報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生家であった怖い話」

2018-04-11 10:15:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月7日21:30.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
(稲生勇太の一人称です)

 今日は元々風の強い日だったが、どうやら雨も降ってきたみたいだ。
 そういえば天気予報で、夜中に雨が降るという話を聞いたような気がする。
 僕が自分の部屋にいると、ドアがノックされた。
 僕はすぐにドアを開けた。

 稲生:「マリアさん、上がりましたか?」
 マリア:「ああ。サッパリしたよ。ありがとう」

 マリアさんは2階の僕の部屋の近くにあるシャワールームが気に入ったのか、僕の家ではそこで体を洗っていた。
 もちろん、僕の家にはちゃんと1階に浴室がある。
 にも関わらず、わざわざ2階にもシャワールームを作ったのかは、ちゃんとした理由がある。
 それを話そうか、それとももっと別の話をしようかと考えていた。
 マリアさんはワンピース型の寝巻を着ていた。

 マリア:「いいのか、勇太?ナディアが勝手に企画した集まりだ。無理に出ることはないぞ?」
 稲生:「いえ、出ます」

 僕は即答した。
 正直、魔女から聞かされる怖い話なんて、当然ながら聞いていて心地良いものであるはずがない。
 だが、僕は選ばれてしまったのだ。
 選ばれた人間はその権利を放棄することはできない。
 おかしな日本語だ。
 放棄できるはずの権利を放棄できないなんて。
 これはつまり、権利ではなく義務ということだ。
 魔女に選ばれた人間は、それに参加する義務がある。
 逃げたら……恐らく、死が待っていることだろう。
 僕だって、一人前になったら悪魔との契約が内定している人間だ。
 既にその悪魔が、常に僕をどこかで見張っている。
 そういう人間は、ジワリジワリと人間であることを辞めていくように仕向けられる。
 多くの悪魔は魔道師と契約できることを大きなステータスだと思っているらしく、せっかくのステータスが早死しないように、まずはその寿命を長く伸ばす特典を与えるのだという。
 ナディアさんも、見た目は僕達と変わらぬ年恰好なのに、既に3ケタ生きているらしい。
 エレーナがサラッと言っていた、ナディアさんがかつて第2次大戦後はサハリンにいて、旧ソ連軍に跡形も無く壊された日蓮正宗の寺院を見ていたという証言。
 そういうエレーナも、なかなかに怪しい所はあるけれど。

 マリア:「勇太はもう普通の人間じゃないんだ。義務ではないと思うよ?」
 稲生:「ここにはイリーナ先生がいないんです。つまり、今ここで1番強い魔道師はナディアさんということになります。逆らえませんよ」
 マリア:「……そうか。私は先に行くから、勇太もゆっくり来なよ」
 稲生:「分かりました」

 強さ云々は一概に言えない。
 一口に魔道師といっても、色々なジャンルがあるからだ。
 その為、ダンテ門内には階級がある。
 ここでは1番階級が高いのは、ナディアさんということだ。
 僕がインターン、マリアさんはローマスター、そしてナディアさんはミドルマスター。
 僕はパジャマの上からパーカーを羽織ると、会場となる1階の客間へと向かった。

[同日21:45.天候:雨 稲生家1F客間]

 1階の客間は、畳敷きの和室6畳が2間に続いている。
 普段は間の襖を閉めているわけだが、来客がわんさか来た場合は開放して12畳にすることも可能。
 そのうちの1つは仏間になっているわけだが、今そこに仏壇は無い。
 上には神棚がある。
 僕の家は元々稲荷信仰で、稲生という名字もそこからもらったものらしい。
 だから威吹が初めて来た時、意外とあっさり受け入れられたんだな。
 父さんは僕が信心を始めた時、神棚を片付けたことが気に入らなかったらしく、それが日蓮正宗に入っても同じことだったから、それで怨嫉したわけだ。
 実際、威吹が稲荷大明神の名前を使って『御利益』を齎していたのがまずかったな。
 威吹もいなくなり、僕も内得信仰になってからは父さんも何も言わなくなり、今では勤行は自分の部屋で行うようになった。

 ナディア:「遅かったわね。もう来ないのかと思っていたよ?」

 板敷きの廊下から障子を開けると、6畳間には既にナディアさんと従兄の悟郎さんがいた。
 マリアさんも、そこからは感情が読み取れない表情をして僕を見る。
 悟郎さんはジャージを着ていて、ナディアさんもマリアさんと同じくワンピース型の寝巻を着ている。
 ただ、ナディアさんの方がラフかな?
 とはいえ、2人ともその上から魔道師のローブを着ている。

 ナディア:「あなたはローブを着て来ないのね?」
 稲生:「はあ……」

 僕はそれには答えず、折り畳み式のテーブルを出すと、その上に飲み物の入ったペットボトルと紙コップを置いた。

 勇太:「飲み物があった方がいいでしょう。どうぞ」
 悟郎:「おおっ!気が利くね!」

 悟郎さんは早速紙コップをテーブルの上に置くと、お茶のペットボトルからそれを注いだ。

 ナディア:「魔女の集まりに飲食物は不要……!」

 ナディアさんは何か気に入らなかったらしく、テーブルの上の飲み物を魔法で消そうとした。
 だが、それをマリアさんが制した。

 マリア:「いいじゃないですか、別に。ここには悟郎さんもいるんですし。場所も勇太の実家という時点で、純粋な魔女の集会というには無理がありますよ」
 ナディア:「……それもそうか」

 上下関係の厳しい魔女の世界で、階級が1つ上の先輩に物を言うのも憚れるところ。
 だがナディアさんはそこまでは気にしていないらしく、マリアさんの物言いに怒り出すこともなく、むしろそれで気持ちが落ち着いたようだ。

 ナディア:「でも、気を付けてね。見習いが余計なことをすると、それだけで制裁を加えて来る組もあるから」
 稲生:「……はい」

 どうやらナディアさんが気に入らなかった所というのは、そこらしい。

 ナディア:「マリアンナも、ちゃんとそこを教えないとダメでしょ?あなたは姉弟子なんだから」
 マリア:「……はい」

 つくづく、僕はイリーナ組で良かったと思う。

 悟郎:「な、何だい?飲んじゃダメなのかい?」

 今のやり取りを見ていた悟郎さんが、とても狼狽してしまった。
 するとナディアはニッコリ笑って言った。

 ナディア:「別にいいのよ。さ、まずは一杯飲みましょう」

 ナディアさんはまるで毒味でもするかのように、クイッとお茶を飲んだ。

 マリア:(これがワインとかならOKだったりする場合もあるんだよなぁ……。よく分からん)

 マリアはそんなことを心の中で思った。
 恐らく、稲生がお茶ではなく、ワインを持ってきたなら、ナディアも怒らなかったかもしれない。
 だが……。

 マリア:(見習いの勇太が、そんなこと思い付くわけもないか)
 ナディア:「それじゃ、始めましょう。まずは誰から話すのかしら?」

 1:稲生勇太
 2:稲生悟郎
 3:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット
 4:ナディア・エリゴス・シェスタコワ

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “大魔道師の弟子” 「夕食会... | トップ | “大魔道師の弟子” 「稲生悟... »

コメントを投稿

ユタと愉快な仲間たちシリーズ」カテゴリの最新記事