[1月1日06時30分 天候:雪 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園7階701号室→1階ロビー]
愛原「雪か……」
私は初日の出を見ようと、この季節、日の出の時刻である6時半くらいに起床した。
だが、起き上がって、閉めていた障子を少し開けると、空にはどんよりとした雲が空一面を覆っており、雪が舞っていた。
どうやら今年は、初日の出は拝めないようである。
残念だ。
仕方が無いので、朝風呂に入って、目を覚ましてこようと思った。
高橋「お供します!」
愛原「ちっ。静かに起きたのに、地獄耳め」
高橋「先生とはもう何年もの付き合いです。元旦の先生の起床時刻は、把握済みです」
愛原「悪かったな、ワンパターンで」
私達は自分のタオルとバスタオルを手に、部屋の外に出た。
部屋の外は、実に静かなものである。
愛原「眠れたか?」
高橋「まあ、大体は」
リサ達はまだ眠っているようなので、寝かせてあげよう。
私と高橋は、エレベーターに乗り込んだ。
愛原「今朝の朝食は御餅とお節だ。作る手間が省けたな?」
高橋「おかげさまで」
そして、エレベーターが1階に到着した。
上野利恵「いい加減にしてください!ここには私以外、鬼はいませんから!!」
愛原「!?」
高橋「何だ?」
鬼の男「ちっ、オバハンじゃ萌えねーよ」
エレベーターを降りると、ロビーから怒号が聞こえて来た。
ロビーに着くと同時に正面エントランスの自動ドアが開き、そこから男が出て行くのが分かった。
代わりに寒風と雪が入って来る。
愛原「利恵さん、一体何があったんだ?」
高橋「正月早々クレーマーか?ボコせ」
利恵「あっ、愛原様!明けまして、おめでとうございます」
愛原「う、うん、おめでとう。何かトラブルか?」
利恵「大騒ぎして、申し訳ございません」
利恵は正体を現していた状態だった。
頭には2本角が生え、瞳は赤色に、牙は生えて、耳が尖っている。
それがすぐに人間の姿に変わる。
リサと同様、上野利恵も普段は人間に化けて暮らしているのだ。
利恵「……愛原様、昨夜の私の話を覚えておいででしょうか?5年毎に行われるという、『鬼になる為の儀式』です」
愛原「ああ、もちろん。それがどうしたの?」
利恵「私と同じ匂いがしたということは、いつかの儀式参加者でしょう。私が応対したのは、その人……いえ、鬼です」
愛原「なにいっ!?鬼が来たのか?!」
利恵「はい。『鬼を探している』というので、私が応対したのですが、どうやら私ではお気に召さないようでして……」
愛原「熟女は嫌いか。誰を探しているんだ?」
利恵「あの男の鬼が言っていた特徴からすると、姉さん、またはうちの長女かもしれません」
愛原「何だって!?その男の特徴は?」
利恵「恐らく、うちの長女くらい……いえ、姉さんと同じくらいかもしれません」
愛原「10代か!?」
利恵「はい。高校生と言われれば納得できるくらいの年恰好でした。背は愛原様より高く、高橋様より低いです」
愛原「すると、165cm以上180cm以下か」
利恵「全体的に赤みがかった皮膚をしておりました。赤銅色と言えるでしょうが、人をこれを『赤鬼』というのかもしれません」
愛原「おい、もしかして……」
リサが埼玉で戦った鬼の男と、特徴がよく似ていた。
愛原「本当に、そいつは鬼だったんだな?」
利恵「はい。私と同じ匂いがしましたから、間違いありません」
高橋「匂いというのは?」
利恵「……人を食べたことによる……強い体臭です……。私も、夫を食い殺してしまいましたから……。たった1人、食い殺すだけで、体臭が自分でも分かります。ましてやあの男は……恐らく、何十人と食べているでしょう」
利恵も人食い鬼の端くれ。
利恵なりに威嚇して、鬼の男を追い払った。
もしこれが人間のスタッフが応対していたら、食い殺され、鬼の男は勝手にホテル内を探し回ったであろうとのこと。
愛原「リサも同じことを言っていたな?」
高橋「やっぱり、同一人物っスかね?」
愛原「かもしれん。取りあえず、蓮華さんにLINEを入れておこう」
ややもすれば、今度は栗原家の鬼狩り隊が上野母娘に襲い掛かる恐れがあるが、鬼の男が近くにいるというのなら、止むを得まい。
愛原「鬼狩り隊に連絡するが、構わんね?」
利恵「はい。結構です」
恐らく、まだ寝ているかもしれない。
だが一応、私は蓮華にLINEを入れておくことにした。
それから、リサのスマホにも、鬼の男がこの近くにいることを伝え、見つかるなとLINEを送っておいた。
愛原「どうして鬼の男は、ここが分かったんだと思う?」
利恵「申し訳ございません。恐らく、私の責任かと存じます」
愛原「どういうことだ?」
利恵「鬼の男は、『鬼の匂いを辿ってみたら、ここに着いた』と言ってました。姉さんも娘達も、人食いはしておりません。つまり、人食い鬼ならではの体臭はしないはずです。それが匂いを辿って着いたということは、その匂いの原因は私ではないかと……」
愛原「そういうことだったか」
だが、却って好都合だったかもしれない。
利恵が囮になってくれたようなものだ。
鬼の男は、自分が人食いしているものだから、『鬼は必ず人食いしているもの』という先入観があるのではないか。
それで、その匂いを辿ったのだろう。
しかし、リサは人食いをしていないから、独特の体臭はしない(人間が嗅ぎ取れる範囲内では)。
しないのだから、直接見つからなければ、襲撃される心配は無いということだ。
愛原「鬼狩り隊が到着するまでは、ここにいた方がいいかもしれないな」
利恵「はい。是非、そうしてください」
私は再びスマホのLINEを確認した。
リサは既読が付いたが、蓮華はまだ既読が付いていない。
愛原「とにかく、風呂に入ってこよう」
高橋「うっス」
愛原「利恵さん。もしもリサがここに来たら、部屋に隠れているように伝えてくれないか?」
利恵「かしこまりました」
尚、私は一応、善場主任にもメールを送っておいた。
鬼の男がアンブレラの実験に関係するのであれば、それまで無関心を決め込んでいたデイライトも動くだろうと思ったからだ。
狂科学の実験と宗教儀式が合わさると、こんな感じになるのか……。
愛原「雪か……」
私は初日の出を見ようと、この季節、日の出の時刻である6時半くらいに起床した。
だが、起き上がって、閉めていた障子を少し開けると、空にはどんよりとした雲が空一面を覆っており、雪が舞っていた。
どうやら今年は、初日の出は拝めないようである。
残念だ。
仕方が無いので、朝風呂に入って、目を覚ましてこようと思った。
高橋「お供します!」
愛原「ちっ。静かに起きたのに、地獄耳め」
高橋「先生とはもう何年もの付き合いです。元旦の先生の起床時刻は、把握済みです」
愛原「悪かったな、ワンパターンで」
私達は自分のタオルとバスタオルを手に、部屋の外に出た。
部屋の外は、実に静かなものである。
愛原「眠れたか?」
高橋「まあ、大体は」
リサ達はまだ眠っているようなので、寝かせてあげよう。
私と高橋は、エレベーターに乗り込んだ。
愛原「今朝の朝食は御餅とお節だ。作る手間が省けたな?」
高橋「おかげさまで」
そして、エレベーターが1階に到着した。
上野利恵「いい加減にしてください!ここには私以外、鬼はいませんから!!」
愛原「!?」
高橋「何だ?」
鬼の男「ちっ、オバハンじゃ萌えねーよ」
エレベーターを降りると、ロビーから怒号が聞こえて来た。
ロビーに着くと同時に正面エントランスの自動ドアが開き、そこから男が出て行くのが分かった。
代わりに寒風と雪が入って来る。
愛原「利恵さん、一体何があったんだ?」
高橋「正月早々クレーマーか?ボコせ」
利恵「あっ、愛原様!明けまして、おめでとうございます」
愛原「う、うん、おめでとう。何かトラブルか?」
利恵「大騒ぎして、申し訳ございません」
利恵は正体を現していた状態だった。
頭には2本角が生え、瞳は赤色に、牙は生えて、耳が尖っている。
それがすぐに人間の姿に変わる。
リサと同様、上野利恵も普段は人間に化けて暮らしているのだ。
利恵「……愛原様、昨夜の私の話を覚えておいででしょうか?5年毎に行われるという、『鬼になる為の儀式』です」
愛原「ああ、もちろん。それがどうしたの?」
利恵「私と同じ匂いがしたということは、いつかの儀式参加者でしょう。私が応対したのは、その人……いえ、鬼です」
愛原「なにいっ!?鬼が来たのか?!」
利恵「はい。『鬼を探している』というので、私が応対したのですが、どうやら私ではお気に召さないようでして……」
愛原「熟女は嫌いか。誰を探しているんだ?」
利恵「あの男の鬼が言っていた特徴からすると、姉さん、またはうちの長女かもしれません」
愛原「何だって!?その男の特徴は?」
利恵「恐らく、うちの長女くらい……いえ、姉さんと同じくらいかもしれません」
愛原「10代か!?」
利恵「はい。高校生と言われれば納得できるくらいの年恰好でした。背は愛原様より高く、高橋様より低いです」
愛原「すると、165cm以上180cm以下か」
利恵「全体的に赤みがかった皮膚をしておりました。赤銅色と言えるでしょうが、人をこれを『赤鬼』というのかもしれません」
愛原「おい、もしかして……」
リサが埼玉で戦った鬼の男と、特徴がよく似ていた。
愛原「本当に、そいつは鬼だったんだな?」
利恵「はい。私と同じ匂いがしましたから、間違いありません」
高橋「匂いというのは?」
利恵「……人を食べたことによる……強い体臭です……。私も、夫を食い殺してしまいましたから……。たった1人、食い殺すだけで、体臭が自分でも分かります。ましてやあの男は……恐らく、何十人と食べているでしょう」
利恵も人食い鬼の端くれ。
利恵なりに威嚇して、鬼の男を追い払った。
もしこれが人間のスタッフが応対していたら、食い殺され、鬼の男は勝手にホテル内を探し回ったであろうとのこと。
愛原「リサも同じことを言っていたな?」
高橋「やっぱり、同一人物っスかね?」
愛原「かもしれん。取りあえず、蓮華さんにLINEを入れておこう」
ややもすれば、今度は栗原家の鬼狩り隊が上野母娘に襲い掛かる恐れがあるが、鬼の男が近くにいるというのなら、止むを得まい。
愛原「鬼狩り隊に連絡するが、構わんね?」
利恵「はい。結構です」
恐らく、まだ寝ているかもしれない。
だが一応、私は蓮華にLINEを入れておくことにした。
それから、リサのスマホにも、鬼の男がこの近くにいることを伝え、見つかるなとLINEを送っておいた。
愛原「どうして鬼の男は、ここが分かったんだと思う?」
利恵「申し訳ございません。恐らく、私の責任かと存じます」
愛原「どういうことだ?」
利恵「鬼の男は、『鬼の匂いを辿ってみたら、ここに着いた』と言ってました。姉さんも娘達も、人食いはしておりません。つまり、人食い鬼ならではの体臭はしないはずです。それが匂いを辿って着いたということは、その匂いの原因は私ではないかと……」
愛原「そういうことだったか」
だが、却って好都合だったかもしれない。
利恵が囮になってくれたようなものだ。
鬼の男は、自分が人食いしているものだから、『鬼は必ず人食いしているもの』という先入観があるのではないか。
それで、その匂いを辿ったのだろう。
しかし、リサは人食いをしていないから、独特の体臭はしない(人間が嗅ぎ取れる範囲内では)。
しないのだから、直接見つからなければ、襲撃される心配は無いということだ。
愛原「鬼狩り隊が到着するまでは、ここにいた方がいいかもしれないな」
利恵「はい。是非、そうしてください」
私は再びスマホのLINEを確認した。
リサは既読が付いたが、蓮華はまだ既読が付いていない。
愛原「とにかく、風呂に入ってこよう」
高橋「うっス」
愛原「利恵さん。もしもリサがここに来たら、部屋に隠れているように伝えてくれないか?」
利恵「かしこまりました」
尚、私は一応、善場主任にもメールを送っておいた。
鬼の男がアンブレラの実験に関係するのであれば、それまで無関心を決め込んでいたデイライトも動くだろうと思ったからだ。
狂科学の実験と宗教儀式が合わさると、こんな感じになるのか……。