[4月25日24:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
エレーナはオーナーが持って来た恋愛指南書の本をロビーで読んでいた。
小さな個人経営のホテルとはいえ、ちょこちょこ宿泊客が出入りするものだが、今夜は全く出入りが無い。
新型コロナウィルスの影響で宿泊客が激減しているのは、このワンスターホテルとて例外ではないということだ。
オーナー:「お帰りなさいませ」
宿泊客A:「415号室、松本です」
オーナー:「松本様ですね。どうぞ、ごゆっくり」
既に宿泊している客で、外出していた者が戻って来たようである。
疲れた様子のその客は鍵を受け取ると、エレベーターに乗って行った。
エレーナ:「今のお客……薬の臭いがしましたね」
オーナー:「お客様の個人情報は厳重に保管する。エレーナ、分かってるね?」
エレーナ:「分かってますよ。(医者か何かか?この近くにデカい病院は無かったと思うけど、それでもこのご時世、アレ絡みを疑ってしまう……)」
その時、フロントの電話が鳴った。
オーナー:「はい、フロントでございます」
鈴木:「あ、すいません。宿泊中の鈴木ですけど、そちらにエレーナはいますか?」
オーナー:「ああ、エレーナですね。少々お待ちください。……鈴木さんからだよ」
エレーナ:「んん?何だぜ?」
エレーナは電話に出た。
エレーナ:「何だ?“呪い針”の魔法なら、私には効かねーぜ?」
半分以上嘘のハッタリ。
少なくとも、相手が導師級(ハイマスター。High Master。ベテラン魔道士。弟子持つ資格あり)なら返り討ち不可。
鈴木:「なワケないだろ。それとも、それが使えるように入門させてくれるの?」
エレーナ:「あー、それは無理だぜ。で、何の用だぜ?」
鈴木:「リリィが寝込んじゃったんだ。悪いけど、迎えに来てくれる?」
エレーナ:「あぁ?……ったく、しょうがねーなー。あー、分かったぜ。今行くぜ。セクハラするんじゃねーぜ?分かったか?」
エレーナは電話を切った。
エレーナ:「オーナー、ちょっと鈴木の部屋に行ってきます。うちの妹分が寝込んじゃったみたいで」
オーナー:「ああ、いいよ、行ってきな。本は私が戻しておくから」
エレーナ:「サーセン」
エレーナはエレベーターを1階に戻し、それから3階に向かった。
エレーナ:(あの本……結構、あざといやり方しか書いてなかったな……。ああしないと、男はオチないってか……フム……。ま、鈴木にやる必要は無い)
3階で降りて、鈴木の部屋に向かう。
鈴木:「ああ、エレーナ。申し訳ないね。ゲームをクリアして、エンディングを見たまでは良かったんだけど、最後のスタッフロールの時に寝ちゃって……」
エレーナ:「ったく、リリィ……って!?」
部屋の中には空き缶やスナック菓子が転がっていたが、その中に缶ビールや缶チューハイも転がっていた。
もちろん、このホテルの自販機コーナーで売っているものである。
鈴木は成人年齢だからいいとして、何故かリリィが顔を赤くしている上、上着を脱いでキャミソール姿になっているのが思いっ切り怪しかった。
エレーナ:「……おい、エレーナに何かしたか?」
鈴木:「ゲームクリア記念に乾杯したんだ。俺はビールだけど、リリィにはジュースにしてたさ。ところが、リリィが『ムッシュ鈴木!私にもチューハイ!』っておねだりされて……」
エレーナ:「リリィのヤツ……。鈴木も、何でそこでホイホイやるんだ!」
鈴木:「フランス人は10代の頃から飲むって聞いたから、まあここは日本だけどいいかって思って……。俺もゲームクリアしてハイテンションになってたし」
エレーナ:「あのな!……てか、ワイン飲んでハイになるリリィが、ビールくらいで酔い潰れるか?」
鈴木:「……でね、よく見たらリリィ、ゲームやってる最中から飲んでたみたい」
鈴木が指さした所には缶チューハイの空き缶が転がっていた。
鈴木:「俺はついレモンサイダーか何かだと思ってたんだよ」
リリィ:「フヒヒヒ……鈴木……大好きだぜ……ヒック!」
と、リリィが寝言を言った。
エレーナ:「リリィへの好感度抜群に上げやがったな、ロリコン野郎」
鈴木:「いや、俺は何もしてないって!これだって、『暑い暑い』って勝手に脱いだんだから!」
エレーナ:「ほら、リリィ!ここで寝るな!部屋に戻るぞ!」
エレーナはリリィを担ぎ上げ、背中に背負った。
エレーナ:「邪魔したぜ」
鈴木:「申し訳ないね」
エレーナは鈴木の部屋を出て行った。
エレーナ:「リリィ、後でオマエ説教な!?」
リリィ:「フヒヒ……ヒック!」
エレベーターに乗って、B1Fのボタンの横にある鍵穴に鍵を差し込んでONの方に回す。
するとB1Fのボタンが点いた。
エレーナ:「本当に鈴木に何もされなかっただろうな?」
リリィ:「フヒヒ……はい……」
エレベーターが2階、1階と下りて行く。
このホテルのエレベーターはホテルにしては珍しく、ドアに窓が付いているタイプである。
1階を通過した時、エレーナはふと違和感を覚えた。
エレーナ:「……?」
そして、地下1階に到着する。
廊下は暗かったが、すぐ近くのスイッチを操作すると照明が点いた。
それでも地上階に比べれば薄暗い。
エレーナ:「ほら。着いたぜ。いつもは上段を使ってもらうところだが、今日だけ下段を使っていいぜ」
リリィ:「お手数お掛けしますぅ……ヒック」
リリィは2段ベッドに横になると、そのまま眠ってしまった。
エレーナ:「こりゃ翌朝は二日酔いだぜ、全く」
身軽になったエレーナ、室内にあった中折れ帽を被り、魔法の杖を持ち、魔道士のローブを羽織って再び部屋の外に出た。
そして、またエレベーターに乗り込んで1階に向かう。
宿泊客B:「おーい、どうなってるんだ?何で誰も出てこないんだ?」
エレベーターを降りると、フロントの前に男性の宿泊客がいた。
エレーナ:「どうかしたんですか?」
宿泊客B:「え?いや、さっきから呼んでるのに、誰も出てこないんだよ。このホテル、門限でもあったか?」
エレーナ:「いえ、そんなはずは……」
エレーナはフロントの中に入った。
エレーナ:「!!!」
そこでエレーナ、違和感の正体を知る。
フロントの下にオーナーがうつ伏せで倒れていたのだ。
エレーナ:「オーナー!?オーナー、大丈夫ですか!?」
エレーナはオーナーの所に駆け寄った。
一体何が起きたのか?
オーナーの安否や如何に!?
本編へ続く!
エレーナはオーナーが持って来た恋愛指南書の本をロビーで読んでいた。
小さな個人経営のホテルとはいえ、ちょこちょこ宿泊客が出入りするものだが、今夜は全く出入りが無い。
新型コロナウィルスの影響で宿泊客が激減しているのは、このワンスターホテルとて例外ではないということだ。
オーナー:「お帰りなさいませ」
宿泊客A:「415号室、松本です」
オーナー:「松本様ですね。どうぞ、ごゆっくり」
既に宿泊している客で、外出していた者が戻って来たようである。
疲れた様子のその客は鍵を受け取ると、エレベーターに乗って行った。
エレーナ:「今のお客……薬の臭いがしましたね」
オーナー:「お客様の個人情報は厳重に保管する。エレーナ、分かってるね?」
エレーナ:「分かってますよ。(医者か何かか?この近くにデカい病院は無かったと思うけど、それでもこのご時世、アレ絡みを疑ってしまう……)」
その時、フロントの電話が鳴った。
オーナー:「はい、フロントでございます」
鈴木:「あ、すいません。宿泊中の鈴木ですけど、そちらにエレーナはいますか?」
オーナー:「ああ、エレーナですね。少々お待ちください。……鈴木さんからだよ」
エレーナ:「んん?何だぜ?」
エレーナは電話に出た。
エレーナ:「何だ?“呪い針”の魔法なら、私には効かねーぜ?」
半分以上嘘のハッタリ。
少なくとも、相手が導師級(ハイマスター。High Master。ベテラン魔道士。弟子持つ資格あり)なら返り討ち不可。
鈴木:「なワケないだろ。それとも、それが使えるように入門させてくれるの?」
エレーナ:「あー、それは無理だぜ。で、何の用だぜ?」
鈴木:「リリィが寝込んじゃったんだ。悪いけど、迎えに来てくれる?」
エレーナ:「あぁ?……ったく、しょうがねーなー。あー、分かったぜ。今行くぜ。セクハラするんじゃねーぜ?分かったか?」
エレーナは電話を切った。
エレーナ:「オーナー、ちょっと鈴木の部屋に行ってきます。うちの妹分が寝込んじゃったみたいで」
オーナー:「ああ、いいよ、行ってきな。本は私が戻しておくから」
エレーナ:「サーセン」
エレーナはエレベーターを1階に戻し、それから3階に向かった。
エレーナ:(あの本……結構、あざといやり方しか書いてなかったな……。ああしないと、男はオチないってか……フム……。ま、鈴木にやる必要は無い)
3階で降りて、鈴木の部屋に向かう。
鈴木:「ああ、エレーナ。申し訳ないね。ゲームをクリアして、エンディングを見たまでは良かったんだけど、最後のスタッフロールの時に寝ちゃって……」
エレーナ:「ったく、リリィ……って!?」
部屋の中には空き缶やスナック菓子が転がっていたが、その中に缶ビールや缶チューハイも転がっていた。
もちろん、このホテルの自販機コーナーで売っているものである。
鈴木は成人年齢だからいいとして、何故かリリィが顔を赤くしている上、上着を脱いでキャミソール姿になっているのが思いっ切り怪しかった。
エレーナ:「……おい、エレーナに何かしたか?」
鈴木:「ゲームクリア記念に乾杯したんだ。俺はビールだけど、リリィにはジュースにしてたさ。ところが、リリィが『ムッシュ鈴木!私にもチューハイ!』っておねだりされて……」
エレーナ:「リリィのヤツ……。鈴木も、何でそこでホイホイやるんだ!」
鈴木:「フランス人は10代の頃から飲むって聞いたから、まあここは日本だけどいいかって思って……。俺もゲームクリアしてハイテンションになってたし」
エレーナ:「あのな!……てか、ワイン飲んでハイになるリリィが、ビールくらいで酔い潰れるか?」
鈴木:「……でね、よく見たらリリィ、ゲームやってる最中から飲んでたみたい」
鈴木が指さした所には缶チューハイの空き缶が転がっていた。
鈴木:「俺はついレモンサイダーか何かだと思ってたんだよ」
リリィ:「フヒヒヒ……鈴木……大好きだぜ……ヒック!」
と、リリィが寝言を言った。
エレーナ:「リリィへの好感度抜群に上げやがったな、ロリコン野郎」
鈴木:「いや、俺は何もしてないって!これだって、『暑い暑い』って勝手に脱いだんだから!」
エレーナ:「ほら、リリィ!ここで寝るな!部屋に戻るぞ!」
エレーナはリリィを担ぎ上げ、背中に背負った。
エレーナ:「邪魔したぜ」
鈴木:「申し訳ないね」
エレーナは鈴木の部屋を出て行った。
エレーナ:「リリィ、後でオマエ説教な!?」
リリィ:「フヒヒ……ヒック!」
エレベーターに乗って、B1Fのボタンの横にある鍵穴に鍵を差し込んでONの方に回す。
するとB1Fのボタンが点いた。
エレーナ:「本当に鈴木に何もされなかっただろうな?」
リリィ:「フヒヒ……はい……」
エレベーターが2階、1階と下りて行く。
このホテルのエレベーターはホテルにしては珍しく、ドアに窓が付いているタイプである。
1階を通過した時、エレーナはふと違和感を覚えた。
エレーナ:「……?」
そして、地下1階に到着する。
廊下は暗かったが、すぐ近くのスイッチを操作すると照明が点いた。
それでも地上階に比べれば薄暗い。
エレーナ:「ほら。着いたぜ。いつもは上段を使ってもらうところだが、今日だけ下段を使っていいぜ」
リリィ:「お手数お掛けしますぅ……ヒック」
リリィは2段ベッドに横になると、そのまま眠ってしまった。
エレーナ:「こりゃ翌朝は二日酔いだぜ、全く」
身軽になったエレーナ、室内にあった中折れ帽を被り、魔法の杖を持ち、魔道士のローブを羽織って再び部屋の外に出た。
そして、またエレベーターに乗り込んで1階に向かう。
宿泊客B:「おーい、どうなってるんだ?何で誰も出てこないんだ?」
エレベーターを降りると、フロントの前に男性の宿泊客がいた。
エレーナ:「どうかしたんですか?」
宿泊客B:「え?いや、さっきから呼んでるのに、誰も出てこないんだよ。このホテル、門限でもあったか?」
エレーナ:「いえ、そんなはずは……」
エレーナはフロントの中に入った。
エレーナ:「!!!」
そこでエレーナ、違和感の正体を知る。
フロントの下にオーナーがうつ伏せで倒れていたのだ。
エレーナ:「オーナー!?オーナー、大丈夫ですか!?」
エレーナはオーナーの所に駆け寄った。
一体何が起きたのか?
オーナーの安否や如何に!?
本編へ続く!
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