[魔界時間4月10日07:00.天候:晴 アルカディアシティの南端村 稲荷神社]
稲生の枕元に置いたスマホが、発車メロディの目覚ましアラームを鳴らす。
今度は仙台駅新幹線ホームのものだ。
稲生:「う……」
稲生はすぐにアラームを止めた。
枕が変わると抵抗無く起きられるというが、全くその通りのようだ。
マリア:「勇太?」
隣の部屋から襖越しにマリアの声が聞こえる。
マリア:「勇太、大丈夫?」
稲生:「ああ、マリアさん……」
マリア:「開けていい?」
稲生:「どうぞ」
マリアが襖を開けると、彼女はワンピース型の寝巻を着ていた。
マリア:「どう?調子は?」
稲生:「……別に、何とも無いですね。体の具合は」
マリア:「記憶は戻った?」
稲生:「記憶……うっ」
稲生は頭を押さえた。
稲生:「……あ、いや、大丈夫です。思い出しましたよ。全部」
マリア:「そうか……」
それから2人は朝の身支度をすると、茶の間に向かった。
そこでは坂吹とさくらが朝食の準備をしていた。
威吹:「ああ、ユタ。おはよう。どうだった?」
稲生:「うん。体の具合は何ともないし、全部思い出したよ」
威吹:「それで?」
稲生:「僕達は顕正会時代、仙台の地方大会に行ったんだね。そこで、有紗のお姉さんと会った」
威吹:「おお、そうか。それでボクもその存在だけは知っていたんだ。直接会ったというか、見ていただけだったからな」
威吹達が駆け付ける前に、衛護隊が駆け付けたからだ。
そして有紗の姉だという女性は、そのままどこかへ排除された。
稲生:「威吹は顔を覚えているかい?」
威吹:「いや。ただ、姉妹なのだから似てはいるだろう。……血が繋がっていれば、の話だが」
稲生:「いや、血は繋がってるよ。それどころか、双子なんだからさ、そっくりそのままの姿のはずさ」
マリア:「……ちょっと、それって……」
威吹:「水晶球の映像で見た女というのは……」
マリア:「有紗の双子の姉!?」
威吹:「双子の姉が、どうして墓暴きなんかするんだ?」
稲生:「元々お姉さんは、有紗の顕正会活動に猛反対だった。顕正会から見れば怨嫉者さ。僕は会内で知り合っただけだけど、まるで僕が引き込んだみたいに恨んでいたからね。キミがいない時だったけどさ、食って掛かられたこともあった。すぐに衛護隊に引きずり出されたけどね」
マリア:「それが墓暴きの理由になるの?」
稲生:「それがさっぱ分からない。さいたま市の青葉園は公営墓地で、顕正会が運営しているわけじゃないのにね」
マリア:「その双子の姉とやらは、どこにいる?」
稲生:「多分、仙台のどこかだと思う。僕の記憶が正しければ、有紗の両親は離婚していて、それぞれ片方の親に引き取られたらしいんだ」
そこで稲生、大きく息を吸い込む。
稲生:「もし有紗の墓を暴いたのがお姉さんで、その人が遺骨を持って行ったのだとしたら、その行き先は想像がつく。それも、取り戻した記憶の中に僅かにあるんだ」
威吹:「どこだい、そこは?」
稲生は仙台市内にある寺院墓地の名前を言った。
稲生:「有紗の遺骨は分納されたらしい。要は、父方と母方と……。有紗が生前言ってた、『功徳を積めば、また一緒に両親と暮らせるよね』って言葉が却って、有紗の遺骨まで分かれさせることになったんだ」
威吹:「それはボクも初耳だな。ちっ、やっぱり玉上を吊るし上げておくんだったな」
マリア:「つまり、有紗の姉は妹の骨が分納されているのが嫌になって、合流させようとしたのか」
稲生:「分かりませんが、恐らくそうじゃないかと」
威吹:「あれからもう10年以上経つ。何故今になって、という疑問は残るがな」
稲生:「いずれにせよ、仙台に行って調べる必要はあるかと思います」
威吹:「それよりも当時の顕正会員を捜し出して話を聞いてみるというのは?」
稲生:「それは無理だね」
威吹:「どうして?」
稲生:「どうせ今は、当時の人達は殆ど残っていないだろうさ。上手い具合に宗門に帰依してくれていればいいんだけど、そんな話は聞かない。恐らく、そのまま辞めて無宗派になったというのがオチだろう」
哀しいことだが、それが現実。
作者のいた第6隊の者が、作者のように1度でも宗門にて受誡した者がいるという話を聞いたことない。
稲生:「僕は有紗の墓があると思われる場所に、心当たりがある。そこを当たれば分かると思うんだ」
マリア:「分かった。そこに行ってみよう」
稲生:「乗り掛かった舟だ。僕も付き合おう」
マリア:「イブキ……!?」
威吹:「この悪霊騒動の原因を作ったのはオレの身内だ。オレもまた責任を取る必要があるし、それにこの先、またあの有紗殿の亡霊が襲って来るかも分からん。この妖刀は亡霊は斬れぬが、それでも妖(あやかし)は斬れるのだから、力を弱らせるくらいのことはできるかもしれぬ」
威吹はマリアに強く言った。
威吹:「そういうわけだ。さくら、オレはしばらく留守にする」
さくら:「分かったわ」
威吹:「坂吹、しばらくの間、さくらと威織を頼むな?」
坂吹:「分かりました」
朝食を済ませると、威吹は急いで支度を始めた。
マリア:「旅ガラスみたいな姿になったりして?」
稲生:「いや、そんなことないですよ。着物姿のままではあるでしょうけど。しかし、よく旅ガラスなんて知ってますね?」
マリア:「そりゃ、私も日本に住んで何年も経つから。それくらい知ってるよ」
稲生:「そうですか」
マリア:「それより、どうやって向かう?」
稲生:「まずは、人間界に戻る必要がありますね。ワンスターホテルに戻った後、そこから東京駅か上野駅に向かって、新幹線に乗って向かった方がいいかもです」
マリア:「分かった。その辺は勇太に任せるよ」
そんなことを話していると、威吹がやってきた。
威吹:「お待たせ。それじゃ、行こう。坂吹、辻馬車を呼んでくれ」
坂吹:「もう既に連絡してあります」
さすが坂吹は手回しが早い。
因みに威吹は、そんなに大きな荷物は持っていなかった。
稲生:「昔は髪の中に刀を隠していたけど、今はどうするんだい?」
威吹:「おっと。人間界は帯刀禁止だったな。案ずるな。ちゃんと手は考えている」
稲生:「そうか」
神社を出ると、3人は辻馬車に乗り込んだ。
まずは、魔法陣のある魔王城へと向かうことになる。
稲生の枕元に置いたスマホが、発車メロディの目覚ましアラームを鳴らす。
今度は仙台駅新幹線ホームのものだ。
稲生:「う……」
稲生はすぐにアラームを止めた。
枕が変わると抵抗無く起きられるというが、全くその通りのようだ。
マリア:「勇太?」
隣の部屋から襖越しにマリアの声が聞こえる。
マリア:「勇太、大丈夫?」
稲生:「ああ、マリアさん……」
マリア:「開けていい?」
稲生:「どうぞ」
マリアが襖を開けると、彼女はワンピース型の寝巻を着ていた。
マリア:「どう?調子は?」
稲生:「……別に、何とも無いですね。体の具合は」
マリア:「記憶は戻った?」
稲生:「記憶……うっ」
稲生は頭を押さえた。
稲生:「……あ、いや、大丈夫です。思い出しましたよ。全部」
マリア:「そうか……」
それから2人は朝の身支度をすると、茶の間に向かった。
そこでは坂吹とさくらが朝食の準備をしていた。
威吹:「ああ、ユタ。おはよう。どうだった?」
稲生:「うん。体の具合は何ともないし、全部思い出したよ」
威吹:「それで?」
稲生:「僕達は顕正会時代、仙台の地方大会に行ったんだね。そこで、有紗のお姉さんと会った」
威吹:「おお、そうか。それでボクもその存在だけは知っていたんだ。直接会ったというか、見ていただけだったからな」
威吹達が駆け付ける前に、衛護隊が駆け付けたからだ。
そして有紗の姉だという女性は、そのままどこかへ排除された。
稲生:「威吹は顔を覚えているかい?」
威吹:「いや。ただ、姉妹なのだから似てはいるだろう。……血が繋がっていれば、の話だが」
稲生:「いや、血は繋がってるよ。それどころか、双子なんだからさ、そっくりそのままの姿のはずさ」
マリア:「……ちょっと、それって……」
威吹:「水晶球の映像で見た女というのは……」
マリア:「有紗の双子の姉!?」
威吹:「双子の姉が、どうして墓暴きなんかするんだ?」
稲生:「元々お姉さんは、有紗の顕正会活動に猛反対だった。顕正会から見れば怨嫉者さ。僕は会内で知り合っただけだけど、まるで僕が引き込んだみたいに恨んでいたからね。キミがいない時だったけどさ、食って掛かられたこともあった。すぐに衛護隊に引きずり出されたけどね」
マリア:「それが墓暴きの理由になるの?」
稲生:「それがさっぱ分からない。さいたま市の青葉園は公営墓地で、顕正会が運営しているわけじゃないのにね」
マリア:「その双子の姉とやらは、どこにいる?」
稲生:「多分、仙台のどこかだと思う。僕の記憶が正しければ、有紗の両親は離婚していて、それぞれ片方の親に引き取られたらしいんだ」
そこで稲生、大きく息を吸い込む。
稲生:「もし有紗の墓を暴いたのがお姉さんで、その人が遺骨を持って行ったのだとしたら、その行き先は想像がつく。それも、取り戻した記憶の中に僅かにあるんだ」
威吹:「どこだい、そこは?」
稲生は仙台市内にある寺院墓地の名前を言った。
稲生:「有紗の遺骨は分納されたらしい。要は、父方と母方と……。有紗が生前言ってた、『功徳を積めば、また一緒に両親と暮らせるよね』って言葉が却って、有紗の遺骨まで分かれさせることになったんだ」
威吹:「それはボクも初耳だな。ちっ、やっぱり玉上を吊るし上げておくんだったな」
マリア:「つまり、有紗の姉は妹の骨が分納されているのが嫌になって、合流させようとしたのか」
稲生:「分かりませんが、恐らくそうじゃないかと」
威吹:「あれからもう10年以上経つ。何故今になって、という疑問は残るがな」
稲生:「いずれにせよ、仙台に行って調べる必要はあるかと思います」
威吹:「それよりも当時の顕正会員を捜し出して話を聞いてみるというのは?」
稲生:「それは無理だね」
威吹:「どうして?」
稲生:「どうせ今は、当時の人達は殆ど残っていないだろうさ。上手い具合に宗門に帰依してくれていればいいんだけど、そんな話は聞かない。恐らく、そのまま辞めて無宗派になったというのがオチだろう」
哀しいことだが、それが現実。
作者のいた第6隊の者が、作者のように1度でも宗門にて受誡した者がいるという話を聞いたことない。
稲生:「僕は有紗の墓があると思われる場所に、心当たりがある。そこを当たれば分かると思うんだ」
マリア:「分かった。そこに行ってみよう」
稲生:「乗り掛かった舟だ。僕も付き合おう」
マリア:「イブキ……!?」
威吹:「この悪霊騒動の原因を作ったのはオレの身内だ。オレもまた責任を取る必要があるし、それにこの先、またあの有紗殿の亡霊が襲って来るかも分からん。この妖刀は亡霊は斬れぬが、それでも妖(あやかし)は斬れるのだから、力を弱らせるくらいのことはできるかもしれぬ」
威吹はマリアに強く言った。
威吹:「そういうわけだ。さくら、オレはしばらく留守にする」
さくら:「分かったわ」
威吹:「坂吹、しばらくの間、さくらと威織を頼むな?」
坂吹:「分かりました」
朝食を済ませると、威吹は急いで支度を始めた。
マリア:「旅ガラスみたいな姿になったりして?」
稲生:「いや、そんなことないですよ。着物姿のままではあるでしょうけど。しかし、よく旅ガラスなんて知ってますね?」
マリア:「そりゃ、私も日本に住んで何年も経つから。それくらい知ってるよ」
稲生:「そうですか」
マリア:「それより、どうやって向かう?」
稲生:「まずは、人間界に戻る必要がありますね。ワンスターホテルに戻った後、そこから東京駅か上野駅に向かって、新幹線に乗って向かった方がいいかもです」
マリア:「分かった。その辺は勇太に任せるよ」
そんなことを話していると、威吹がやってきた。
威吹:「お待たせ。それじゃ、行こう。坂吹、辻馬車を呼んでくれ」
坂吹:「もう既に連絡してあります」
さすが坂吹は手回しが早い。
因みに威吹は、そんなに大きな荷物は持っていなかった。
稲生:「昔は髪の中に刀を隠していたけど、今はどうするんだい?」
威吹:「おっと。人間界は帯刀禁止だったな。案ずるな。ちゃんと手は考えている」
稲生:「そうか」
神社を出ると、3人は辻馬車に乗り込んだ。
まずは、魔法陣のある魔王城へと向かうことになる。