報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「夜の東京を往く」

2018-04-29 10:27:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月8日22:45.天候:晴 東京都大田区羽田空港 羽田空港国際線ターミナル]

 中東からの航空便に乗って来た客達がぞろぞろと到着ロビーに姿を現す。
 そこからやってきただけあって、浅黒い肌をした者達が多い。
 もちろん、日本のビジネスマンと思しき者達も多々見られる。
 その中に、白人のイリーナはいた。

 稲生:「先生、お疲れ様です!」
 マリア:「殺しても死なない方だということは十分分かっていますが一応……よく御無事で」
 イリーナ:「ありがとう。いやー、やっぱり日本はいいねぇ……。“魔の者”もここまでは追って来れないからねぇ……。正にパラダイスだよ」

 イリーナはフードを取って言った。
 赤い髪が目立つ。

 稲生:「……あの、大師匠様は?」
 イリーナ:「ああ。ダンテ先生なら、先に行かれたよ」
 マリア:「ええっ!?」
 イリーナ:「私は後から飛行機で来ればいいって言ってね。ルゥ・ラで軽々と行かれたよ」
 稲生:「す、凄いですね……。ルゥ・ラで魔界まで……」
 イリーナ:「この流派の創始者だからね、何でもできるのよ。何でもね……」

 ふと一瞬、イリーナは遠い目をした。

 マリア:「何でも、ですか……。それじゃ……」
 イリーナ:「ん?」
 マリア:「勇太にストーキングしている悪霊を祓うことはできますか?」
 イリーナ:「あー、何か霊気を感じるなと思ったらそれか。……女の子の幽霊?勇太君、モテモテだねぇ……。うちの流派に入って良かったでしょ?」
 稲生:「は、はあ……」
 マリア:「おい」
 稲生:「あ、もちろん、マリアさんと一緒になれて……という意味ですよ!?」
 イリーナ:「ま、それについては追々何とかしましょう」
 稲生:「先生?」
 イリーナ:「それより早く、ワンスターホテルに行きましょう。そこの魔法陣から行けば、魔王城直行だから」
 稲生:「分かりました。それではハイヤーを……」
 マリア:「師匠しかいないんだから、電車でいいんじゃない?」
 イリーナ:「あのね……。でもまあ、勇太君の好きにしていいよ。お金ならあるし」

 イリーナはローブの中からインゴッドをチラリと見せた。

 稲生:「うわ……そんなに!?」
 イリーナ:「これでもまだほんの一部ね。そうね……今私の持っている大きさだと、今の金相場で500万円ってところかしら」
 稲生:「タクシー代、それで払えと?」
 マリア:「相変わらずの無茶ぶりですね」
 イリーナ:「冗談だお。カードならあるよ?」
 マリア:「最初からそう言ってください」

 3人はタクシー乗り場からタクシーに乗って向かうことにした。

[4月8日23:00.天候:晴 羽田空港国際線ターミナル タクシー乗り場→タクシー車内]

 意外と賑わうタクシー乗り場。
 もう電車も無くなりつつあるからか。
 あっても、もうそんなに遠くまで行く電車は無いほどだ。
 稲生達がもし電車で行こうとしても、それは事実上の終電車かその1つ前といったところとなる。

 イリーナ:「私はグランドマスターの中でも、タッパだから黄色いタクシーでいいよ」
 稲生:「今のところ、並んでいるタクシーにそれは無いですねぇ……」

 法人タクシーで黒塗りのハイグレード車両だ。

 イリーナ:「黒塗り?何だか、VIPだねぇ……」
 稲生:「僕達にとって、先生はVIPです」
 マリア:「ロンドンタクシーだって黒塗りですけど、別に高級ってわけじゃないでしょう?」

 2人の弟子は呆れてタクシーに乗り込んだ。
 イリーナを運転席の後ろに押し込む。

 イリーナ:「黒って魔女の色だもんね」
 マリア:「いや、だからぶっちゃけ魔女でしょ?私達」

 その時、マリアは僅かにイリーナの体から酒の臭いがしたのに気づいた。
 どうやら機内で飲んだらしい。
 助手席に乗った稲生は……。

 稲生:「えー、江東区森下までお願いします」
 運転手:「高速は通りますか?」
 稲生:「はい、お願いします」

 3人の魔道師を乗せたタクシーが走り出す。

 イリーナ:「あら、やぁねぇ。憑いて来ちゃってるわ」
 マリア:「マジですか?」
 イリーナ:「マジで。困ったねぇ。いくらクラウンセダンが(乗客)4人乗りとはいえ、勝手に便乗されちゃあねぇ……」
 マリア:「師匠、何とかしてくださいよ」
 イリーナ:「大丈夫。まだ何かしてくるわけじゃないよ。それに……私はまだ事情を聞いてないんだけどね」
 稲生:「そ、そうでしたね」

 稲生は振り向いてイリーナに話そうとした。

 イリーナ:「いや、いいよ。マリア。あなたは聞いてるんでしょう?あなたから聞かせてくれない?」
 マリア:「は、はあ……」

 マリアは河合有紗の幽霊について話した。
 尚、途中から嫉妬の感情が混じっていたことだけは話しておく。

 イリーナ:「……うん、なるほど」

 イリーナは右手を顎にやって考えた。
 尚、稲生に説明させなかったのは、稲生にとっては良い思い出があっただろうから、それを込めて話されると、マリアがキレるからだと思ったのである。

 イリーナ:「うーん……。恋愛感情が込み入ると、生きている人間でさえストーカーになるくらいだからね。ましてや、死んだ人間が幽霊化するなんてよくあることだよ」
 稲生:「先生、どうしたら良いものでしょうか?」
 イリーナ:「私がいるうちは、もう安心。だから、心配しなくてもいいのよ」
 稲生:「どうか、よろしくお願いします」
 マリア:「それで師匠、河合有紗の遺骨を盗んだヤツというのに心当たりはありませんか?私はネクロマンサーの類だと思うのですが……」
 イリーナ:「うちの流派にも、ネクロマンサーのジャンルを得意としている組があるね。その人達に当たってみる?」
 稲生:「まさか、その人達が犯人ってんじゃ……?」
 イリーナ:「だったら却って面白いことになるんだけどね。でも、それは無いわ。私の知ってる限り、欧米しか活動していないから。中国のキョンシーとか、研究してみたら面白いものもあるだろうに……。まあ、東アジア魔道団が張ってるから、それは無理か。中東ですらギリだったもんね」
 マリア:「いや、中東って、思いっ切りアジアです」

 とにかくイリーナが警戒していないところをみると、本当に大丈夫なのだろう。
 稲生はホッとして前を向いた。
 タクシーは夜の首都高をひた走る。

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