報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「民泊での一夜」

2023-07-02 20:17:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月30日18時00分 天候:曇 栃木県日光市某所 某民泊施設]

 夕食の時間になり、座卓にはカセットコンロが置かれていた。

 愛原「さすがに、すき焼きだけじゃなかったか」
 高橋「一応、特売してた総菜とかも買っておきました」
 愛原「さすがだな」
 高橋「あざーす!」

 焼き魚や刺身もあった。

 愛原「それじゃ、いただきまーす」
 リサ「いただきまーす!」

 調査は一旦終了して、夕食を囲む。
 尚、今回は調査の為に泊まるわけだから、ビールは無しである。
 アルコールは慰安旅行の明日以降である。

 高橋「それで先生、何か分かりましたか?」
 愛原「全然ダメだ。家を隅から隅まで探してみたが、全く何も見つからない!これじゃ、栗原さん達に報告のしようがないよ」
 高橋「いいんじゃないっスか?『何もありませんでしたー』で」
 愛原「いや、しかしだね……」
 パール「愛原先生。すき焼き、取りましょうか?」
 愛原「え?ああ、済まんね」
 高橋「リサ、そっちの肉は煮えてねーぞ」
 リサ「生くらいがちょうどいいんだよ」
 高橋「そういう問題じゃねぇ!」

 尚、カセットコンロは2つ使用している。
 鍋も2つ。
 大きい方は、私と高橋、パールの大人用。
 やや小さい方の鍋は、リサと絵恋用にした。

 愛原「地下室説はハズレみたいだな」
 高橋「そうっスか……」

 それにしても、夢で見たあの和室は何だったのだろう?
 この家の事ではないだろう。
 この家の和室は、この大広間だけだ。
 しかし、内装が全く異なる。
 まず、夢の中に出て来た和室は10畳一間といった感じ。
 それに対して、この部屋は8畳二間である。
 また、窓も四方に小さな窓が1つずつあるだけだった。
 しかし、この部屋は縁側に向かって大きな窓がある。

 愛原「なあ、リサ」
 リサ「ふぁに?」

 リサはすき焼きの肉を頬張っていた。

 愛原「あの夢の中で見た和室って、一体どこなんだろうな?」
 リサ「そうだねぇ……。広さ的には、天長園みたいだね」
 愛原「天長園!?」

 明日、泊まりに行くホテル天長園のことである。

 リサ「10畳間でしょ?だいたい、ホテルの客室の部屋くらいじゃない?」
 愛原「そうかぁ……。いや、でも、おかしいぞ。夢の中の和室は、四方に窓があった。だけど、天長園みたいなホテルの客室なんて、だいたい大きな窓が1つあるだけじゃないか?」
 リサ「まあ、そうだね……」
 愛原「確かに、あのホテルも山の中にあるから、窓から山が良く見えるけど……」
 リサ「この家だってそうじゃん」
 愛原「そうだけど、夢の中の山並みは、もっと高い位置から……ん?」

 その時、私はふと気づいた。
 夢の中の私は、何故か身長が低かったような気がする。
 目線が、例の少年を見下ろす形ではなく、それと同じくらいの目線だったのだ。
 でも、窓はそんなに高い位置にあるわけでもない。
 まるで、屋根裏部屋のような雰囲気だった。

 愛原「屋根裏……?」

 私は屋根を見上げた。

 愛原「飯を食ったら、もう1度、家の周りを確認するぞ」
 高橋「は、はい」

[同日19時00分 天候:雪 同民泊]

 夕食を終えた私は、片づけを高橋とパールに任せた。
 調査の手伝いは、リサにさせることにした。
 リサの方が夜目が利くからである。
 もちろん、私はマグライトを持って来ている。
 LEDの明るい光が夜空を照らしてくれるほどの明るさを持つ。

 リサ「先生、雪が降ってきたよ?」
 愛原「ただの小雪だろ。吹雪になるほどでは……」

 ヒュウッ!

 愛原「うっ!」
 リサ「風が強いんだよ!」
 愛原「くそっ、こんな時に……!」

 私は玄関を出ると、ライトを点けて家の上の方を照らした。
 もしもこの家に屋根裏部屋があるというのなら、どこかに窓があるはずだし、仮に改築の際に埋められたとしても、その痕跡があるはずだ。
 屋根にも5cmほどの雪が積もっていたが、調査の妨げにはならないはずである。

 愛原「っと、あの小さな窓は……」
 リサ「物置部屋だよ、先生」
 愛原「何だ、そうか。びっくりした。屋根裏部屋の窓かと思ったよ……えっ!?」

 その時、私は足をピタリと止めた。

 リサ「どうしたの、先生?」
 愛原「そういえばさ、リサ……」
 リサ「ん?」

 私はふと気づいた。
 物置部屋だけ、天井が高いことを……。
 そして、もう1つ疑問が湧く。
 物置部屋には、高窓がある。
 私は最初、採光と換気の為にある窓だと思っていた。
 例えば、採光の為だけならはめ殺しでもいいだろう。
 しかし、あの窓、開閉式になっていた。
 それは換気の為であろうと思っていた。
 だったら、どうして高窓にする必要があったのだろう?

 愛原「ちょっと、物置部屋を確認するぞ」
 リサ「うん」

 私達は家の中に戻った。

 高橋「先生、何か見つかりましたか?」
 愛原「屋根裏部屋があったと思われる痕跡を見つけた」
 高橋「マジっすか!?どこっすか!?」
 愛原「あれだよ」

 私は物置部屋に向かい、そこの照明を点けた。
 高い天井からコードがぶら下がり、そこに電球が1つだけ点いている。
 それもLED電球になっていた。

 高橋「あの窓が何か?」
 愛原「そこに脚立があるな……」

 私は脚立を使い、それで窓に近づいてみた。

 愛原「あー、やっぱり……」

 脚立を上って窓に近づく。
 そして、窓から見た景色が、正に夢の中で見た窓からの景色によく似ていた。
 脚立を使わないと近づけない窓は、何故か他の窓のように、互い違いの引き戸式の開閉窓になっている。
 脚立が無いと近づけない構造になっているのがおかしい。
 そして、脚立を階段に見立てると、ようやく納得した。

 愛原「この物置部屋……階段室だったんだ!」
 高橋「ええっ!?」
 愛原「ここに階段があって、あの窓の辺りには踊り場があった。それから、折り返して更に上に上ると2階があったんじゃないか!?」
 リサ「まさか、その2階こそが……」
 愛原「夢に出て来た10畳間だろうな」

 身長が低いように思われた理由も納得が行く。
 多分、階段を上った先はすぐに10畳間になっていたのだろう。
 2階というよりは、本当に屋根裏部屋みたいな感じだったのかもしれない。
 夢の中の私は、階段の途中に立っていて、あの少年を見ていたのではないか。

 愛原「あくまでも推理だ。確認しないと」
 高橋「でも、2階建てを平屋にすることってあるんスか?」
 愛原「無いことは無いらしいぞ。減築って言うんだ」
 高橋「ゲンチク?」
 愛原「増築の対義語だ」
 高橋「でも、どうしてそんなことをしたんスかね?」
 愛原「ここが『鬼の棲む家』だったことを、隠す為じゃないかな?鬼はこの家の2階に棲んでいた。その証拠を完全に抹消する為に」

 減築によって、階段は当然不要になり、撤去された。
 そして、空いた元・階段室を物置部屋に改装したのではないか。
 その際、踊り場にあった窓は埋められたり、他の窓に換えられることなく、そのまま物置部屋の窓として流用された。

 愛原「もしもし、蓮華さん?ちょっとさ、日光の家のことについて聞きたいんだ。年末休みの、しかも夜に悪いんだけど、不動産屋さんに繋げてもらえないかな?」

 直接、不動産屋に電話をすることは可能だ。
 しかし、恐らく私が直接電話しても、年末休みだとか、夜間で時間外だからと対応してもらえないと思い、身内の力を借りることにした。

 蓮華「私から聞きますよ。何ですか?」
 愛原「私達が泊まっている民泊施設って、元は2階建てだったんじゃないかって質問だよ。或いは、屋根裏部屋があったとか……。そういうことを確認したいんだ」
 蓮華「分かりました。少しお待ちください」

 一旦、電話が切られた。
 果たして、私の推理は当たっているのだろうか?
 これでもし違ったら、もう万事休すである。
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“私立探偵 愛原学” 「民泊を調査」 2

2023-07-02 15:12:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月30日17時00分 天候:曇 栃木県日光市某所 某民泊施設]

 愛原「あー、くそっ!ダメだ!ダメだ!」

 私達の調査は徒労に終わった。
 マンホールはいくつかあったものの、1つは水道メーターの蓋だったり、もう1つは下水道に通じる別の排水管だったり、その程度のものだった。
 古井戸の跡でもあればと思ったが、それすら見つからなかった。
 完全に埋められてしまったか、或いは元から無かったのだろう。
 因みに最初に開けたマンホールをもう1度開けてみたが、やはり公共の下水道に通じる配管くらいしか見当たらなかった。

 高橋「そう、うまくはいかないもんスね」
 リサ「うーん……」

 結局、雪かきしただけだった。

 絵恋「お疲れ様です。パールが温かいお茶を入れてますので、どうぞ」

 玄関まで出迎えに来た絵恋がそう言った。
 彼女は既に風呂から上がり、学校のジャージに着替えている。

 愛原「ああ、ありがとう」
 リサ「スコップ、しまわないの?」
 愛原「だから、一旦家の中に入らないと物置部屋には行けないから、戻せないんだよ」

 改めて雪かきをしてしまった為、スコップはまた濡れている。
 この家が普通の民家だった頃、その住人は物置部屋の構造について、何も不便を感じなかったのだろうか?

 愛原「……ん?」
 高橋「どうしました、先生?」
 愛原「そういえばさ……。さっき裏手に行った時、物置小屋があったよな?」
 高橋「イナバの物置っスね。でも、鍵が掛かってて入れなかったじゃないスか」

 その物置小屋も怪しいわけであるが、鍵が掛かっていた上、その鍵がどこにあるのかも分からない以上、中を調べることはできなかった。
 一応、リサにドア越しに匂いを嗅いでもらったり、或いは通気口から匂いを嗅いでもらったりしたが、特に血や鬼の臭いはしなかったという。
 物置小屋そのものは、比較的新しいものだった。
 ステンレス製のものだ。
 私の実家の裏庭にも、似たようなものがある。
 ただ、こちらの家にある方が古いとは思うが。
 少なくとも、この家が建てられた頃から置かれているとは思えなかった。
 平成に入ってから設置されたものだろう。
 私の建て直す前の実家にも、裏庭には物置小屋はあった。
 しかし、その時の物置小屋は木造の古い建物であった。
 家を建て直す際に、その物置小屋も取り壊し、今のイナバの物置を設置したというわけだ。
 で、あるなら、もしも物置小屋が地下室の入口を兼ねているのなら、やはりイナバの物置を改めて設置するとは思えない。
 まあ、そう思わせといて、実は……という線もあるにはあるが、先ほども言った通り、鍵は無いし、かといって、緊急性があるわけでもないのに、壊してこじ開けるわけにもいかないだろう。
 私が感じた違和感は、その物置小屋よりも……。

 愛原「物置小屋が外にあるのに、わざわざ物置部屋が家の中にあるのは、どういうことなんだろうな?」
 高橋「掃除用具入れとかじゃないスか?」
 愛原「そうかなぁ?」

 確かに掃除用具なんかも置かれていた。
 他にも自転車で来た人用の為なのか、その空気入れが置かれていたり……。
 それにしても、掃除用具入れ程度の用途しか無いと思うし、それにしては比較的広い。
 畳3~4畳分くらいの広さがある。
 試しにこの物置小屋の道具もどかして、床などを調べてみたが、何も無かった。

 愛原「うーん……参ったなぁ……。痕跡すら見つからない……」

 昔は痕跡があったのかもしれないが、民泊として再活用される際、その痕跡を消されたのかもしれない。
 壁紙でも剥がせば出て来るのかもしれないが、やはりそれもちょっと躊躇されてしまう。

 パール「お茶が入りました。夕食は18時からでよろしいですか?」
 愛原「うん、頼むよ」
 パール「かしこまりました」
 高橋「スーパーで、お茶のティーバッグを買って来たんです」
 愛原「そういうことか」

 パールが入れたのは緑茶。
 メイドが入れるお茶と言えば、紅茶かコーヒーを思いつくが、たったの1泊でそれは躊躇したそうだ。

 高橋「天井裏とか、どうっスかね?」
 愛原「天井裏ぁ?どうやって調べるんだよ?」
 高橋「確か、押し入れとかに点検口とか無かったっスかね?」

 高橋は押し入れを開けてみた。
 因みに、既に押し入れは探索済みである。

 愛原「いや、無いだろ」
 パール「御嬢様、まもなく乾燥機が終わりますので……」
 絵恋「分かったわ。私が自分で取りに行くから」
 リサ「チャンネル少ないなぁ……」

 リサは大広間内にあるテレビを点けて、チャンネルを回していた。
 それにしても、この家の照明も少し変わっている。
 ほとんどが電球だ。
 もちろん、今はLED電球に変わっている。
 それでも、この大広間も廊下もトイレも、照明が電球なのである。
 色が昔ながらの黄色っぽいそれなので、温かみがあるし、古い家だけに、ノスタルジーも感じる。
 蛍光灯が使用されているのは、玄関の街灯、玄関、浴室、洋室、台所である。
 それだけは普通の蛍光灯だった。
 LED蛍光灯ではない。

 愛原「ちょっとトイレ……」
 高橋「お供します!」
 愛原「せんでいい」

 私は大広間から廊下に出た。
 もう17時だ。
 冬の17時の日光は、もう真っ暗である。
 だから、廊下には電球が灯っていた。
 柱の上に行燈のような形で設置されているものと、天井に等間隔で設置されている物の2つのタイプがある。
 だから、両方点けると、とても明るい。
 旅館とか料亭の廊下ならそれでも良いのだろうが、かつては一般の民家だった建物で、こんなに照明が必要だったのだろうか。
 今はLED電球が普及しているから、そんなにエネルギーも使わないだろうし、その分電気代も掛からないだろうが、昔ながらの白熱電球だとそうは行かなかっただろう。
 試しに天井の照明を消してみた。
 すると、柱の上に等間隔で設置されている行燈型の照明だけでも、十分に明るいことが分かった。
 逆に、天井の方は間隔が大きい為に、それだけだとやや薄暗い。
 まあ、夜は常夜灯として使う分には十分だろう。
 ……常夜灯としての用途だったのか???
 まあ、いい。
 トイレに行こう。

 リサ「わたしもトイレ!」
 愛原「まさか、こっちのトイレを使うつもりじゃないだろうな?」

 私は男子用小便器のある個室を指さした。

 リサ「えー?女の子のわたしに、立ちションしろってぇ~?先生、マニアック~!」

 リサはニヤリと笑って言った。

 愛原「アホか!」
 リサ「先生が命令してくれたら、してあげてもいいよ?」
 愛原「いいから、お前はそっちのトイレを使え!」

 私は隣の洋式トイレの個室に、リサの背中を押した。

 リサ「はーい。でも、何だか廊下が眩しいね」
 愛原「さすがに、柱の上と天井の照明は明る過ぎだよな」
 リサ「この姿だと、目がチカチカしてダメだよ」

 リサは未だに第1形態の鬼の姿をしている。

 愛原「だったら、人間の姿に化けろよ」
 リサ「そうだね」

 私は男子用の個室に入り、そこで小用を足した。
 どちらのトイレにも、窓が付いている。
 さすがに曇りガラスであるが。
 引き戸式の開閉窓になっており、採光だけでなく、換気の為に設置されているものだと分かる。
 その為か、さすがに換気扇は設置されていない。
 外は寒いが、少し開けておくか。
 私は用を足し終わると、水を流して、窓を少し開けた。
 開けると、寒風が吹き込んで来る。
 どうやら、風が出て来たようである。
 まあ、天気が悪くなったら閉めればいいか。

 愛原「……?」

 この時、私はふと他の窓が気になった。
 リサはまだ隣の個室を使っている。
 確か、外から見た分には、そのトイレの窓も同じタイプだったはずだ。
 基本的に、どの部屋の窓も互い違いの引き戸タイプになっていた。
 だが、それでも私は何か言い知れぬモヤモヤを感じていた。
 窓なんか、何も関係無いだろうに、一体何なのだろう?
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“私立探偵 愛原学” 「民泊を調査中」

2023-07-02 12:06:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月30日15時00分 天候:曇 栃木県日光市某所 某民泊施設]

 高橋「ただいま戻りましたー」

 近所のスーパーに買い出しに行っていた高橋とパールが戻って来る。

 リサ「お帰り!お兄ちゃん、洗剤は!?」
 高橋「ああ、これか?今から洗濯すんのか?」

 高橋はレジ袋の中から、1回分ずつ小分けにパックされた洗剤を取り出した。
 それが10パックほどで1箱である。

 リサ「これだ!」
 パール「御嬢様がもうお風呂に?どうかなさったのですか?」
 リサ「えっ、えーと……」

 リサは高橋をチラッと見た。
 パールが1人だけなら、正直に言うのだが、高橋が一緒だと言い難い。

 リサ「外の調査をしていたら、エレン、体を冷やしちゃって……。それで、風邪引く前にお風呂に入れてるの」
 パール「そうだったのですか」
 高橋「先生は?」
 リサ「今、家の中を調査中」
 高橋「なにっ!?俺もお手伝いしねーと!先生!」

 高橋は私を探しに行った。
 因みに私はトイレの中。
 今の彼らのやり取りは全部、トイレの中に筒抜けだ。
 体を冷やしたのは、絵恋だけじゃないんだがな。
 歳のせいもあってか、尚更トイレが近い。

 愛原「おい、高橋!こっちだ!」

 私は小便器の水を流すと、ドアを開けて高橋を呼んだ。
 小便器の方はそんなにリニューアルされておらず、板張りの床に朝顔形の便器と小さな洗面所があるだけ。
 ボタンを押して水を流すタイプであったが、そのボタン部分だけはリニューアルされたのか、ここだけ少し新しい。
 もしかしたら、かつては水洗ですらなかったか、或いは水道の蛇口みたいに、それを回して水を手動で流すタイプだったのかもしれない。

 高橋「あっ、先生!」
 愛原「そんなに慌てるなっての」

 尚、この隙をついてリサがパールにそっと耳打ちしているのが見えた。
 リサに耳打ちされたパールは、急いで脱衣所に向かった。

 高橋「調査中っスね!お手伝いさせて頂きゃす!」
 愛原「いいから、お前は飯作ってくれよ。今日はすき焼きだろ?」
 高橋「そうです。これ、領収証っス!」
 愛原「ああ。預かっておく」
 リサ「お兄ちゃん!肉一杯買ってきてくれた?!」
 高橋「どーだかなw 野菜たっぷりかもしれねーぞ?」
 リサ「ちょっと!」

 それにしても、風呂とトイレも血の臭いがしない。
 つまり、この家には血の気は無いということだ。
 埼玉の家とは偉い違いだ。
 本当にこの家は、『鬼の棲んでいた家』なのだろうか。
 私は玄関に行き、そこで家の見取り図(間取り図)を見た。
 埼玉の家みたいに不思議な空間があったり、窓の無い部屋なんて1つも無い。
 大広間は外側に縁側が付いているほどの大きな窓だし、それこそ高窓ながら物置部屋にも窓があるほどだ。

 愛原「……秘密の地下室でもあるのかな?」

 私は合宿所の地下にあった秘密の研究施設を思い出した。
 この家の地上部分が、そんな秘密の地下施設を隠す為のカムフラージュだとしたら、当然ここは普通の造りになっているだろう。
 そういえば、マンホールが他にもあったような気がする。
 アメリカのラクーン市は、下水道がアンブレラの秘密研究所に繋がっていたというし……。

 愛原「高橋、ちょっと手伝ってくれ!」
 高橋「了解っス!」

 私は秘密の地下室の入口があるとしたら、それは家の中だと推理した。
 先ほどのように庭先にあるのだとしたら、冬は雪が積もる日光市では不便過ぎる。
 台所には、床下収納は無かった。
 食器棚の下とか、或いはシンクの下に扉が無いかどうか調べてみたが、それは無かった。
 あとは洋室のベッドの下を覗いたり、廊下のカーペットを剥がしてみたり、大広間の布団をしまっている押し入れの中を調べてみたりしたが、床下に隠し扉など無かった。

 愛原「あー、くそっ!やっぱり外か!?」
 高橋「そうかもしれませんね?」

 尚、押し入れの下の段には夏に使うと思われる扇風機や冷風機が置かれていた。
 よく見ると、この家にはエアコンは無い。
 暖房は、ガスストーブが使われている。
 また、脱衣所には電気ファンヒーターが置かれていた。
 ガスストーブは石油ファンヒーターと同様、定期的な換気が必要だが、こんな寒い中、窓を開けたくないのは人情。
 その為か、居室には換気扇が付いていた。
 まあ、秘密の地下室とは関係無いだろう。

 愛原「ちょっと、外行こう」
 高橋「俺も行きます」

 私と高橋は防寒着を羽織ると、再び外に出た。
 その際、恐らく裏庭は除雪されていないだろうからと、玄関に置いてあったスコップを持ち出す。
 外はリサが言う通り、曇ってきていた。
 ついに、太陽が隠れてしまうほどだ。
 こりゃ、日が暮れたらまた雪でも降ってくるかもしれない。
 少なくとも、この寒さで雨はないだろう。

 高橋「そのスコップ、玄関にありましたっけ?」
 愛原「物置部屋から取って来たんだよ。変な導線でさ、玄関から中に入らないと行けないんだよ。雪かきして濡れたままのスコップを、家の中に入れるわけにはいかないだろ」
 高橋「あー、確かにそうっスね」
 愛原「この古い家だ。裏庭に行くと、井戸とかあったりしてな?」
 高橋「井戸っスか!?」
 愛原「そう。そしてその井戸こそ、秘密の地下室への入口かもしれん」
 高橋「さすが先生っス!」

 そんな淡い期待を胸に抱き、5cmほど積もった雪を踏みしめて、家の裏手に回る。
 浴室からはシャワーの音がし、換気扇からは湯気が出ていた。
 また、脱衣所の配管からは水が流れ出て来る音が聞こえる。
 恐らく、洗濯機を回しているのだろう。

 高橋「もしかして、あのレズガキ、雪でスッ転んだんじゃないスか?それで服とかビショビショになったもんで……」
 愛原「どうだかな……」
 高橋「どうだかって、先生、御一緒だったんスよね?」
 愛原「そんなのどうでもいいじゃないか。それより、井戸は……無いな」

 そう、都合良くあるわけないか。
 やっぱり、マンホールだろうか。

 愛原「そっちのマンホールは、下水道に通じる奴だ。他のマンホールを探せ」
 高橋「了解っス!」

 私はマンホールを探す為にスコップで雪を退かした。

 リサ「先生!」

 と、そこへリサがやってきた。

 愛原「リサ!寒いから家の中にいていいんだぞ!」
 リサ「わたしは大丈夫。それより、わたしがマンホール開ける係!」
 愛原「ん?」
 リサ「ほら、もしかしたら、他のマンホールから血や鬼の臭いがするかもしれないでしょ?」
 愛原「……それもそうだな。よし、それはリサに任せる」
 リサ「おー!」
 高橋「じゃあ、俺が雪かきしますよ」
 愛原「ああ、頼む」

 私達は他のマンホールを調べることにした。
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