報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生達も怪談ネタを提供する側である」

2018-05-19 20:41:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月10日23:07.天候:雨 宮城県仙台市青葉区 東北新幹線“はやぶさ”41号8号車内→JR仙台駅]

 降りしきる雨の中、稲生達を乗せた最終の“はやぶさ”は北に向かって走行した。
 途中、『ただいま 時速320kmで走行中です』という表示が出たが、いかんせん外は真っ暗でそんな感じはしなかった。
 ようやく車窓に夜景が映るようになる頃、列車は速度を落とす。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、仙台です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 車内に自動放送が響き渡る。
 内容が簡易的なのは、深夜帯で最終電車の運行が終わった路線もあるからという理由だろう。
 実際、その後の肉声放送でも、

〔「各在来線、最終列車の接続待ちをしている所があります。お乗り換えのお客様、最終列車の時間にご注意ください」〕

 という放送をしている。
 稲生達はというと……。

 稲生:「お寺までタクシーで行くからいいです」

 とのこと。

 威吹:「なあ、ユタ。既に通り過ぎたし、この席だと反対側の車窓だから見えないが、もしかしたらこの列車から見えたんじゃないのか?その寺が」
 稲生:「うん、そうだね。僕が顕正会員だった頃、威吹も同じように見たはずだよ?そっちの2人席の窓からね」
 威吹:「やっぱりな。もっとも、あの頃はまだこういう明かりを灯す列車ではなかったはずだ」
 稲生:「そう、そうなんだ」

 “はやぶさ”のE5系は普通車であっても電球色のグローブライトが灯り、座席にもピローが付いている。
 稲生達が顕正会の仙台大会へ向かった時はE2系0番台で、照明は薄暗い間接照明だった。

 列車が深夜の仙台駅新幹線ホームに滑り込んだ。

 稲生:「雨だなぁ……」
 威吹:「おあつらえ向きじゃないか。ヘタすりゃ亡霊と戦うんだからな」
 稲生:「真相を確かめに行くだけだよ。なるべく、戦いたくはないなぁ……」

 稲生達は列車を降りた。
 他の乗客達もぞろぞろと降りて、階段やエスカレーターへ向かう。

 威吹:「ボクもなるべくなら戦いたくは無いけど、そこの魔女は戦いたくってしょうがないみたいだぞ?」
 マリア:「……2度と勇太に付きまとわない為の黒魔法は……」

 マリアは魔道書を開いていた。

 稲生:「マリアさん、今そういうのは……。後ででいいんで」
 マリア:「私の勝手だ」
 稲生:「いや、まあ、そうなんですけどね……」
 威吹:「ま、いいから早く行こう。さっさと済ませて、帰り際、牛タンをたらふく食べるのだ」

 威吹は牛タンの広告を見て言った。

 威吹:「あ、うん。そうだね……」

 3人は改札口を出ると、その足で1階のタクシー乗り場に向かった。

 運転手:「はい、どうぞー」
 稲生:「お願いします」

 道案内をする関係で、稲生が助手席に座る形となる。
 その為、後ろに座るマリアと威吹が隣り合う形となるわけだが、この2人の微妙な空気といったら……。

 運転手:「どちらまで?」
 稲生:「蓮坊小路の保壽寺までお願いします」
 運転手:「は、はい」

 タクシーが走り出す。
 そして、最初の信号で止まったところで、運転手は被っていた白い帽子を被り直した。

 運転手:「こんな時間に参拝ですか?」

 既に料金メーターは『割増』を表示している時間である。

 稲生:「ええ、まあ。お寺そのものに用事は無いんですが、むしろお墓の方に用事があるというか……」
 運転手:(こんな時間にお墓参り?!)

 驚いた運転手はふとルームミラーを見た。

 運転手:「!!!」

 リアシートに座る銀髪の着物姿の男は金色の瞳を鈍くボウッと光らせていたし、金髪の白人の女はブルーの瞳を光らせていた。

 稲生:「ああ、大丈夫です。支払いはカードがありますから」
 運転手:「は、はい!」

 運転手は乗せた3人の乗客の異様な雰囲気に気圧されてしまっていたのだが、この3人の乗客は……。

 稲生:(そういえば現金の持ち合わせが少なかったな。このタクシー、カード使える車で良かった)
 威吹:(そういえば自動車という乗り物、ユタの座っている席が1番危ない箇所じゃなかったか?オレが変われば良かったかな。だが、オレは寺の場所を知らないしな……)
 マリア:(死んだ時点で、勇太とはもう別れたも同然だというのに、あの女……!)

 と、てんでバラバラなことを考えていたのだった。
 ぶっちゃけ、運転手の恐怖は心配無いものと言えよう。
 だが、車内は寺に到着するまで無言の微妙な空気が漂っていたという。

[同日23:30.天候:雨 宮城県仙台市若林区連坊小路 曹洞宗保壽寺 霊園]

 タクシーがJR線路沿いの小道に入り、しばらく進んだ先で止まった。

 運転手:「つ、着きました」
 稲生:「どうもお世話様です。カードで払います」

 稲生はイリーナから預かったゴールドカードを渡した。
 プラチナカードはイリーナ自身が使っているようだ。
 それとも、マリアが持っているのだろうか。
 稲生がカードで払っている間、威吹とマリアはタクシーを降りた。

 威吹:「ここか……。なるほど。確かに、見たことあるような気がする」

 威吹は振り向いて見上げた。
 そこには先ほど乗って来た東北新幹線の高架線が見える。

 稲生:「すいません、お待たせしました」
 威吹:「いや……」

 稲生が最後に降りると、タクシーは逃げるように走り去って行った。

 稲生:「こっちにも、有紗の離婚した両親の片方の親の墓があるらしいんだ。僕もうろ覚えなんだけど、確か向こうの方だったと思う」
 威吹:「分かった。足元に気を付けてくれ。墓地のせいか、やっぱり暗い」
 稲生:「分かってるよ」

 これが魔法使いらしく、何かそういう明かりとなるようなものを出す魔法でも使えばカッコ良かったのだろうが、稲生は普通にポケットから掌サイズのライトを出しただけだった。

 稲生:「こっちにも骨壺が無かったらどうしよう……?」
 威吹:「翌日、善後策を考えるしか無いな」

 何回か迷って、ようやく稲生達は河合家の墓に辿り着いた。
 ここまで特に有紗はもちろん、他の幽霊と遭遇することも無かった。
 ま、本来は遭遇しないのが普通なのであるが。

 稲生:「あっ!」
 威吹:「む!?」
 マリア:「!?」

 その時、稲生のライトに何かが映し出された。
 それは骨壺!
 まるで、御供え物をするかのように置かれていた。

 稲生:「あった!あの骨壺だ!」
 威吹:「待て、ユタ!何か様子がおかしい!!」

 さすが昔は戦いの中で生きていた威吹である。
 何か、不自然さを感じ取ったのだ。
 そして、そんな威吹の予感は当たった。
 何が起きたと思う?

 1:後ろから狙撃された。
 2:有紗が襲い掛かって来た。
 3:落とし穴が開いた。
 4:他の幽霊が襲い掛かってきた。
 5:他の魔道師が現れた。
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“大魔道師の弟子” 「夜の東京駅」

2018-05-19 10:18:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月10日21:24.天候:雨 JR東京駅・新幹線ホーム(JR東日本側)]

〔21番線から、“なすの”275号、那須塩原行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 隣のホームから発車ベルの音が聞こえてくる。
 発車メロディが乱流している中、そして東海道新幹線でも発車メロディが使われている中、未だに発車ベルを鳴り響かせる所は珍しい。
 平日の夜ということもあって、東北へ行かない東北新幹線の車内は、隣のホームから見る限りにおいては、通勤客が殆どを占めているようだった。

 威吹:「よし、ボクはこれとこれだ」

 稲生達、ホームの売店で駅弁などを買っている。
 これから仙台で緊張が起こるというのに、何を暢気にと思うかもしれない。
 実際、稲生とマリアはそうだった。
 だが、威吹がそれを申し出たのだ。
 渋るマリアに、威吹が言った。

 威吹:「亡霊にオレ達とは違うところを見せてやろうではないか。即ち、食欲だ。死んでたら、物を食べることも叶わん」

 と。
 今は有紗の姿は見えないが、稲生は時折背筋が寒くなることがある。
 それは降雨による気温低下でそう感じるのかと思ったのだが、たまに霊気を感じることがある為、もしかしたら有紗が姿を現さないだけで、気配だけは向けているのではないかと思うのだ。
 それは威吹も気づいていて、あえてそんな嫌味なことを言ったのではと思った。

 マリア:「それにしても、酒まで買うとは……」
 威吹:「亡霊は酒など飲めん」

 威吹は駅弁と一緒にワンカップを手にしていた。

 威吹:「ユタの話では、今度乗る列車は車内販売が無いというではないか」
 稲生:「そうだなんだよね。“はやぶさ”で、グランクラスにアテンダント付きだっていうから、車販もあるかと思ったんだけど、いくら調べてもそんなのが出てこないんだ。最近は車販も縮小傾向にあるからね」

 その代わり、駅構内の販売店が拡充されてきた。

 威吹:「ユタは酒要らないの?」
 稲生:「いや、いいよ。弁当とお茶で」

 そんな風に色々と物色していると……。

〔「お待たせ致しました。22番線、まもなくドアが開きます。乗車口まで、お進みください。……」〕

 という放送が聞こえて来た。

 稲生:「おっと!もう開扉だ」

 “はやぶさ”は全車指定席で、キップさえ取れれば、あとは席にあぶれる心配は無いのだから慌てる心配は無い。
 だが、そこで気持ちがはやるのは鉄ヲタの哀しいサガか。

 稲生:「すいません、Suicaで払います」
 店員:「はい、ありがとうございます」

 稲生はSuicaで弁当とお茶代を払うと、車両に近づいた。

 稲生:「残念。H5系じゃなかった……」

 と、呟くと……。

 有紗:「相変わらずだね、勇太君……?」
 稲生:「!!!」

 背後から有紗の声がしたような気がして、稲生はバッと振り向いた。
 しかし、そこに有紗はいなかった。

 有紗:「私が生きていたら……」
 稲生:「有紗……」

 声だけがする。
 だが、車両の窓ガラスに反射する稲生の姿の後ろに確かに有紗は映っていた。

 威吹:「有紗殿、一緒に行きたいのか?だが、残念だ。幽霊が乗るのは、あちらの列車でござる」

 威吹はにこやかに後ろを指さした。

 稲生:「!?」

 稲生が威吹の指さした方向に行ってみると、東海道新幹線ホームに0系が停車していた。
 但し、随分と塗装がくすんでおり、しかもそのホームにいる乗客も駅員も誰一人その列車に気づいていないようだった。
 ホームには撮り鉄らしき者がN700Aの写真を撮っており、もしも0系がいようものなら明らかに失禁モノであろうが、それに気づいていないということは……。

 稲生:「冥界鉄道公社、ついに新幹線の運行始めたのか!?……いずれはやると思っていたけど」

 過去の古めかしい車両で持って、あの世とこの世を結ぶ鉄道を運行する冥界鉄道公社。
 一部列車は魔界のアルカディアに行き、魔界高速電鉄と片乗り入れをしている。

 威吹:「向こうは幽霊というだけで、特にキップは要らぬと聞いておる。まだ発車時刻になっておらぬようだが、如何かな?」
 有紗:「……!」

 有紗は納得行かぬという顔をしていた。

 威吹:「では、正規のキップを持っている我々は、こちらの列車に乗るとしよう。行こうか、ユタ?」
 稲生:「あ……う、うん……」

 にこやかな顔をする威吹に戸惑いを感じながらも、稲生は威吹に続いて“はやぶさ”のE5系車両に乗り込んだ。
 最後にマリアが乗り込むが、その際、ジッと恋敵の気配のする方を睨みつけていた。
 マリアにも直接有紗の姿は見えないらしい。
 が、気配はするようだ。

 稲生:「閑散期のド平日で良かったよ。3人席が取れて」
 威吹:「それはそれは……」

 稲生達は8号車に乗り込んだ。
 案の定、有紗は列車に乗り込んでくることができなかった。

 稲生:「列車内まで憑いて来るかと思ったんだけど……」
 威吹:「暗示だよ、暗示」
 稲生:「暗示?」
 威吹:「そう。『幽霊はこの列車に乗ることはできない』という暗示さ」
 稲生:「それも狐妖術なのかい?」
 威吹:「別に、妖術を使った覚えは無いが……」
 マリア:「胸糞悪い」

 窓側に座るマリアは不快そうに言うと、ピシャッと縦引きカーテンを閉めた。
 22番線は3人席側にホームがある状態だ。
 有紗の姿は見えないが、マリアには今度は見えたのかもしれない。
 恨めしそうな顔をして覗き込み、恋敵を睨みつける亡霊の顔が。

 威吹:「おいおい、ユタは車窓も楽しむのだ。それを奪ってはイカンでござるよ?」

 威吹はワンカップの蓋を開けて言った。

 マリア:「発車したら開けるよ」
 稲生:「大丈夫かな?列車の運行を妨害するようなことをしなければいいけど……」
 威吹:「今の有紗殿に、そこまでの力は無い」
 稲生:「そうなの?」
 威吹:「少しずつ霊力が削ぎ落されているようだ。理由は分からんが、もしかしたらユタの塔婆供養、今更ながらに効いて来たのかもしれんぞ?」
 稲生:「今頃!?」
 威吹:「日蓮仏法とやら、功徳の現証は遅効性のようだな」

 威吹は嫌味とも取れる笑みを浮かべた。
 そして断言通り、“はやぶさ”41号は定刻通りに発車したのである。
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