報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「雪中行軍」 4

2014-02-23 00:03:38 | 日記
[同日11:20. 大石寺・大講堂 稲生ユウタ&栗原江蓮]

「皆さん、本日は足元が悪い中の御登山、誠に御苦労さまです。私、ただいま御紹介に預かりました……」
 壇上では僧侶が布教講演を行っていた。
(結局、班長は来なかったなぁ……)
「……今日は1000名ほどの御登山者が予定されていたようですが、あいにくとこの状況で御登山を控えざるを得なかった方もおられると思いますが……」
(1000!?……いやー……)
 ユタは周りを見渡したが、10分の1にも満たない有様だった。
(班長、御開扉すら間に合わなかったりして……)
(正証寺の除雪、自分だけ楽してた罰だな)
 ユタと江蓮は好き勝手なことを考えていた。

[同日同時刻 大石寺・新町駐車場 威吹、カンジ、キノ、鬼門の左と右]

「なぁ、さっきの話、本当かなぁ……?」
 威吹が首を傾げた。
「わざわざオレ達の前にノコノコ現れるくらいですから、本当かもしれませんよ」
 カンジは曖昧に答えた。
 実はここに1人の雪女が現れ、大石寺から東方の国道上で異変が起きていることを知らせに来たのだ。
「さっきの女、袴はいてただろ?連合会じゃ、それなりの地位のヤツしかはけないそうだ」
 キノが言った。
「オレ達みたいなものか」
「そうですね。そこそこの地位の者が変な冗談を言ってくるとは思えないので、警戒した方が良いでしょう」
 カンジも同調した。
「おい、お前ら。いつでも離脱する準備しとけ」
 キノは鬼門の2人に命令した。
「キノ、お前だけ逃げる気か?」
 威吹は意外そうな顔をした。
「バーカ。誰かを守りながらの戦いは、地味にやりにくいっての、オメーも知ってるだろうが」
 キノは裏門の方を見た。その先に大講堂があることは、威吹は知っていた。
「なるほど。たまにはいいこと言うな」
「『たまには』は余計だっつーの!」
「先生、オレが様子を見てきましょうか?」
「そうだなぁ……」
「せっかくだから、鉄砲玉になってもらったらどうだ?」
 キノはニヤけた顔をした。
「うるさいな。カンジ、異変を確認するだけだ。確認したら、すぐ戻ってこいよ?」
「分かりました」
 カンジは第0形態(人間に化けた姿)から一気に第2形態(銀髪になり、頭に狐耳が生える)に変化すると、
「行ってきます」
 消えるかのように、この場を去った。
「大丈夫だろうか?」
「どうだかなぁ……」
 威吹の言葉に、肩を竦めるキノだった。

[同日11:45. 静岡県富士宮市 国道469号上 藤谷春人&雪奈]

「あれ?おかしいな……。どこで間違えたんだろう???」
 藤谷は何度も首を傾げた。
 助手席にはジト目で見つめる、麗しい雪女がいる。
「俺の作戦だと、崖に挟まれた掘割に差し掛かるから、そこをアンタの妖術で一気に雪崩を起こし、奴らの動きを封じるはずだったんだが、何か……その……いつの間にか新道ができて、掘割通らなくなってるし」
(この役立たずが!)
 雪奈は喉元まで出掛かった抗議の言葉を飲み込んだ。
「って!こりゃいかん!」
「何よ?」
「もうすぐで三門が見えてきちまう!奴らを境内に入れることは阻止しないと!」
「あのね!」

[同日11:50. 静岡県富士宮市上条 国道469号上 特盛クン&エリちゃん]

「エリちゃん、もうすぐだよぉ……」
 特盛君は疲れた様子でハンドルを握り、三門横にある交差点に止まった。
「全く!雪で通行止めの上、あちこち滑って立ち往生なんてサイアクだわ!」
「でも、こうして無事に辿り着いたんだからさぁ。功徳が止まらなーい」
「布教講演はバックレ決定だわ」
「まあ、しょうがないよ。御開扉だけでも、間に合いそうだしぃ……」
「って言ってる間に、信号変わったし」
「あいよ」
 ズリュリュリュリュ!
「……あ、あれ?車が動かなーい」
「『動かなーい』じゃねーよ!スタックしてんだよ!だからさっき、チェーン巻けっつっただろ!ああっ!?」
「怒らないでぇ、エリちゃ~ん。今、チェーン巻くから待っててぇ……」
「あー、もう!アンタ1人にやらせてると、御開扉終わっちゃうよ!あたしも手伝うからさ!ほら、早く車降りて!ちゃんとハザード点けてね!」
 特盛君とエリちゃんが車を降りた時だった。
「うわっ!?」

 ズドーン!!

「きゃっ!?」
 突然後ろから、軽トラが突っ込んで来た。
「あ~れ~!」
 荷台に乗っていたレッド、グリーン、イエローの戦闘スーツを着ていた3人は荷台から振り落とされ、3人仲良く頭から車道脇の雪山に突っ込んだ。
「うあっ!?ケンショーレンジャーだぁっ?!」
 特盛君は飛び上がらんばかりに驚き、
「テメーら!あたしの新車に何てことすんだよ、ああっ!?」
 エリちゃんは右手で拳を握って、キャブにいるブルーとホワイトに抗議した。
「え、エリちゅわ~ん……そのジムニー、僕が買ったんだけどォ……?」
「ああっ!?このクサレマ○コ!こんなとこに止まってんのが悪いんだろっ!ああっ!?」
 ブルーが降りて来て、エリちゃんに言い返す。
 と、そこへジムニーの2倍以上の大きさはあるベンツGクラスがやってきた。
「おおっ!?あなた達は確か、塔中坊の御信徒さん!ご協力ありがとうございます!」
 藤谷は車から飛び降りると、特盛君達に礼を言った。
「協力した覚えは無いんですけどね。一体、何なんですか、こいつら?」
 エリちゃんは両手を腰に当てて、藤谷に詰問した。
「え、エリちゃ~ん、信徒同士でケンカはダメだよォ。『門内摂受、門外折伏』……」
「うっせーんだよっ!だいたい……」
 藤谷は腰を低くした。
「話せば長くなるんです。後でゆっくり説明しますから、まずは取り急ぎ、ケンショーレンジャーを退治……いや、何でもないです」
 藤谷が言葉を打ち切ったのは……。
「よくも大事な友達を……辱めて……!!」
 既に雪奈がレンジャー全員を氷漬けにしていたからだ。
「キミの仲間は無事かい!?」
「何ですか~?」
 藤谷と特盛君は軽トラの荷台を見た。
 そこには着物を引き裂かれ、上半身が露わになった若い雪女の姿があった。
「変態ども!離れろッ!」
 エリちゃんが慌てて2人を引き離す。
「ちょっと待て!確か、車の中に……」
 藤谷は自分の車に戻ると、毛布を持ってきた。
「これを使え!」
 直接は渡せないので、エリちゃんに渡す。
「大丈夫?怪我は無い?」
 エリちゃんは毛布を羽織らせた。

[同日11:50. 大講堂→裏門 稲生ユウタ&栗原江蓮]

「結局バックレやがったな、藤谷さん……」
 エントランスで靴を履きながら、江蓮は言った。
「まあ、この雪じゃね……」
「空はもうこんなに晴れてるのに……」
「現実は難しんだよ、きっと。とにかく、威吹達と合流してお昼食べよう」
「あ、そうか。記念登山とかじゃないと弁当出ないんだっけ」
「そうだね」
 そんなことを話しながら裏門へ向かうと、
「おーう!2人とも!」
 藤谷が大きく手を振って走って来た。
「藤谷班長、ご無事で何より!」
「藤谷さん、遅いよ。もう御開扉終わったよw」
「え!?」
 しかし、江蓮はすぐにニヤけた顔をした。
「なーんてな!終わったのは、布教講演だよ」
「何だ……」
「妖怪の抗争に巻き込まれたってのは?」
「話せば長くなる。後で話すよ。取り急ぎ、俺は整理券を内拝券に換えてくる」
「僕達、先にお昼食べてますよ?」
「そうしてくれ」
 藤谷は正証寺が休憩所として使用している坊へ走って行った。
「本当に藤谷さん、無事だったねぇ……。まあ、殺しても死なない感じだもんね」
「栗原さん、それはちょっと言い過ぎだよ。威吹達に言わせれば、班長の霊力はC級だけど、絶対に侮れない何かがあるって話だね」
「確かに……」
                続く
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“ユタと愉快な仲間たち” 「雪中行軍」 3

2014-02-21 21:45:01 | 日記
[同日10:30.タクシー車内 ユタ、威吹、カンジ]

「凄い雪だねぇ……」
 大石寺周辺は深い雪に包まれていた。
「全然除雪されていない……」
 何しろここに来る途中、国道が通行止めになっていたくらいだ。
「この大石寺までが限界らしいですよ」
 と、運転手。
「白糸の滝とかは完全に行けなくなっているようです」
「身延線も富士〜西富士宮間だけの運転で、それ以北は終日運休だっていうからね」
「三門前でいいんですね?」
「はい」
 タクシーは三門前で止まった。
「ユタ、ボクが払っておくよ」
「ああ、悪い」
 ユタは先にタクシーを降りた。
 辛うじて、歩ける幅が除雪されているくらい……か?
「カンジ君、大丈夫?」
「なるほど。先生が辟易される理由が分かります」
「そうか。カンジ君は普段は人間の姿だから、逆に影響が無いのか」
「ええ。ですので、先生の方が心配です」
「一応、朝の勤行で御祈念はしてきたんだけどねぇ……」
 ユタは首を傾げた。
「前よりは少し慣れた……かも」
 それでも、あまり気分の良さそうではない顔で威吹もタクシーを降りた。
「それより、急がなきゃ。もう着山受付してる」
「じゃあユタ、僕達は適当にこの辺にいるから」
「ああ」
「雪女の気配が僅かにあるから気をつけて」
「境内に入って来るかい?」
「それは無いと思うけど……」

[同日10時45分 とある塔中坊 稲生ユウタ]

「おはようございます!すいません!遅くなりました!」
 シーン……。
「あ、あれ?もしかして、置いてかれた?でも、布教講演は11時20分からだよなぁ……???」
 とにかく、靴を脱いで上がる。
「失礼しまーす」
 休憩所に指定されている広間に入ると……。
「ふえ!?」
 前に支部登山に来た際は、座る場所を探さないといけないくらい賑わっていたが、
「あ、あの……他の皆さんは?」
「まだ到着していないよ。この雪でね……」
 と、他地区と思われる男性信徒が答えた。
「ええっ!?だって、10人くらいしかいませんよ!?」
「『ったく。皆、根性無ェよなぁ』って、どっかのバカ鬼が嘯いてたぞ?」
 背後から声を掛けられる。
「あっ、栗原さん!?」
「よっ。さすが妖狐の護衛付きだね」
 栗原江蓮だった。
 この大広間では恐らく1番、最年少だろう。
 着ている高校の制服だけ見ると、普通の女子高生にしか見えない。
「栗原さんはどうやって来たの?」
「鬼門の車」
「東名高速、通行止めだったでしょ?」
「魔境、通って来たから」
「抜け道みたいな感覚で通っていいものなのかい?」
 因みにここで言う魔境とは、魔界の入口辺りに存在している平原のことである。
 妖狐の里もこのエリアにある。
「稲生さんは一泊?」
「いや、日帰りだよ。……って、栗原さんは?」
「泊まり」
「マジで?」
「“江蓮”が泊まれってうるせーんだよ。拒否ると、アタマ痛くなるし……」
「魂の江蓮さんは成仏したんだよね?」
「意外と地獄界に逝ってるかもよ?」
「まさか……」
「でなきゃ、中3で死ぬわけねーよ」
「…………」
「おっと。辛気臭くなったかな。で?藤谷さんは?」
「あ、まだ見てないな。班長は夜通しかけて、こっちに来るって話だよ」
「また無謀なことを……」
「ちょっと電話してみよう」
 ユタはケータイを出すと、藤谷に電話してみた。
「あ、もしもし?おはようございます。稲生ですけど班長、今どこに……は!?……何ですか!?」
{「だから!妖怪同士の抗争に巻き込まれて、到着できそうにねぇ!」}
「今どこにいるんですか!?」
{「取りあえず国道469号上にいるけど、もしかしたら通行止め区間を突破しちまったらしい」}
「はい!?」
{「登山部長は到着してるはずだから、着山整理券は登山部長に渡してくれ」}
「あ、あの、もし良かったら、威吹達にヘルプを……あっ、切れた。な、何があったんだ?」
「なに?遭難した?」

[同日10時00 静岡県富士宮市内 国道469号線 藤谷春人&???]

「ったくもう!この車は雪上車じゃねーんだぜ!?」
 雪道を走る1台のベンツ。
 但し、いつものEクラスではない。SUV型のもので、ナンバーも所沢ナンバーである。
「埼玉の従兄から借りてきて正解だったけどよ……」
 一応、駆動輪にはチェーンを巻いている。
「日蓮大聖人の信徒を巻き込んだからには分かってんだろうなぁ!?おい!」
 藤谷は助手席に座る者を睨みつけた。
「お礼ならきちんとします。だから助けて!」
 助手席にいるのは白い着物を着た若い女性。但し、緑色の袴をはいていた。
 青みがかった髪はセミロングで、肌は外に広がる雪景色のように白い。
「本当にこの先にいるのか?あーっと……。アンタ、名前は?」
「雪奈です」
「ああ、そう。見た目雪女でいかにもって感じだな」
「ええ。雪女ですから」
「あー、そうかよ。通りでさっきから寒いと思ったぜ」
「雪女郎連合会東海支部富士地区の雪奈と申します。妖怪退治屋に友達をさらわれて……!」
「法華講連合会のパクりかよ。てか、この時代に妖怪退治屋なんているのか?」
「はい」
「どこの何てヤツだよ?」
「確か……ケンショーレンジャーと……」
「はあ!?……まだ生きてやがったのか、あの連中!よーし、こうなったら乗りかかったバスだ!破折してやろうじゃねーか!」
(乗りかかった舟……よね?いえ、それより……)
「あの、私、本当に雪女なんですよ?」
「見りゃ分かるっての。雪女がガングロ肌のビッチなわけねーだろ」
「怖くないんですか?」
「うるせー女だな。こちとら狐妖怪と鬼に知り合いがいるんだ。今更、雪女なんざ怖くねーぜ」
「……!」
「あ?何か車が見えてきた?」
「あれです!あの車です!」

[同日同時刻 先行の軽トラ ケンショーレンジャー]

 その軽トラを運転しているのはブルー。助手席にはホワイト。荷台にいるのはレッド、イエロー、グリーンであった。
「ああっ!?法華講の連中を折伏しに行こうと思ったら、いい女手に入って功徳だぜ!」
「ちょっと!あんな貧相な女のどこがいいの!何度も言わせないでちょうだい!ねぇっ!」
「グリーン。これがかの有名な雪女か。どれどれ、ワシがちと味見をば……」
「クフフフフ……。私の分析によりますと、人間換算年齢20歳前後、スリーサイズは上から……」
「ぇそれよりもですね、ぇ早いとこアジトに戻って、ぇゆっくり味わうのが、ぇベストでしょ?」
 シュルシュル……(雪女の白い袴の帯をグリーンがいやらしく解いている)
「こりゃ、グリーン!つまみ食いはイカンぞ!」
「私の分析によりますと、こういう着物を着ている女性に限りまして、パンティーは派手なのをはいていますね」
「ああっ!?グリーン!てめー!うらやましいじゃねぇか!もうちょっとで車止めるから、俺にもヤらせろ!1度、女の着物をビリビリに裂いてみたかったんだぜ!ああっ!?」
「ぇそれよりもですね、ぇベタな法則で、ぇ帯を『あ〜れ〜』とやるのが、ぇ定番でしょ?」
「黙らんか、レッド!袴をはいているというのに、そんな帯などあるわけないじゃろう!」
「ハァハァ……!」
 ↑グリーンが脱がした袴の匂いを嗅いでいる。
「ちょっと!後ろ気をつけてよ!ねぇっ!何か追ってくるわよ!」
「なにっ!?」

[同時刻 10時45分 軽トラ&ベンツGクラス]

「おう、コラ!待てやーっ!!」
 パッパーッとクラクションを鳴らす藤谷。
 しかし、軽トラは止まる気配が無い。
「東京第3布教区、正証寺支部法華講、藤谷春人をナメんなよ!」
「氷奈を返して!」
「ちっ!人質さえいなけりゃ、体当たりしてやるんだが……。てか、今気づいた。雪女なんだから、あの軽トラごと凍らせたらどうだ?」
「連合会の決まりで、今は無闇やたらに人間を襲えないの!」
「趣旨は立派だが、それどころじゃねぇだろ。仲間のピンチなんだから。……あ、そうだ」
 藤谷は更に思いついた。
直接襲っちゃダメなんだろ?ちょうど今、いい区間に来た」
 藤谷は雪奈に作戦を伝授した。
「……な?それなら、アンタも規則違反じゃねーだろ?」
「……分かったわ」
「よし、行くぞ!」
 藤谷はあえて、軽トラと車間距離を取った。
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小説の途中ですが、ここで通常の日記をお送りします。

2014-02-21 00:06:20 | 日記
 一部の法華講員並びに顕正会員のブログが盛り上がっている。
 それはいいことなのだが、何かいつもの繰り返しのような気がして、正直そろそろ飽きて来たところである。
 無論、正論を掲げること自体はけして悪いことではない。
 しかし、それを踏まえた上で、世の中、正論だけで動いているわけではないし、むしろ正論だけで世の中が上手く回るかといえば、そうでもないことに気づくべきだ。
 私自身が正論だけで動く人間ではないからなのか、前記事のコメント欄でも呟いたが、正論を捲し立てて、攻めの一手しか使わない人間は嫌いなタイプの1人である。
 とどのつまり、何でもかんでも破折すりゃいいってもんじゃないってことだ。
 まあ、『攻撃は最大の防御』というけどね。
 ネットの世界では【お察しください】。リアルだと、マシンガントークをすることが多い。
 因みに私は、リアルの世界では殆どセリフは無い。
 今のお寺に移ってから、尚更喋らなくなってしまった。そもそも喋る機会が無い。
 口は災いの元という観点からすればそれでいいのかもしれないが、折伏の時に相手の顕正会員が一方的に喋りまくり、私のセリフが殆ど無いまま時間切れで終了したこともあった。
 多分、先方にとっては、
「相手の法華講員は反論不能となり、法論に勝利した」
 ということになっているのだろうな。
 いや、法の上から反論できなかったというより、アンタのセリフが途切れるのを待っていたら時間切れになったのだが、それもオレが負けたことになるのか???

 そういえば、信仰者で無口な人間ってあんまり見ないな。いないことは無いけど、マシンガントークじゃないというだけで、そこそこ喋るのが普通だろう。
 布教活動だけが信心ではないだろうが、折伏の際に、ある程度の話術も求められるこの仏法には向き不向きがあると思う。
 無論、向いてないからと言って、無理に辞める必要は無い。
 仕事と同じで、いくら向いてなくても働かないと生活できないのと同じだ。
 幸い、顕正会と違って、宗門には喋る(勤行などは除く)以外でも罪障消滅できる方法があるから、それを中心にやっていけば良いのではないかなと思う。

 ……それができりゃ、苦労はしねーんだよっ!けっ!!
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“ユタと愉快な仲間たち” 「雪中行軍」 2

2014-02-19 20:40:50 | 日記
[同日07:45.JR東京駅 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]

〔「まもなく東京、東京です。お出口は、右側です。本日、大雪のため、電車遅れましたことを深くお詫び申し上げます。……」〕

 京浜東北線の電車は、東京駅のホームに滑り込んだ。
 果たして、何分遅れなのだろう?
 ドアが開いて、多くの乗客が吐き出される。
 ユタ達もそれに続いた。
「あー、かなり遅れてるな」
 ユタがそう思ったのは、ホームの電光表示板を見たから。
 次の電車の行き先が表示されるのだが、時刻だけが表示されていない。
 電車内でも、乗った時からドアの上のモニタで、運行情報をひたすら流していた。
「東海道新幹線は大丈夫なんだろうか?」
「差し当たり、案内には出てきませんでした」
 と、カンジ。
 カンジは着席せず、ユタの横に立って護衛に当たっていた。
「取りあえず、行ってみよう」

 京浜東北線と東海道新幹線はJRが違うため、改札口を出なければならない。
 改めて、東海道新幹線のキップを買う前に確認してみた。
 改札口の横に、ホワイトボードで手書きがしてあった。
 それによると、東京〜三島間は大雪で徐行運転するため、下り列車に遅れが出る見込みとのこと。
 それ以外に運転見合わせ区間などは無かった。
「これは……乗って大丈夫ということだな」
「そうですね」
「乗車区間、ほとんど徐行運転だな」
「といっても、170キロくらいですか?」
「そんなもんかな。少なくとも、いつもの東京〜大宮間よりは早く走るはずだよ」
「ユタぁ、170キロってどれくらいの速さ?」
「そうだなぁ……。あ、さっきの乗ってきた京浜東北線の2倍くらいかな」
「2倍!?」
「京浜東北線は90キロですか、稲生さん?」
「駅間距離が長いとそれくらいだけど、今回は雪で少しスピード落として走ってたよね」
「確かに……」
(あれより2倍速くて徐行なの!?)
 時代の流れを改めて感じる威吹だった。

[同日08:07. JR東京駅・東海道新幹線ホーム ユタ、威吹、カンジ]

〔新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく17番線に、8時26分発、“こだま”639号、名古屋行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。……〕

「だいぶ降ってるねぇ……。雨が」
「これで雪が解けるといいのですが……」
「却って、足元が悪くなるような気が……」

〔「お待たせ致しました。17番線に各駅停車の“こだま”639号、名古屋行きが到着致します。当駅始発ですので、すぐのご乗車ができます。安全柵の内側まで、お下がりください。尚、本日は大雪のため、東京〜三島間で徐行運転を行っております。そのため、定刻に発車しましても、到着に遅れが出る場合がございます。予め、ご了承ください」〕

「おっ、N700系だ。期待の最新鋭」
「それに乗れるのも、きっと普段の行いですよ」
 カンジがさらっとユタを持ち上げてみる。
「そうかな?」
「ええ」
「本当は窓の大きい普通の700系が良かったな。普段の行いが悪かったか……」
「え゛……?」
「こっ、こら、カンジ!余計なこと言うな!お前だけ先に帰るか!?」
 威吹は慌ててカンジの胸倉を掴んだ。
「すっ、すいません!」
 カンジは両目をギュッと瞑る。師匠から鉄拳の愛の鞭が飛ぶことを覚悟したのか。
 大きなエアー音とドアチャイムと共に扉が開いた。
「何やってんの?早く乗ろうよ」
 ユタは気にせず、さっさと1号車に乗り込んだ。

[同日08:26. JR東海道新幹線“こだま”639号1号車 ユタ、威吹、カンジ]

 既に威吹は駅弁を食べ尽してしまった。
「よく食うなぁ、キミ達は……」
 3人席の窓側に座るユタは、横に座る妖狐2人を見て言った。
「これでも8分目くらいだ」
「その通りです」
 定刻に発車する予定だったが、折り返しとなる上り列車が遅れて来たせいか、2〜3分ほど遅れるようだった。

 列車の外では……。
〔「レピーター点灯です」〕
 昔、“のぞみ”の車内で流れていたチャイム。これが今は東京駅で発車メロディとして使われている。
〔17番線、“こだま”639号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「お待たせ致しました。17番線、まもなく発車致します。閉まるドアに、ご注意ください。……ITVよーし!乗車終了!……ドアが閉まります!」〕
 東北新幹線系統と違い、ホームで英語放送は一切流れない。
 恐らく列車本数が飽和状態で日本語の次に英語で話すヒマが無いのと、そもそも駅員のセリフが東北新幹線系統より多いからかもしれない。

「うーん……。やっぱり少し遅れたねぇ……」
 ユタは時計を見て呟いた。
「それより、ユタももう少し食べないとダメだよ」
「え?」
「肉に旨味が無くなる」
(狙われてる、狙われてる……)

〔♪(アンビシャス・ジャパンのイントロ)♪ 今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です〕
 さすがに車内では、英語放送が流れる。
「寺の他の信徒は、どうるすんだ?」
 威吹が聞いて来た。
「多分、明日に振り替える人多数だと思うね」
「なるほど。お色気担当の栗原さんと夫婦漫才のボケ役キノはどうするつもりかな?」
「地区が違うから分かんないけど、やっぱり明日にするんじゃないかな……?」
「地区が違うのに、寺の除雪させてたんですか」
「藤谷班長って、そういう人なんだよ」
 そもそも妖怪は信徒になり得ないのに、身の供養をさせてた件。

[同日09時52分 JR新富士駅 ユタ、威吹、カンジ]

 三島駅を出た列車は早速、徐行運転が解除になったこともあって、高速運転を始めた。
 熱海辺りから日差しが出るようにはなったが、それでも富士山は見えずじまいだった。

〔♪(アンビシャス・ジャパンのサビ)♪ まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は静岡に止まります〕

「やれやれ、やっとか……」
 ユタは立ち上がって、コートを羽織った。
 車内放送では17分遅れとのことだが、よくそれだけで済んだものと思う。
 ポイントを渡って、列車が到着する。
 ポイント通過の為に、もっと遅れが拡大したかもしれない。
 しかし、驚くべきことは……。
「今のは“のぞみ”ですかね?」
「さあね。2分の1の確率だな」
 “こだま”が到着してからものの1分と経たぬうちに、“のぞみ”だか“ひかり”だかが轟音を立てて通過していったことだ。
 東急東横線ではダイヤ乱れでキツキツの間隔となっていた電車が、元住吉駅で追突事故を起こしたという。
 私鉄の通勤路線と新幹線では、格が全く違うということか。ダイヤ乱れでキツキツなのは、ここも同じだから。

[同日10時00分。新富士駅北口ロータリー ユタ、威吹、カンジ]

 ユタ達は大石寺行きのバスが出る停留所に行った。
「げ……!」
 そこには、雪のため全便運休する旨の貼り紙がしてあった。
「見た目には、雪などそんなに無いようですが……」
 カンジは辺りを見回して言った。
「まあ、駅前だからね。さすがにそこはガッツリ除雪してあるだろうさ。しょうがないから、タクシーで行こう」
 ユタ達はタクシー乗り場に向かった。
「確かに山寺だから、ここよりは雪が多いだろうね」
 そこは威吹も納得した。
「カンジは初だから、あまり想像が付かないと思うけど……」
「ええ」
 ユタ達はタクシー乗り場で客待ちをしていたタクシーに乗り込んだ。
「大石寺までお願いします」
「はい」
 タクシーはすぐに走り出した。
「如何に人間界で生まれ育ちのカンジとはいえ、きっとあの寺の霊気は応えるぞ?」
 威吹はニヤリと笑った。
「そうですか」
「お客さん、大石寺はどこに着けましょう?」
 運転手が聞いてくる。
「そうですねぇ……。確か、大講堂が集合場所だったから、裏門の方がいいのかな……」
「裏門ですね」
「あ、いや、ちょっと待った!」
 ユタは藤谷からメールが来ているのに気付いた。
「別の坊に変更になってる。塔中坊だと、三門前の方がいいのかな?」
「はい、三門前ですね」

 車は国道139号線を北上した。右手には富士山がやっと顔を出した。
 これだけは封印前と変わらない。威吹は富士山を見ると、少しホッとするのだった。

 ※一部、誤字と脱字を修正しました。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「雪中行軍」 1

2014-02-19 15:39:31 | 日記
[2月14日 14:25.さいたま市中央区 上落合8丁目バス停 稲生ユウタ&威吹邪甲]

(雪か……。傘持ってくれば良かったな……)
 ユタは1日3本しかないバスに乗って、帰宅の途に就いていた。

〔「上落合8丁目です」〕

 プシューとエアの音がして、前扉が開く。
「ありがとうございました」
「どうも」
 ユタがバスを降りると、バス停に威吹がいた。
「あれ?」
「お迎えに参上つかまつり申した!」
「わざわざ?いいのに……」
 袴姿の威吹。これで和傘を差していれば絵になるのだが、普通のビニール傘である。
「いいからいいから。物凄い雪になると予報が出てるからね」
「まあ、そうだけど……」
「ところで、その手に持ってる紙袋は何?」
「ああ。大学で、女子からもらったバレンタインチョコだよ」
 ユタは苦笑を浮かべた。
「そんなに!?ユタ、景気いいな!」
「いや、これは……」
「あ、だけど、妖からの物は受け取らないでよ?後々面倒だから」
「人間の女も、面倒だよ?」
「妖に比べれば可愛いもんだ」
(その巫女に騙されて封印されて、なに言ってるんだか……)
 ユタは心の中で突っ込んだ後で、
「そうじゃなくって……」
「?」
「これは全部、威吹とカンジ君宛てだよ」
「え?」
「前に威吹とカンジ君が大学に来た時、随分と騒がれたでしょ?うちの大学の女子、イケメン好きが多いから。挙句の果てに、『何で威吹君とカンジ君連れてこないの』って、怒られたよ」
「ご、ゴメン……」
「いやいや。だいたい、大雪が降るってのに、のこのこ行けるかってんだ」
「そういえば今日は、いつもより早いね?」
「落とせない単位のだけ出たよ。あとは自主休講だ。もしかしたら今後、雪の状況によっては大学から正式に臨時休講のお知らせがあるかもしれない」
「人間は大変だね」

[同日 18:00. ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]

「稲生さん、バレンタインの件、本当にご迷惑をお掛けしました」
「いや、いいんだよ。どうして人間を喰らう高等妖怪が美男美女なのか、理由が分かったよ」
「獲物を釣りやすいから、です」
「本当に申し訳ないことしたね」
 威吹も改めて陳謝してきた。
「もういいよ。それよりカンジ君、今日はカレー?」
「ハイ。これなら保存もできますので、非常事態にも備えることができます」
「何だか、オーバーだな。だいたい、明日は支部登山だってのに……」
「連合会……雪女郎連合会に問い合わせたところ、東京圏内で30センチ近くの積雪を予定しているとのことです」
「は?」
「ここ最近、“誓願”が達成できていないとのことで、景気テコ入れで行うと……」
「何それ?そんな、顕正会よりハタ迷惑な誓願って?」
「山の方に、“獲物”となる男が来ないのでしょう」
「だからって、山から下りられてきても困るよ」
「まあまあ。ユタには指一本手出しさせないから」
「その通り。先方には既に根回ししてありますので、ご安心ください」
 2人の妖狐は宥めるように言った。
 因みに連合会結成前はそういった取り決めも無くて、もっと面倒だったとのこと。

[同日 21:00. 同場所ユタの部屋 稲生ユウタ]

「そうですか。班長は夜通し車で……」
{「そうなんだ。どうも、雪が降るみたいだからな。稲生君も、無理せず日曜日に振り替えてもいいぞ?」}
「いえ、取りあえず行ってみることにします」
{「無理しなくていいぞ」}
「明日、電車が全く動いていないようなら、取り止めることにしますよ」
{「それならまあいいけど……」}
「それより班長」
{「何だ?」}
「何か、威吹達が言ってたんですが、今回の大雪は雪女達がノルマ達成の為に暴れるのが原因らしいんですよ。僕には威吹達が護衛に当たってくれますが、班長も気をつけてください」
{「はははっ!大聖人様の信徒の命を狙うとは、いい度胸のバカ女がいるもんだ!信徒を狙うということは、イコール大聖人様の御命を害せんとするのと同じことだぞ?」}
「それが理解できる相手だといいんですけどねぇ……」

[2月15日 05:30.ユタの家 ユタ、威吹、カンジ]

 朝起きたユタ。
「うわ……」
 カーテンを開けて、外を見てみる。辺り一面、白銀の世界だった。
「こ、これは……。と、取りあえず、朝の勤行やろう……」

 ユタの部屋から読経の声が聞こえた妖狐2人。
「カンジ。ユタのことだから、朝餉は途中で食うことになると思うぞ?」
「分かりました」
「それで、どうだ?ユタは、富士の寺に行けそうか?」
「近辺の運行状況ですが、まず東北、上越、山形、秋田、長野新幹線は全部運転を見合わせています。埼京線が大宮〜赤羽間が運転見合わせ。高崎線は全区間です。宇都宮線が大幅な遅れ。平常運転しているのは、京浜東北線だけということに……」
 湘南新宿ラインは、既に論外のようだ。

[同日 06:15.ユタの家の前 ユタ、威吹、カンジ]

「ちょっ……ユタ、普通の靴じゃ無理だって!」
「先生の仰る通りです」
「だけど、長靴はみっともなくない?」
「そんなことないって」
「さすがにそれ以外の履物は、自殺行為に等しいかと」
「でもねぇ……」
 ユタの家の前の公道。全く除雪がされておらず、しかもその積雪は概算で20センチ以上!
 道が全く無かった。
 妖狐2人は藁製のブーツを履いている。
 さしものカンジも、着物を着用していた。
 ユタがスーツを着用しているというのに、カンジだけラフな格好というわけには行かないとの判断だった。
「このような状況では、タクシーも呼べないでしょう」
「夜中過ぎから雨に変わるって言ってたのに……」
 確かに今は雨が降っている。しかし、
「いや、夜中からいきなり積もり出したんだ」
「雪女が近くを通りましたよ。この家とその周辺は積もらすなと言ったんですが、けんもほろろでした。あまり強く言うと、連合会と里の方でトラブルになりますので……」
「とにかくユタ、どうしてもって言うならこれ履いて」
 威吹はもう1足、藁製のブーツを出した。
「必要無くなったら、ボクがしまっておくから」
「あ、ああ……」
「普通の藁靴と違い、耐水性と防寒性にも優れていますよ」
「じゃあ、取りあえず駅までこれで行こう」

[同日 06:45. JRさいたま新都心駅 ユタ、威吹、カンジ]

「うわっ!」
 けやき広場で、みぞれ交じりの暴風に襲われた。
 ユタの持っていた傘が危うく壊れるところだった。
「やめろ、お前ら!」
 カンジは、さいたまスーパーアリーナの屋根に足を組んで座る雪女3人を睨みつけた。
 雪女3人は、こちらを見てクスクス笑っている。
 白い着物だが、裾は短い。最近の流行りなのだろうか。
「先生、あいつらを黙らせてきます」
「いいから放っとけ。どうせもう雨に変わってるんじゃ、あいつらもすぐに立ち去らざるを得ん」
「それにもう駅に着いたしね」
「はあ……」
 駅の運行状況によれば、もう周辺の鉄道路線はgdgdになっているのが分かった。
「京浜東北線は、大丈夫みたいだな。よし、これで行こう」
「うん」
「ハイ」
 改札口に入る。コンコースでユタは藁製ブーツから、黒い革靴に履き替えた。

〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、6時47分発、各駅停車、大船行きです。次は、与野に止まります。この電車は、ただいま、約5分遅れとなっております〕

「こりゃ、相当だ」
 ユタは辺り一面の雪景色に辟易した。
 線路にも雪が積もっているが、除雪がきちんとされているおかげで、レールは見えている。枕木は見えない。
「生まれの仙台でも、山の方に行かないとこんなに積もらないんだけどなぁ……」
「ええ」
 ユタと、ユタより年下の人間界で生まれ育ったカンジは同じ意見・感想だった。
「え?武州の北側ってこんなものだろ?」
 地球温暖化前の時代に生きていた威吹は、さほど不思議に思わなかった。
 小泉八雲の怪談に出てくる雪女の話は、東京都西部の話だという。
 あれも相当な豪雪の描写があるが、今の都内では信じられない。
 しかし、威吹は知っている。
「中野宿から西は、降れば尺単位で積もってたけどな……」
「尺?」
 するとカンジがそっと耳打ちした。
「1尺、約30センチほどです」
「何それ?そんなの雪国じゃんかよ」
 ユタがブルッたのは、けして寒さだけではなかった。

〔まもなく1番線に、各駅停車、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。……〕
〔「お待たせ致しました。1番線、遅れておりました京浜東北線、大船行き到着です。本日、雪のため、京浜東北線は全線で遅れが発生しております。……」〕

 屋根はもちろん、フロント部分にも雪を付着させた電車が滑り込んできた。
「やれやれ、やっと暖が取れるな」
 1番後ろの車両は空いていて、そこの座席に腰掛けた。
 電車はユタ達を乗せると、発車メロディもそこそこに、すぐにドアを閉めて発車した。

〔次は与野、与野。お出口は、右側です。……〕

「あいつら!手ェ振りやがって!」
 カンジは今度は駅舎の上で、手を振る雪女を見つけた。
「じゃあ、手ェ振り返したら?モテる男はツラいねー」
 ユタは苦笑交じりに言った。
「そういうことじゃないんだよ、ユタ」
 威吹は溜め息をついた。
「それに乗って手を振り返さないように」
 と、注意を促してくる。
「何で?」
「それだけで盟約締結扱いとなり、憑依されるから」
「何それ?ワンクリック詐欺以上だな」
「妖はありとあらゆる手を使って、人間を獲物にしようとしているんだよ」
 威吹はさらりと言った。

 電車はみぞれ交じりの雨が降る中、東京都心へ向かう。
                                        続く
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