[7月14日07:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル3F客室]
マリアは昨夜、嫌な夢を見た。
それは勇太との結婚式に、イリーナも参列していたものの、何故だか微笑を浮かべたまま椅子に座って微動だにせず、式が進むにつれて体が透け始め、そして式が終了すると同時に消えて無くなってしまうというものだった。
マリア:「今の……何?」
目が覚めると、汗びっしょりになっていたので、起き上がると、冷蔵庫で冷やしておいたペットボトル入りの水を飲んだ後、バスルームに向かった。
マリア:「縁起でもない夢だ……」
そして、そこで全裸になると、シャワーを浴び始めた。
[同日08:00.天候:雨 ワンスターホテル1Fロビー→レストラン“マジックスター”]
着替えの終わったマリアが1階まで降りると、勇太がロビーで待っていた。
勇太:「やあ、マリア。おはよう」
マリア:「おはよう」
勇太:「今朝も凄い雨だよ」
マリア:「大変なことになる前に、私達は魔界に行った方がいいかもしれない」
勇太:「同感だ。でも、その前に朝食だね」
2人は連れ添って、レストランに向かった。
使い魔:「いらっしゃいませー」
レストランに行くと、浅黒い肌の女使い魔がウェイトレスの恰好をしてやってきた。
ホールスタッフはキャサリンの使い魔のカラスだが、モーニングの厨房担当は違うという。
朝食の時間帯だというのに、レストランには他に客はいない。
昨夜のディナーの時は、何組かの客がいたのだが……。
使い魔:「今朝はドリンクのみ、ドリンクバーです。朝食は今お持ちしますので、しばらくお待ちください」
勇太:「ありがとう。それじゃ、ドリンクを取ってこよう。マリア、ドリンクは何がいい?」
マリア:「……勇太に任せる」
勇太:「えっ?」
マリア:「勇太に任せる。私の好きそうなドリンクを取ってきて」
勇太:「マリアの好きなドリンク……」
マリア:「そう。お願い」
勇太:「分かったよ」
勇太は席を立つと、ドリンクバーに向かった。
しばらくして、勇太が戻って来る。
勇太:「マリアには、これでいいかな。ブラックコーヒー」
勇太はマリアの前に、ホットのコーヒーを置いた。
ミルクも砂糖も無い。
勇太:「マリアとは、これから大人の付き合いになるんだから、飲み物も大人っぽく……どうしたの?」
マリアは冷ややかな目で勇太を見た。
そして、手持ちの魔法の杖の頭を勇太に向ける。
マリア:「オマエは勇太じゃないな。何者だ!?」
勇太:「えっ?な、何言ってるんだよ?一体、どうしたの、マリア?」
マリア:「黙れ!この偽者!!」
マリアは立ち上がると、魔法の杖で勇太の頭を殴りつけた。
勇太:「ぎゃっ……!」
非力な魔道士のマリアにしては、レストラン内に鈍い音が響く。
勇太の頭が、かち割られたのだ。
その死体は床に崩れ落ちれると、たちまち融け始めた。
そして、最後には塵になって消えたのである。
マリア:「くっ!当日になって、こんな嫌がらせを……!」
その時だった。
勇太:「わーっ、ゴメンゴメン!マリア、寝坊しゃちゃって!もう食べてた!?」
マリア:「いや、まだこれからだよ。ところで勇太、寝坊のことは怒ってないから、頼みがある」
勇太:「何だい?マリアの為なら、何でもするよ」
マリア:「ありがとう。だけど、大したことじゃない。あそこのドリンクバーから、ドリンクを取って来て欲しいんだ」
勇太:「えっ?何がいいの?」
マリア:「勇太に任せる。私が好きそうなものを持ってきて」
勇太:「何だか難しそうだな。分かった。持って来るよ」
勇太は席を立った。
そして、しばらくして戻って来ると……。
勇太:「お待たせ。これでいい?」
勇太はマリアの前に、トマトジュースを置いた。
勇太:「朝は健康的にトマトジュース。オススメだよ」
マリア:「……2人目だからと油断すると思ったか?」
勇太:「えっ、何が?」
マリア:「ナメるな!偽者!!」
マリアは再び魔法の杖で、勇太の頭を殴りつけた。
元々は木製の魔法の杖だが、血を吸い取った杖は、頭の部分が赤く染まるという。
そして、2人も死体すら残さず消えたのである。
オーナー:「一体、何の騒ぎだ!?」
そこへ、オーナーが飛び込んで来た。
マリア:「オーナー、本物の勇太はどこですか?」
オーナー:「本物の稲生さん?どういうことです?」
マリア:「このレストランに来た勇太は、2人とも偽者でした。日本では、『2度あることは3度ある』と言いますでしょう?だからきっと、次に来る3人目も偽者だと思うのです」
オーナー:「『3度目の正直』という言葉もありますよ?」
マリア:「うーむ……」
オーナー:「次に来る3人目に賭けてみましょう。それでダメなら、対策を考えます」
すると、3人目の勇太がレストランの方からやってきた。
今度の勇太は、何だか不機嫌な顔をしている。
マリア:「何だよ、勇太?低血圧か?」
勇太:「そんなこと、どうでもいいよ。それより、キミに頼みがある」
マリア:「寝坊して頼みなんて、よく言えるな」
勇太:「寝坊なんかしていないよ。偽者のマリアに、さんざんっぱら振り回されたからね」
マリア:「はあ!?どの口が言うんだ!?私だって、さっきまで……!」
オーナー:「まあまあ、2人とも。夫婦喧嘩はダメですよ」
勇太:「まだ結婚しでません!」
マリア:「同じく!」
オーナー:「稲生さんのマリアさんに対する頼みって何ですか?しかも、マリアさんも稲生さんに頼みごとがあるようですが?」
勇太:「マリアに、そこにあるドリンクバーからドリンクを持って来て欲しいんだ。僕の好きそうな物を持って来てほしい」
マリア:「そっくり返すぞ!あんたも私にドリンクを持って来て!」
勇太:「先に頼んだのは僕だ!キミが持って来てくれ!」
マリア:「はあ!?寝坊したくせに何だ!偉そうに!」
オーナー:「まあまあ、2人とも!落ち着いて!じゃあ、こうしましょう。私が今から、アイマスクを持って来ます。これで片方ずつ目隠しをします。もう片方は、ドリンクバーから何を持って来るか、メモに書いてください。これでいいですね?」
勇太:「……オーナーがそう言うのでしたら」
マリア:「……分かりました」
まずはマリアがアイマスクで目隠しする。
その間、勇太はメモを書いた。
そしてそれを、オーナーに渡す。
オーナーは封筒に入れて、それを隠した。
次に勇太が目隠しをし、マリアがメモを書いてオーナーに渡す。
これもまた、封筒に隠した。
オーナー:「それじゃキミ、この封筒に書かれている飲み物を持って来てくれ」
使い魔:「かしこまりました」
メモを使い魔に渡すオーナー。
使い魔はドリンクバーに向かった。
互いに魔法の杖を構える魔道士2人。
使い魔:「お待たせしました。こちら、稲生様からマリア様へ、『紅茶のダージリンとアールグレイのブレンド』でございます」
マリア:「……!!」
使い魔:「こちら、マリア様から勇太様へ、牛乳でございます」
オーナー:「如何でしょうか?」
マリア:「……正解だ」
勇太:「やっと……本物のマリアだ……」
オーナー:「どうして正解なのですか?」
勇太:「マリアは屋敷では、いつもアールグレイとダージリンのブレンドを飲んでいるんです。朝だけですけどね。変な味になると思いますけど、それが却って目が覚めて良いと言うんです」
オーナー:「マリアさんは?」
マリア:「確かに勇太は朝、よくコーヒーを飲んでいます。私のメイド人形はその辺忠実ですので、素直にコーヒーを持って行くのですが、今回は『私が持って行くとしたら』ですよね?そしたら私は、牛乳を持って行きます。前々から言ってたんです。『コーヒーばっかり飲んでないで、たまには牛乳でも飲んで身長を伸ばせ』って」
勇太:「僕は牛乳が苦手だから……」
オーナー:「お互い、本物ということで宜しいですね。おめでとうございます」
勇太:「参りましたよ。マリアを部屋に迎えに行ったら偽者だったし、エレベーターで会ったのも偽者だったし……。これで、レストランにいるのも偽者だったらどうしようと思いましたよ」
オーナー:「しびれを切らした“魔の者”が、実力行使に出てきているということですね。気をつけましょう」
こうして2人の魔道士は、ようやく朝食に有りつけたのである。
マリアは昨夜、嫌な夢を見た。
それは勇太との結婚式に、イリーナも参列していたものの、何故だか微笑を浮かべたまま椅子に座って微動だにせず、式が進むにつれて体が透け始め、そして式が終了すると同時に消えて無くなってしまうというものだった。
マリア:「今の……何?」
目が覚めると、汗びっしょりになっていたので、起き上がると、冷蔵庫で冷やしておいたペットボトル入りの水を飲んだ後、バスルームに向かった。
マリア:「縁起でもない夢だ……」
そして、そこで全裸になると、シャワーを浴び始めた。
[同日08:00.天候:雨 ワンスターホテル1Fロビー→レストラン“マジックスター”]
着替えの終わったマリアが1階まで降りると、勇太がロビーで待っていた。
勇太:「やあ、マリア。おはよう」
マリア:「おはよう」
勇太:「今朝も凄い雨だよ」
マリア:「大変なことになる前に、私達は魔界に行った方がいいかもしれない」
勇太:「同感だ。でも、その前に朝食だね」
2人は連れ添って、レストランに向かった。
使い魔:「いらっしゃいませー」
レストランに行くと、浅黒い肌の女使い魔がウェイトレスの恰好をしてやってきた。
ホールスタッフはキャサリンの使い魔のカラスだが、モーニングの厨房担当は違うという。
朝食の時間帯だというのに、レストランには他に客はいない。
昨夜のディナーの時は、何組かの客がいたのだが……。
使い魔:「今朝はドリンクのみ、ドリンクバーです。朝食は今お持ちしますので、しばらくお待ちください」
勇太:「ありがとう。それじゃ、ドリンクを取ってこよう。マリア、ドリンクは何がいい?」
マリア:「……勇太に任せる」
勇太:「えっ?」
マリア:「勇太に任せる。私の好きそうなドリンクを取ってきて」
勇太:「マリアの好きなドリンク……」
マリア:「そう。お願い」
勇太:「分かったよ」
勇太は席を立つと、ドリンクバーに向かった。
しばらくして、勇太が戻って来る。
勇太:「マリアには、これでいいかな。ブラックコーヒー」
勇太はマリアの前に、ホットのコーヒーを置いた。
ミルクも砂糖も無い。
勇太:「マリアとは、これから大人の付き合いになるんだから、飲み物も大人っぽく……どうしたの?」
マリアは冷ややかな目で勇太を見た。
そして、手持ちの魔法の杖の頭を勇太に向ける。
マリア:「オマエは勇太じゃないな。何者だ!?」
勇太:「えっ?な、何言ってるんだよ?一体、どうしたの、マリア?」
マリア:「黙れ!この偽者!!」
マリアは立ち上がると、魔法の杖で勇太の頭を殴りつけた。
勇太:「ぎゃっ……!」
非力な魔道士のマリアにしては、レストラン内に鈍い音が響く。
勇太の頭が、かち割られたのだ。
その死体は床に崩れ落ちれると、たちまち融け始めた。
そして、最後には塵になって消えたのである。
マリア:「くっ!当日になって、こんな嫌がらせを……!」
その時だった。
勇太:「わーっ、ゴメンゴメン!マリア、寝坊しゃちゃって!もう食べてた!?」
マリア:「いや、まだこれからだよ。ところで勇太、寝坊のことは怒ってないから、頼みがある」
勇太:「何だい?マリアの為なら、何でもするよ」
マリア:「ありがとう。だけど、大したことじゃない。あそこのドリンクバーから、ドリンクを取って来て欲しいんだ」
勇太:「えっ?何がいいの?」
マリア:「勇太に任せる。私が好きそうなものを持ってきて」
勇太:「何だか難しそうだな。分かった。持って来るよ」
勇太は席を立った。
そして、しばらくして戻って来ると……。
勇太:「お待たせ。これでいい?」
勇太はマリアの前に、トマトジュースを置いた。
勇太:「朝は健康的にトマトジュース。オススメだよ」
マリア:「……2人目だからと油断すると思ったか?」
勇太:「えっ、何が?」
マリア:「ナメるな!偽者!!」
マリアは再び魔法の杖で、勇太の頭を殴りつけた。
元々は木製の魔法の杖だが、血を吸い取った杖は、頭の部分が赤く染まるという。
そして、2人も死体すら残さず消えたのである。
オーナー:「一体、何の騒ぎだ!?」
そこへ、オーナーが飛び込んで来た。
マリア:「オーナー、本物の勇太はどこですか?」
オーナー:「本物の稲生さん?どういうことです?」
マリア:「このレストランに来た勇太は、2人とも偽者でした。日本では、『2度あることは3度ある』と言いますでしょう?だからきっと、次に来る3人目も偽者だと思うのです」
オーナー:「『3度目の正直』という言葉もありますよ?」
マリア:「うーむ……」
オーナー:「次に来る3人目に賭けてみましょう。それでダメなら、対策を考えます」
すると、3人目の勇太がレストランの方からやってきた。
今度の勇太は、何だか不機嫌な顔をしている。
マリア:「何だよ、勇太?低血圧か?」
勇太:「そんなこと、どうでもいいよ。それより、キミに頼みがある」
マリア:「寝坊して頼みなんて、よく言えるな」
勇太:「寝坊なんかしていないよ。偽者のマリアに、さんざんっぱら振り回されたからね」
マリア:「はあ!?どの口が言うんだ!?私だって、さっきまで……!」
オーナー:「まあまあ、2人とも。夫婦喧嘩はダメですよ」
勇太:「まだ結婚しでません!」
マリア:「同じく!」
オーナー:「稲生さんのマリアさんに対する頼みって何ですか?しかも、マリアさんも稲生さんに頼みごとがあるようですが?」
勇太:「マリアに、そこにあるドリンクバーからドリンクを持って来て欲しいんだ。僕の好きそうな物を持って来てほしい」
マリア:「そっくり返すぞ!あんたも私にドリンクを持って来て!」
勇太:「先に頼んだのは僕だ!キミが持って来てくれ!」
マリア:「はあ!?寝坊したくせに何だ!偉そうに!」
オーナー:「まあまあ、2人とも!落ち着いて!じゃあ、こうしましょう。私が今から、アイマスクを持って来ます。これで片方ずつ目隠しをします。もう片方は、ドリンクバーから何を持って来るか、メモに書いてください。これでいいですね?」
勇太:「……オーナーがそう言うのでしたら」
マリア:「……分かりました」
まずはマリアがアイマスクで目隠しする。
その間、勇太はメモを書いた。
そしてそれを、オーナーに渡す。
オーナーは封筒に入れて、それを隠した。
次に勇太が目隠しをし、マリアがメモを書いてオーナーに渡す。
これもまた、封筒に隠した。
オーナー:「それじゃキミ、この封筒に書かれている飲み物を持って来てくれ」
使い魔:「かしこまりました」
メモを使い魔に渡すオーナー。
使い魔はドリンクバーに向かった。
互いに魔法の杖を構える魔道士2人。
使い魔:「お待たせしました。こちら、稲生様からマリア様へ、『紅茶のダージリンとアールグレイのブレンド』でございます」
マリア:「……!!」
使い魔:「こちら、マリア様から勇太様へ、牛乳でございます」
オーナー:「如何でしょうか?」
マリア:「……正解だ」
勇太:「やっと……本物のマリアだ……」
オーナー:「どうして正解なのですか?」
勇太:「マリアは屋敷では、いつもアールグレイとダージリンのブレンドを飲んでいるんです。朝だけですけどね。変な味になると思いますけど、それが却って目が覚めて良いと言うんです」
オーナー:「マリアさんは?」
マリア:「確かに勇太は朝、よくコーヒーを飲んでいます。私のメイド人形はその辺忠実ですので、素直にコーヒーを持って行くのですが、今回は『私が持って行くとしたら』ですよね?そしたら私は、牛乳を持って行きます。前々から言ってたんです。『コーヒーばっかり飲んでないで、たまには牛乳でも飲んで身長を伸ばせ』って」
勇太:「僕は牛乳が苦手だから……」
オーナー:「お互い、本物ということで宜しいですね。おめでとうございます」
勇太:「参りましたよ。マリアを部屋に迎えに行ったら偽者だったし、エレベーターで会ったのも偽者だったし……。これで、レストランにいるのも偽者だったらどうしようと思いましたよ」
オーナー:「しびれを切らした“魔の者”が、実力行使に出てきているということですね。気をつけましょう」
こうして2人の魔道士は、ようやく朝食に有りつけたのである。
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