報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

夜中の更新

2013-07-24 02:22:09 | 日記
 “ボカロマスター”より。 レンによる敷島刺殺未遂事件、ミクと南里の視点で。

[02:00.南里研究所“ボカロ居住スペース・ミクの部屋” 初音ミク]

 『充電が完了しました』
 多分わたし専用の監視盤のモニタには、そう表示されたと思います。
 研究所の奥のスペースで、わたし達ボーカロイドは充電しているのですが、大抵は夜中に充電は完了します。
 夜間電力で充電する方が、経費も安く済むのですね。で、本来なら充電が完了しても、わたし達はタイマー設定で朝まで“寝ている”ことになっているのですが、どうやらわたし、設定するのを忘れてしまったようです。
 でも、慌てることはありません。それなら、改めて設定すればいいことです。そうしようと思いました。
 ただ、その前に……。私はそっと、部屋を抜け出しました。

[02:10.南里研究所・給湯室 初音ミク]

 消灯時間の研究所はとても暗いのですが、わたし達には暗視カメラが付いているので、明かりの心配はありません。ただ、暗視機能使用中は目が鈍い光を放つので、人間の皆さんにとっては少し不気味なようです。
 ここに来た理由は……うふふ♪
 たかおさんに、差し入れのクッキーを焼いたんです。わたし達の為にミュージカルの全国公演まで取り付けてくれたおかげで、とても有名になれたんですから。ささやかな気持ちです。
 本当なら日付の変わる前に渡したかったんですが、あいにくとたかおさん達はミュージカル全国公演の大成功を祝った打ち上げに行ってしまって、まだ帰ってこないんです。
 でも今は夏じゃないし、今日中には帰ってきてくれるから、ここに常温保存してても大丈夫だよね。
 ……あっ、そろそろ戻らないと。実は所内には監視カメラとセンサーが取り付けられてて、夜更かしして部屋以外の場所にいるとエミリーがやってきて怒られちゃうんです。
 その時でした。外から救急車のサイレンの音が聞こえてきたんです。でも、それだけなら、そんなに気にも留めなかったでしょう。程無くして、パトカーのサイレンの音もしたのです。
 何か、事件でもあったのでしょうか?

「むう……、初音ミクや。お前も、何か異変を感じたのか?」
「は、博士」
 研究所の窓から外を覗こうとすると、突然背後から声を掛けられました。振り向くと、南里博士がパジャマ姿でそこにおられました。
「実は先程、エミリーが突然飛び出して行ってな。何か、緊急事態が起きたようじゃが……」
「わ、わたし、見て来ます!」
 わたしも研究所を飛び出しました。

[02:30.市道・南里研究所間アプローチ坂 初音ミク]

 博士の予感通り、大変な事態が起きたようでした。救急車が1台とパトカーが3台もいて赤ランプを光らせ、近所の人達も見に来ていて物々しい雰囲気です。
「初音ミク……」
 そしてそこにエミリーがいました。私の姿を見て、とても悲しそうな顔をしたのです。
 ちょうど、救急隊員の人達が誰かをストレッチャーに乗せたところでした。その人がいたと思われる場所には、おびただしい多量の血痕が残っています。
「初音ミク。すまない。間に合わなかった……」
 エミリーが申し訳無さそうに、わたしに言いました。
 救急車に乗せられようとしているのは……!

 違う!あの人は違う!きっとわたしの対人認識機能が不具合を起こしたんだ!わたしの知ってるたかおさんは、あんなに白い顔をしてない!
 きっと、あんまりお酒が飲めなかったんだね。それとも、飲み過ぎて倒れちゃったのかな?
 違う。飲み過ぎて、血なんか吐いたりしないわ。飲み過ぎて、胸から血を流したり……ううッ……いやだよぉ……たかおさん……死んじゃやだよぉぉぉ!!

「いやぁぁぁっ!たかおさぁぁぁん!!」
「初音ミク!落ち着け!」
 エミリーがわたしを制止してくれました。でも……でもっ……!!

[2:45.同場所 南里志郎]

 大変なことが起きたものじゃ。初音ミクは大声で叫んだ後、シャット・ダウンしてしまった。あるいは、制止したエミリーが強制的にそうしたのか……。いずれにしても、その方が良いだろう。
 近くには同じく電源の切れた鏡音レンがうつぶせで倒れており、こちらは強制的に切られているようだった。彼のすぐそばには、血の付いたナイフ。むむ……さては、あれが凶器か。そして敷島君は被害者で、恐らく加害者は……。
「どなたか、付き添いの方はいらっしゃいますか?」
 わしが状況を把握しているところへ、救急隊員が話し掛けて来た。
「あ、私が行きます」
 遅くまで打ち上げに参加していて、今夜は研究所に宿泊していた赤月君が申し出た。
「もう、酔いは醒めたのかね?」
「こんな事態に遭遇したら、一発で醒めるに決まってるじゃないですか」
「ふむ……。それで救命士君、搬送先は決まったのかね?」
「泉北病院です」
「よろしい。そこなら安心じゃ」
 泉北病院の院長とは昔馴染みだ。今となっては総合病院に成長しているが、開業当時は外科医院だった所である。そのため、今でも外科に強い病院としての評判を聞いている。
 無論、院長たる友人は昼間の勤務だけで、当直は部下に任せておるだろうが。

 ようやく救急車が病院に向けて出発した。しかし、わしはその後も警察の事情聴取などに応じなくてはならず、結局病院に駆け付けた時には、既に手術が終わった後だった。

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