報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 メリー

2021-06-27 16:17:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日09:13.天候:晴 静岡県富士宮市 JR西富士宮駅]

〔ご利用頂きまして、ありがとうございました。まもなく終点の西富士宮、西富士宮に到着致します。お降りのお客様は、運賃、乗車券、回数券は整理券と一緒に駅係員にお渡しください。Toikaは駅の改札機にタッチしてください。整理券のみのお客様は、運賃と一緒にお降りになる駅で、駅係員にお渡しください。どなた様も、お忘れ物の無いようにお支度ください。まもなく終点の西富士宮、西富士宮です。今度の駅では、全てのドアから降りられます〕

 富士宮駅で多くの乗客が降りていった。
 富士駅を出てから富士宮駅に着くまで、乗客が増えていったのだが、富士宮駅から先は数えるほどしか乗客が残らなかった。

 稲生:「やっぱり市街地で皆、降りちゃうんだね」
 マリア:「まあ、オフィスはそういう所にあるだろうからね」

 電車は西富士宮駅のホームに入線した。

 

 ワンマン運転なのだが、運転士はいちいち車掌スイッチを操作してドア扱いをするのだから、停車しても実際にドアが開くまでのブランクがある。
 身延線はこの駅まで複線。
 ここから北は単線となり、本数もグッと少なくなる。
 もしも創価学会が臨時列車を多数運転させていなければ、この路線の本数はそんなに多くなかったであろう。
 電車を降りると、跨線橋を渡って改札口に向かう。

 稲生:「ここからタクシーで、佐野さんの御宅へ向かいます」

 田部井信徒の母方の親戚の家ということで、名字が違う。
 改札口は自動改札機が設置されてはいないが、ICカードの読取機だけは設置されていた。
 それにSuicaを当てて出場となる。
 どこにでもあるような地方ローカル線の有人駅といった感じの駅舎の外に出ると、すぐタクシー乗り場がある。
 そこからタクシーに乗り込んだ。

 稲生:「えーと……」

 稲生は運転手に佐野家の住所を伝えた。
 運転手はナビに住所を打ち込んでいく。

 運転手:「それじゃ、ナビの通りに行きますから」
 稲生:「お願いします」

 タクシーが走り出した。
 ルート的には、大石寺に向かう方向のようだ。
 東京圏では見かけなくなったプリウスのタクシーが、地方ではまだまだよく見られる。
 東京圏で見かけなくなった理由は【お察しください】。

 稲生:「いよいよ、御対面ですね」
 マリア:「うん」

 さすがのマリアも、そろそろ緊張してきたようだ。
 ミク人形とハク人形は、バッグの中から顔を出して窓の外を眺めていたが。

[同日09:30.天候:曇 同市内某所 佐野家]

 西富士宮駅から車で10分ほど走った所に、佐野家はあった。
 昔は豪農だったのだろうか。
 周囲は田んぼに囲まれている場所であったが、大きな母屋が特徴だった。
 タクシーはその家の前に止まった。
 そして、敷地内には問題となったであろう土蔵もあった。
 で、敷地内には車が何台か止まっているが、その中に赤いフェアレディZがあったので、田部井信徒もいることが分かる。

 田部井:「稲生君!マリアさん!来てくれましたか!」
 稲生:「田部井さん、おはようございます」
 田部井:「早く、こっちへ」

 蔵ではなく、母屋に案内された。
 人形は蔵から出されたのだろうか。

 稲生:「マリアさん、靴脱いで!」
 マリア:「おっと!」

 ずっと洋館にいたせいか、靴を脱いで過ごすことを忘れていたマリアだった。

 佐野:「ようこそ、おいでくださいました。私、佐野と申します」

 奥から屋敷の主人と思しき70歳くらいの老人が現れた。
 しかし、歳より若く見えるほど足腰はしっかりしている。
 農業で鍛えた体だからだろうか。

 稲生:「稲生です。あー、正証寺の御講とかでお見かけしたことがありましたかねぇ……」
 佐野:「あったかもしれませんね。いつも洋平がお世話になっております」
 稲生:「いえいえ、そんな……!」
 田部井:「伯父さん。この人がマリアさん。あの人形を鑑定……というか、透視をしてくれる人」
 マリア:「マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットです。早速、人形を見せてください」
 佐野:「奥に置いてあります。どうぞ」

 佐野に付いて行くと、仏間に着いた。
 家も立派なら、仏壇も立派なものだ。
 今は厨子が閉じた状態になっているが、開けようと思えば電動で開くタイプであった。

 佐野:「こちらなんですがね……」

 それは古い桐箱に入れられていた。
 そこには毛筆で何か書かれていた痕があるのだが、すっかり滲んでしまい、読み取ることはできない。
 しかも、元々の字が旧字体だったのだろうと思うほど解読不能だ。
 そのことから、旧字体が使われていた頃からあったのだとは言える。

 マリア:「うっ……!」
 稲生:「こ、これは……!」

 桐箱を開けると、そこには古く汚れた西洋人形が収められていた。
 その人形を見た瞬間、魔力の強いマリアは目まいに襲われ、稲生は言い知れぬ圧を感じた。

 稲生:「特徴が……『青い目の人形』に似てますね?」
 マリア:「ああ。ちょっと会話してみる……。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ……」

 マリアはダンテ一門オリジナルの呪文を唱えると、人形に手を触れた。
 次の瞬間、元々目を開けていた人形の目が、更にカッと見開かれた上、マリアだけがそこから暴風を受けたかのように、髪や服が大きく揺れた。

 マリア:「うっ……ううっ!……うう……!」

 マリアの頭の中に、この人形の言いたいことが全部流れ込んで来る。
 マリアの両目から涙が溢れて来た。

 稲生:「マリアさん!?」

 稲生はポケットからハンカチを取り出して、マリアに渡した。
 手を離したマリアが涙を拭きながら言った。

 マリア:「間違いない。この人形は1927年、アメリカから日本に寄贈された『青い目の人形』の1体だ……」
 田部井:「1927年!?今から約100年前の人形!?相当な値打物ですか!?」
 マリア:「この人形の名前はメリー。アメリカのパスポートも渡されていたはずだが、それは無い?」
 佐野:「いや、この箱の中に入っていたのはこの人形だけです」

 戦後、何十年も経ってから発見された青い目の人形は何体かあったが、パスポートまでセットで発見された個体は少ないという。

 マリア:「この人形は静岡中央女学園に寄贈されたものだという……」
 稲生:「静岡中央女学園。多分、今は名前が変わっているのでは?」
 佐野:「そうです。確か今は、静岡中央学園の中学校・高校になっているはずです。……ああ、それで思い出しました。私の母はそこの卒業生なんです」
 稲生:「静岡中央学園は、東京中央学園の姉妹校ですよ。この学校法人、元々は女学校から始まりましたから。その名残で、今も高等部は女子の方が数が多い」
 佐野:「おかしいですね。母は何も言っていませんでしたが……」

 佐野の母親は既に他界している為、本人から話を聞くことはできない。

 マリア:「もう少し詳しく話を聞いてみる」

 マリアは更に透視を続けることにした。

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