報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「雪中行軍」 5

2014-02-23 15:14:37 | 日記
[同日13:15. 大石寺・奉安堂 稲生ユウタ&栗原江蓮]

「麺類とコーヒーしか無いなんてねぇ……」
 昼食を終えた後、御開扉に参加するため、奉安堂へ向かったユタとエレン。
 辛うじて人が通れるスペースの所だけ除雪がされており、信徒達はそこを通って門を潜った。
 しかしそこから真っ直ぐは進めず、雨天の時と同じように、屋根付きの外回廊を通って向かうよう、担当僧侶が誘導していた。
「行く時のタクシーも結構ギリギリだったから、トラックもなかなか来れないのか……」
「ま、そういうことになるね。稲生さん達も、帰り大変だね」
「え?」
「バスが全部ストップじゃねぇ……」
 エレンはニヤついていた。
「せっかく帰りは“やきそばエクスプレス”を予約したのに……。後でもう一回、バス会社に電話してみよう」
「……なんて会話、顕正会員や学会員には絶対できないね」
 いたずらっぽく笑う。
「はははっ、そうだな」
 ユタも大きく頷いた。
「ところで、今日の布教講演……」
 ユタが話題を変える。
「うん。ちょっと大講堂寒かったね」
「じゃなくってさ……。話の中に、『昭和49年に今の顕正会、当時は妙信講と名乗っておりましたが、それが退転し、昭和55年には正信会が退転し、平成3年には池田創価学会が退転して行きました』ってあったじゃない?」
「今度はどこが退転するのかな?」
「多分、そろそろあの【バキューン!】……じゃなくって!……この3つの団体は破門されたのに、『退転』って言うんだって思ったの」
「そうか?」
「うん。いや、僕は退転って、『自分から信心を辞める』ことだと思ってたんだ。だけどその3つの団体は、自分から辞めたわけじゃないじゃない?」
「学会は一部、『破門されたのではない!こっちから出て行ってやったんだ!』って言ってるらしいぞ?」
「それは置いといてさ」
「後で藤谷さんにでも聞けばいいさ。まあ、あたし的には、『破門されるようなことを自ら率先して行った』んだから、やっぱり『自分から辞める』ことの遠回しだと思うよ?」
「なるほど……。そういう見方もできるんだねぇ……」
 ユタは納得したように頷いた。
 その時、
「あっ、電話」
 エレンの携帯が鳴った。
「堂内に入る前に、電源まで切らないとダメだよ?」
「分かってる。……はい、もしもし」
 でも出るようだ。まあ、まだ中に入っているわけではないが。
「……何だ、キノか。で、なに?もうすぐ御開扉だから……あ?」
{「ユタとイチャイチャしてんじゃねぇ!」}
「してねーよ!信心の話してただけだっつーの!ああっ!?」
(怖っ!……このカップル、怖っ!てか……)
 ユタは周りを見渡した。
「妖気も感じないのに、どこで監視してるんだ???」
 すぐ後ろには……。
「特盛、ちゃんとケータイの電源切った?」
「うん」
「電池パックまで取ることないから!フツーに電源切ればいいの!内拝券ある?」
「うん」
「前回の内拝券なんか無効だろ!てか、いちいち持って来るんじゃねーよ!」
「ご、ゴメ〜ン……」
(顕正会もそうだけど、法華講の女性も強いなぁ……。あ、いや……栗原さんはともかく、後ろのあの人達は僕と同じ元顕正会だったか……)
 ユタはそう思って、自分の内拝券の半券をちぎった。
「あら?エレンちゃん、今日は木刀持ってきてないのね?」
 内拝券を回収している任務者で、エレンと顔見知りの中年女性が話し掛けて来た。
「いちいち持ってこれないっスよ。まあ、車ん中にあるけど」
「持ってきてはいたんかい!」
 ユタが苦笑いする。
 すぐ後ろにいた特盛クンとエリちゃんは……。
「凄いね〜。あの女子高生、木刀持ってるんだって」
 特盛クンは目を丸くした。
「ふん、まだ女子高生は青いね。特盛、あたしが何を持ち込んでるか知ってるよね?」
「う、うん……。(バールと鉄パイプ……)」
 あの事故で警察が来た時でも、単なる工具で押し通したエリちゃんだった。

[同日13時30分 大石寺・新町駐車場付近 威吹、カンジ、キノ]

「エレンのヤツ、まさか後でユタと浮気するんじゃねーだろうな……」
 キノは電話が繋がらなくなったエレンの身を案じていた。
「ユタはそういうヤツじゃないし。てか、お前も自分の女を信じろよ。栗原殿が辟易して、それこそお前に愛想尽かすかもしれんぞ?」
 近くの店から出してもらったお茶をズズズと啜りながら、威吹は淡白に言った。
「愛想尽かされる前に、そもそも裏切られて封印されたヤツに言われたかねーな」
「ブッ!」
「おい!先生に何てこと言うんだ!」
 カンジが抗議する。
「何だよ?本当のこと言ってやっただけだろ?文句あんのか?」
「このっ……!」
「分かった分かった。オレはもう何も言わん。カンジ、引っ込んでろ」
「ハイ」
 そこへ駐車場に、1台の黒塗り高級セダンが止まった。
 降りて来たのは、鬼門の左と右。大柄な体つきだが、2人とも上手く人間に化けており、一見して鬼だとは分からない。
 黒スーツに黒いネクタイ、サングラス着用といういかつい恰好も手伝って、そもそもこの2人を直視しようとする人間はなかなかいない。
「ただいま戻りました」
 左の者がキノに恭しく挨拶した。
「で、どうだった?」
「雪女郎連合会にあっては、今回の件で、人間界に対し、報復行動を取ることはしないそうです」
「よし」
「あくまでも、今回の件につきましては、一部の暴走した人間の所業によるものとし、既にその個人に対しての報復は完了しているとのことで……」
「ああ。そうだな」
「また日を改めて、関係各位に御礼述べに上がりたいと……」
「女嫌いの藤谷にとっちゃ、いいメーワクだろうがな」
 キノはニヤッと笑った。
「藤谷氏を“獲物”として選んだかね?」
 威吹は首を傾げながら、団子を頬張った。
「どうでしょう?しかし、藤谷氏はどう見積もっても、C級程度の霊力しかありませんが……」
 カンジは首を傾げた。
「オーラもC〜B級ってとこだな。だけど、お前らもそうだろうが、連合会の連中も“獲物”不足に悩んでるらしいぞ?」
「そうなのか」
 無関心な威吹に対し、カンジが食いついた。
「そもそも、あの時期に連合会結成なんておかしいとは思ってたんだ。表向き、同族内の秩序維持の、実情は少ない“獲物”の融通化か?」
「多分な。まあ、地獄界を押さえてるオレら鬼族にとっちゃ、こっちの利権維持の方が重要だけどよ」
「しかし、八寒地獄があるだろう?確か、そこの管理を雪女郎連合会に委託したと聞いたが?」
「管理権を丸々ブン投げたってことで、想像つかねーのか?優等生クンよ?」
「……“赤字”か」
「そう。そこまで行く亡者が少なくてローカル線みたいになっちまったんで、ちょうどヒマしてた雪女達を使ってやったんだ。それでも焼け石に水ってヤツだな」
「ふーむ……」
「カンジ、お茶のお代わり頼む」
「あ、ハイ」

[同日14:50.大石寺第2ターミナル ユタ、威吹、カンジ]

{「申し訳ありません。本日、雪の為、全便運休とさせて頂いております」}
「ええっ!?」
 バス停にあるバス会社の連絡先に電話し、運行状況を確認した。すると、往路の登山バス同様、下山バスも全便運休とのこと。
「それじゃ、富士宮から東京へ行くバスは……」
{「それも東名高速が通行止めになっている影響で、全便運休です」}
「うわっ!」
 ユタ達が乗るはずのバスも運休していた。
 電話を切るユタ。
「芳しくないようだね?」
 威吹は髪と同じ銀色の眉を潜めた。
「うーん……。本当に大変な雪だったんだなぁ……」
「半分ほど陸の孤島と化してしまいましたか……」
 カンジは腕組みをした。
「しょうがない。費用が嵩むけど、またタクシーと新幹線か……」
「新幹線は動いているようですからね」
「うん」
 ユタはタクシー会社に電話した。
「って、あれ?ユタ、確かもう1度この寺の勤行に参加してたよね?」
 威吹が聞いて来た。
「ああ。六壺の勤行ね。参加したいんだけど、ちょっとこの状況では、早めに帰った方がいいと思って」
 カンジはユタの言葉に同調した。
「オレも稲生さんの意見に賛成です。如何に連合会として報復行動に出ないことを表明しているとはいえ、一部の『はぐれ雪』が何かしでかす恐れがあります」
「『はぐれ雪』?」
「連合会に加入していない、もしくは加入していても、あくまで表向きで、その方針に面従すらしていない雪女のことです」
「……何だか、妙信講みたい」
 ユタは小さく笑った。
「しかしタクシーは予約できたようですが、この道路状況では、少し厳しいのでは?」
「そうなんだ。15分くらい掛かるって」
「それでも15分で済むのですね」
「うん」

[同日15:10.大石寺第2ターミナル ユタ、威吹、カンジ]

「すいません、どこまで乗ります?新富士駅?一緒に乗りませんか?……ありがとうございます」
 バスが全便運休した法華講員達は、それぞれタクシーに分乗して帰っていた。
 まるでそれが当たり前かのようにスムーズだ。
 正に、法華講式タクシー乗車法。
「もうそろそろですかね?」
 カンジは着物の懐に手を入れ、懐中時計を出した。
「多分ね……」
 と、その時、1台のベンツGクラスが入ってきた。
「あれは、藤谷班長が乗って来た車?」
「おい、お前ら!」
 ユタ達の前で急停車する。何故か怒っているようだが?
「駅まで送ってくれるのか?」
 威吹はしれっとした態度だった。
「それどころじゃねぇ!これを見ろ!」
 左ハンドルなので、助手席は右側にある。
 ユタ達は首を傾げて、藤谷が開けた助手席のドアから車の中を覗いた。
 何だろう?無数の手垢でも付いていたのだろうか?それは幽霊を乗せた場合の話ではなかったか。
「あ、先生。タクシー来ました」
 と、カンジ。
「ありゃ?中型だ……」
 屋根に行燈の無い、黒塗りの中型車だった。いかにも高級そうだが、それでも初乗り料金は首都圏より安いし、車種がそこで当たり前に走っているタイプだった。
「稲生様ですか?」
「あ、はい」
 車の中を確認した3人のうち、ユタだけは意味が分からなかったが、威吹とカンジは意味が分かったようで、師弟でニヤけた顔をした。
「ユタ、行こう」
「あ、ああ」
 3人はタクシーのリア・シートに乗り込んだ。
「おい、こら待て!この状況、説明しろ!」
「無事に帰れたら説明してやるよ!取りあえず、お疲れさん!」
 威吹は大きく手を振った。
「御愁傷様……あ、いや、色々と大変でしょうが、頑張ってください」
「新富士駅までお願いします」
「はい」

 タクシーは無事に第2ターミナルを出発した。
 途中にある交差点の角に立つのは、凍り付いたケンショーレンジャー。
 それぞれがたすきを掛けており、『交通安全』とか『凍結注意』とか、ドライバーに無言で注意を呼び掛けている。
 何故かグリーンだけ、『チカンに注意』だった。
「ユタ、見たかい?さっきの……」
「ああ。あの、女嫌いの班長にも彼女ができたんだな」
「いや、違いますよ。まだ」
 カンジが意味深に言った。
「まだ?」
「これから、ですよ。で、あのサインは、かなりガチです」
「そうなのか……。でも、どうして?どうして、助手席のシートの上に女性のパンティーが?」
「雪女もやるようになったんだな?」
「そりゃ先生の時代にパンティは無いですから。せいぜい、腰巻とかくらいですかね?」
「あー、聞いたことあるかも……」
「だから、何なの?」
「簡単に言ってしまうと、雪女から藤谷氏に対してのラブコールですよ」
 ポーカーフェイスのカンジが、久しぶりに目まで笑みを浮かべた。
「ええっ!?」
「鬼族の女も似たようなことするんだっけ?」
「多分、キノの一族とは違うでしょう。主に、『人間の男の精を求める者』のすることですからね」
「それ、妖狐もする?」
「一部の者はしていますね。ただ、いかんせん“獲物”候補自体が少ないので……」
「ユタだったら、女達の下着で部屋が一杯になっちゃうよ」
 威吹はニヤついた。
「まさか、男もするなんてことは……?」
「しないしない。ボクがキミを“獲物”にしたがった時、どうした?」
「ああ、そうか」
 男の場合は相手に金を積むようである。
 キノもそうしたのだろうか?種族は違うが……。

「おっ、何か午前中より天気が良くなったな」
 ずっと道を下り、国道139号線を南下していると、冬の太陽が車内に差し込んできた。
 威吹の銀髪とカンジの金髪が、きれいに反射している。
「しばらくの間、晴れの日が続くようですよ」
 運転手が答えた。
「そうか。これで雪が解けるといいねぇ……」
 ユタはしみじみと言った。
「稲生さん、この調子で行けば名古屋始発の“こだま”660号に乗れます」
「そうか。名古屋始発なら空いてるかな?」
「恐らくは……。あとこの交通状況ですから、そもそも外出を控えている者多数ということも勘案しますと……」
「そうだね。でも……」
 ユタは溜め息をついた。
「東京に着いてからが、また苦行なんだ」
 ユタが手にしているスマートフォン。
 その交通情報アプリには、首都圏の鉄道がgdgdになっていることを示していた。
「末法の世の中においては、苦行なんて無意味なんだけどねぇ……」
「仏道修行に関係無いんじゃないの、それ?」

 こうして、ユタの記憶に残る支部登山は終了した。

「これで、グリーンの封印だけは解けそうだな」
 雪女の残した下着のやり場に困った藤谷は、その後その下着をどうしたかは【お察しください】。
                                                            「雪中行軍」 終

 一部、誤字と時系列並びに表現方法を修正しました。

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