報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「魔の影に付きまとわれながら」

2016-03-25 21:38:06 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月11日20:29.天候:晴 JR仙台駅・東北新幹線ホーム 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 荷物を手に新幹線ホームに上がる稲生達。
「1号車ですね……って、先生はグリーン車かグランクラスでもいいのでは?」
「いいのいいの。弟子と一緒にいる時は、仲良く一緒に行こうねぃ」
「どうせ座ったら寝るだけだ。エコノミークラスでもファーストクラスでも変わらんよ」
 と、マリア。
「シビアな弟子だねぃ……」
「はは、は……」(苦笑する稲生)

〔13番線に、20時30分発、“はやぶさ”“こまち”38号、東京行きが17両編成で参ります。この電車は途中、大宮、上野に止まります。この電車は、全部の車両が指定席です。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車、11号車です。まもなく13番線に、“はやぶさ”“こまち”38号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 日本語放送の後で英語放送が流れる。
 マルチリンガルの魔道師達は、同じことを何度も言われているようで煩わしいとのこと。
 尚、現時点で東海道新幹線の駅構内自動放送は日本語放送のみだが、その理由は……。

〔「13番線、ご注意ください。20時30分発、“はやぶさ”“こまち”38号、東京行きの到着です。……」〕

 眩く青白いヘッドランプを点灯させて、エメラルドグリーンの列車が入線してきた。
 後ろに真っ赤な車体の秋田新幹線が連結されているが、稲生達が乗るのはそこではない。
 ドアが開くと、ここで降りる乗客もそこそこいるもよう。
 稲生達が乗り込むと、E5系車両は普通車であっても、電球色の照明で、座席にピローが付いている。
 窓側にコンセントが付いており、序列上、通路側に座る稲生は自分のスマホを充電する為に、
「ちょっとすいませーん」
「あいよ」
 窓側や中央に座る師匠や先輩に気を使って、コンセントを差し込んで引っ張ってこなくてはならない。
 その為、普通車で窓側にしかコンセントが無い場合、本来は窓側席利用者専用と思われる。
 グリーン車やグランクラス、そしてJRバスには各席にコンセントが付いているので世話無いのだが……。
「はっ!?」
 イリーナはロングスカートだからいいのだが、マリアは稲生が正式に弟子入りしてからというもの、スカートの丈は短くなり……。
「!!!」
 マリアはパッと自分のスカートを押さえた。
「あっ、いや、あの、僕は……」
「いいから早くコンセント引っ張れ!」
「あ、はい!」
 稲生は慌ててスマホを充電し、それをテーブルの上に置くと自分の席に座った。

 そうしているうちに列車は走り出し、仙台市街の夜景の広がる中にいた。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も東北新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は“はやぶさ”号、東京行きです。次は、大宮に止まります。……〕

 仙台駅のコインロッカーで見つかったトランプのジョーカーについては、現時点では意味不明ということで、特に気にしないということになった。
 ……のだが、
(カードを使った魔法を得意とするコが、一門の中にいたような気がする。アナスタシア組のメンバーだったと思うけど、アナスタシアの許可が出ないと行動できない連中だからね……)
 イリーナはそう考えると、フードを被ってシートを倒した。
「じゃ、いつもの通り、着いたら起こしてね」
「分かりました」
「あ、アタシに気にせず、2人で仲良く喋っててもらっていいから」
「あ、はい。ありがとうございます」

 列車は市街地を過ぎるとグングン速度を上げていった。
 稲生は師匠の言葉に甘え、マリアにとある質問をしてみた。
『ダンテ一門の魔道師は、稲生のように男性もいるが、ほとんどが女性ばかりだ。その理由は何か?』
 というもの。
「大師匠様の審査基準では、どうしても女が選ばれることが多い。別に、変な意味ではない。実際にはユウタもこうして合格して入門しているわけだし、他門に行けばサンモンド船長のように、魔女より男性魔道師の方が多い所もある」
 と、マリアは返した。
 もう1つが、
『ダンテ一門の魔女にはメンタルが多いのは何故か?』
 というもの。
 稲生にしては思い切った質問であり、これにはマリアも含まれていることになる。
 だがマリア自身、自分もそうだという自覚があるので、別に今さら稲生に指摘されたところで、怒りは無かった。
「大師匠様の審査基準が大きな原因。要は、多大な素質のある者を合格させるのだが、多大な素質がある為に、人間時代不遇の人生を送らされることが多い。精神的におかしくなってから魔道師になる為に、結果的にメンタルが多くなってしまった」
 とのこと。
『ダンテ一門の魔女の大半が人間時代、何らかの性的暴行を受けた経験のあるというが本当か?』
「本当。だから、中には新入門者が男のユウタだということで警戒したり、嫌悪したりする者がいる。様子を見に来る者もいるが、何故かユウタの姿を見たら納得して帰るから何も心配は無い」
『どうして納得してくれるの?』
「少なくとも、性的暴行をするようなタマには見えないからだと思う。別にバカにしてるのではなく、私も安心だし、私よりもメンタルなコ達に対しても安心だ」

[同日22:38.天候:晴 JR大宮駅 上記メンバー]

 窓の外にもう1つの線路が並行する。
 これは上越新幹線並びに北陸新幹線の線路である。
 そして、更にその外側に小さな電車が見えると、もうまもなく大宮だ。
 小さな電車とは“ニューシャトル”のことである。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。大宮の次は、上野に止まります〕

「何だかあっという間にですね」
「1時間ちょっとか……。それでもル・ゥラ(瞬間移動魔法)より時間が掛かるな。師匠、師匠。もうすぐ着きますよ。起きてください。『あと5分』はナシですよ!」
「うーん……。じゃあ、あと3分だけ……」
「ユウタ?」
「3分経ったら、もうホームに着いてますね」
「だ、そうですよ」
「『早起きは3分の猶予』……」
「早起きは三文の徳、ですよ」
 稲生は呆れた様子で言った。
「ううん……。イリーナ組の信条……」
「そんな信条無いですから!」

 列車が大宮駅のホームに滑り込む。
 ドアが開いて、ここで降りる乗客がいるわけだが、稲生達は1番最後に降りた。
「こうなることだろうと思った!」
「うう……すまないねぇ……」
 何とかイリーナを降ろすことに成功したので、乗り過ごしは免れたが……。
「師匠、まだ乗り換えがありますから歩いてください」
「はいはーい。今度は何線?」
「埼京線です。これで新宿まで行きます。東京駅から中央線だと混んでいるので、大宮からの埼京線の方が空いてるんです」
「さすがはユウタ君。ほーら、マリア!前進、ぜんしーん!」
「酔っぱらってるんですか、あなたわ!?」
 高身長のイリーナ、小柄なマリアに肩を貸させる。
「重いから退いてください!」
「おぉ?そんなこと言っていいのかなぁ?」
「何ですか?私より体重があるのは事実でしょう?」
「ふふっ。やっぱりマリア、分かってないか。まだまだなぁ……」
「?」
「?……!」
 イリーナの言葉が分からず、怪訝な顔をするマリアと稲生だった。
 だが、稲生は一瞬、何かの気配を感じ取った。
 コンコースの柱の陰に、何か……。
 しかし、悪魔の雰囲気は無い。
 どちらかというと……。
(魔女さんが?……いや、気のせいか)
 マリアと似た気配、つまり魔女がいたような気がしたのだが気のせいだったようだ。
(アナスタシア組の誰かが、僕達の様子を見に来たのかな?)
 今のところ、まだ1人もアナスタシアの弟子と直接会って話をしたことは無いのだが……。

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