報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「イリーナ組、成田空港へ」

2019-11-26 19:46:37 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日09:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 オーナー:「そうですか。本日御到着ですか」
 稲生:「そうなんです。エレーナは?」
 オーナー:「エレーナは1度アルカディアにてポーリン先生と合流した後、成田空港へ向かうそうです」
 稲生:「そうですか」
 オーナー:「そっちのレストランのキャサリンも、今日は店を他の者に任せて既に出発しましたしね」
 稲生:「さすがですね。飛行機は10時45分くらいに着くのに」

 稲生達は何で行くのかというと……。

 マリア:「勇太、タクシーが来たわ」

 成田空港までの定額タクシーである。

 稲生:「あれだって結構贅沢な交通手段だと思うんですよ。それでもまだ控え目な部類なんですって」
 オーナー:「ハイヤーよりは安いですし、ややもすれば“成田エクスプレス”のグリーン車よりも安いかもしれませんね」
 稲生:「確かに……」
 マリア:「あれは勇太の家からルーシー達が空港へ向かった時の……」
 稲生:「ええ。同じサービスを使わせてもらいました。もっとも、ルーシー達は羽田空港へ向かったわけですが、僕達は成田空港へ向かうわけです」
 マリア:「ほら、師匠。早く乗りましょう」
 イリーナ:「分かってるよ」

 イリーナはローブを羽織ると、紫色のマスクをした。
 雰囲気的にはエキゾチックなスタイルの、占いの館にいそうな占い師のようである。
 大魔道師と魔道士はリアシートに座り、見習魔道士は助手席に座った。

 稲生:「それじゃお願いします」
 運転手:「かしこまりました。それでは成田空港の第二ターミナルでよろしかったですね?」
 稲生:「そうです」
 運転手:「かしこまりました」

 タクシーが走り出した。
 メーターは作動せず、その代わり種別表示機には『定額』という表示がされている。
 また、稲生が座る助手席の後ろにはリアシートに向かってモニターが設置されている。
 これで広告やらニュースが流れるのだが、奇しくもそこにローマ教皇が来日する旨のニュースが流れていた。

 マリア:「師匠、羽田空港は厳戒態勢のようです」
 イリーナ:「もちろん想定済みよ。『狩られる側の魔女』としての私達は、それよりは警戒の甘い成田空港ってわけ」
 マリア:「まさか教会の連中も、教皇来日と同じ日に『魔女の大師匠』が来日するとは思ってもみないでしょう」
 イリーナ:「多分、隠密に優れた連中はもう掴んでるだろうね」
 マリア:「それでは……」
 イリーナ:「大丈夫。教会の連中も、まさか教皇が来日中に大騒ぎできるほどの『魔女狩り』はできないだろうから、せいぜい私達が教皇のスケジュールを妨害しないかどうか監視するに留めるでしょうね」

 それでも教会の連中がそれ以上のことをしてきたら、今度は魔女側がニュースになるほどの大騒ぎを起こすつもりでいる。
 ややもすれば教皇のスケジュールに影響が出るくらいに。
 それはさすがに教会側も本位ではないはずだから、ダンテ一門を刺激しない行動に出るしか選択は無いはずなのだ。

[同日10:00.天候:雨 千葉県成田市 成田国際空港第2ターミナル]

 都内からタクシーで約1時間ほど掛かった。
 雨が降っていたことも何かしらの影響はあったと思うのだが、稲生的には特に遅れたとは思っていない。
 それでも到着した時には、もう既に多くの魔道士や魔道師達が到着していた。

 アナスタシア:「遅いわよ、あなた達」

 アナスタシアが腕組みをして稲生達に言った。

 稲生:「す、すいません!」

 鋭く咎めるアナスタシアの物言いに、稲生は思わず謝ったが、イリーナは目を細めたまま眉間に皺を寄せて反論した。

 イリーナ:「飛行機が到着するまで、あと40分以上もあるでしょ。ただでさえ今日は教皇も来日することで厳戒態勢なのに、その敵である私達が目立ってどうするのよ」
 アナスタシア:「ふん……」
 エレーナ:「おー、幹事さん、やっと到着したか」
 稲生:「幹事さん……。そうか、僕、幹事なんだぁ……」

 稲生は今更ながらそれに気づいた。

 稲生:「あそこにポーリン先生がいるね。リリィは?」
 エレーナ:「見習は『ダンテ先生を囲む会』に参加できねーよ。本来の参加者は1期生のみ。私ら2期生や3期生は、お供として付いて行くだけのことだぜ」
 稲生:「僕、見習なんだけど?」
 エレーナ:「稲生氏は幹事だから許されてるんだぜ。それに、どうせマスター昇格まであと一歩ってところだろ?それもあるぜ」
 稲生:「なるほど……」
 アナスタシア:「稲生君、あなたのアテンドに掛かってるんだからね?失敗したら除名モノよ」
 稲生:「じょ、除名!?」
 イリーナ:「アタシの弟子に余計なプレッシャー掛けないでくれる?」
 エレーナ:「そうっスよ。そんなこと言ったら、イリーナ先生なんか何回も除名モノじゃないっスか」
 イリーナ:「そうそう。って、コラ!」
 エレーナ:「ひゃはは!サーセン!」
 イリーナ:「マリアも笑いを堪えない!」
 マリア:「し、失礼……」
 イリーナ:「電車で1度都内に向かうみたいだけど、大丈夫なの?」
 稲生:「駅から出るわけじゃありませんから。ローマ教皇が来日する前に、僕達は東京を離れる予定です。そして教皇が西へ向かうのに対し、僕達は北へ向かうわけです。そうすることで、キリスト教会の目から逸らさせるのが狙いです」
 イリーナ:「聞いた?素晴らしい作戦でしょう」
 アナスタシア:「上手く行くといいけどね」
 稲生:「問題なのは“成田エクスプレス”もその先の電車も、車内販売無いってことなんですけど、本当にいいんですか?」
 イリーナ:「構わないわよ。ダンテ先生はファーストクラスで食事やら飲みやらは機内で済ませておられるわけだし、都内を出て現地に着くまでは静かに向かう必要があるとお考えだから」
 稲生:「そうですか。もちろん、乗り換え先の電車に乗る時に、団体でお弁当とかは予約してありますので」
 イリーナ:「さすが勇太君ね。完璧だわ」
 エレーナ:「あとは、ルーシーの緊張で足がガクブル状態なのをこの目に収めてやるだけだぜ」
 マリア:「さすがにもう慣れたんじゃない?」
 エレーナ:「さあ、どうだか」

 エレーナは肩を竦めた。
 ダンテ達を乗せた飛行機が到着するまで、あと数十分。
コメント (1)
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