報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 「魔界からの揺さぶり」

2014-12-07 19:57:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月24日20:00.長野県北部某所 マリアの屋敷 マリアンナ・スカーレット]

 マリアはユタの事件の解決を見た後、屋敷に戻って来た。
 埼玉にいるうちに起きた長野県北部地震が気になったが、周辺の山間部にその爪痕らしきものがあっただけで、屋敷にダメージは無かった。
 留守番をしていた人形達によると、それでも棚の物が落ちたりしたので、急いで片付けたとのことだった。
「……そう。ありがとう」
 いつものリビングに行くと、別のメイド服を着た人形がお茶を入れに行った。
「“ユタぐるみ”の補修でもするかな……」
 もはや所狭しと置かれている、ユタを象ったぬいぐるみ、“ユタぐるみ”。
 サイズやポーズは様々で、大中小ある。
「!」
 裁縫セットを持って来て、いざ作業に取り掛かろうとすると、壁に掛けられている鏡が光った。
(魔界からの緊急速報……)

〔「……こうなれば、もう理解してもらえただろう。我々は魔界における魔道師の地位向上を目的とする委員会だ」〕

 モニタと化した鏡には黒いローブを羽織り、フードを深く被った男が身振り手振りを交えて演説していた。
 演説者の背後には似た姿をした魔道師が2名、起立している。

〔「『お前は誰だ?どうやってこの地までやってきた?』……だが、我々の魔力によって、人間界がどうなるか」〕

 画面の中の男がパチンと指を鳴らした。
 直後に屋敷がユラユラと揺れる。

〔「今のは長野県北部地震の余震と、人間達は捉えるだろう。だが、そうではない。これは魔女狩りによって人間界を追い放たれた、我々の復讐である。人間界に在住する我が同志達よ。我々と共に戦い、語り、そして共に涙を流そうではないか」〕

「……フン」
 マリアは手近にあった魔法の杖を持ち、鏡に向けた。
 まるでテレビのスイッチを消すがの如く、画面が消えて、再び鏡はまた元の鏡に戻った。
(あれでは、ただのテロ集団じゃないか。そもそも、魔女狩りが行われなかった日本を襲うなど、ナンセンスにも程がある)

[12月8日11:00.埼玉県さいたま市大宮区 自治医大さいたま医療センター 稲生ユウタ、ユウタの母親、マリア、威吹邪甲]

 ユタはようやく退院することができた。
 とはいえ、まだ左手に包帯を巻いているので、しばらく通院は続く見通し。
「でも、年内までには完治できるそうよ。良かったね」
 母親が半分嬉し泣きのような顔になって言った。
「そう、だね」
(ユタにとっては、代償は大きかっただろう……。さすがに少し哀れになってきた)
 威吹はユタの荷物を持ちながら、親子の会話を聞いていた。
 医療センターのエントランスを出て、車寄せタクシー乗り場に向かう。
 タクシーの運転手がトランクを開けて降りて来たので、そこに荷物を入れた。
 威吹は助手席に乗る。
「中央区の◯◯◯まで、よろしく」
 威吹は運転手に行き先を告げた。
「はい」
 車が走り出した。
「父さんのお見舞いはいいの?」
 リアシートの真ん中に座るユタが、左隣に座る母親に聞いた。
「まずは帰ってからよ」
 ユタの父親は神奈川の病院に運ばれた後、さいたま市内の病院に転院した。
 しかし、そこはユタが入院していた病院とはまた別の病院だ。
 右隣に座るマリアは、少し俯き加減で思った。
(もしユウタ君のお父さんの巻き込まれた事故が、敵の魔法使いの仕業だと知ったら、どう思うだろうか……)
 ユタですら全て理解しているわけではないため、マリアがユタの両親からそういったテロ集団と同じ目で見られたらどうしようという不安だ。
 中東のイスラム過激派のせいで、イスラム教徒全員がジハードと称して自爆テロを起こすのと同じだという論である。
(そのユウタ君のケガを治せれば……)

[同日11:15.さいたま市中央区 ユタの家 上記メンバー、威波莞爾]

 タクシーが家に到着する。
 威吹は再び開けてもらったトランクから、荷物を取り出した。
「先生」
 家の中からカンジが出て来た。
「おう、カンジ。これを持って行け」
「はい」
 威吹はカンジに荷物を手渡した。
「僕、明日から大学行くから」
「無理しなくていいのよ。もう、今年度の単位は殆ど取ってるんでしょう?」
「まだ全部じゃないから」
 家の中に入る。
「マリアさん、ゆっくりしていってくださいよ」
「ありがとう」
「入院中、ユウタの世話、ありがとね」
 と、母親が礼を言うと、マリアははにかみながら、
「いえ……」
 と、小さく答えた。
「ケガが治ったら、また温泉行きましょうよ」
「あ、そのことなんだけど……。私、魔法で治してもいいかな……なんて……」
「魔法ですか?願ってもない話ですけど、さすがに『魔法で治しました』なんて病院に言っても、お医者さんに驚かれるだけですから。気持ちだけ頂いておきます」
「1番良かったのは、ユタが病院に担ぎ込まれる前に発見することだったんだがな」
 と、威吹。
「まあ、今さら言ってもしょうがない。ユタの世話でもしてればいい。……あ、そうそう。御母堂殿と御尊父殿に、魔界の同胞達のことはバレないようにするんだな」
「……ちっ。もう知ってるのか」
 マリアは不快な顔をして舌打ちをした。
「こっちには情報源があるんでね」
 威吹は懐から、“アルカディア・タイムス”を取り出した。
 そこには一面記事で、
『魔道師地位向上委員会、人間界に揺さぶりか?』『人間界に在住の魔道師にも参加を呼び掛け』『安倍首相、魔道師地位向上委員会をテロ組織に指定へ』
 と、大見出しから小見出しまで書かれていた。
 別のページには関連記事として、地位向上委員会の概要などが説明されていた。
 宮廷魔導師の職が廃止になって以降、魔界における魔道師の社会的地位も軒並み下落。
 それに危機感を覚えた委員長が委員会を結成し、王国政府に宮廷魔導師の復活を要請。
 その請願は見事に通ったものの、先鋭化した委員会は、矛先を魔界に追いやった人間界に向ける。
 集会所では、よくラテン語の愛唱歌が聞こえるという。
 実際、魔法を唱える時の詠唱はラテン語が多い。
「イエローペーパーの記事じゃないか。取るに足らん」
「声が震えてるぞ、マリア?」
「……!」
「別に、お前がユタの気持ちを受け止めている以上、敵に回るとは思っておらんよ。ただ、お前の周りの者達がどうか、だがな」
「エレーナも人間界で上手くやっている。それを捨ててまで、あのテロ活動に参加するとは思えない。師匠方もそうだ」
「分からんぞ。お前も、元々は人間界に恨みのあったクチだろう?」
「それはそうだが、私の復讐はもう完了している。大いなる後悔をもって。今の安穏を捨てて、あんなテロに参加する意義は、そもそも私には無い」
「お前はな。だが、他の魔道師はどうなんだって。如何にエレーナ達が安穏としているとはいえ、お前と同じように人間界に恨みを持って魔道師になったのだろう?」
「そうとは限らないさ。……まあ、神に見放されて、悪魔に救われたのは皆そうだと思うけど」
 そう言ってマリアは溜め息をついた。
「どうしようもない時に神に見放され、悪魔が代わりに救いの手を伸ばしてきたから、ついそれに縋ったさ。おかげで、神父達に追い回されるハメになった話は聞いているけど。私は違うけどね」
「今後、ユタが危険な目に遭う可能性は?」
「分からない。ただ1つ言えることは、ユウタ君にはもう仏の加護は無いということだ」
「心配いらん。仏の加護なんぞ無くても、オレ達で守ってあげればいいさ」
「まあな」
 そうは言いつつも、やはりマリアは不安を拭いきれなかった。
 この場に師匠イリーナがいないこと。
 それが何を意味するかを考えると……。

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