報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「稲生悟郎の怖い話」

2018-04-11 19:21:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月7日22:00.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生悟郎:「それじゃ、1話目は俺から話そう。そうだな……。だいぶ、昔の話をさせてもらおうかな。実は俺、勇太と同じ東京中央学園なんだ」
 マリア:「えっ、そうなんですか?」
 稲生勇太:「校舎は違いますけどね」
 悟郎:「俺は工業科に入ったんだ。勇太みたいな普通科は上野校舎だったけど、工業科は池袋に校舎があったんだ。勇太も行ったことあるだろ?」
 勇太:「ええ」
 悟郎:「勇太から話は聞いていたさ。上野校舎は、やたらめったら怪奇現象が多かった所だ。それに対して、ブクロ校舎は平和だったな」
 勇太:「そりゃ、工業科は魔界の出入口に建ってませんもの」

 七不思議どころか、百不思議はあった上野高校。
 それに対して池袋高校は、怪談話など殆ど無かったのを覚えている。
 そこから勇太達、新聞部員が疑って行動したものである。

 悟郎:「それで、だ。そんな平和な工業科の生徒が受けたとばっちりについて話させてもらおうか」
 勇太:「とばっちり?」
 悟郎:「勇太も知っているだろうが、科によって校舎は別々に分かれていたが、部活は同じだった」
 勇太:「ああ!」
 悟郎:「特に合宿な」
 勇太:「栃木の合宿所かぁ……」
 マリア:(三時の魔道師……)
 悟郎:「今から20年ほど前のことだ。工業科の男子バスケ部員が普通科のバスケ部員と合流して、夏休みに合宿を行ったんだ。今では合宿所もリニューアルされたみたいだけど、当時はまだボロい設備だったらしいぞ」
 勇太:「聞いたことあります」
 悟郎:「それで合宿に行ったバスケ部員達だったが……まあ、合宿自体は無事に終わったんだ。ところがその後、バスケ部で事故が多発するようになってな」
 勇太:「あっ……!」

 勇太はその話に聞き覚えがあった。
 だが、最後まで聞くことにした。

 悟郎:「何も無いのに転倒して足をケガしたり、ひどい時にはバスケのゴールが落ちてきてそれが当たったりとか、そりゃ有り得ない事故ばかりだったんだ。そしてある時、1年生が気づいたたんだ。用具を片付けていると、ボールが1つ多いことにな」
 勇太:(ああ、やっぱりその話か……)

 勇太にはその話のオチが分かったが、勇太の場合はその後日談を担当している。

 悟郎:「事故が多発するようになったのと、ボールが1個多いと分かったのは合宿の後だ。部員の1人が軽く冗談で、『呪いのボールでも混じってんじゃね?』と言い出した。もちろん、最初は冗談だっただろう。だが、ついに部員の1人が頭にボールの直撃を受けて、一時意識不明になってしまった。まあ、この場合、野球部員の打ったファールボールが体育館の開いた窓から入り込み、それがバスケ部員の頭に当たったっていう変な話さ。まあ、その野球部もなかなか曰く付きの噂があったんだがな……」
 勇太:(その何年か後に野球部の呪いを解いたの、僕と威吹だったなぁ……。大河内君があの時、いてくれなかったら……)
 悟郎:「そして、『呪いのボール』が実は本当なんじゃないかって話が実しやかに部員達の間に広まった。実際、ボールが1個多かったわけだからな。しかし、どれが呪いのボールなのかはサッパリ分からない。仕方なくバスケ部はボールを全て処分することにした。そして、また新たなボールを購入することにした。そしたら、今まで多発していた事故がウソだったかのようにパタリと止んだんだ。呪いのボールの話は本当だったんだって、ホッとしたらしいよ。それからしばらくした後のことだ」

 またもやボールが1個増えていたという。
 しかし、今度はどのボールが呪いのボールなのかすぐに分かった。
 そのボールだけ、捨てる前のボールのように古かったからだ。
 真新しいボール達に混じり、その古ぼけたボールだけがあったので、今度はすぐに分かったのだという。

 悟郎:「勇太。勇太なら、そのボールをどうしたか聞いてるだろ?」
 勇太:「ええ」

 お祓いをしようという話もあったらしいが……。

 勇太:「もう1度そのボールを処分しようとしたんですね。……そして、失敗した」
 悟郎:「そうなんだ。やっぱり、後輩の勇太達の間にも伝わっていたみたいだな」
 勇太:「そりゃもう……」

 部員達はボールを新聞紙で包むと、当時まだ稼働していた焼却炉に入れて焼却処分しようとしたという。
 今から20年も前の話だ。
 ダイオキシン問題で焼却炉が稼働停止する前の話だった。
 部員達は焼却炉にそのボールを入れ、点火した。
 するとどうだろう。
 まるで生き物のように、ボールが中で暴れた。
 そして焼却炉の扉を内側からこじ開けると、火に包まれたままボールが飛び跳ねて行くではないか!
 自分で意思を持っているかのようだ。

 悟郎:「そのボールは真っ直ぐにバスケ部の部室に行くと、まるで腹いせのように中で暴れ回ったんだ。火に包まれたボールが中で暴れたんだぞ?そりゃ、火事になるわな」

 部員達は慌てて消火器を持って馳せ参じ、何とか火を消したという。
 その甲斐あってか、小火で済んだのだが……。
 呪いのボールは完全に炭と化していた。
 だが、その代わり……。

 悟郎:「部室の壁に付いた焦げ跡は見たことあるか?……あるか。その焦げ跡の形、何だか分かるよな?」
 勇太:「ダンクシュートを決める直前のバスケ部員を、正面から見た図のシルエット……ですね」
 悟郎:「そうだ。どうして、そんなことになったのか。勇太も知ってるだろ?栃木の合宿所は、元は学校だったって。それが廃校になったものを東京中央学園が買い取って、合宿所に転用したものだって」
 勇太:「もちろん」
 悟郎:「その合宿所がまだ学校だった頃、1人のバスケ部員が事故で死んだらしい。とても熱心に練習に打ち込むほどだったんだと。だから、いくら事故とはいえ、若くして死んだら、そりや無念だっただろう。そんな時、東京からバスケ部員達が合宿にやってきた。そして、幽霊として見ているうちに、つい羨ましくなったんだろう。ボールに姿を変えて、付いて来てしまったんだろうな。事故を起こさせていたのも、自分の存在に気づいてもらいたかったからなのかもな。まあ、生きてる側からしちゃ、迷惑千万だが。だが部員達は、供養してやるどころか、ボールを燃やしてしまった。その幽霊は怨霊と化して、バスケ部の部室に留まっているというな。で、やっぱりバスケ部の事故を続いているという……怖い話だ」
 勇太:「そういう前日譚があったんですね」
 悟郎:「ん?前日譚?」
 勇太:「今、そのバスケ部員の亡霊はいませんよ。僕達で成仏させておきました」
 悟郎:「ほお、そりゃ凄い!」
 勇太:「だから今、バスケ部の部室にそのシルエットはありません」
 悟郎:「さすがだな」

 その話は悟郎にとって後日談になるのだろう。
 だが、勇太はその話をする気にはなれなかった。
 勇太は、もっと別の話をするつもりでいた。
 尚、悟郎の話に2人の魔女達は退屈そうに聞いていたことを報告しておく。

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