくれた?」
「まあね」
「へへっ、サンキュー」
敷島と井辺は前方車両に乗り込んだ。
車内は快速ながら、特急車両並みのリクライニングシートを備えている。
〔まもなく5番線から、会津鉄道会津線、快速列車、鬼怒川温泉行きが発車致します。お見送りの方は、黄色い線までお下がりください〕
ホームに軽快な発車メロディが鳴り響く。
会津若松市イメージソング、“AIZUその名の情熱”(作曲・唄:南こうせつ)が発車メロディとして流れる。
30秒くらい流れるが、終わり間際の26秒目当たりでパンと合いの手を1つ入れたくなるのは作者だけか?
列車は軽快なアイドリングを立てて会津若松駅を発車した。
鉄道会社は会津鉄道、野岩(やがん)鉄道、東武鉄道と変わって行くが、それでも線路が繋がっていて、最終的には浅草や東京メトロと繋がっている……ということは、この時点では信じ難い。
〔「お待たせ致しました。本日も会津鉄道会津線をご利用頂きまして、ありがとうございます。12時54分発、快速“AIZUマウントエクスプレス”6号、鬼怒川温泉まで参ります。途中の停車駅は七日町(なぬかまち。なのかまち、ではない)、西若松、芦ノ牧温泉、湯野上温泉、塔のへつり、会津下郷、会津田島、会津高原尾瀬口、上三依(かみみより)塩原、中三依(なかみより)温泉、湯西川温泉、川治湯元、川治温泉、龍王峡、新藤原、鬼怒川高原、終点の鬼怒川温泉の順に止まります。【中略】終点、鬼怒川温泉には15時2分の到着です。【中略】次は七日町、七日町でございます」〕
観光列車も兼ねているということもあり、正式な車掌ではないのだろうが、女性アテンダントが乗務していて、車内放送もそのアテンダントが行う。
「確かに、ここじゃバージョン4.0もいそうにないわねぇ……」
「非電化路線じゃ、充電もできないってか?」
「まあねぇ……」
そう言いつつ、シンディはチューとオイルの入ったボトルをストローを通して経口補充している。
「社長、鬼怒川温泉駅到着の時点で15時2分ってことは、そこから“スペーシア”に乗り換えても、結構ギリギリなのでは?」
と、井辺が指摘してきた。
「んー、まあそうなんだよな。もしかすると、到着の時点で既にキールが待ち構えている恐れはあるんだわ、これが」
井辺の隣に座る敷島はおどけた様子で答えた。
「社長、それだと……」
「まあ、心配しなくても、アタシのマシンガンで今度こそ蜂の巣にしてやるけどね」
シンディは前期型のテロ用途だった頃のような、黒い笑いを浮かべた。
(※尚、途中の芦ノ牧温泉駅には駅長ネコ“ばす”と見習駅員ネコ“らぶ”が観光客に愛想を振りまいている。
ウィキペディアには『ふて猫』のような写真しか無いが、会津鉄道の公式サイトにはもっと良い写真があるので、猫好きの方は御参照のほどを。
トチロ〜さんにもお勧めです。
作者が取材に行った時には、敢え無く会えなかったんだよなぁ……。
公式サイトによると“ばす”も結構高齢らしいので、“たま”駅長の後を追うのも時間の問題かもしれない。
会いたい方はお早めに!)
[同日15:00.埼玉県さいたま市大宮区 KR団本部施設地下研究所 1号機のエミリー]
ケンショーイエローがお昼寝してしまった為、何もすることが無くなったエミリー。
何もすることが無くなると、再び監禁室に戻される。
仕方が無いのでベッドに座って俯き、充電している。
「放せ!放さんか!ワシを誰だと思っとる!?恐れ多くも大聖人の仏弟子……」
「!?」
部屋の外からイエローの叫び声が聞こえる。
エミリーがドアの小窓から外を見ると、イエローが両脇をバージョン4.0に抱えられ、歩かされていた。
「そこの・者達!」
エミリーがバージョン4.0達を呼び止めた。
「浅井先生を・どこへ・連れて・行くのだ?」
「エミリー様、ドクター十条カラノ御命令デス」
「ドクター十条……伝助の?どうして?」
「ソレハ分カリマセン。タダ我々ハ、ドクターノ御命令ニ従ウノミ……」
「失礼」
エミリーは嫌な予感がした。
「ここを・開けろ!」
「ソレハデキマセン」
「ドクターノ御命令デス。エミリー様」
「……!」
イエローは2体のバージョン4.0によって、連れ去られてしまった。
サイボーグ化に失敗した者を放っておくとは思えない。
処分するに決まっているとエミリーは思った。
「私……何も・できない……役立たず……」
エミリーはドアの前にしゃがみ込んだ。
だが、奥から爆発音がした。
「!?」
バッと立ち上がって、再び窓の外を覗く。
さっきイエローが連れ去られた先の方から、煙が上がっていた。
「おおっ、セピア!きっと助けに来てくれると信じておったぞ!」
と、奥からイエローの声が聞こえて来た。
「お前は役立たずのレッドに代わって理事長にしてやるから、またワシと一緒に顕正会を……」
エミリーはそれを聞いて、
(セピア?ケンショーセピア?……データに・無い)
首を傾げたのだった。
そして奥から、正にセピア色のスーツを着た男がエミリーの部屋の前までやってきた。
エミリーが咄嗟に行ったスキャンでは、『人間』と『ロイド』が混同するような反応が出た。
つまり、サイボーグだ。
「キミは敵か?味方か?」
セピアとイエローから呼ばれた男が聞いて来た。
エミリーはサッと警戒する顔になる。
「あなたが・どのような・立場の・者か・不明だ。だから・敵とも・味方とも・言えない。だが、私は・KR団の・者では・ない」
「そうか。ならば、敵ではないな」
セピアは監禁室のドアを開けようとした。
「ちっ、特殊なロックが掛かっている。恐らく……アレだな。少し待っててくれ。今、ロックを解除してくる。くれぐれも、無理やりこじ開けようとするなよ?しようとすると、300万ボルトの電流がそのドアに流れるシステムだ。見たところ、キミはロボットのようだが、300万ボルトの電流の直撃を受けたらどうなるかは、計算しなくても分かるはずだ」
「……さしもの・私でも・機能停止に・追い込まれる・恐れが・ある。警告に・従おう」
「それが賢明だ」
セピアはそう言って立ち去った。
(一体、何が・起きて・いるの?)
エミリーは困惑の顔になった。
[同日15:02.天候:雷雨 東武鉄道鬼怒川線・鬼怒川温泉駅 敷島、井辺、シンディ、アルエット、MEGAbyte]
列車の窓ガラスを叩き付ける豪雨。
時折、上空から雷鳴が轟いた。
〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、鬼怒川温泉、鬼怒川温泉でございます。到着ホームは2番線、お出口は右側です。お乗り換えのご案内を申し上げます。15時18分発の特急“スペーシアきぬがわ”14号は、さいたま市内での暴動事件により、JR線への直通運転を中止しており、途中の栃木駅までの運転となっております。お隣のホーム、1番線からの発車です。その後、15時45分発の特急“きぬ”130号、浅草行きもお隣のホーム1番線からです。区間快速、浅草行きは……」〕
「……それでも一応、運転するんだ。JR線直通だったスペーシア……」
「JRなら運休しそうな感じですけどねぇ……」
おおかた、栃木駅でJR線への乗り換え客を当て込んでいるか、栃木駅から別のスカイツリーライン電車で都内方面を目指す客を当て込んでいるか……。
敷島達が予約しているのは、その後の浅草行き。
ただ、それでも春日部駅着が17時11分と、かなりギリギリの時間だ。
列車はディーゼルエンジンの音を響かせながら、2つ目の乗り入れ先の駅に到着した。
「大丈夫!駅の中にいれば大丈夫だから!」
シンディは雷鳴に怯える他のロイド達を励ましている。
落雷の怖さがインストールされている為、アルエットやMEGAbyte達が怖がっているからだ。
列車から降りると、すぐ目の前にJR線直通だったスペーシアが発車を待っている。
LED化された行き先表示には、『栃木』と表示されていた。
栃木止まりのスペーシアも珍しい。
浅草発最終列車は春日部止まり、その1本前に新栃木行きなんてのはあるが。
「取りあえず、少し時間があるから、駅舎の中にいよう」
こんなこともあろうかと、実は手持ちの乗車券は鬼怒川温泉で切っている。
つまり、ここで改札の外に出ることは可能。
屋根があるとはいえ、実質屋外のホームよりは落雷の直撃の恐れの少ない駅舎へ避難するように進む敷島達だった。
改札口から1番離れたホームに行くと、赤を基調とした気動車が2両、ディーゼルエンジンのアイドリング音を立てていた。
「社長、遅かったじゃない」
ホームでは先に列車に向かったロイド達が待っていた。
「あー、悪い悪い。席取っていてくれた?」
「まあね」
「へへっ、サンキュー」
敷島と井辺は前方車両に乗り込んだ。
車内は快速ながら、特急車両並みのリクライニングシートを備えている。
〔まもなく5番線から、会津鉄道会津線、快速列車、鬼怒川温泉行きが発車致します。お見送りの方は、黄色い線までお下がりください〕
ホームに軽快な発車メロディが鳴り響く。
会津若松市イメージソング、“AIZUその名の情熱”(作曲・唄:南こうせつ)が発車メロディとして流れる。
30秒くらい流れるが、終わり間際の26秒目当たりでパンと合いの手を1つ入れたくなるのは作者だけか?
列車は軽快なアイドリングを立てて会津若松駅を発車した。
鉄道会社は会津鉄道、野岩(やがん)鉄道、東武鉄道と変わって行くが、それでも線路が繋がっていて、最終的には浅草や東京メトロと繋がっている……ということは、この時点では信じ難い。
〔「お待たせ致しました。本日も会津鉄道会津線をご利用頂きまして、ありがとうございます。12時54分発、快速“AIZUマウントエクスプレス”6号、鬼怒川温泉まで参ります。途中の停車駅は七日町(なぬかまち。なのかまち、ではない)、西若松、芦ノ牧温泉、湯野上温泉、塔のへつり、会津下郷、会津田島、会津高原尾瀬口、上三依(かみみより)塩原、中三依(なかみより)温泉、湯西川温泉、川治湯元、川治温泉、龍王峡、新藤原、鬼怒川高原、終点の鬼怒川温泉の順に止まります。【中略】終点、鬼怒川温泉には15時2分の到着です。【中略】次は七日町、七日町でございます」〕
観光列車も兼ねているということもあり、正式な車掌ではないのだろうが、女性アテンダントが乗務していて、車内放送もそのアテンダントが行う。
「確かに、ここじゃバージョン4.0もいそうにないわねぇ……」
「非電化路線じゃ、充電もできないってか?」
「まあねぇ……」
そう言いつつ、シンディはチューとオイルの入ったボトルをストローを通して経口補充している。
「社長、鬼怒川温泉駅到着の時点で15時2分ってことは、そこから“スペーシア”に乗り換えても、結構ギリギリなのでは?」
と、井辺が指摘してきた。
「んー、まあそうなんだよな。もしかすると、到着の時点で既にキールが待ち構えている恐れはあるんだわ、これが」
井辺の隣に座る敷島はおどけた様子で答えた。
「社長、それだと……」
「まあ、心配しなくても、アタシのマシンガンで今度こそ蜂の巣にしてやるけどね」
シンディは前期型のテロ用途だった頃のような、黒い笑いを浮かべた。
(※尚、途中の芦ノ牧温泉駅には駅長ネコ“ばす”と見習駅員ネコ“らぶ”が観光客に愛想を振りまいている。
ウィキペディアには『ふて猫』のような写真しか無いが、会津鉄道の公式サイトにはもっと良い写真があるので、猫好きの方は御参照のほどを。
トチロ〜さんにもお勧めです。
作者が取材に行った時には、敢え無く会えなかったんだよなぁ……。
公式サイトによると“ばす”も結構高齢らしいので、“たま”駅長の後を追うのも時間の問題かもしれない。
会いたい方はお早めに!)
[同日15:00.埼玉県さいたま市大宮区 KR団本部施設地下研究所 1号機のエミリー]
ケンショーイエローがお昼寝してしまった為、何もすることが無くなったエミリー。
何もすることが無くなると、再び監禁室に戻される。
仕方が無いのでベッドに座って俯き、充電している。
「放せ!放さんか!ワシを誰だと思っとる!?恐れ多くも大聖人の仏弟子……」
「!?」
部屋の外からイエローの叫び声が聞こえる。
エミリーがドアの小窓から外を見ると、イエローが両脇をバージョン4.0に抱えられ、歩かされていた。
「そこの・者達!」
エミリーがバージョン4.0達を呼び止めた。
「浅井先生を・どこへ・連れて・行くのだ?」
「エミリー様、ドクター十条カラノ御命令デス」
「ドクター十条……伝助の?どうして?」
「ソレハ分カリマセン。タダ我々ハ、ドクターノ御命令ニ従ウノミ……」
「失礼」
エミリーは嫌な予感がした。
「ここを・開けろ!」
「ソレハデキマセン」
「ドクターノ御命令デス。エミリー様」
「……!」
イエローは2体のバージョン4.0によって、連れ去られてしまった。
サイボーグ化に失敗した者を放っておくとは思えない。
処分するに決まっているとエミリーは思った。
「私……何も・できない……役立たず……」
エミリーはドアの前にしゃがみ込んだ。
だが、奥から爆発音がした。
「!?」
バッと立ち上がって、再び窓の外を覗く。
さっきイエローが連れ去られた先の方から、煙が上がっていた。
「おおっ、セピア!きっと助けに来てくれると信じておったぞ!」
と、奥からイエローの声が聞こえて来た。
「お前は役立たずのレッドに代わって理事長にしてやるから、またワシと一緒に顕正会を……」
エミリーはそれを聞いて、
(セピア?ケンショーセピア?……データに・無い)
首を傾げたのだった。
そして奥から、正にセピア色のスーツを着た男がエミリーの部屋の前までやってきた。
エミリーが咄嗟に行ったスキャンでは、『人間』と『ロイド』が混同するような反応が出た。
つまり、サイボーグだ。
「キミは敵か?味方か?」
セピアとイエローから呼ばれた男が聞いて来た。
エミリーはサッと警戒する顔になる。
「あなたが・どのような・立場の・者か・不明だ。だから・敵とも・味方とも・言えない。だが、私は・KR団の・者では・ない」
「そうか。ならば、敵ではないな」
セピアは監禁室のドアを開けようとした。
「ちっ、特殊なロックが掛かっている。恐らく……アレだな。少し待っててくれ。今、ロックを解除してくる。くれぐれも、無理やりこじ開けようとするなよ?しようとすると、300万ボルトの電流がそのドアに流れるシステムだ。見たところ、キミはロボットのようだが、300万ボルトの電流の直撃を受けたらどうなるかは、計算しなくても分かるはずだ」
「……さしもの・私でも・機能停止に・追い込まれる・恐れが・ある。警告に・従おう」
「それが賢明だ」
セピアはそう言って立ち去った。
(一体、何が・起きて・いるの?)
エミリーは困惑の顔になった。
[同日15:02.天候:雷雨 東武鉄道鬼怒川線・鬼怒川温泉駅 敷島、井辺、シンディ、アルエット、MEGAbyte]
列車の窓ガラスを叩き付ける豪雨。
時折、上空から雷鳴が轟いた。
〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、鬼怒川温泉、鬼怒川温泉でございます。到着ホームは2番線、お出口は右側です。お乗り換えのご案内を申し上げます。15時18分発の特急“スペーシアきぬがわ”14号は、さいたま市内での暴動事件により、JR線への直通運転を中止しており、途中の栃木駅までの運転となっております。お隣のホーム、1番線からの発車です。その後、15時45分発の特急“きぬ”130号、浅草行きもお隣のホーム1番線からです。区間快速、浅草行きは……」〕
「……それでも一応、運転するんだ。JR線直通だったスペーシア……」
「JRなら運休しそうな感じですけどねぇ……」
おおかた、栃木駅でJR線への乗り換え客を当て込んでいるか、栃木駅から別のスカイツリーライン電車で都内方面を目指す客を当て込んでいるか……。
敷島達が予約しているのは、その後の浅草行き。
ただ、それでも春日部駅着が17時11分と、かなりギリギリの時間だ。
列車はディーゼルエンジンの音を響かせながら、2つ目の乗り入れ先の駅に到着した。
「大丈夫!駅の中にいれば大丈夫だから!」
シンディは雷鳴に怯える他のロイド達を励ましている。
落雷の怖さがインストールされている為、アルエットやMEGAbyte達が怖がっているからだ。
列車から降りると、すぐ目の前にJR線直通だったスペーシアが発車を待っている。
LED化された行き先表示には、『栃木』と表示されていた。
栃木止まりのスペーシアも珍しい。
浅草発最終列車は春日部止まり、その1本前に新栃木行きなんてのはあるが。
「取りあえず、少し時間があるから、駅舎の中にいよう」
こんなこともあろうかと、実は手持ちの乗車券は鬼怒川温泉で切っている。
つまり、ここで改札の外に出ることは可能。
屋根があるとはいえ、実質屋外のホームよりは落雷の直撃の恐れの少ない駅舎へ避難するように進む敷島達だった。