報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「鬼怒川温泉へ」

2019-11-29 19:59:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日 天候:雨 埼玉県久喜市 JR栗橋駅→東武鉄道南栗橋駅]

 
(JR栗橋駅から東武の南栗橋駅への渡り線内にある乗務員交替用のホーム。列車はここに停車し、JRと東武の乗務員が交替する。客扱いは行わないので、時刻表上では通過扱い)

 ルーシー:「……止まった?」
 稲生:「栗橋駅だね。ここでJRと東武の乗務員交替を行うんだよ。ここから電車はJR東日本から東武鉄道に入る、つまり鉄道会社が変わるんだ」

 1番後ろの車両に乗っているので、稲生達からは車掌が交替するシーンが見られる。
 乗務員交替が終わると、すぐに走り出す。
 スーッと通過したホームにはJRの運転士の姿が見えた。

〔「お待たせ致しました。乗務員交替の為、停車致しました。ご協力ありがとうございました。本日も東武鉄道をご利用頂きまして、ありがとうございます。……」〕

 稲生:「鉄道会社が変わったもんだから、駅の装いや電車の様子が違うでしょ?」
 ルーシー:「……JRのマークが見られなくなっただけのような……?」
 稲生:「駅の看板とかが違うって」
 ルーシー:「うーん……まあ、確かに」
 マリア:「JRオリジナルのグリーン車を連結した電車がいなくなってる。それだけでも大きな特徴だ」
 エレーナ:「おっ、マリアンナ。ルーシーに対向してるな?」
 マリア:「そんなんじゃない!」

 だが、どうしてもその否定の仕方がムキになった感じになってしまうのだった。

[同日15:14.天候:雨 栃木県日光市 東武鉄道鬼怒川温泉駅]

〔「まもなく終点、鬼怒川温泉、鬼怒川温泉です。1番線に入ります。お出口は、右側です。鬼怒川温泉より先、鬼怒川公園、新藤原、野岩鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線方面はお乗り換えです。……」〕

 稲生:「皆さん、そろそろ降りますよ」

 稲生が車両の後ろに向かって声を掛けて歩いた。

 イリーナ:「先生、やっと到着ですって」
 ダンテ:「そうか。さすがにここまで来れば、もう邪魔者も現れまい」
 稲生:「“魔の者”もですか?」
 ダンテ:「取りあえず私が眷属達は来日できないようにしておいたよ」
 稲生:「さすがですね!」

 稲生は素直に関心したが、イリーナは心の中で……。

 イリーナ:(どうしてわざわざローマ教皇が来日する日を選んで、『ダンテ先生を囲む会』が開催されるのかというと、教会の連中が悪魔祓いをしてくれるのよね……)

 困ったのはそれも諸刃の剣というヤツで、魔道師達と契約している悪魔もその対象になることと、それと契約している魔道師も魔女扱いされて狩られることだ。
 だからこそ、開催地は教皇が向かう先とは明後日の方向にする必要があった。
 そして稲生はそれを鬼怒川温泉としたのである。

 ダンテ:「キミのセンスもなかなかのものだ。これは期待できるな」
 稲生:「ありがとうございます!」
 イリーナ:「ありがとうございます、先生」

 しかしその後で稲生はイリーナに耳打ち。

 稲生:「“桃鉄式ルーレット”で決めたとは言えないですね、先生?」
 イリーナ:「シッ、黙ってなさい!」

 列車がホームに停車し、稲生達はぞろぞろとホームに降り立った。

 稲生:「それじゃ皆さん、僕についてきてください」

 稲生はライブの時に使用するサイリウムをピンク色に光らせて大きく掲げた。
 ピンク色はイリーナが契約している“7つの大罪”の悪魔、嫉妬を司るレヴィアタンのシンボルカラーであり、即ちそれはイリーナ組のシンボルカラーを現す。
 イリーナが着ているドレスもピンク色のものだ。
 ローブは紫色のものだが。

 
(鬼怒川温泉駅構内にある大提灯)

 稲生:「団体です」

 稲生は有人改札口に行くと、団体乗車券を駅員に渡した。

 駅員:「ありがとうございました」

 駅構内で写真を撮る魔女達。
 その光景は外国人観光客と変わらない。

 マリア:「この後は?」
 稲生:「バスを予約しているので、それで行きます」
 エレーナ:「40人だから観光バスか。大変だな」
 稲生:「ダイヤルバスを運行している地元のバス会社に頼んだら、1台増便貸切という形にしてくれたよ」
 エレーナ:「やるなぁ!」
 稲生:「それでは皆さん、バスに乗りましょう」

 駅前のバス停まで向かう。

 ダンテ:「なかなか良い賑わいだ。ケルト音楽が似合うな」
 イリーナ:「ケルト音楽ですか?」
 ダンテ:「和楽器でケルト音楽を奏でれば、ちょうどこの駅前の雰囲気に似合うのではないかな?」
 イリーナ:「私の弟子に演奏させますね。ちょうど私の弟子が人形遣いなもので……」
 マリア:「スキルはありますけど、楽器が無いです」
 イリーナ:「ちっ」
 マリア:「ちっ、じゃないでしょ。当たり前です」
 アナスタシア:「弟子に突っ込まれる師匠」
 イリーナ:「うるさいわねぇ」
 ダンテ:「楽しくやっているようで結構」
 稲生:「あのー、先生方。早くバスに……」
 ダンテ:「おお、そうだった」
 アナスタシア:「もう少し駅前の雰囲気を味わわせてもらえないのかしら?日本人にプランを任せると、こういう余裕が無いのよね」
 稲生:「す、すいません!」
 ダンテ:「まあ、いいから。まずはホテルに入ろうではないか。さすがに私も少し長旅で疲れたよ」
 アナスタシア:「稲生君、バスはどこ!?」
 稲生:「いや、目の前です」

 東武バスのグループ会社ということもあってか、東武バスの観光バス車両の塗装をしたバスが止まっていた。
 もちろん、観光バス仕様である。

 稲生:「すいまぜん。では、出発お願いします」
 運転手:「はい。ホテルまで直行でいいですね?」
 稲生:「はい。お願いします」

 稲生は最前列席に座った。
 もちろん、幹事としてだ。
 その隣にマリア。
 通路を挟んで1Cと1D席にはエレーナとルーシーが座る。
 まだ雨が降っている為か、バスの大きなフロントガラスを大きなワイパーが左右に扇を描きながら規則正しく動く。

 エレーナ:「山に向かう所は、やっぱり魔女だな」
 稲生:「えっ?」
 エレーナ:「新人は山での生活が嫌になって海に向かったりするものだけど、慣れてくるとやっぱり山の方がいいって思うもんだ」
 稲生:「山というか……。僕の実家の埼玉県には海が無いから、あんまり馴染みが無いだけかもね」
 マリア:「私も海よりは山の方がいいかな」
 稲生:「そういえば海に住む魔女っていませんねぇ……」
 エレーナ:「いや、本当はいるさ。ラハブ様とかね」
 稲生:「ラハブ……様?」

 あのエレーナが『様』付けで呼ぶ存在があるようだ。
 しかし、エレーナは教えてくれなかった。
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“大魔道師の弟子” 「特急きぬがわ5号」

2019-11-29 15:11:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日12:55.天候:雨 東京都新宿区 JR新宿駅・湘南新宿ラインホーム→“きぬがわ”5号6号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。6番線に停車中の列車は、13時ちょうど発、東武鬼怒川線直通、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです。この列車は、全車指定席です。発車まで、しばらくお待ちください。次は、池袋に止まります〕

 

 ATOSの自動放送がホームに響き渡る中、ダンテ一門の訪日団は最後尾の6号車に乗り込んだ。

 稲生:「それでは皆さん、昼食のお弁当をお持ちください」
 アナスタシア:「ダンテ先生の分、ちょうだい!」
 イリーナ:「いや、アタシが持って行くよ」
 ポーリン:「2人とも、余計なことすなっ!私だ!」
 ベイカー:「いやいや、ここは年長者の私が持って行くさね」
 大魔道師A:「いやいやいや!」
 大魔道師B:「いやいやいやいや!」
 大魔道師C:「いやいやいやいやいやいや!」
 エレーナ:「絶対ェ、こーなると思ったヤツは挙手しろ」
 マリア:
 ルーシー:
 アンナ:
 魔道士A:
 魔道士B:
 魔道士C:
 魔道士D:
 以下略……

 稲生:「皆さん、行き渡りましたかー?それでは先生方には缶ビールとチューハイをお配りします。弟子の皆さん方はお茶かジュースを……」

 ダンテにはイリーナを通して稲生が渡した。
 よくよく考えてみれば、日本国内におけるアテンド役はイリーナ組なのだから、本来これが当たり前なのだ。

〔「ご案内致します。この電車は13時ちょうど発、湘南新宿ライン、宇都宮線、東武鬼怒川線直通、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです。停車駅は池袋、浦和、大宮、栃木、新鹿沼、下今市、東武ワールドスクウェア、終点鬼怒川温泉の順に止まります。全車両指定席となっております。自由席はございませんので、ご乗車には乗車券の他に指定席特急券が必要です。……」〕

 稲生:「この電車では終点まで乗りますので、どうぞごゆっくりお寛ぎください」
 ダンテ:「うむ。ありがとう」

 稲生の報告にダンテは大きく頷いた。
 そして、彼を取り巻く直弟子達に言った。

 ダンテ:「皆も聞いた通り、我々はこれから北の温泉地へ向かう。教会の長は西へ向かうが、我々は北だ。即ち、この列車が発車した後は安全と見て良いだろう。私に気を遣わず、どうか日本旅行を楽しんでもらいたい。私もそうさせてもらう」

 ダンテは車両中央の座席に座った。
 稲生は相変わらず5号車に1番近い、つまりデッキ寄りの座席に座る。
 今度もまたマリア、ルーシー、エレーナと一緒だった。

 稲生:「え?なに?新幹線的なスタイルの特急じゃないのかって?……ああ、それ“スペーシアきぬがわ”号のことだね。ゴメンゴメン。ちょうどいい電車がJRの253系でさぁ……」
 ルーシー:「まあ、一応写真撮ったけど……」

 ルーシーは少し不満顔だった。

 稲生:「帰りはスペーシアだから、行きはこれで我慢してくれよ」
 エレーナ:「お、何だそうか」
 稲生:「一応ね」

 そんなことをしているうちに電車は陽気な発車メロディー(曲名:See you again)の後で、定刻に発車した。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。この電車は東武線直通、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです。停車駅は池袋、浦和、大宮、栃木、新鹿沼、下今市、東武ワールドスクウェアと鬼怒川温泉です。……〕

 日本語の自動放送の後で、外国語の放送が流れる。

 稲生:「うん、この弁当美味しい」
 エレーナ:「よく手配できたな?」
 稲生:「こういう時、ネットは便利だよなぁ……」
 ルーシー:「まあ、確かに……」
 稲生:「せっかくの旅行なのに、雨なのが残念だね」
 エレーナ:「問題無い。むしろ日光に当たりたくない連中がわんさかだぜ」
 ルーシー:「私は逆だけどね」

 エレーナはいつも被っている中折れ帽子を取って、座席横の帽子掛けに掛けている。
 さすがにとんがり帽子は目立ち過ぎるので、それを被って来る者はいなかったが、やはり防寒着と称してローブを羽織って来る辺りは魔道士(というか魔女)なのだろう。
 『日光に当たりたくない』魔女達は車内でもフードを取らず、その表情を見ることは難しい。
 もっとも、マリアだって屋敷の外や、ルーシーも本来はそういう者だった。

 稲生:「タコさんウインナーが入ってるヤツの方が良かったかな?」
 マリア:「さすがにそれを大師匠様にお渡しするわけには……」
 稲生:「まあ、そうなんですけどね」

 弁当を食べている間の魔女達は静かだったのだが、食べ終わってからが大変だった。
 稲生が弁当ガラを回収したのだが、その間、マリアとエレーナは初めて来日した魔女達の観光案内について対応するのに苦労したという。

 稲生:「観光する余裕あるの?」
 マリア:「無いと思うんだけど……」
 アンナ:「私達アナスタシア組は、この機会にまた日本国内視察を行うことになってるからね」
 エレーナ:「視察という名の観光だろ、どうせ」
 アンナ:「 エレーナ、これはウクライナのキエフで本当にあった男女の痴情のもつれの話なんだけど……」
 エレーナ:「仲間に呪い話をするヤツがあるか!」

 アンナの魔法は話の内容が相手に侵食するというもの。
 怪談話の内容が侵食するタイプで、特に話の中の主人公が死亡する場合、聞き手もその主人公と同じ死に方をするという。
 しかも、即効性で。

 ルーシー:「私はどうせまた大師匠様をロンドンまでアテンドしないといけないから、観光する余裕なんて無いわ」
 マリア:「それは……残念だね」
 エレーナ:「永住者の資格取って、アンタも日本に住んだら?」
 ルーシー:「マリアンナやエレーナと違って、日本語分からないし……」
 マリア:「私も日本語を覚えたのはつい最近なんだけどね」
 エレーナ:「私は仕事で使うからだけど、日常生活は別に魔法具に通訳してもらえばいいんじゃね?」

 雨の中、温泉特急は一路北へ向かう。
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