報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルの一夜」 2

2022-07-24 21:52:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日22:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル1Fロビー]

 最近の資料を読んでみて分かったのは、魔界王国アルカディアは隣国のミッドガード共和国との停戦条約を締結し、復興に向けて着々と準備が進められているということだった。
 ようやく復興に向けて進み出す矢先に、日本の安倍元総理が暗殺されて、遠い親戚の安倍春明首相も悲しみに暮れている……という所までは分かった。
 実際の所は、やはり魔王城もしくは政権与党の魔界共和党の本部に行かないことには分からないだろう。
 マリアは水晶玉を取り出し、これでイリーナとの交信を試みた。

 マリア:「師匠、こちらマリアンナです。応答願います。こちらマリアンナ、応答願います」
 エレーナ:「こいつの水晶玉交信、無線の通信と同じなんだぜ?」
 勇太:「そうだよねぇ……」
 マリア:「うるさい!……こちらマリアンナです。応答願います!」

 だが、いくら呼び掛けても、イリーナが弟子との通信に応じることはなかった。

 マリア:「師匠に何かあったのか?」
 エレーナ:「……か、もしくは、“魔の者”の通信妨害が入っているかだな」
 勇太:「僕のスマホは、普通に電波入るけど……。普通の電話は?」
 オーナー:「……は、キャンセルでございますか。……はい。大変残念ですが、この天候では致し方ございませんね。……はい。それでは、またのご利用をお待ちしております。……はい」

 フロントにいるオーナーが、キャンセルの電話を受けている。
 ……ので、電話線は無事のようである。

 勇太:「水晶玉の通信だけ妨害されてるのかな?」

 と、今度はエレーナの水晶玉が光る。

 エレーナ:「はい、ご利用ありがとうございます。“エレーナの魔女宅”です」

 エレーナ、副業で『魔女の宅急便』をやっているのだが、どうやらそこの顧客からだそうだ。

 エレーナ:「……はい、かしこまりました。……はい、それでは後ほど……はい」

 通信を切ると、また別の所から着信がある。

 エレーナ:「おう、マルコ組のベッキーか。何の用よ?あ?……はあ!?借金来月まで待ってくれだ!?フザけんな!テメェの魔法石、全部差し押さえんぞ、コラ!!」
 勇太:「怖っ!?」
 オーナー:「エレーナ!お客様の前で、借金の取り立てをするな!」

 さすがにオーナーに怒られるエレーナ。
 しかし、エレーナの水晶玉通信は異常無いようだ。
 ということは……。

 マリア:「やはり、師匠に何かあったのだろうか?」
 勇太:「試しに、他の魔道士に連絡してみたら?それでダメなら、“魔の者”の仕業だよ」
 マリア:「うーむ……」
 勇太:「ほら、ルーシーとかどう?」
 マリア:「ルーシーか……」

 マリアは試しにルーシーと通信を取ってみた。
 すると……。

 ルーシー:「おおーっ!マリアンナ、久しぶり~!!」

 水晶玉の向こうで満面の笑みを浮かべるルーシーの姿があった。
 これが直面であったら、欧米人らしく、互いにハグを交わすところだろう。

 マリア:「この前、勇太と新幹線乗ったぞ!」

 と、相手がルーシーならではの会話をする。

 エレーナ:「新幹線乗ったのか?」
 勇太:「うん。上越新幹線」
 エレーナ:「上越新幹線?こりゃまたマイナーな新幹線に乗ったもんだぜ」
 勇太:「“魔の者”からの監視を逃れる為の作戦なの。だからしょうがない」
 エレーナ:「そういうもんか」
 勇太:「そういうもんだよ」
 マリア:「勇太、ルーシーが来日したら、また新幹線とロマンスカーに乗せて欲しいと言ってる」
 勇太:「小田急ロマンスカーね。いいよ」
 エレーナ:「コロナ前、乗ったなー?」
 勇太:「そうだね。あの時は50000系だったか。だけどもう廃車になったから、また別の車両に乗ることになりそうだ」
 エレーナ:「色々とバリエーションがあるんだろうから、他のにも乗せてやると喜ぶだろうな」
 勇太:「そうかね」
 エレーナ:「因みに『ロマンスカー』は日本語だから、英語には訳せないぜ。エキゾチックな響きが、またいいんじゃないか」
 勇太:「あれ、和製英語だったのか」

 しばらくルーシーと話していたマリアだったが、ようやく話が終わった。

 マリア:「See you!bye!」
 エレーナ:「……マリアンナの水晶玉じゃなく、イリーナ先生の水晶玉がヤバいんじゃないか?」
 勇太:「と、いうことは……」
 マリア:「師匠、大丈夫だろうか?」
 エレーナ:「グランドマスターは殺しても死なないのが特徴だから、大丈夫なんじゃね?実はしれっとチェックインしてたりして?」
 オーナー:「今日の宿泊者名簿には無いね」
 エレーナ:「魔界でしれっと会えるんじゃね?」
 マリア:「一応、師匠は前そう言ってた」
 エレーナ:「ほらな。そこまで心配しなくても大丈夫だぜ」
 オーナー:「その通りだよ。とにかく、今日はもう休んで、明日に備えた方がいい。隣のレストラン、明日は予定通り、モーニングを営業するそうだからね」
 クロ:「あそこのカラス共、生意気で嫌いだニャ」
 勇太:「まあ、ネコとカラスは縄張りが被ってるからねぇ……」

 野良猫とカラスが、ゴミ集積場で餌の取り合いをしているのは日常茶飯事。
 作者達、警備員もビルの裏庭に巣を作ったカラスに襲撃されて困ったものだが、いつの間にか住み着いた野良猫が撃退してくれて助かった。
 具体的には親ガラスが留守の間、巣に侵入したネコが卵と雛を食い漁ったのである。
 正法信徒たる作者に怨嫉すると罰が当たるのは、何も人間だけではないらしい。

[同日22:30.天候:雨 同ホテル3F]

 エレベーターで客室のフロアの3階に上がる。

 マリア:「それじゃ勇太、おやすみ。明日は7時起きね?」
 勇太:「う、うん。あのさ、マリア」
 マリア:「なに?部屋なら行かないよ」
 勇太:「そっかぁ……」
 マリア:「今は“魔の者”に集中監視されているところだし、師匠のことも心配だ。明日魔界に行くのに、今はイチャイチャできないよ」
 勇太:「そうだよね。ゴメン」
 マリア:「いいよ。落ち着いたら、またゆっくり……ね」
 勇太:「うん」
 マリア:「それじゃ、おやすみ」
 勇太:「おやすみ」

 マリアは鍵を開けて、自分の部屋に入った。
 中に入ると、鍵を掛ける。

 マリア:「今度はバスタブに浸かるか」

 魔界ではバスタブに浸かれるかどうか分からない。
 王都アルカディアシティ以外の地方の市町村では、宿屋に泊まる時、風呂付きは追加料金を支払わないといけないくらいだ。
 なので、今のうちに浸かっておこうと思った。
 もっとも、安いビジネスホテルのバスタブなので、けして広いことはないのだが。
 お湯と水を両方出して、バスタブに湯に張る。
 溜まるまでの間、マリアはテレビを点けて時間を潰すことにした。

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