報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「悪魔の誘い」

2019-06-17 10:17:05 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月17日11:20.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅八重洲南口]

 JRバスのターミナルもあるこの出口に辿り着いた稲生。
 マイクを使ったバスの発着案内放送が賑やかだ。
 鉄道駅の案内放送と違い、自動放送は一切無い為、ターミナルの係員が逐一肉声で放送している。

 稲生:「マリアさん、お待たせしました」
 マリア:「遅かったじゃない」
 稲生:「すいません。丸ノ内線だと、反対側の丸の内側なもんで、こっちまで来るのが大変でしたよ」

 今、東京駅で八重洲側と丸の内側を自由に往来できる通路は北口1つしか無い。

 稲生:「それで例の物は?」
 マリア:「これ」

 マリアが出した封筒は熨斗紙に包まれており、『特賞』と書かれていた。

 稲生:「金一封入ってそうな封筒ですけどね」
 マリア:「それだったら、ルーシーがありがたく使わせてもらうさ。ねぇ、ルーシー?」
 ルーシー:「ま、まあね」

 ルーシーは相変わらず硬い表情だ。
 マリアと一緒の時は笑顔も見せるのだが。
 ただ、ルーシーの場合は過去の経験からして、他の魔女にありがちな『男性恐怖症』でも『男性嫌悪症』でもなく、ただ単に人間嫌いなだけのようだ。

 マリア:「日本語会話なら自動通訳魔法具で分かるけど、文字の翻訳まではできないからね。何て書いてある?」

 封筒を透かしてみると、確かに何かの文字が見える。
 それを見る限りでは……。

 稲生:「おお!大江戸温泉物語だ!」
 マリア:「温泉か」
 稲生:「きっと、大江戸温泉物語の宿泊券か何かですよ!いやあ、いいの当てましたね!」
 ルーシー:「温泉……spa……」
 稲生:「早速、見てみましょう。開けてみても?」
 ルーシー:「いいよ」

 稲生は熨斗紙に包まれた封筒を開けた。

 稲生:「どこの温泉かな?鬼怒川かな?それともお台場かな?」

 別に稲生が当たったわけでもないのに、何故か自分が当たったかのようにルンルン気分で開ける。

 稲生:「うん。やっぱり大江戸温泉物語のペア宿泊チケットですよ!どこのだろう?」

 更にそのケースを開ける。
 すると!

 稲生:「何これ!?」
 マリア:「!?」
 ルーシー:「!!!」

[同日12:00.天候:晴 東京駅一番街 某飲食店]

 稲生:「……え、何でハズレなの?」
 マリア:「いや、ハズレじゃないよ!」
 ルーシー:「バカにしやがって……!」

 そう。
 稲生の言う通り、ケースを開けてみるとハズレだった。
 いや、ハズレというか……。
 白紙に毛筆で、『ハズレ ざんねんでちたw』と、書かれた紙が入っていただけだった。
 文句を言いにくじ引き会場に行った3人の魔道士だったが、会場はもぬけの殻だった。
 試しに近くの店舗スタッフや巡回中の地下街警備員に聞いてみたが、今日はそんなイベントはやっていないという。

 稲生:「罠じゃないですか、これ?」
 マリア:「まだ“魔の者”の眷属がこの近くにいるのか?」
 ルーシー:「私はね、バカにされるのが一番嫌いなの。こんなことをしたヤツはタダじゃおかない……!」
 稲生:「こんなことをする罠って、何だろう?普通、逆じゃないですか?僕がもし“魔の者”の眷属だったら、逆にハズレくじを当たりに見せかけて、逆にこの温泉に呼び寄せて、あとは【流血の惨を見る事、必至であります】」
 マリア:「悪魔の考えることは分からないからなぁ……ん?悪魔?あ、そうだ!」

 マリアは何か思いついたようだ。

 マリア:「ベルフェゴール!」
 ベルフェゴール:「は、ここに……」

 するとマリアの召喚に応じ、英国紳士の恰好をしたベルフェゴールが現れた。

 マリア:「このイタズラ、悪魔のしわざだと思うか?」
 ベルフェゴール:「その可能性はあります。ちょっと調査してみましょう」
 マリア:「頼む。報酬は魔法石1つやるよ」
 ベルフェゴール:「緑のヤツでお願いしますよ」
 マリア:「分かった」

 宝石のエメラルドに似ているのだが、それだろうか。
 因みに魔法石はこの世界で見つけることもあるが、多くは魔界で稼ぐものである。
 稲生も“魔の者”に狙われて魔界を彷徨った時、その苦労の甲斐として魔法石を多く手に入れた。
 大抵はエンカウントしたモンスターが持っていることが多い。
 見た目は宝石なので、価値を知らないモンスターが拾ってそのまま持っているというパターンだ。

 マリア:「もしも“魔の者”の眷属あるいは悪魔そのものの嫌がらせだとしたら、ベルフェゴールに頼めばすぐに分かる。何しろあいつはキリスト教7つの大罪の悪魔、つまり上級悪魔だからな」
 ルーシー:「“怠惰の悪魔”でしょ?頼まれた後でサボるのがオチなんじゃない?」
 マリア:「だから報酬を先に提示するんだよ。それは他の悪魔も同じ。勇太も覚えといて」
 稲生:「は、はい!」

 いきなりの先輩の指導に、稲生は慌てて手帳を取り出した。
 優秀な悪魔ほど契約内容に沿った活動を行う。
 忖度など絶対にあり得ない。
 先に報酬を提示し、それで落としておかなければ、後でボッたくりバーの如く、とんでもない額を請求してくる恐れがあるからだ。
 契約者が普通の人間だと分かれば、悪魔はナメて掛かって来る。
 それに気づかない人間は哀れ、自分が不幸になるか、最悪命まで取られてしまうのだ。
 契約者が魔道士だと分かると、悪魔も警戒してくる。
 魔道士の方が上手だと知っているからだ。

 ルーシー:(ベルフェゴールの場合、先に報酬を提示されてそれに乗ったからサボりはしないだろうけど、多分眷属の中級悪魔辺りに丸投げするのがオチってところね……)

 ルーシーはそう心の中で呟くと、食後のアールグレイを啜った。

 ルーシー:(マリアンナの悪魔だけで事足りればいいんだけど、そうでなかったら私の……)

 ルーシーもまたマスターである。
 マスターということは、ちゃんと契約悪魔がいるということだ。
 ダンテ一門の魔道士は自分の魔力だけで魔法を使い続けることには無理があることを知っているので、悪魔と契約して安定した魔力を供給してもらうことを是としている。
 これはケータイで言うところの、前者はパケット通信、後者はWi-Fi通信に例えられている。
 パケットだけでスマホのネットを使い続けると、いつかは通信制限が掛かってしまう。
 しかしWi-Fiであれば、接続中はいくら使っても構わない。
 そういうことだ。

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