報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「帰宅の途」

2019-06-08 08:03:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月15日09:27.天候:晴 東京都台東区上野 JR上野駅→高崎線3922E電車15号車内]

〔まもなく5番線に、快速“アーバン”、高崎行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、15両です。……〕

 地下鉄からJRに移動する。
 地下から移動するのは大変かもしれないが、実は殆どの場合、エスカレーターで移動できるので、ルート次第ではそんなにキツくない。
 何しろ、地下鉄銀座線自体が地下の浅い所を通っている為、そんなに上下移動があるわけではないからだ。
 これで中距離電車も低いホームから出ていれば楽だったのだろうが、そこまで世の中甘くない。

〔「5番線、ご注意ください。高崎線の快速“アーバン”号、高崎行きが参ります。上野を出ますと赤羽、浦和、大宮、上尾、桶川、鴻巣、熊谷、熊谷から先の各駅に止まります。前5両は途中の籠原止まりです」〕

 中距離電車は山手線などと比べると、接近放送が鳴ってから入線してくるまでブランクがある。
 その為、鳴ってからしばらくしないと電車が来ない。
 ましてや先頭車が来る位置にいたのでは尚更だ。
 上野東京ラインを介して東海道本線の小田原から来た電車だが、1つ手前の東京駅とこの上野駅でかなりの下車がある。
 多くの上野東京ライン開通の恩恵者は、上野で降りたいようだ。
 確かに東京駅での乗り換えはカットされる。

〔「ご乗車ありがとうございました。上野、上野です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。5番線の電車は9時28分発、高崎線の快速“アーバン”号、高崎行きです」〕

 電車に乗り込むとボックスシートには既に先客がいたが、ドア横の2人席は空いていた。
 そこに座る。
 というか、ボックスシートが空いていても、その2人席が空いていたならそこを選んでいただろう。
 これは大糸線でもそうしている。
 ボックスシートだと、どうしても混んでくると相席になる。
 鉄ヲタの稲生は今更そんなの気にしないのだが、マリアが気にする。
 特に、男性客が来ようものなら……。
 2人席ならそういうこともないので(目の前の立ち客はいいらしい)。

 稲生:「ここまで来たら落ち着くので、何だか寝ちゃいそうですよ」
 マリア:「いざとなったら、人形達に起こしてもらうさ」

 マリアのローブの中からミク人形とハク人形が、ピョコっと顔を出した。
 そうしているうちに、発車メロディがホームから聞こえて来る。

 稲生:「それは頼もしいです。……ああ、因みにアイスクリームの車内販売は普通と快速には無いからね?」
 ミク人形:「ちっ」
 ハク人形:「ちっ」

〔5番線の高崎線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車をご利用ください〕

 ドアチャイムが3回鳴って閉扉する。
 基本的に1回または2回鳴動の線区に乗れ慣れている乗客からしたら、ちょっとやかましく聞こえるかもしれない。
 但し、上には上がいるもので、開閉に4回ずつドアチャイムが鳴る所もあったりする(仙台市地下鉄東西線)。
 走り出す時、モーターの付いている車両(モハ)に乗っていたらVVVFインバータの音が車内に響くだろうが、稲生達が乗っているのは運転台だけが付いた車両(クハ)なので音は静かだ。

〔この電車は高崎線、快速“アーバン”、高崎行きです。停車駅は赤羽、浦和、上尾、桶川、鴻巣、熊谷と熊谷からの各駅です。前5両は途中の籠原止まりです。グリーン車は4号車と5号車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、赤羽です〕

 “アーバン”という名前は付いているが、別に特別な車両で運転するわけではないし、英語放送では案内しない。
 ただ単に『rapid service train』と言うだけだ。
 このrapidという単語だが、英語圏在住の者であっても、分かりにくい表現であったりすることがある。
 イギリスでは『skip stop train(停車駅飛ばし列車)』と表現する。
 多分JRでは漢字を和訳したのだろうが(「快く速い」)、実際の所、JR東日本の快速列車が快く速いかどうかは【お察しください】。
 JR西日本の新快速くらいだったらいいのかもしれないが。

[同日09:52.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

 因みに赤羽駅を出発して、少し走ると荒川の鉄橋を渡る。
 その川が東京都と埼玉県の境なのだが、大きな川と河川敷が開けている為、見通しは凄く良い。
 また、北区には超高層建築物が無い為、尚更見通しが良い。
 何が言いたいかというと、進行方向右側の方にはぼんやりとスカイツリーが見えるということだ。
 眠気と戦うマリアの目にスカイツリーが見えると、死んだ仲間達とあの麓(ソラマチ)でショッピングを楽しんだことや、実際に昇った思い出が蘇って涙が浮かんで来たのだった。

〔まもなく大宮、大宮です。新幹線、宇都宮線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。大宮の次は、上尾に止まります〕

 英語放送が鳴っても起きない2人の魔道士に対し、ミク人形とハク人形が起こしに掛かる。
 マリアに対しては揺さぶるだけだが、稲生に対しては丸めた新聞紙(他の乗客が網棚に放置していったヤツ)でバシバシ叩くのだった。
 尚、稲生をこの電車内で引っ叩くのはこれで2回目。
 スカイツリーを見て泣くマリアの横で寝落ちしていた無神経の稲生に激しいツッコミを行った。

 稲生:「うわっ、なに!?またマリアさん泣いたの!?」
 マリア:「違うよ……。今度こそ着いたってこと」
 稲生:「おっ!?」

 稲生が車窓を見ると、電車が下り本線ホームに入ったところだった。
 大宮駅では高崎線が上下線共に本線を使用する。
 これは歴史上、高崎線の方が宇都宮線より先に開通したからである。
 鉄道の世界では、とにかく先に開通した方が高い利権を得られるということだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。おおみや〜、大宮です。お忘れ物に、ご注意ください。8番線の電車は高崎線、快速“アーバン”号、高崎行きです。……」〕

 稲生はマリアの手を取って電車を降りた。
 この駅も乗降客は多いのだが、乗車客の方が多いように思えた。
 改札口に行くエスカレーターから車内を見ると、座席が全て埋まり、ドア付近には何人かの立ち客がいるほどだ。
 高崎線は宇都宮線より混んでいるのである。

 稲生:「少し急げばバスに間に合いますよ」
 マリア:「そうしよう。ちゃんとしたベッドで寝たい」
 稲生:「全くですね」

 改札口を出ると、稲生は自宅までの最寄りまで向かうバスの停留所に足を進めた。

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