報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤家へ向かう」

2019-11-03 20:00:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月2日14:30.天候:晴 東京都新宿区新宿 JR新宿駅→埼京線1407K電車10号車内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は新宿で行われた全日本探偵協会の懇親会に参加した。
 昔は招待されるだけで精一杯だったが、今では色々と他の事務所から興味を持たれるまでになった。
 もっとも、その興味の目というのは、どちらかというと奇異の目に近い。
 物凄く珍しい物を見るかのような目で見られることが多くなった。
 しかし、それは致し方ない。
 率先してバイオテロやバイオハザードに巻き込まれる探偵など、日本全国……いや、世界中探しても私達くらいのものだろう。
 ましてや、それからちゃんと生還しているともあらば……。
 んでもって、政府エージェントからは正式にバイオテロに巻き込まれた際は特別に銃火器の使用を許可されている探偵なんて……。
 色々と興味を持って質問されることもあったが、どちらかというと冷やかしとか、興味本位というか、そういった感じで聞かれることが多かった。
 いつ高橋がガチギレするか気が気でないのだが、さすがの高橋もそこは空気を読んだようである。
 そんな懇親会が終わって、JR新宿駅に向かったのが14時過ぎ。
 そこでは事務所から1人で地下鉄でやってきたリサと合流した。

 愛原:「おー、リサ、1人で来れたか」
 リサ:「大丈夫。もう1人で乗れる」

 都営新宿線そのものはともかく、新宿駅は上級者向けだからな。
 私でもヘタすりゃ迷子になる話だ。
 南口から西武新宿駅に向かえって言われた日には、もう……。
 あれは新宿駅じゃなく、歌舞伎町駅とか北新宿駅とか名乗った方が良い。

 高野:「偉いねぇ」
 高橋:「だったら先に向かった方が良かったんじゃねーの?」
 リサ:「私は皆と行きたい」

 リサは学校の制服姿だった。
 しかも、着替えなどが入ったバッグを持っている。
 これだけだと、部活の行き帰りの中学生にしか見えない。

 高野:「でも、泊まるのはリサちゃんだけですよね?」
 愛原:「一応な」

 本当なら夕食会に参加して、夜そのまま帰るはずだった。
 しかし何故か斉藤社長の娘、斉藤絵恋さんがリサを強く宿泊するよう勧めたのである。
 絵恋さんはリサのことが大好きで、高橋に言わせると恋愛感情の塊であるという。
 もちろん絵恋さんは女子中学生、リサもそうだ。
 つまり、【お察しください】。
 リサの方はノーマルで、絵恋さんのことは親友と思っている程度に留まっているはずだ。

 愛原:「ま、行ってみよう」
 高橋:「はい」

 私達は多くの人達でごった返している新宿駅構内を進んだ。

 リサ:「これだけ人が多いと一思いに薙ぎ払いたくなる」
 愛原:「3連休の初日だからな、そりゃ賑わうよ」
 高橋:「俺もウザくなってきた。リサに薙ぎ払ってもらいたくなってくる」
 愛原:「俺は許可しないからな?」
 高橋:「はっ、先生がそう仰るのでしたら……」
 リサ:「一思いに薙ぎ払う」
 高橋:「って、コラ!お前は先生の御心が分かってねーのかよっ、ああっ!?」
 高野:「言い回しがケンショーブルー……」
 高橋:「何だ、姐御?」
 高野:「何でもない」

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の電車は、14時31分発、各駅停車、大宮行きです。発車まで、しばらくお待ちください。次は、池袋に止まります〕

 埼京線で向かうことにした。
 昼食は探偵協会の懇親会、夕食は斉藤家で行われる夕食会だ。
 今日だけは朝食を除いて、食事は豪華なものになりそうである。
 新宿始発の電車に乗り込む。

 高野:「女性専用車両。新宿線といい、先生はこの車両に乗り込むのが好きですね」

 高野君が含み笑いをしてくる。
 もちろん女性専用車が適用されるのは、平日の特定の時間帯のみだ。
 土休日は一切適用されない。

 愛原:「埼京線はこの車両が1番空いてるの」
 リサ:「ここ、ここ!」

 リサは運転室に近い4人席に座り込んだ。

 愛原:「ちょうど4人か」
 高橋:「こら、先生の隣は俺の席だぞ」
 愛原:「別にいいじゃないか」
 高野:「マサも先生のことが大好きだもんね」
 高橋:「当たり前だ。俺は唯一無二の師匠、愛原先生に断固としてお応えして参る決意だぞ」
 愛原:「また、どこかで聞いたようなセリフを……」

〔この電車は埼京線、各駅停車、大宮行きです〕
〔This is the Saikyo line train for Omiya.〕
〔「埼京線の各駅停車、大宮行きです。途中駅での快速の待ち合わせはございません。まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 発車の時間になって、ホームから発車メロディが聞こえて来る。

〔2番線の埼京線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 ドアが閉まるが、駆け込み乗車があったのか、1度再開閉してそれから閉まった。
 車内には空気清浄機の作動する音だけが聞こえている。
 もうクーラーの爆音を聞く時季ではなくなった。
 そして、電車がゆっくりと発車していく。
 ホームの北の方に向かう度、人の数が増えていくのが分かった。
 新宿駅は南側よりも北側の方が賑わっているということだ。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、大宮行きです。次は、池袋です〕
〔This is the Saikyo line train for Omiya.The next station is Ikebukuro(JA12).〕

 リサは緑色のブレザーのポケットからスマホを取り出すと、それを操作し始めた。

 愛原:「絵恋さんに連絡かい?」
 リサ:「うん。サイトーに頼まれた。『埼京線に乗ったら連絡する』『池袋駅を出発したら連絡する』『板橋駅を出発したら連絡する』『十条駅を出発したら連絡する』『赤羽駅を……』」
 愛原:「ちょっと待て!各駅ごとにLINEする気か!?」
 リサ:「サイトーに頼まれた」
 高橋:「なにリサにストーカーさせてんだよ、あのレズ女め」
 高野:「よっぽど寂しがり屋さんなんだねぇ……」
 高橋:「ドン引きだぜ」
 愛原:「高橋だけはこの会話に参加することを禁止する」
 高橋:「ええっ!?何でですか!?」
 愛原:「自分の胸に手を当てて考えてみろ!」

 都営バスに乗った時、バス停を通過する毎にLINEしてきやがって、こいつは……。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤秀樹の誘い」

2019-11-03 14:39:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月25日11:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。

 愛原:「いやー、しかしアレだな。この前の台風には参ったな」
 高橋:「しかし、この辺りには被害はありませんでした。さすが先生です」
 愛原:「俺は何もしてねーよ。いくら探偵でも、自然災害には形無しだからな」
 高橋:「バイオハザードにも勇敢な先生です。きっと先生のおかげですよ」
 愛原:「いや、だってバイオハザードは殆ど人災じゃん。この前の東北旅行だって、ありゃあ……」

 と、その時、事務所の電話が鳴った。

 高野:「お電話ありがとうございます。愛原学探偵事務所でございます」
 ボス:「私だ」
 高野:「ああ、ボス。お疲れさまです」
 ボス:「ほお?今日はボケないのか?」
 高野:「嫌ですわ。天丼は2回までですよぉ?」
 ボス:「2回以上しているような気がするのだが、まあ良い。愛原君はいるかね?」
 高野:「はい。少々お待ちください。先生、私田さんから電話でーす!」
 ボス:「ちょっと待てーい!」

 私は電話を代わった。

 愛原:「はい、もしもし。お電話代わりました。愛原です」
 ボス:「このネタ、好きだねぇ」
 愛原:「もはや鉄板ですね。それより、今日はどんな御用で?」
 ボス:「仕事の依頼だ。今度は大日本製薬の斉藤社長からだ」
 愛原:「斉藤社長から?まともな仕事じゃないんですよねぇ……」
 ボス:「仕事を選り好みしている場合かね?台風続きで今月は赤字だと聞いたが?」
 愛原:「あ、まあ、そうなんですけど……」
 ボス:「後ほど斉藤社長から連絡があるだろう。よろしく頼むよ」
 愛原:「分かりました」

 私が電話を切ると、ものの数分後にまた電話が掛かって来た。
 この場合、わざわざボスを介する必要ってあるのかな?

 愛原:「はい、愛原です」
 斉藤:「愛原さん、しばらくです。この前の台風は如何でしたか?」
 愛原:「おかげさまで、こちらは被害ゼロでした」
 斉藤:「それは素晴らしい。こちらは『避難開始』というのが出ましたが、取りあえず3階に避難しましたよ」
 愛原:「さすがは大豪邸ですな」
 斉藤:「いえいえ。近所の御宅と比べれば小さなものです」

 さいたま市の高級住宅街の中で比較されてもなぁ……。

 斉藤:「それで愛原さん、話は変わりますが、今度我が家に来ませんか?」
 愛原:「と、仰いますと?」
 斉藤:「この前の東北旅行、娘を守って頂いた御礼をしたいのです。結局報酬は契約の通りでしたからね。本来なら増額して差し上げたかったのですが、なかなか思うようには……へへ……」

 会社の資金繰りと同様、家の資金繰りは奥様に牛耳られているといったところかな。
 いや、会社の資金繰りにあっては経理部門に任せているだろうが。

 愛原:「お気遣いありがとうございます。私としては今後ともお付き合いのほど、して頂ければ十分ですよ」
 斉藤:「それはもちろん。あの霧生市どころか、東北でもBOWと渡り合った愛原さんにしか頼めない仕事は多々ありますので」
 愛原:「それで御礼というのは?」
 斉藤:「今度の3連休……11月になりますが、夕食会を行いたいと思うのです。それに愛原さんと事務所の皆さんを御招待させて頂きたいと思います」
 愛原:「ほお、夕食会を……」
 斉藤:「本来でしたらホテルのレストランを予約したいところなんですが、我が家の経理部長が……へへ……」
 愛原:「分かりました。当事務所大口顧客のお誘いをお断わりしたら、非礼千万ですな。社長の御宅というと、埼玉の……」
 斉藤:「ええ。お車代は別にお渡ししたいと思いますので、是非」
 愛原:「分かりました。それではお言葉に甘えさせて頂きたいと思います」
 斉藤:「ありがとうございます。良かったです。もしここで愛原さんに断られたら、私が娘にボコボコにされてしまいます」
 愛原:「な、なるほど」

 斉藤家における斉藤秀樹社長の立ち位置が分かったような気がした。
 夕食会の経緯も何となく。

 斉藤:「後ほど招待状を送らせて頂きますので、よろしくお願いしますよ」
 愛原:「分かりました。わざわざありがとうございます。失礼します」

 私は電話を切った。

 高橋:「先生、今度はどんな仕事っスか?」
 愛原:「斉藤社長の接待だよ」
 高橋:「ええっ?探偵の仕事じゃないじゃないっスかー!」

 高橋はあからさまに嫌な顔をした。

 高野:「マサ、そんなこと言わないの。顧客への接待も、立派な仕事だよ。どこの会社でもやってることよ。ですよね、先生?」
 愛原:「まあ、そうだな。そもそも今まで、うちには接待する相手すらいなかったんだから」
 高野:「それで事務所が持っていたというのも凄い事ですね」
 愛原:「といっても接待先は斉藤社長の御宅だ。表向きには、斉藤社長が俺達に接待してくれるということではあるんだが、実際は……」
 高橋:「そりゃ相手のホームに行くんですから、アウェイの俺達の方が気を使いますよ」
 愛原:「まあ、そういうことだな」
 高野:「しかし、どういう経緯なんですか?」
 愛原:「表向きには前回の東北旅行の御礼をしたいそうだ」
 高野:「今頃ですか……」
 愛原:「そう、今頃。あそこでBOWの襲撃から娘さんを守ってくれた御礼だそうだよ」
 高野:「でしたら報酬を増額して下されば良かったのに……」
 愛原:「それは社長御本人もそう仰ってたよ。しかし、諸事情あって無理だったから、せめてその夕食会なんだそうだ」
 高橋:「先生をナメてますね。飯で釣ろうとは……」
 愛原:「社長の仰ってることが本当なら高橋、お前も家族を持てば理解できるよ」
 高橋:「は?」
 愛原:「それも、できた子供は娘だ。更にその娘が思春期まで成長した時の……」
 高橋:「あのレズガキですか?あれが一体何だと?」
 愛原:「まあまあ。とにかく、俺達は素直にお呼ばれすればいい。後で招待状が来るらしいから」
 高野:「あの旅行のメンバー全員ということは、リサちゃんも含まれているということですね?」
 愛原:「そういうことだ。だけど、実質的にはリサが主役になるかもなぁ……」

 私は顎に手をやってそう答えた。
 恐らくリサが学校から帰ってくれば、補足説明は全てされるだろう。
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