報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「魔女の慟哭」

2019-05-30 19:06:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日20:30.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル1F会議室]

 会議室でしばらく待っていると、やっと誰かが入って来た。
 それはイリーナとエレーナ。

 エレーナ:「よお、稲生氏。無事で良かったな」
 イリーナ:「さすがは勇太君だわ。マリアを助けてくれてありがとね」

 エレーナはコーヒーと紅茶をテーブルに置いた。

 エレーナ:「紙コップの自販機のヤツで申し訳ないですけど……」
 イリーナ:「いいのよ。ありがとう」

 イリーナとエレーナも椅子に座った。

 稲生:「先生、一体僕達はどんな目に遭ったんでしょうか?まるで、夢の中の世界みたいだ……」
 エレーナ:「あいにくと夢じゃないぜ。ネットのニュースやなんかじゃ、ずっと銃撃事件で持ちきりだ」
 稲生:「やっぱり……」
 エレーナ:「何しろあの銃撃に巻き込まれたのは、稲生氏達だけじゃないからな」
 稲生:「僕達だけ……ああっ!?」

 その時、稲生は思い出した。
 あの場には、他にも下山バスに乗る為に第2ターミナルに向かっていた信徒達がいたことを。

 エレーナ:「“魔の者”は稲生氏やマリアンナなどを狙った。別に他の人間が巻き込まれたって、そんなのは関係無いってことさ」
 稲生:「そ、それでマリアさんは!?」
 イリーナ:「勇太君に押し倒された時に少しケガをしたけど、別にそれは勇太君のせいじゃないからね。私の回復魔法で簡単に回復できたから。それは心配しないで。逆にそうしてくれなきゃ、マリアも頭に銃弾を受けて死んでたからね」
 エレーナ:「マリアンナはルーシーと同じ部屋に入れてある。ルーシーのヤツは顔に銃弾を受けて、瀕死の重傷だったぜ。それもイリーナ先生が全快魔法で治したけどな。そこはさすがグランドマスターだぜ」
 イリーナ:「おかげで今、MPはスッカラカン。ルゥ・ラも使って離脱したしね」
 稲生:「ゼルダとロザリーは?」
 イリーナ:「……地獄に堕ちた、と言えば意味は分かる……よね?」
 稲生:「そんな……!魔道士は殺しても死なないって聞いたのに……!」
 イリーナ:「それは私くらいになれば、の話よ。だったら、北海道でも“魔の者”の眷属に襲われた時、あんなに苦労しなくて済んだじゃない」
 稲生:「そ、それもそうですね……」
 エレーナ:「あの2人は稲生氏より先に目を覚ましたんだが、ゼルダとロザリーが死んだと聞いて、わんわん泣いてたぜ。さすがの私も、少しもらい泣きだぜ」
 稲生:「先生!“魔の者”は日本に侵入できないんじゃ!?」
 イリーナ:「恐らくあれも眷属か何かだったのでしょう。魔界や北海道でのやり方じゃ私達に負けたから、エレーナの時みたいに直接攻撃に来たみたいね」
 エレーナ:「その方法でも私に先に負けたから、もう2度として来ないと思ったんだけどな。ただ、逆を言えば、奴らの手法もいっぱいいっぱいにはなってるということたぜ」
 稲生:「奴ら?」
 イリーナ:「もしかしたらね、“魔の者”は複数いるかもしれないの。それぞれがどれだけの眷属を抱えているかは知らないけど……」
 エレーナ:「眷属ってのは色々な奴らがいる。どっからどう見ても人間ってのもいるしな。私が戦ったマフィアのボスもそうだった。あれはただの人間。但し、“魔の者”から力を与えられた化け物となった人間さ。そういうのもいるんだ。今回も水晶球で見た限りでは、普通の人間に眷属が憑依したものだと思うがな」
 イリーナ:「取りあえず、そいつらは倒しておいたわ。でも、ただの眷属ではなかったみたい」
 稲生:「どういうことですか?」
 イリーナ:「私もよくは分からないんだけど、強化された眷属とでも言うのかな……」
 稲生:「強化された眷属???」
 エレーナ:「“魔の者”も早く日本に行きたいんだぜ。だけど当然、今のままじゃどうしても無理だから、自分が強くならないといけないって考えたんだろうな。で、必然的に眷属も強くなったってわけだ。眷属は中途半端に強く、中途半端に弱いから奴らは入国できる。いずれは来るだろうなと思っていたけど、まさかあそこで襲って来るなんてな。さすがに想定外だぜ」
 イリーナ:「マリアとルーシーは今晩ここに泊まらせてあげましょう。まだあのコ達、ショックで放心状態だから」
 稲生:「! 鈴木君は?!」
 イリーナ:「鈴木君もまた軽傷で済んだわ。よく2人も助けられたわね。魔法も使わずに……」
 稲生:「あの時は無我夢中で……」
 エレーナ:「お手柄だぜ。表彰モノだぜ」
 イリーナ:「勇太君はどうする?」
 稲生:「えっ?」
 イリーナ:「家に帰る?もちろん埼玉の方よ。それともここに泊まる?」
 エレーナ:「私としては泊まって行って欲しいぜ」
 稲生:「……いえ、僕は1度家に帰ります。その前に正証寺に行ってからですが……」
 イリーナ:「そう。それもいいかもね。もしかしたら、御両親も心配してるかもしれないから」
 稲生:「明日、また来ます」
 イリーナ:「そうしてね」
 稲生:「先生もお泊りですか?」
 イリーナ:「私はルーシー達の先生に会ってくるわ。日本を拠点とする組の責任者が、ちゃんと説明しなきゃね」
 エレーナ:「エーテル、先生にならお安くお譲りします」

 MPを回復させる薬として有名である。

 イリーナ:「それはありがとう」

 そして、肝心なことを稲生は聞いた。

 稲生:「先生。先生ほどの御方なら、あの事件のことを予知できたんじゃないですか?」
 イリーナ:「そう。できたわ」
 稲生:「どうしてもう少し早く来て頂けなかったんですか?」
 イリーナ:「……ゴメン。寝坊した」
 稲生:「は!?」
 イリーナ:「予知夢でもって、“魔の者”の襲撃は分かったのよ。だけど目が覚めた時、事件発生5分前だったから間に合わなかったのよ。ゴメンね」

 そういうこともあるのかと稲生は驚くやら呆れるやら……。
 いずれにせよ、命運というのはなかなか変えられないものだと稲生は思った。

 稲生:(どうやら僕にはまだ使命があるらしい。大聖人様、ありがとうございます)

 稲生は大聖人に心の中で感謝を想いを伝えると、ホテルを出て森下駅に向かった。

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