報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔の者の奇襲」

2019-05-30 15:11:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日14:30.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗・大石寺]

 エレーナ:「取りあえず私も身を隠す!稲生氏も逃げるんだぜ!」

 電話の向こうでエレーナも訴え返してくる。

 稲生:「何で僕も!?僕は夢の中で戦っていないよ!?」
 エレーナ:「夢ってのはな、見たヤツ主観のストーリーだぜ?マフィアの場合、例え無関係の人間でも秘密を見た者は全員抹殺だ!稲生氏はマフィアのボスと私が戦っている所を見たんだから、十分抹殺対象だ!」
 稲生:「言ってる意味がよく分かんない!だって夢の中の話だよ!?」
 エレーナ:「いいから早く逃げろ!マフィアのボス、“魔の者”を倒した時刻がまもなくだ!」
 稲生:「ええっ!?」

 そこで電話が切れた。

 マリア:「どうした!?」
 稲生:「ぼ、僕も殺される……!狙われてるのはエレーナだけじゃない……!」
 マリア:「何だって!?」
 鈴木:「先輩!正法を護持している俺達が横死するわけが……!」
 稲生:「じゃあ、あれは何だ!?」

 稲生は熱原三烈士の墓碑を指さした。

 稲生:「正法に縁してるから殺されないって保証は無いんだ!」
 鈴木:「あ……!」
 マリア:「私が師匠に助けを呼んでみる!」
 稲生:「お願いします!」

 マリアは水晶球を取り出した。

 マリア:「師匠!師匠!こちらマリアンナです!応答願います!」
 鈴木:「無線交信みたい」
 稲生:「シッ!」
 マリア:「師匠!師匠!こちらマリアンナです!応答願います!」

 だが、水晶球はうんともすんと言わなかった。
 ただ、テレビ画面の砂嵐みたいなものは映っていたので、水晶球やマリアの魔法に問題があるわけではないようだ。

 ルーシー:「くっ、ここは寺の境内よ。もしかしたら、魔法が制限されているのかも……!」
 マリア:「そ、そうか!」
 鈴木:「じゃあ、早いとこ境内から出ないと!今なら下山バスにも乗れる!」
 稲生:「そうか。バスなら他にも信徒さん達が乗っているから、“魔の者”も手出しはできないかもしれない!」

 ここでの稲生達のミス、まずは仏力法力まします本門戒壇の大御本尊から離れたこと。

 稲生:「早くこっちへ!」

 稲生は下山バスが発車する第2ターミナルへ魔女達を誘導した。

 鈴木:「急げば10分くらいで到着できるはずだ!」

 次の稲生達のミスは、大石寺の境内が南北に分離されていることを知ってか知らずか……。
 信徒達の感覚ではまさか大石寺の境内が南北に分離されているとは思わないだろう。
 だが、実際は分離されている。
 その境目はどこか?

 稲生:「この国道を渡って向こう側に第2ターミナルがあります!」
 鈴木:「幸いタクシーもいる!いざとなったらあれで!」

 車が行き交う国道。
 オレンジ色のセンターラインが引かれた片側一車線の、どこにでもある地方の国道の雰囲気である。
 そこへまた稲生の頭に、エレーナとのやり取りが思い出された。
 もっとも、それは先ほどの電話ではない。
 雑談の中でエレーナが、自分が“魔の者”と戦った時の話をぼんやり聞いた時のことだ。

 エレーナ:「“魔の者”の調査をしにニューヨークの町を歩いていたら、いきなり近づいてきたマフィアの車から銃撃を受けてだなぁ……。それで私は確信したんだぜ。『ああ、こいつら締め上げたら“魔の者”の所まで行ける』ってな」
 稲生:「そのマフィアの車とは?」
 エレーナ:「聞いて驚け。何と、ニューヨークのイエローキャブに化けていたんだ。まさか、イエローキャブにマフィアが乗ってるとは思わないだろ?あれは油断したなぁ……」

 国道を横断する為に行き交う車が途切れるのを待っていた稲生達。
 そこへやってくる1台のタクシー。
 地元では見かけない黄色のタクシーだった。

 稲生:「!!! わああああああっ!!」

 稲生は思わずマリアと鈴木を両手で抱き抱えて、地面に伏せた。
 ここからはよく映画やドラマにあるスローモーションをイメージして頂きたい。
 減速したタクシー(のような車)のリアシートのガラスがスーッと開いて、そこからスッと出されるマシンガンの銃口。
 そこから吹いた弾の先は回避行動を取らなかった魔女3人。
 上がる血しぶき!
 上がる目撃者の悲鳴!
 昔の足踏み式ミシンの音のようなマシンガンの発砲音!
 そこから先の稲生の記憶はボヤける。
 まるで、夢の世界のように。

 イリーナ:「このクソ野郎ども!何てことを!!」

 ぼんやり虚空を眺める稲生の耳にイリーナの怒声と攻撃魔法と共に大爆発の起きる音を聞いて、稲生の記憶は途切れる。

[同日20:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 稲生:「う……」

 次に稲生が目が覚めた時はベッドの上だった。
 最初は病院のベッドかと思ったが全く違う。
 見覚えのある風景が広がっていた。

 稲生:(ワンスターホテルの部屋!?……え、何で!?)

 周りを見渡すと、ライティングデスクの上にメモ書きが置いてあった。
 それはエレーナが書いたものだった。
 流暢な日本語で書いてある。

 『よお、稲生氏?目は覚めたか?あなたは軽傷で済んだ。ケガはイリーナ先生が治してくれたぜ。詳しい話を聞きたかったら、1階まで来てくれ』

 稲生:「1階……」

 稲生はデスクの上の鍵を取ると、部屋を出た。
 部屋番号はこの前宿泊した部屋と同じだった。
 静かな廊下を進んでエレベーターに乗り、それで1階に降りる。

 オーナー:「あ、稲生さん。こんばんは」

 フロントにはエレーナではなく、オーナーがいた。

 稲生:「オーナー。エレーナから1階に来るように言われたんですけど……」
 オーナー:「すぐ呼びます。そこの貸会議室を押さえておきましたので、そちらでお待ちください」

 オーナーはエレベーターの横の通路を指さした。
 その奥には共用トイレやコインランドリー、そして貸会議室が1つある。
 だいぶ前、そこでアナスタシア組の面々とゲーム大会をやった部屋だ。

 稲生:(一体……何があったんだろう?)

 会議室の中は無人で、稲生は椅子に適当に座った。

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