報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「悪魔の誘い」 2

2019-06-17 13:28:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月17日20:48.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅・宇都宮線上りホーム]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の列車は、20時49分発、通勤快速、上野行きです。この列車は、10両です。……〕

 夜の大宮駅で電車を待つのは稲生とマリア、そしてルーシーである。
 マリアの契約悪魔、ベルフェゴールの調査結果が夕方出た。
 すると確かにクジの件は悪魔のしわざで、しかもその居場所を突き止めたという。
 その場所というのが、東京中央学園上野高校。
 稲生の母校である。

〔まもなく4番線に、通勤快速、上野行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、浦和に止まります。この列車は、10両です。……〕

 夕方すぐに行かなかったのは、今日は金曜日で部活動の生徒達もそれまでは残っているだろうし、そもそもOBとして何か事前情報を掴めないか、稲生独自に調査をしたからである。
 そして、突き止めた。
 稲生は元々新聞部員で、東京中央学園で起きていた怪奇現象を追っていたからである。
 時には威吹にも手伝ってもらったり、自分が怪奇現象を引き起こしていた妖怪や幽霊と対峙することもあった。

〔「4番線、お下がりください。通勤快速の上野行きが参ります。上野止まりの電車です。池袋、新宿方面、東京、品川方面には参りませんのでご注意ください」〕

 電車がスーッと入線してきた。
 短い10両編成なので、あまりホームの後ろの方で電車を待っていてはいけない。
 通勤快速というと混んでいるイメージがあるが、これから東京都心へ向かう需要は少なく、10両編成でもガラガラだった。
 連結されているグリーン車など、乗客がいたのかどうかさえ分からない。

〔「ご乗車ありがとうございました。おおみや〜、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。4番線は宇都宮線、通勤快速、上野行きです。さいたま新都心駅には止まりません。次の停車駅は浦和です。停車駅にご注意ください」〕

 最後尾の10号車に乗り込んだ。
 ロングシートしか無い車両だが、ドア横の席が埋まっているだけで、やたら空席が目立つ。
 適当に硬いシートに座った。

〔この電車は宇都宮線、通勤快速、上野行きです。……〕

 賑やかな発車メロディがホームに鳴り響く。

〔4番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 大宮駅では新幹線ホームと中距離電車ホームだけ駅側で発車メロディを流し、駅員(輸送助役?)の客終合図でもってドア閉めを行う。
 需要の少ない電車で駆け込み乗車は無く、それによる再開閉など無く、スムーズにドアが閉まった。
 そして、微かにインバータの音が聞こえて来たかと思うと、電車が走り出した。

〔この電車は宇都宮線、通勤快速、上野行きです。停車駅は浦和、赤羽、尾久、終点上野です。グリーン車は4号車と5号車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、浦和です〕
〔This is the Utsunomiya line,commuter rapid service train for Ueno...The next staion is Urawa.〕

 稲生:「僕が現役生だった頃、地縛霊の話があったんです」
 マリア:「地縛霊?」
 ルーシー:「そこで死んだ何者かの霊が成仏できずに、その場に留まって、訪れた人間に怪異をもたらす悪霊のことよ」
 稲生:「僕が現役生だった頃は、もっと別の話でした」

 地縛霊がいたとされる場所に足を踏み入れると、何も無いただの平らな地面なのに、何故かよく転ぶ。
 で、その時に必ずケガをする。
 それが擦り傷どころではなく、打撲や骨折などあり得ない重傷を負わせるのだ。
 そこで学校側はお祓いをすることにしたのだが、さすがにそんなオカルト話に本気で乗ったとあっては笑い者だ。
 対策として、そこに倉庫を建てることにした。
 倉庫ならそうそう生徒も立ち入る場所ではないし、それを建てる為の地鎮祭という名目も成り立つ。
 地鎮祭は無事に終わり、倉庫を建てる時も何の事故も発生せず、無事に完成した。
 そこまでは良かったのだが、誰もがそこに地縛霊がいたことなど忘れ去ろうとしていた頃、本当にそこを倉庫として使うことにした。
 そこで1人の教師が2人の生徒に使わなくなった机や椅子を片付けるよう指示したのだが、そこで事件は起きた。
 結論から言うと、頼まれた生徒のうち、1人は死亡。
 もう1人は精神錯乱状態。
 死亡した生徒は精神錯乱した生徒に椅子で殴られて殺されたらしいが、精神錯乱した方の生徒は殺された方の生徒が化け物と化したから殺したと言い張った。
 精神錯乱した方は、稲生が話を聞いた当時まで精神科に入院していたらしい。
 今でも入院しているのかは不明だ。
 その倉庫は曰く付きである為、再び建物だけ残して使用禁止になったそうだ。

 稲生:「僕が聞いたのはこの話だけです。ところが、どうも僕が卒業した後で、またあの場所で事件が起きたらしいですね」

 稲生が聞いた話では、お祓いをしに来たのは神社の神主である。
 その後に起こった事件では、キリスト教の神父が呼ばれた。
 それは何故か?
 そう、あそこに悪魔が現れたからである。
 学校側では、かなり正確な情報まで掴んでいたのだろう。
 だが、選択肢を誤ったようだ。
 神父の力だけでは祓えない強い悪魔が出たようだ。
 そういう時こそ魔道士の出番なのだが、さすがにそこまでは思いつかなかったようだ。
 ま、そもそも魔道士に簡単に連絡が取れるような人間など、殆どいないとは思うが。

 稲生:「あそこで数人の女子生徒がどういう経緯か、悪魔の召喚の儀式を行ったようです。多分、僕が卒業した後で、僕達の活動が後輩達に知れ渡ったらしいんですが、それでちょっとしたオカルトブームが到来したようです。それに乗っかったんだと思いますけど」
 マリア:「バカだね」
 ルーシー:「バカだね」

 魔道士でさえ冷や汗をかきながらの悪魔の召喚術式なのに、それを素人の人間がやったらどうなるか……。
 悪魔は契約相手が魔道士だと分かったら警戒するのだが、それは契約を持ちかける方も同じなのである。
 当然ながら、流血の惨を見た事は想像に難くない。
 地縛霊というのは、その時に死んだ女子生徒達の霊ではないかというのが今の現役生による新聞部員の見解だ。
 稲生はOBの権限を利用して、その資料を取り寄せた。
 それで、ベルフェゴールの調査に誤りが無いと確信し、今こうして向かっているというわけである。

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