[10年前のある日 日本国内某所 アリス・フォレスト、ウィリアム・フォレスト、シンディ]
(なお、上記3人が話しているのは英語ですが、ここでは勝手に和訳しております。当作品は、分かりやすい表現に努めております)
(ここではアリスによる一人称です)
「ただいまぁ!」
私は留学している学校から帰った。
「お帰りなさい」
学校からアジトに戻ると、シンディが出迎えてくれた。
「あー、アリスや。こっちへ」
「お祖父ちゃん?」
「実はの、大事な話があるんじゃ」
「なーに?」
「何を隠そう、“追跡者”がどうやらここを突き止めつつあるようなのじゃ」
「またぁ?」
「じゃから、急いでここを引っ越さねばならん。まるでジプシーのような流浪で申し訳ないが、今しばらく我慢してくれ」
“追跡者”とはCIAとか、要はじー様やシンディを捕まえようとしている当局のことだ。
じー様は私に対しては、ただ単に“追跡者”という得体の知れない存在だけを教えていた。
「でもドクター。アリスったら、しっかりと学校のテストはほとんど満点だったのよ。お勉強はよく頑張ってるわ」
「当然じゃ。そうでないと困る。アリスは、ワシの後継者なのじゃからな」
「ドクター。バージョン2.0はどうするの?」
「あの失敗作、連れて行くわけにはいかん。研究データは取れたので、それだけを持ち出せばよろしい」
「じゃあ、廃棄処分ね」
「ここに捨てて行くと、わしらの次なる場所がバレる恐れがある」
その理由は私にも分からない。多分、バージョン2.0に搭載したGPS絡みだろう。
「じゃから、全国に散らして“追跡者”どもの目を誤魔化さなくてはならん」
「そうね」
「アリスは自分の荷物をまとめなさい。必要最低限のものにしておくのじゃぞ?」
「はーい」
「シンディは失敗作どもの処分を手伝え」
「OK.でもその前に、ゴミを片付けてからね」
シンディを片目を瞑った。
「ゴミ出しなら、アタシが……」
「ああ、いいのよ。アリスはドクターの仰る通りにして」
「え?」
「ちょっと……生ゴミは生ゴミでも、特殊な生ゴミだから」
シンディの目が一瞬ボウッと光った気がした。
私はそれでシンディがつい今しがた“追跡者”達を倒したんだと気付いた。
その頃からシンディは、“追跡者”を殺す役目をしていたらしい。もちろんそれは私には見せないし、それをしていることも言わなかった。
「…………」
自分の荷物をまとめ終わった私は、打ち捨てられているバージョン2.0を見た。いずれじー様は、私にも研究・開発に参加してもらいたいことを言っていた。子供ながらに、それが私が引き取られた理由だと気づいていた私は、それが私の役目なのだろうと思っていた。
でも今は一切触らせてくれなかった。じー様が整備している所とかは見たことがある。
私は部屋から工具箱を持ってくると、捨てられている2.0の頭部を開けた。
まだ新しい人工知能が搭載されたままだ。じー様はこれを捨てて行くというのか。不経済だと思ったが、“追跡者”を振り切る為には致し方無かったのだろう。
私はじー様の見よう見まねで、2.0の人工知能を弄った。その数、4体。
そうだ。どうせ捨てるんだ。この無機質なロボットにも、せめて最期には何か華やかに飾ってあげよう。
しかし、私はデザインセンスは無かったようだ。
4体のテロ用ロボット、1体ずつにペイントしたのはトランプの絵柄。つまり、スペード、ダイヤ、クラブ(クローバー)、ハートである。
後頭部に描いてあげた。最後にハートまで描き上げたところで、
「こりゃっ!アリス!何をしておる!!」
じー様にこっぴどく怒られた。すぐにこの落書きを消すように言われたが、
「ドクター!大変よ!警官隊がこっちに来る!」
シンディが血相変えてやってきた。
「2.0は!?」
「大丈夫。他の奴は全部カプセルにして、全国に散らばせたから。あとはこの4機だけ。ここは私に任せて、ドクターはアリスを連れて早く裏口から!」
「うむ。済まんな!アリス、行くぞ!」
じー様は私の手を強引に引っ張って、アジトの裏口に向かった。
[それから10年後の現在 3月3日 13:30.財団仙台支部事務所・研究室 アリス&エミリー]
「う……ん……」
そこで目が覚めた。
「大丈夫・ですか?ドクター・アリス?」
「シンディ……あなたは、あいつらをどこにやったの……?」
「? ドクター・アリス。私は・エミリーです」
「あ……」
寝惚けてしまったが、確かに目の前にいるのはシンディの双子の姉機、エミリーだった。
もっとも、シンディとの大きな違いは髪型と髪の色である。
顔や体型を含む基本スペックは同じだが、区別を付ける為に個体ごとに髪型や髪の色を変えたとじー様から聞いた。
但し、今現在元気に稼働しているのはこのエミリーだけなので、その区別法も形骸化してしまっている。
私が来なければエミリーは完全にブレイクダウンすることになり、危うくこの世界からマルチタイプが“絶滅”するところだった。
そこは私が大きく自負するところである。何しろマルチタイプは、学術研究的にも大きく注目されているからだ。
エミリーを見に、わざわざ地球の裏側からやってくる研究者もいる。
「お疲れ・ですか?」
「うん……ちょっとね。なぁに、これでも5.0作ってた頃はもっと徹夜してたから」
私が寝る間も惜しんでやっているのは、シキシマの家族を皆殺しにしたというバージョン2.0がどうして暴走したかの原因追究だ。
じー様のせいでとんだ大迷惑を掛けてしまったことは、いくら私が知らなかったこととはいえ、孫娘として立場上の責任は取らざるを得ないだろう。
そしてその責任の取り方は、正に真相を究明して、遺族であるシキシマに教えてあげることだろうと思うのだ。
少しずつ分かりつつあった。
じー様がシンディに命じて全国に散らした個体は20体。そのうち、宮城県内で暴走してシキシマの家族を殺した個体が4体。
残る16体は再起動することなく、じー様の想定通りに鉄塊と化している。
この4体は出動した自衛隊などによって、何とか破壊されている。因みにその頃、ドクター南里とエミリーはニューヨークにいてその場にいなかった。
シキシマは台湾にいて難を逃れたという。
20体全機が暴走したのなら、じー様のあずかり知らぬ所で、何かがあったのだろう。もしくは、じー様が知らぬフリをしていただけか。
4体だけ暴走したことは、じー様も首を傾げていたのを今でも覚えている。
何故だ?何故、4機だけ暴走した?誰かが勝手に電源を入れた?いや、それは有り得ない。
バージョン・シリーズは電源を入れる際に、専用のパスワードを入力しなければならない。
しかもそれは、個体個体によって違う。私はIQ185あるので全部覚えられたが、じー様は高齢のせいか、よく忘れることがあったので、シンディに覚えさせていた。
だから、無知な民間人が偶然発見してしまうことはあっても、それが更に偶然再起動させてしまうことは有り得ないのだ。
従って、4体は自動で再起動してしまったと見るべきだろう。しかし、それなら何故ということになってしまう。
確かにバージョン2.0は実験用という用途もあり、バッテリー切れでも自動で充電して再起動するという実験もじー様は行っていた。
だけど、打ち捨てるに当たってその機能などは全て外していたはずだ。分からない。何しろ作った本人のじー様が首を傾げていたくらいだ。
「ドクター・アリス。どうぞ」
私が頭を抱えていると、エミリーが紅茶を持ってきた。
「Thank you.エミリー」
「敷島さんが・入れてくれたものです」
「シキシマが?」
意外だ。
「敷島さんも・御心配されて・おられます」
「そう……。でも、ここで諦めるのはプライドが許さないからね。いくら旧式の旧式がやったこととはいえ、マリオとルイージはそんな研究成果やイレギュラーの上に成り立っているんだからね」
「イエス」
「つまりここで投げ出したせいで、もしかしたらマリオやルイージが暴走する恐れがあるってことなんだから」
「イエス」
「……マリオとルイージを見てみようか」
「呼んで・参ります」
バージョン・シリーズの最新モデルである5.0のマリオとルイージ。
研究開発者のじー様の意図とは随分と異なるデザイン、用途であるが、れっきとしたシリーズである。
でもマリオとルイージ作ったの私だし、作ってる時に何か変なことがあったわけでもないので、見ても分からないかな。
(なお、上記3人が話しているのは英語ですが、ここでは勝手に和訳しております。当作品は、分かりやすい表現に努めております)
(ここではアリスによる一人称です)
「ただいまぁ!」
私は留学している学校から帰った。
「お帰りなさい」
学校からアジトに戻ると、シンディが出迎えてくれた。
「あー、アリスや。こっちへ」
「お祖父ちゃん?」
「実はの、大事な話があるんじゃ」
「なーに?」
「何を隠そう、“追跡者”がどうやらここを突き止めつつあるようなのじゃ」
「またぁ?」
「じゃから、急いでここを引っ越さねばならん。まるでジプシーのような流浪で申し訳ないが、今しばらく我慢してくれ」
“追跡者”とはCIAとか、要はじー様やシンディを捕まえようとしている当局のことだ。
じー様は私に対しては、ただ単に“追跡者”という得体の知れない存在だけを教えていた。
「でもドクター。アリスったら、しっかりと学校のテストはほとんど満点だったのよ。お勉強はよく頑張ってるわ」
「当然じゃ。そうでないと困る。アリスは、ワシの後継者なのじゃからな」
「ドクター。バージョン2.0はどうするの?」
「あの失敗作、連れて行くわけにはいかん。研究データは取れたので、それだけを持ち出せばよろしい」
「じゃあ、廃棄処分ね」
「ここに捨てて行くと、わしらの次なる場所がバレる恐れがある」
その理由は私にも分からない。多分、バージョン2.0に搭載したGPS絡みだろう。
「じゃから、全国に散らして“追跡者”どもの目を誤魔化さなくてはならん」
「そうね」
「アリスは自分の荷物をまとめなさい。必要最低限のものにしておくのじゃぞ?」
「はーい」
「シンディは失敗作どもの処分を手伝え」
「OK.でもその前に、ゴミを片付けてからね」
シンディを片目を瞑った。
「ゴミ出しなら、アタシが……」
「ああ、いいのよ。アリスはドクターの仰る通りにして」
「え?」
「ちょっと……生ゴミは生ゴミでも、特殊な生ゴミだから」
シンディの目が一瞬ボウッと光った気がした。
私はそれでシンディがつい今しがた“追跡者”達を倒したんだと気付いた。
その頃からシンディは、“追跡者”を殺す役目をしていたらしい。もちろんそれは私には見せないし、それをしていることも言わなかった。
「…………」
自分の荷物をまとめ終わった私は、打ち捨てられているバージョン2.0を見た。いずれじー様は、私にも研究・開発に参加してもらいたいことを言っていた。子供ながらに、それが私が引き取られた理由だと気づいていた私は、それが私の役目なのだろうと思っていた。
でも今は一切触らせてくれなかった。じー様が整備している所とかは見たことがある。
私は部屋から工具箱を持ってくると、捨てられている2.0の頭部を開けた。
まだ新しい人工知能が搭載されたままだ。じー様はこれを捨てて行くというのか。不経済だと思ったが、“追跡者”を振り切る為には致し方無かったのだろう。
私はじー様の見よう見まねで、2.0の人工知能を弄った。その数、4体。
そうだ。どうせ捨てるんだ。この無機質なロボットにも、せめて最期には何か華やかに飾ってあげよう。
しかし、私はデザインセンスは無かったようだ。
4体のテロ用ロボット、1体ずつにペイントしたのはトランプの絵柄。つまり、スペード、ダイヤ、クラブ(クローバー)、ハートである。
後頭部に描いてあげた。最後にハートまで描き上げたところで、
「こりゃっ!アリス!何をしておる!!」
じー様にこっぴどく怒られた。すぐにこの落書きを消すように言われたが、
「ドクター!大変よ!警官隊がこっちに来る!」
シンディが血相変えてやってきた。
「2.0は!?」
「大丈夫。他の奴は全部カプセルにして、全国に散らばせたから。あとはこの4機だけ。ここは私に任せて、ドクターはアリスを連れて早く裏口から!」
「うむ。済まんな!アリス、行くぞ!」
じー様は私の手を強引に引っ張って、アジトの裏口に向かった。
[それから10年後の現在 3月3日 13:30.財団仙台支部事務所・研究室 アリス&エミリー]
「う……ん……」
そこで目が覚めた。
「大丈夫・ですか?ドクター・アリス?」
「シンディ……あなたは、あいつらをどこにやったの……?」
「? ドクター・アリス。私は・エミリーです」
「あ……」
寝惚けてしまったが、確かに目の前にいるのはシンディの双子の姉機、エミリーだった。
もっとも、シンディとの大きな違いは髪型と髪の色である。
顔や体型を含む基本スペックは同じだが、区別を付ける為に個体ごとに髪型や髪の色を変えたとじー様から聞いた。
但し、今現在元気に稼働しているのはこのエミリーだけなので、その区別法も形骸化してしまっている。
私が来なければエミリーは完全にブレイクダウンすることになり、危うくこの世界からマルチタイプが“絶滅”するところだった。
そこは私が大きく自負するところである。何しろマルチタイプは、学術研究的にも大きく注目されているからだ。
エミリーを見に、わざわざ地球の裏側からやってくる研究者もいる。
「お疲れ・ですか?」
「うん……ちょっとね。なぁに、これでも5.0作ってた頃はもっと徹夜してたから」
私が寝る間も惜しんでやっているのは、シキシマの家族を皆殺しにしたというバージョン2.0がどうして暴走したかの原因追究だ。
じー様のせいでとんだ大迷惑を掛けてしまったことは、いくら私が知らなかったこととはいえ、孫娘として立場上の責任は取らざるを得ないだろう。
そしてその責任の取り方は、正に真相を究明して、遺族であるシキシマに教えてあげることだろうと思うのだ。
少しずつ分かりつつあった。
じー様がシンディに命じて全国に散らした個体は20体。そのうち、宮城県内で暴走してシキシマの家族を殺した個体が4体。
残る16体は再起動することなく、じー様の想定通りに鉄塊と化している。
この4体は出動した自衛隊などによって、何とか破壊されている。因みにその頃、ドクター南里とエミリーはニューヨークにいてその場にいなかった。
シキシマは台湾にいて難を逃れたという。
20体全機が暴走したのなら、じー様のあずかり知らぬ所で、何かがあったのだろう。もしくは、じー様が知らぬフリをしていただけか。
4体だけ暴走したことは、じー様も首を傾げていたのを今でも覚えている。
何故だ?何故、4機だけ暴走した?誰かが勝手に電源を入れた?いや、それは有り得ない。
バージョン・シリーズは電源を入れる際に、専用のパスワードを入力しなければならない。
しかもそれは、個体個体によって違う。私はIQ185あるので全部覚えられたが、じー様は高齢のせいか、よく忘れることがあったので、シンディに覚えさせていた。
だから、無知な民間人が偶然発見してしまうことはあっても、それが更に偶然再起動させてしまうことは有り得ないのだ。
従って、4体は自動で再起動してしまったと見るべきだろう。しかし、それなら何故ということになってしまう。
確かにバージョン2.0は実験用という用途もあり、バッテリー切れでも自動で充電して再起動するという実験もじー様は行っていた。
だけど、打ち捨てるに当たってその機能などは全て外していたはずだ。分からない。何しろ作った本人のじー様が首を傾げていたくらいだ。
「ドクター・アリス。どうぞ」
私が頭を抱えていると、エミリーが紅茶を持ってきた。
「Thank you.エミリー」
「敷島さんが・入れてくれたものです」
「シキシマが?」
意外だ。
「敷島さんも・御心配されて・おられます」
「そう……。でも、ここで諦めるのはプライドが許さないからね。いくら旧式の旧式がやったこととはいえ、マリオとルイージはそんな研究成果やイレギュラーの上に成り立っているんだからね」
「イエス」
「つまりここで投げ出したせいで、もしかしたらマリオやルイージが暴走する恐れがあるってことなんだから」
「イエス」
「……マリオとルイージを見てみようか」
「呼んで・参ります」
バージョン・シリーズの最新モデルである5.0のマリオとルイージ。
研究開発者のじー様の意図とは随分と異なるデザイン、用途であるが、れっきとしたシリーズである。
でもマリオとルイージ作ったの私だし、作ってる時に何か変なことがあったわけでもないので、見ても分からないかな。