[2月14日 14:25.さいたま市中央区 上落合8丁目バス停 稲生ユウタ&威吹邪甲]
(雪か……。傘持ってくれば良かったな……)
ユタは1日3本しかないバスに乗って、帰宅の途に就いていた。
〔「上落合8丁目です」〕
プシューとエアの音がして、前扉が開く。
「ありがとうございました」
「どうも」
ユタがバスを降りると、バス停に威吹がいた。
「あれ?」
「お迎えに参上つかまつり申した!」
「わざわざ?いいのに……」
袴姿の威吹。これで和傘を差していれば絵になるのだが、普通のビニール傘である。
「いいからいいから。物凄い雪になると予報が出てるからね」
「まあ、そうだけど……」
「ところで、その手に持ってる紙袋は何?」
「ああ。大学で、女子からもらったバレンタインチョコだよ」
ユタは苦笑を浮かべた。
「そんなに!?ユタ、景気いいな!」
「いや、これは……」
「あ、だけど、妖からの物は受け取らないでよ?後々面倒だから」
「人間の女も、面倒だよ?」
「妖に比べれば可愛いもんだ」
(その巫女に騙されて封印されて、なに言ってるんだか……)
ユタは心の中で突っ込んだ後で、
「そうじゃなくって……」
「?」
「これは全部、威吹とカンジ君宛てだよ」
「え?」
「前に威吹とカンジ君が大学に来た時、随分と騒がれたでしょ?うちの大学の女子、イケメン好きが多いから。挙句の果てに、『何で威吹君とカンジ君連れてこないの』って、怒られたよ」
「ご、ゴメン……」
「いやいや。だいたい、大雪が降るってのに、のこのこ行けるかってんだ」
「そういえば今日は、いつもより早いね?」
「落とせない単位のだけ出たよ。あとは自主休講だ。もしかしたら今後、雪の状況によっては大学から正式に臨時休講のお知らせがあるかもしれない」
「人間は大変だね」
[同日 18:00. ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]
「稲生さん、バレンタインの件、本当にご迷惑をお掛けしました」
「いや、いいんだよ。どうして人間を喰らう高等妖怪が美男美女なのか、理由が分かったよ」
「獲物を釣りやすいから、です」
「本当に申し訳ないことしたね」
威吹も改めて陳謝してきた。
「もういいよ。それよりカンジ君、今日はカレー?」
「ハイ。これなら保存もできますので、非常事態にも備えることができます」
「何だか、オーバーだな。だいたい、明日は支部登山だってのに……」
「連合会……雪女郎連合会に問い合わせたところ、東京圏内で30センチ近くの積雪を予定しているとのことです」
「は?」
「ここ最近、“誓願”が達成できていないとのことで、景気テコ入れで行うと……」
「何それ?そんな、顕正会よりハタ迷惑な誓願って?」
「山の方に、“獲物”となる男が来ないのでしょう」
「だからって、山から下りられてきても困るよ」
「まあまあ。ユタには指一本手出しさせないから」
「その通り。先方には既に根回ししてありますので、ご安心ください」
2人の妖狐は宥めるように言った。
因みに連合会結成前はそういった取り決めも無くて、もっと面倒だったとのこと。
[同日 21:00. 同場所ユタの部屋 稲生ユウタ]
「そうですか。班長は夜通し車で……」
{「そうなんだ。どうも、雪が降るみたいだからな。稲生君も、無理せず日曜日に振り替えてもいいぞ?」}
「いえ、取りあえず行ってみることにします」
{「無理しなくていいぞ」}
「明日、電車が全く動いていないようなら、取り止めることにしますよ」
{「それならまあいいけど……」}
「それより班長」
{「何だ?」}
「何か、威吹達が言ってたんですが、今回の大雪は雪女達がノルマ達成の為に暴れるのが原因らしいんですよ。僕には威吹達が護衛に当たってくれますが、班長も気をつけてください」
{「はははっ!大聖人様の信徒の命を狙うとは、いい度胸のバカ女がいるもんだ!信徒を狙うということは、イコール大聖人様の御命を害せんとするのと同じことだぞ?」}
「それが理解できる相手だといいんですけどねぇ……」
[2月15日 05:30.ユタの家 ユタ、威吹、カンジ]
朝起きたユタ。
「うわ……」
カーテンを開けて、外を見てみる。辺り一面、白銀の世界だった。
「こ、これは……。と、取りあえず、朝の勤行やろう……」
ユタの部屋から読経の声が聞こえた妖狐2人。
「カンジ。ユタのことだから、朝餉は途中で食うことになると思うぞ?」
「分かりました」
「それで、どうだ?ユタは、富士の寺に行けそうか?」
「近辺の運行状況ですが、まず東北、上越、山形、秋田、長野新幹線は全部運転を見合わせています。埼京線が大宮〜赤羽間が運転見合わせ。高崎線は全区間です。宇都宮線が大幅な遅れ。平常運転しているのは、京浜東北線だけということに……」
湘南新宿ラインは、既に論外のようだ。
[同日 06:15.ユタの家の前 ユタ、威吹、カンジ]
「ちょっ……ユタ、普通の靴じゃ無理だって!」
「先生の仰る通りです」
「だけど、長靴はみっともなくない?」
「そんなことないって」
「さすがにそれ以外の履物は、自殺行為に等しいかと」
「でもねぇ……」
ユタの家の前の公道。全く除雪がされておらず、しかもその積雪は概算で20センチ以上!
道が全く無かった。
妖狐2人は藁製のブーツを履いている。
さしものカンジも、着物を着用していた。
ユタがスーツを着用しているというのに、カンジだけラフな格好というわけには行かないとの判断だった。
「このような状況では、タクシーも呼べないでしょう」
「夜中過ぎから雨に変わるって言ってたのに……」
確かに今は雨が降っている。しかし、
「いや、夜中からいきなり積もり出したんだ」
「雪女が近くを通りましたよ。この家とその周辺は積もらすなと言ったんですが、けんもほろろでした。あまり強く言うと、連合会と里の方でトラブルになりますので……」
「とにかくユタ、どうしてもって言うならこれ履いて」
威吹はもう1足、藁製のブーツを出した。
「必要無くなったら、ボクがしまっておくから」
「あ、ああ……」
「普通の藁靴と違い、耐水性と防寒性にも優れていますよ」
「じゃあ、取りあえず駅までこれで行こう」
[同日 06:45. JRさいたま新都心駅 ユタ、威吹、カンジ]
「うわっ!」
けやき広場で、みぞれ交じりの暴風に襲われた。
ユタの持っていた傘が危うく壊れるところだった。
「やめろ、お前ら!」
カンジは、さいたまスーパーアリーナの屋根に足を組んで座る雪女3人を睨みつけた。
雪女3人は、こちらを見てクスクス笑っている。
白い着物だが、裾は短い。最近の流行りなのだろうか。
「先生、あいつらを黙らせてきます」
「いいから放っとけ。どうせもう雨に変わってるんじゃ、あいつらもすぐに立ち去らざるを得ん」
「それにもう駅に着いたしね」
「はあ……」
駅の運行状況によれば、もう周辺の鉄道路線はgdgdになっているのが分かった。
「京浜東北線は、大丈夫みたいだな。よし、これで行こう」
「うん」
「ハイ」
改札口に入る。コンコースでユタは藁製ブーツから、黒い革靴に履き替えた。
〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、6時47分発、各駅停車、大船行きです。次は、与野に止まります。この電車は、ただいま、約5分遅れとなっております〕
「こりゃ、相当だ」
ユタは辺り一面の雪景色に辟易した。
線路にも雪が積もっているが、除雪がきちんとされているおかげで、レールは見えている。枕木は見えない。
「生まれの仙台でも、山の方に行かないとこんなに積もらないんだけどなぁ……」
「ええ」
ユタと、ユタより年下の人間界で生まれ育ったカンジは同じ意見・感想だった。
「え?武州の北側ってこんなものだろ?」
地球温暖化前の時代に生きていた威吹は、さほど不思議に思わなかった。
小泉八雲の怪談に出てくる雪女の話は、東京都西部の話だという。
あれも相当な豪雪の描写があるが、今の都内では信じられない。
しかし、威吹は知っている。
「中野宿から西は、降れば尺単位で積もってたけどな……」
「尺?」
するとカンジがそっと耳打ちした。
「1尺、約30センチほどです」
「何それ?そんなの雪国じゃんかよ」
ユタがブルッたのは、けして寒さだけではなかった。
〔まもなく1番線に、各駅停車、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。……〕
〔「お待たせ致しました。1番線、遅れておりました京浜東北線、大船行き到着です。本日、雪のため、京浜東北線は全線で遅れが発生しております。……」〕
屋根はもちろん、フロント部分にも雪を付着させた電車が滑り込んできた。
「やれやれ、やっと暖が取れるな」
1番後ろの車両は空いていて、そこの座席に腰掛けた。
電車はユタ達を乗せると、発車メロディもそこそこに、すぐにドアを閉めて発車した。
〔次は与野、与野。お出口は、右側です。……〕
「あいつら!手ェ振りやがって!」
カンジは今度は駅舎の上で、手を振る雪女を見つけた。
「じゃあ、手ェ振り返したら?モテる男はツラいねー」
ユタは苦笑交じりに言った。
「そういうことじゃないんだよ、ユタ」
威吹は溜め息をついた。
「それに乗って手を振り返さないように」
と、注意を促してくる。
「何で?」
「それだけで盟約締結扱いとなり、憑依されるから」
「何それ?ワンクリック詐欺以上だな」
「妖はありとあらゆる手を使って、人間を獲物にしようとしているんだよ」
威吹はさらりと言った。
電車はみぞれ交じりの雨が降る中、東京都心へ向かう。
続く
(雪か……。傘持ってくれば良かったな……)
ユタは1日3本しかないバスに乗って、帰宅の途に就いていた。
〔「上落合8丁目です」〕
プシューとエアの音がして、前扉が開く。
「ありがとうございました」
「どうも」
ユタがバスを降りると、バス停に威吹がいた。
「あれ?」
「お迎えに参上つかまつり申した!」
「わざわざ?いいのに……」
袴姿の威吹。これで和傘を差していれば絵になるのだが、普通のビニール傘である。
「いいからいいから。物凄い雪になると予報が出てるからね」
「まあ、そうだけど……」
「ところで、その手に持ってる紙袋は何?」
「ああ。大学で、女子からもらったバレンタインチョコだよ」
ユタは苦笑を浮かべた。
「そんなに!?ユタ、景気いいな!」
「いや、これは……」
「あ、だけど、妖からの物は受け取らないでよ?後々面倒だから」
「人間の女も、面倒だよ?」
「妖に比べれば可愛いもんだ」
(その巫女に騙されて封印されて、なに言ってるんだか……)
ユタは心の中で突っ込んだ後で、
「そうじゃなくって……」
「?」
「これは全部、威吹とカンジ君宛てだよ」
「え?」
「前に威吹とカンジ君が大学に来た時、随分と騒がれたでしょ?うちの大学の女子、イケメン好きが多いから。挙句の果てに、『何で威吹君とカンジ君連れてこないの』って、怒られたよ」
「ご、ゴメン……」
「いやいや。だいたい、大雪が降るってのに、のこのこ行けるかってんだ」
「そういえば今日は、いつもより早いね?」
「落とせない単位のだけ出たよ。あとは自主休講だ。もしかしたら今後、雪の状況によっては大学から正式に臨時休講のお知らせがあるかもしれない」
「人間は大変だね」
[同日 18:00. ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]
「稲生さん、バレンタインの件、本当にご迷惑をお掛けしました」
「いや、いいんだよ。どうして人間を喰らう高等妖怪が美男美女なのか、理由が分かったよ」
「獲物を釣りやすいから、です」
「本当に申し訳ないことしたね」
威吹も改めて陳謝してきた。
「もういいよ。それよりカンジ君、今日はカレー?」
「ハイ。これなら保存もできますので、非常事態にも備えることができます」
「何だか、オーバーだな。だいたい、明日は支部登山だってのに……」
「連合会……雪女郎連合会に問い合わせたところ、東京圏内で30センチ近くの積雪を予定しているとのことです」
「は?」
「ここ最近、“誓願”が達成できていないとのことで、景気テコ入れで行うと……」
「何それ?そんな、顕正会よりハタ迷惑な誓願って?」
「山の方に、“獲物”となる男が来ないのでしょう」
「だからって、山から下りられてきても困るよ」
「まあまあ。ユタには指一本手出しさせないから」
「その通り。先方には既に根回ししてありますので、ご安心ください」
2人の妖狐は宥めるように言った。
因みに連合会結成前はそういった取り決めも無くて、もっと面倒だったとのこと。
[同日 21:00. 同場所ユタの部屋 稲生ユウタ]
「そうですか。班長は夜通し車で……」
{「そうなんだ。どうも、雪が降るみたいだからな。稲生君も、無理せず日曜日に振り替えてもいいぞ?」}
「いえ、取りあえず行ってみることにします」
{「無理しなくていいぞ」}
「明日、電車が全く動いていないようなら、取り止めることにしますよ」
{「それならまあいいけど……」}
「それより班長」
{「何だ?」}
「何か、威吹達が言ってたんですが、今回の大雪は雪女達がノルマ達成の為に暴れるのが原因らしいんですよ。僕には威吹達が護衛に当たってくれますが、班長も気をつけてください」
{「はははっ!大聖人様の信徒の命を狙うとは、いい度胸のバカ女がいるもんだ!信徒を狙うということは、イコール大聖人様の御命を害せんとするのと同じことだぞ?」}
「それが理解できる相手だといいんですけどねぇ……」
[2月15日 05:30.ユタの家 ユタ、威吹、カンジ]
朝起きたユタ。
「うわ……」
カーテンを開けて、外を見てみる。辺り一面、白銀の世界だった。
「こ、これは……。と、取りあえず、朝の勤行やろう……」
ユタの部屋から読経の声が聞こえた妖狐2人。
「カンジ。ユタのことだから、朝餉は途中で食うことになると思うぞ?」
「分かりました」
「それで、どうだ?ユタは、富士の寺に行けそうか?」
「近辺の運行状況ですが、まず東北、上越、山形、秋田、長野新幹線は全部運転を見合わせています。埼京線が大宮〜赤羽間が運転見合わせ。高崎線は全区間です。宇都宮線が大幅な遅れ。平常運転しているのは、京浜東北線だけということに……」
湘南新宿ラインは、既に論外のようだ。
[同日 06:15.ユタの家の前 ユタ、威吹、カンジ]
「ちょっ……ユタ、普通の靴じゃ無理だって!」
「先生の仰る通りです」
「だけど、長靴はみっともなくない?」
「そんなことないって」
「さすがにそれ以外の履物は、自殺行為に等しいかと」
「でもねぇ……」
ユタの家の前の公道。全く除雪がされておらず、しかもその積雪は概算で20センチ以上!
道が全く無かった。
妖狐2人は藁製のブーツを履いている。
さしものカンジも、着物を着用していた。
ユタがスーツを着用しているというのに、カンジだけラフな格好というわけには行かないとの判断だった。
「このような状況では、タクシーも呼べないでしょう」
「夜中過ぎから雨に変わるって言ってたのに……」
確かに今は雨が降っている。しかし、
「いや、夜中からいきなり積もり出したんだ」
「雪女が近くを通りましたよ。この家とその周辺は積もらすなと言ったんですが、けんもほろろでした。あまり強く言うと、連合会と里の方でトラブルになりますので……」
「とにかくユタ、どうしてもって言うならこれ履いて」
威吹はもう1足、藁製のブーツを出した。
「必要無くなったら、ボクがしまっておくから」
「あ、ああ……」
「普通の藁靴と違い、耐水性と防寒性にも優れていますよ」
「じゃあ、取りあえず駅までこれで行こう」
[同日 06:45. JRさいたま新都心駅 ユタ、威吹、カンジ]
「うわっ!」
けやき広場で、みぞれ交じりの暴風に襲われた。
ユタの持っていた傘が危うく壊れるところだった。
「やめろ、お前ら!」
カンジは、さいたまスーパーアリーナの屋根に足を組んで座る雪女3人を睨みつけた。
雪女3人は、こちらを見てクスクス笑っている。
白い着物だが、裾は短い。最近の流行りなのだろうか。
「先生、あいつらを黙らせてきます」
「いいから放っとけ。どうせもう雨に変わってるんじゃ、あいつらもすぐに立ち去らざるを得ん」
「それにもう駅に着いたしね」
「はあ……」
駅の運行状況によれば、もう周辺の鉄道路線はgdgdになっているのが分かった。
「京浜東北線は、大丈夫みたいだな。よし、これで行こう」
「うん」
「ハイ」
改札口に入る。コンコースでユタは藁製ブーツから、黒い革靴に履き替えた。
〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、6時47分発、各駅停車、大船行きです。次は、与野に止まります。この電車は、ただいま、約5分遅れとなっております〕
「こりゃ、相当だ」
ユタは辺り一面の雪景色に辟易した。
線路にも雪が積もっているが、除雪がきちんとされているおかげで、レールは見えている。枕木は見えない。
「生まれの仙台でも、山の方に行かないとこんなに積もらないんだけどなぁ……」
「ええ」
ユタと、ユタより年下の人間界で生まれ育ったカンジは同じ意見・感想だった。
「え?武州の北側ってこんなものだろ?」
地球温暖化前の時代に生きていた威吹は、さほど不思議に思わなかった。
小泉八雲の怪談に出てくる雪女の話は、東京都西部の話だという。
あれも相当な豪雪の描写があるが、今の都内では信じられない。
しかし、威吹は知っている。
「中野宿から西は、降れば尺単位で積もってたけどな……」
「尺?」
するとカンジがそっと耳打ちした。
「1尺、約30センチほどです」
「何それ?そんなの雪国じゃんかよ」
ユタがブルッたのは、けして寒さだけではなかった。
〔まもなく1番線に、各駅停車、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。……〕
〔「お待たせ致しました。1番線、遅れておりました京浜東北線、大船行き到着です。本日、雪のため、京浜東北線は全線で遅れが発生しております。……」〕
屋根はもちろん、フロント部分にも雪を付着させた電車が滑り込んできた。
「やれやれ、やっと暖が取れるな」
1番後ろの車両は空いていて、そこの座席に腰掛けた。
電車はユタ達を乗せると、発車メロディもそこそこに、すぐにドアを閉めて発車した。
〔次は与野、与野。お出口は、右側です。……〕
「あいつら!手ェ振りやがって!」
カンジは今度は駅舎の上で、手を振る雪女を見つけた。
「じゃあ、手ェ振り返したら?モテる男はツラいねー」
ユタは苦笑交じりに言った。
「そういうことじゃないんだよ、ユタ」
威吹は溜め息をついた。
「それに乗って手を振り返さないように」
と、注意を促してくる。
「何で?」
「それだけで盟約締結扱いとなり、憑依されるから」
「何それ?ワンクリック詐欺以上だな」
「妖はありとあらゆる手を使って、人間を獲物にしようとしているんだよ」
威吹はさらりと言った。
電車はみぞれ交じりの雨が降る中、東京都心へ向かう。
続く
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