報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「双子の危機」 1

2014-02-23 20:50:46 | 日記
[7年前のとある冬 宮城県仙台市泉区 南里ロボット研究所 南里志郎&平賀太一]

「何ですって?今、何と……?」
 平賀は驚愕の顔を浮かべた。
「ボーカロイド・プロジェクト第2弾、コードネーム“鏡音”計画の変更をする」
「で、ですが、財団では既に鏡音リン一本で行うと……」
「平賀君。私は財団の何じゃ?」
「立ち上げメンバーの主任理事ですが……」
「そのワシが、計画変更じゃと言っておるのじゃがね?」
「わ、分かりました。すぐに理事長に連絡します。……せめて、計画変更の理由を教えて頂けませんか?」
「はっきり言って、鏡音リン1機だけでは、初音ミクの二番煎じ感が拭えぬからじゃ」
「では、どういう計画で……?」
「同じもの……同スペックの個体をもう1機製造する」
「ええっ!?よ、予算は……?」
「このプロジェクトへの協賛を表明してくれておる企業に持ち込めば良かろう。初音ミクへの協賛を表明しておる大日本電機はどうじゃ?確か、鏡音リンについても、関心を示しておったようじゃが……」
「それも確認しませんと……」
「そこは財団に任せれば良かろう」
「すぐに本部に連絡してきます」
「すまんが、頼む」

[現在の3月13日12時50分 財団仙台支部事務所 総務部事務室 敷島孝夫]

〔「すまんが、頼む」〕
 敷島は南里研究所の記録映像の編集をしていた。
 この映像を撮影していたのはエミリー。エミリーは自分の目(カメラ)で見たものを録画し、メモリーに保存していた。
(そういえば、ここのボーカロイド達がどういった経緯で製造されたのかまでは、俺もよく知らなかったな……)
 超A級の極秘事項だからだろう。
 南里研究所では所詮、敷島など協賛企業からの出向者に過ぎなかったのだ。
 そしてここでは、いくら役付きとはいえ、一介の事務職員に過ぎない。

[今度は6年前の冬 南里研究所 南里、平賀、鏡音リン]

「ふう……。ついに完成じゃ」
「1年で、よくできましたねぇ……。さすが先生です」
「ふふふ……。わしに師事したこと、とくと喜びたまえ。キミはまたロボット研究の歴史における証人になるのじゃからな」
「はい」
「とはいえ、キミも七海の相手があるじゃろう。初音ミクは今度来る出向者に任せておいて、こやつらの相手は赤月君に任せようと思うのじゃが……」
「ええ。ナツなら、そつ無くやるでしょう」
「もうここには呼んでいるのかね?」
「ええ。もう、そろそろ到着するんじゃないかと思うんですが……」
 すると、研究室に飛び込んでくる者がいた。
「鏡音リン!勝手に・入るな!」
 後からエミリーが険しい顔をして、追い掛けてくる。
「ねえねえ、博士!もうできたの!?」
「ああ。たった今、完成したところじゃ」
 リンは新しくできた片割れの顔を覗き込んだ。
「リンにそっくり!」
「お前とは“双子の弟”というコンセプトで製作した。プロパティもそのようにしてあるから、初音ミクと違い、“楽しみ”や“喜び”もひとしおじゃろうて……」
 リンはレンの手を取った。
「ねえ、博士!リンの弟なら、一緒に連れて歩いても問題無いよね?」
「まあ、待ちたまえ。まずは赤月君に引き合わせんとな」
「えー!リンが後回し!?」
 リンはふくれっ面になった。
「そう言うな。これからお前達の管理は、赤月君にしてもらうことにした。管理者としての立場を明確にする為でもある。よく理解したまえ」
「ふえっ、あの鬼軍曹?」
 平賀もニヤッと笑った。
「まあまあ。それなりに厳しいヤツだけども、それはこのプロジェクトを成功させたいという意気込みの表れでもあるんだから、察してやれよ」
「リンはいいけど、できたばかりのレンをいきなり鬼軍曹に会わせるのも可哀想だYo」
「あ……」
 平賀とエミリーは後ずさりした。
 そこにいたのは……。
「ん?どうしたの?平賀博士?」
「自分、あとは知らないよォ……」
「なに?なに?」
 ガシッとリンは誰かに襟首を掴まれた。
「うああっ!?」
「誰が鬼軍曹よ!ちょっとこっちに来なさい!!」
「うあぁあっ!」
 リンは赤月にズルズルと引きずられて行った。
「相変わらずだな、ナツとリンは……」
「少なくとも退屈はせんと思うぞ」
「ええ」
「鏡音レン、どうかね?“双子の姉”と会った感想は?」
「良かったです」
「何が?」
「リン……笑ってくれて」
「んふふふ……そうかね」

[再び現在の財団事務所 15:00. 敷島孝夫&アリス・フォレスト]

「シキシマ!財団がアタシのラボ(研究所)、決めてくれたってよ」
「おっ、そうか。良かったな」
「4月1日から使っていいって」
「ちょうどいい期間だな。で、どこだって?」
「南里研究所」
「ちょっと待った!あそこって今……」
「プロフェッサー平賀が所有権を放棄して売りに出したけど、立地条件が悪くて買い手が付かず、しょうがなく財団が買い叩いて所有だけしている廃墟同然のラボでしょ?格安で貸してくれるってさ」
「良かったな。で、どうすんの?」
「内見自由だって。画像でもあればいいんだけど、やっぱ直接見た方がいいからね」
(動画なら今、俺のPCにあるんだが……)
「じゃあ、見てくるのか」
「シキシマ、ヒマ?そこで働いてたんでしょ?エミリーも連れて、教えてよ?」
「ああ、いいよ」
「じゃあ、ちょっと準備してくるね」
 アリスが事務室を出て行った時だった。
「参事、電話です。ヒビヤ総研さんから」
「あいよ。……もしもし、お電話変わりました。敷島です。……あ、はい。……ええ」

[同日15:30.総務部事務室 敷島孝夫&アリス・フォレスト]

「お待たせー」
「……分かりました。では、それにつきましては、また後日……日を改めてということで。……はい。……じゃ、失礼します」
 敷島はいつになく険しい顔で電話を切った。
 そして、アリスの方を向き、パンと手を叩いて合わせる。
「What?」
「すまん、アリス。急展開の事態が発生してしまった。俺は内見に同行できそうにない」
「Oh!Why!?……何かあったの?」
「リンとレンをレンタルしていたヒビヤ総研さんなんだが、赤字が嵩んで維持できなくなったんで、今月末で解散するそうだ」
「そうなの!」
「取り急ぎその手続きと、リンとレンを再び財団直接管理にしなきゃいけなくなった。また新たな預け先を探さないと行けなくなったからな」
「アタシの新しいラボで預かろうか?」
「いや、リンとレンには元々別の所からオファーはあったんだ。改めてそこに話を持って行くことにするよ。だから、申し訳無い」
「シキシマの仕事だからしょうがないね。ただ、エミリーは連れて行くよ?」
「ああ、そうしてくれ。どうせ俺も残業決定だ」
「リンとレンの新しいレンタル先って?どこかのラボ?」
「研究所からも確かに話はあるんだけど、今度は研究機関じゃなく、もっと別の所にしたい」
「ふーん……」
                       続く
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冨士参詣臨時便

2014-02-23 19:44:26 | 日記
京浜東北線 24日始発から運転再開目指す(NHKニュース&スポーツ) - goo ニュース

 今朝、仮眠から起きてみたら、こんなニュースが流れていてびっくりした。
 最初、終電車が賑わう乗客を乗せてやらかしたのかと思った。
 JR東日本にも股尾前科がいたかと思ったが、どうやら事故の原因からして、運転士ではなく、保線作業員の方が股尾だったらしい。
 その事故ったE233系が製造どのくらいかは知らないが、恐らく転覆した前2両は廃車になると思われる。

 さあ、1台だけ8両編成京浜東北線の登場だ!朝ラッシュはメチャ混みだぜ!

 ……というのは冗談で、廃車にした2両は新たに製造して連結するだろう。
 昔は事故でできた変わり種電車というのもあったのだが、今はあまり見かけないね。
 東海道本線で走っていた、モハ80系(初代の湘南電車)。
 後期はフロントガラス2枚窓で一世を風靡した形式であるが、田子の浦付近で踏切事故を起こした個体だけが3枚窓になっていた不思議。
 せっかくだからこの事故った車両も、フロント部分に貫通扉を設けてみたら?
「平成・京浜東北線版、事故でできた変わり種電車」
 なんて。

 ところで最近のJR東日本の電車って、運転室がだいぶ広くなったことにお気づきだろうか?
 おかげで運転室すぐ後ろの座席が少なくなり(従来は7人掛けだったのに、今は4人掛け)、車椅子スペースの設置も相まって、更にクハ車の座席定員が少なくなったことに苦言を呈する者もいる。
 その理由は踏切事故などで運転室が潰れた時に、運転士が挟まれて死亡しない為の対策なのだという。
 千葉県でまだスカ色の113系が走っていた頃、実際にそのような事故があってからだという。
 ただ、今回の場合のように、電車が横転した場合は効果があるのかどうかは【お察しください】。

 ここ最近、鉄道でも事故が多いね。
 私の目線が鉄道からバスにシフトしつつあるのも、実は御仏智なのではないかと考えたりもする。
 久しぶりに来月の帰省に夜行バスを利用する理由は、偏に経費節減の為であるが、裏の理由は趣味の1つでもあったりする。

 今回の事故の原因は作業員のミスということがはっきりしているそうなので、明日からの復旧を急いでもらいたいものである。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「雪中行軍」 5

2014-02-23 15:14:37 | 日記
[同日13:15. 大石寺・奉安堂 稲生ユウタ&栗原江蓮]

「麺類とコーヒーしか無いなんてねぇ……」
 昼食を終えた後、御開扉に参加するため、奉安堂へ向かったユタとエレン。
 辛うじて人が通れるスペースの所だけ除雪がされており、信徒達はそこを通って門を潜った。
 しかしそこから真っ直ぐは進めず、雨天の時と同じように、屋根付きの外回廊を通って向かうよう、担当僧侶が誘導していた。
「行く時のタクシーも結構ギリギリだったから、トラックもなかなか来れないのか……」
「ま、そういうことになるね。稲生さん達も、帰り大変だね」
「え?」
「バスが全部ストップじゃねぇ……」
 エレンはニヤついていた。
「せっかく帰りは“やきそばエクスプレス”を予約したのに……。後でもう一回、バス会社に電話してみよう」
「……なんて会話、顕正会員や学会員には絶対できないね」
 いたずらっぽく笑う。
「はははっ、そうだな」
 ユタも大きく頷いた。
「ところで、今日の布教講演……」
 ユタが話題を変える。
「うん。ちょっと大講堂寒かったね」
「じゃなくってさ……。話の中に、『昭和49年に今の顕正会、当時は妙信講と名乗っておりましたが、それが退転し、昭和55年には正信会が退転し、平成3年には池田創価学会が退転して行きました』ってあったじゃない?」
「今度はどこが退転するのかな?」
「多分、そろそろあの【バキューン!】……じゃなくって!……この3つの団体は破門されたのに、『退転』って言うんだって思ったの」
「そうか?」
「うん。いや、僕は退転って、『自分から信心を辞める』ことだと思ってたんだ。だけどその3つの団体は、自分から辞めたわけじゃないじゃない?」
「学会は一部、『破門されたのではない!こっちから出て行ってやったんだ!』って言ってるらしいぞ?」
「それは置いといてさ」
「後で藤谷さんにでも聞けばいいさ。まあ、あたし的には、『破門されるようなことを自ら率先して行った』んだから、やっぱり『自分から辞める』ことの遠回しだと思うよ?」
「なるほど……。そういう見方もできるんだねぇ……」
 ユタは納得したように頷いた。
 その時、
「あっ、電話」
 エレンの携帯が鳴った。
「堂内に入る前に、電源まで切らないとダメだよ?」
「分かってる。……はい、もしもし」
 でも出るようだ。まあ、まだ中に入っているわけではないが。
「……何だ、キノか。で、なに?もうすぐ御開扉だから……あ?」
{「ユタとイチャイチャしてんじゃねぇ!」}
「してねーよ!信心の話してただけだっつーの!ああっ!?」
(怖っ!……このカップル、怖っ!てか……)
 ユタは周りを見渡した。
「妖気も感じないのに、どこで監視してるんだ???」
 すぐ後ろには……。
「特盛、ちゃんとケータイの電源切った?」
「うん」
「電池パックまで取ることないから!フツーに電源切ればいいの!内拝券ある?」
「うん」
「前回の内拝券なんか無効だろ!てか、いちいち持って来るんじゃねーよ!」
「ご、ゴメ〜ン……」
(顕正会もそうだけど、法華講の女性も強いなぁ……。あ、いや……栗原さんはともかく、後ろのあの人達は僕と同じ元顕正会だったか……)
 ユタはそう思って、自分の内拝券の半券をちぎった。
「あら?エレンちゃん、今日は木刀持ってきてないのね?」
 内拝券を回収している任務者で、エレンと顔見知りの中年女性が話し掛けて来た。
「いちいち持ってこれないっスよ。まあ、車ん中にあるけど」
「持ってきてはいたんかい!」
 ユタが苦笑いする。
 すぐ後ろにいた特盛クンとエリちゃんは……。
「凄いね〜。あの女子高生、木刀持ってるんだって」
 特盛クンは目を丸くした。
「ふん、まだ女子高生は青いね。特盛、あたしが何を持ち込んでるか知ってるよね?」
「う、うん……。(バールと鉄パイプ……)」
 あの事故で警察が来た時でも、単なる工具で押し通したエリちゃんだった。

[同日13時30分 大石寺・新町駐車場付近 威吹、カンジ、キノ]

「エレンのヤツ、まさか後でユタと浮気するんじゃねーだろうな……」
 キノは電話が繋がらなくなったエレンの身を案じていた。
「ユタはそういうヤツじゃないし。てか、お前も自分の女を信じろよ。栗原殿が辟易して、それこそお前に愛想尽かすかもしれんぞ?」
 近くの店から出してもらったお茶をズズズと啜りながら、威吹は淡白に言った。
「愛想尽かされる前に、そもそも裏切られて封印されたヤツに言われたかねーな」
「ブッ!」
「おい!先生に何てこと言うんだ!」
 カンジが抗議する。
「何だよ?本当のこと言ってやっただけだろ?文句あんのか?」
「このっ……!」
「分かった分かった。オレはもう何も言わん。カンジ、引っ込んでろ」
「ハイ」
 そこへ駐車場に、1台の黒塗り高級セダンが止まった。
 降りて来たのは、鬼門の左と右。大柄な体つきだが、2人とも上手く人間に化けており、一見して鬼だとは分からない。
 黒スーツに黒いネクタイ、サングラス着用といういかつい恰好も手伝って、そもそもこの2人を直視しようとする人間はなかなかいない。
「ただいま戻りました」
 左の者がキノに恭しく挨拶した。
「で、どうだった?」
「雪女郎連合会にあっては、今回の件で、人間界に対し、報復行動を取ることはしないそうです」
「よし」
「あくまでも、今回の件につきましては、一部の暴走した人間の所業によるものとし、既にその個人に対しての報復は完了しているとのことで……」
「ああ。そうだな」
「また日を改めて、関係各位に御礼述べに上がりたいと……」
「女嫌いの藤谷にとっちゃ、いいメーワクだろうがな」
 キノはニヤッと笑った。
「藤谷氏を“獲物”として選んだかね?」
 威吹は首を傾げながら、団子を頬張った。
「どうでしょう?しかし、藤谷氏はどう見積もっても、C級程度の霊力しかありませんが……」
 カンジは首を傾げた。
「オーラもC〜B級ってとこだな。だけど、お前らもそうだろうが、連合会の連中も“獲物”不足に悩んでるらしいぞ?」
「そうなのか」
 無関心な威吹に対し、カンジが食いついた。
「そもそも、あの時期に連合会結成なんておかしいとは思ってたんだ。表向き、同族内の秩序維持の、実情は少ない“獲物”の融通化か?」
「多分な。まあ、地獄界を押さえてるオレら鬼族にとっちゃ、こっちの利権維持の方が重要だけどよ」
「しかし、八寒地獄があるだろう?確か、そこの管理を雪女郎連合会に委託したと聞いたが?」
「管理権を丸々ブン投げたってことで、想像つかねーのか?優等生クンよ?」
「……“赤字”か」
「そう。そこまで行く亡者が少なくてローカル線みたいになっちまったんで、ちょうどヒマしてた雪女達を使ってやったんだ。それでも焼け石に水ってヤツだな」
「ふーむ……」
「カンジ、お茶のお代わり頼む」
「あ、ハイ」

[同日14:50.大石寺第2ターミナル ユタ、威吹、カンジ]

{「申し訳ありません。本日、雪の為、全便運休とさせて頂いております」}
「ええっ!?」
 バス停にあるバス会社の連絡先に電話し、運行状況を確認した。すると、往路の登山バス同様、下山バスも全便運休とのこと。
「それじゃ、富士宮から東京へ行くバスは……」
{「それも東名高速が通行止めになっている影響で、全便運休です」}
「うわっ!」
 ユタ達が乗るはずのバスも運休していた。
 電話を切るユタ。
「芳しくないようだね?」
 威吹は髪と同じ銀色の眉を潜めた。
「うーん……。本当に大変な雪だったんだなぁ……」
「半分ほど陸の孤島と化してしまいましたか……」
 カンジは腕組みをした。
「しょうがない。費用が嵩むけど、またタクシーと新幹線か……」
「新幹線は動いているようですからね」
「うん」
 ユタはタクシー会社に電話した。
「って、あれ?ユタ、確かもう1度この寺の勤行に参加してたよね?」
 威吹が聞いて来た。
「ああ。六壺の勤行ね。参加したいんだけど、ちょっとこの状況では、早めに帰った方がいいと思って」
 カンジはユタの言葉に同調した。
「オレも稲生さんの意見に賛成です。如何に連合会として報復行動に出ないことを表明しているとはいえ、一部の『はぐれ雪』が何かしでかす恐れがあります」
「『はぐれ雪』?」
「連合会に加入していない、もしくは加入していても、あくまで表向きで、その方針に面従すらしていない雪女のことです」
「……何だか、妙信講みたい」
 ユタは小さく笑った。
「しかしタクシーは予約できたようですが、この道路状況では、少し厳しいのでは?」
「そうなんだ。15分くらい掛かるって」
「それでも15分で済むのですね」
「うん」

[同日15:10.大石寺第2ターミナル ユタ、威吹、カンジ]

「すいません、どこまで乗ります?新富士駅?一緒に乗りませんか?……ありがとうございます」
 バスが全便運休した法華講員達は、それぞれタクシーに分乗して帰っていた。
 まるでそれが当たり前かのようにスムーズだ。
 正に、法華講式タクシー乗車法。
「もうそろそろですかね?」
 カンジは着物の懐に手を入れ、懐中時計を出した。
「多分ね……」
 と、その時、1台のベンツGクラスが入ってきた。
「あれは、藤谷班長が乗って来た車?」
「おい、お前ら!」
 ユタ達の前で急停車する。何故か怒っているようだが?
「駅まで送ってくれるのか?」
 威吹はしれっとした態度だった。
「それどころじゃねぇ!これを見ろ!」
 左ハンドルなので、助手席は右側にある。
 ユタ達は首を傾げて、藤谷が開けた助手席のドアから車の中を覗いた。
 何だろう?無数の手垢でも付いていたのだろうか?それは幽霊を乗せた場合の話ではなかったか。
「あ、先生。タクシー来ました」
 と、カンジ。
「ありゃ?中型だ……」
 屋根に行燈の無い、黒塗りの中型車だった。いかにも高級そうだが、それでも初乗り料金は首都圏より安いし、車種がそこで当たり前に走っているタイプだった。
「稲生様ですか?」
「あ、はい」
 車の中を確認した3人のうち、ユタだけは意味が分からなかったが、威吹とカンジは意味が分かったようで、師弟でニヤけた顔をした。
「ユタ、行こう」
「あ、ああ」
 3人はタクシーのリア・シートに乗り込んだ。
「おい、こら待て!この状況、説明しろ!」
「無事に帰れたら説明してやるよ!取りあえず、お疲れさん!」
 威吹は大きく手を振った。
「御愁傷様……あ、いや、色々と大変でしょうが、頑張ってください」
「新富士駅までお願いします」
「はい」

 タクシーは無事に第2ターミナルを出発した。
 途中にある交差点の角に立つのは、凍り付いたケンショーレンジャー。
 それぞれがたすきを掛けており、『交通安全』とか『凍結注意』とか、ドライバーに無言で注意を呼び掛けている。
 何故かグリーンだけ、『チカンに注意』だった。
「ユタ、見たかい?さっきの……」
「ああ。あの、女嫌いの班長にも彼女ができたんだな」
「いや、違いますよ。まだ」
 カンジが意味深に言った。
「まだ?」
「これから、ですよ。で、あのサインは、かなりガチです」
「そうなのか……。でも、どうして?どうして、助手席のシートの上に女性のパンティーが?」
「雪女もやるようになったんだな?」
「そりゃ先生の時代にパンティは無いですから。せいぜい、腰巻とかくらいですかね?」
「あー、聞いたことあるかも……」
「だから、何なの?」
「簡単に言ってしまうと、雪女から藤谷氏に対してのラブコールですよ」
 ポーカーフェイスのカンジが、久しぶりに目まで笑みを浮かべた。
「ええっ!?」
「鬼族の女も似たようなことするんだっけ?」
「多分、キノの一族とは違うでしょう。主に、『人間の男の精を求める者』のすることですからね」
「それ、妖狐もする?」
「一部の者はしていますね。ただ、いかんせん“獲物”候補自体が少ないので……」
「ユタだったら、女達の下着で部屋が一杯になっちゃうよ」
 威吹はニヤついた。
「まさか、男もするなんてことは……?」
「しないしない。ボクがキミを“獲物”にしたがった時、どうした?」
「ああ、そうか」
 男の場合は相手に金を積むようである。
 キノもそうしたのだろうか?種族は違うが……。

「おっ、何か午前中より天気が良くなったな」
 ずっと道を下り、国道139号線を南下していると、冬の太陽が車内に差し込んできた。
 威吹の銀髪とカンジの金髪が、きれいに反射している。
「しばらくの間、晴れの日が続くようですよ」
 運転手が答えた。
「そうか。これで雪が解けるといいねぇ……」
 ユタはしみじみと言った。
「稲生さん、この調子で行けば名古屋始発の“こだま”660号に乗れます」
「そうか。名古屋始発なら空いてるかな?」
「恐らくは……。あとこの交通状況ですから、そもそも外出を控えている者多数ということも勘案しますと……」
「そうだね。でも……」
 ユタは溜め息をついた。
「東京に着いてからが、また苦行なんだ」
 ユタが手にしているスマートフォン。
 その交通情報アプリには、首都圏の鉄道がgdgdになっていることを示していた。
「末法の世の中においては、苦行なんて無意味なんだけどねぇ……」
「仏道修行に関係無いんじゃないの、それ?」

 こうして、ユタの記憶に残る支部登山は終了した。

「これで、グリーンの封印だけは解けそうだな」
 雪女の残した下着のやり場に困った藤谷は、その後その下着をどうしたかは【お察しください】。
                                                            「雪中行軍」 終

 一部、誤字と時系列並びに表現方法を修正しました。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「雪中行軍」 4

2014-02-23 00:03:38 | 日記
[同日11:20. 大石寺・大講堂 稲生ユウタ&栗原江蓮]

「皆さん、本日は足元が悪い中の御登山、誠に御苦労さまです。私、ただいま御紹介に預かりました……」
 壇上では僧侶が布教講演を行っていた。
(結局、班長は来なかったなぁ……)
「……今日は1000名ほどの御登山者が予定されていたようですが、あいにくとこの状況で御登山を控えざるを得なかった方もおられると思いますが……」
(1000!?……いやー……)
 ユタは周りを見渡したが、10分の1にも満たない有様だった。
(班長、御開扉すら間に合わなかったりして……)
(正証寺の除雪、自分だけ楽してた罰だな)
 ユタと江蓮は好き勝手なことを考えていた。

[同日同時刻 大石寺・新町駐車場 威吹、カンジ、キノ、鬼門の左と右]

「なぁ、さっきの話、本当かなぁ……?」
 威吹が首を傾げた。
「わざわざオレ達の前にノコノコ現れるくらいですから、本当かもしれませんよ」
 カンジは曖昧に答えた。
 実はここに1人の雪女が現れ、大石寺から東方の国道上で異変が起きていることを知らせに来たのだ。
「さっきの女、袴はいてただろ?連合会じゃ、それなりの地位のヤツしかはけないそうだ」
 キノが言った。
「オレ達みたいなものか」
「そうですね。そこそこの地位の者が変な冗談を言ってくるとは思えないので、警戒した方が良いでしょう」
 カンジも同調した。
「おい、お前ら。いつでも離脱する準備しとけ」
 キノは鬼門の2人に命令した。
「キノ、お前だけ逃げる気か?」
 威吹は意外そうな顔をした。
「バーカ。誰かを守りながらの戦いは、地味にやりにくいっての、オメーも知ってるだろうが」
 キノは裏門の方を見た。その先に大講堂があることは、威吹は知っていた。
「なるほど。たまにはいいこと言うな」
「『たまには』は余計だっつーの!」
「先生、オレが様子を見てきましょうか?」
「そうだなぁ……」
「せっかくだから、鉄砲玉になってもらったらどうだ?」
 キノはニヤけた顔をした。
「うるさいな。カンジ、異変を確認するだけだ。確認したら、すぐ戻ってこいよ?」
「分かりました」
 カンジは第0形態(人間に化けた姿)から一気に第2形態(銀髪になり、頭に狐耳が生える)に変化すると、
「行ってきます」
 消えるかのように、この場を去った。
「大丈夫だろうか?」
「どうだかなぁ……」
 威吹の言葉に、肩を竦めるキノだった。

[同日11:45. 静岡県富士宮市 国道469号上 藤谷春人&雪奈]

「あれ?おかしいな……。どこで間違えたんだろう???」
 藤谷は何度も首を傾げた。
 助手席にはジト目で見つめる、麗しい雪女がいる。
「俺の作戦だと、崖に挟まれた掘割に差し掛かるから、そこをアンタの妖術で一気に雪崩を起こし、奴らの動きを封じるはずだったんだが、何か……その……いつの間にか新道ができて、掘割通らなくなってるし」
(この役立たずが!)
 雪奈は喉元まで出掛かった抗議の言葉を飲み込んだ。
「って!こりゃいかん!」
「何よ?」
「もうすぐで三門が見えてきちまう!奴らを境内に入れることは阻止しないと!」
「あのね!」

[同日11:50. 静岡県富士宮市上条 国道469号上 特盛クン&エリちゃん]

「エリちゃん、もうすぐだよぉ……」
 特盛君は疲れた様子でハンドルを握り、三門横にある交差点に止まった。
「全く!雪で通行止めの上、あちこち滑って立ち往生なんてサイアクだわ!」
「でも、こうして無事に辿り着いたんだからさぁ。功徳が止まらなーい」
「布教講演はバックレ決定だわ」
「まあ、しょうがないよ。御開扉だけでも、間に合いそうだしぃ……」
「って言ってる間に、信号変わったし」
「あいよ」
 ズリュリュリュリュ!
「……あ、あれ?車が動かなーい」
「『動かなーい』じゃねーよ!スタックしてんだよ!だからさっき、チェーン巻けっつっただろ!ああっ!?」
「怒らないでぇ、エリちゃ~ん。今、チェーン巻くから待っててぇ……」
「あー、もう!アンタ1人にやらせてると、御開扉終わっちゃうよ!あたしも手伝うからさ!ほら、早く車降りて!ちゃんとハザード点けてね!」
 特盛君とエリちゃんが車を降りた時だった。
「うわっ!?」

 ズドーン!!

「きゃっ!?」
 突然後ろから、軽トラが突っ込んで来た。
「あ~れ~!」
 荷台に乗っていたレッド、グリーン、イエローの戦闘スーツを着ていた3人は荷台から振り落とされ、3人仲良く頭から車道脇の雪山に突っ込んだ。
「うあっ!?ケンショーレンジャーだぁっ?!」
 特盛君は飛び上がらんばかりに驚き、
「テメーら!あたしの新車に何てことすんだよ、ああっ!?」
 エリちゃんは右手で拳を握って、キャブにいるブルーとホワイトに抗議した。
「え、エリちゅわ~ん……そのジムニー、僕が買ったんだけどォ……?」
「ああっ!?このクサレマ○コ!こんなとこに止まってんのが悪いんだろっ!ああっ!?」
 ブルーが降りて来て、エリちゃんに言い返す。
 と、そこへジムニーの2倍以上の大きさはあるベンツGクラスがやってきた。
「おおっ!?あなた達は確か、塔中坊の御信徒さん!ご協力ありがとうございます!」
 藤谷は車から飛び降りると、特盛君達に礼を言った。
「協力した覚えは無いんですけどね。一体、何なんですか、こいつら?」
 エリちゃんは両手を腰に当てて、藤谷に詰問した。
「え、エリちゃ~ん、信徒同士でケンカはダメだよォ。『門内摂受、門外折伏』……」
「うっせーんだよっ!だいたい……」
 藤谷は腰を低くした。
「話せば長くなるんです。後でゆっくり説明しますから、まずは取り急ぎ、ケンショーレンジャーを退治……いや、何でもないです」
 藤谷が言葉を打ち切ったのは……。
「よくも大事な友達を……辱めて……!!」
 既に雪奈がレンジャー全員を氷漬けにしていたからだ。
「キミの仲間は無事かい!?」
「何ですか~?」
 藤谷と特盛君は軽トラの荷台を見た。
 そこには着物を引き裂かれ、上半身が露わになった若い雪女の姿があった。
「変態ども!離れろッ!」
 エリちゃんが慌てて2人を引き離す。
「ちょっと待て!確か、車の中に……」
 藤谷は自分の車に戻ると、毛布を持ってきた。
「これを使え!」
 直接は渡せないので、エリちゃんに渡す。
「大丈夫?怪我は無い?」
 エリちゃんは毛布を羽織らせた。

[同日11:50. 大講堂→裏門 稲生ユウタ&栗原江蓮]

「結局バックレやがったな、藤谷さん……」
 エントランスで靴を履きながら、江蓮は言った。
「まあ、この雪じゃね……」
「空はもうこんなに晴れてるのに……」
「現実は難しんだよ、きっと。とにかく、威吹達と合流してお昼食べよう」
「あ、そうか。記念登山とかじゃないと弁当出ないんだっけ」
「そうだね」
 そんなことを話しながら裏門へ向かうと、
「おーう!2人とも!」
 藤谷が大きく手を振って走って来た。
「藤谷班長、ご無事で何より!」
「藤谷さん、遅いよ。もう御開扉終わったよw」
「え!?」
 しかし、江蓮はすぐにニヤけた顔をした。
「なーんてな!終わったのは、布教講演だよ」
「何だ……」
「妖怪の抗争に巻き込まれたってのは?」
「話せば長くなる。後で話すよ。取り急ぎ、俺は整理券を内拝券に換えてくる」
「僕達、先にお昼食べてますよ?」
「そうしてくれ」
 藤谷は正証寺が休憩所として使用している坊へ走って行った。
「本当に藤谷さん、無事だったねぇ……。まあ、殺しても死なない感じだもんね」
「栗原さん、それはちょっと言い過ぎだよ。威吹達に言わせれば、班長の霊力はC級だけど、絶対に侮れない何かがあるって話だね」
「確かに……」
                続く
コメント (1)
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