報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「蘇る記憶」

2018-05-15 19:18:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間4月10日07:00.天候:晴 アルカディアシティの南端村 稲荷神社]

 稲生の枕元に置いたスマホが、発車メロディの目覚ましアラームを鳴らす。
 今度は仙台駅新幹線ホームのものだ。

 稲生:「う……」

 稲生はすぐにアラームを止めた。
 枕が変わると抵抗無く起きられるというが、全くその通りのようだ。

 マリア:「勇太?」

 隣の部屋から襖越しにマリアの声が聞こえる。

 マリア:「勇太、大丈夫?」
 稲生:「ああ、マリアさん……」
 マリア:「開けていい?」
 稲生:「どうぞ」

 マリアが襖を開けると、彼女はワンピース型の寝巻を着ていた。

 マリア:「どう?調子は?」
 稲生:「……別に、何とも無いですね。体の具合は」
 マリア:「記憶は戻った?」
 稲生:「記憶……うっ」

 稲生は頭を押さえた。

 稲生:「……あ、いや、大丈夫です。思い出しましたよ。全部」
 マリア:「そうか……」

 それから2人は朝の身支度をすると、茶の間に向かった。
 そこでは坂吹とさくらが朝食の準備をしていた。

 威吹:「ああ、ユタ。おはよう。どうだった?」
 稲生:「うん。体の具合は何ともないし、全部思い出したよ」
 威吹:「それで?」
 稲生:「僕達は顕正会時代、仙台の地方大会に行ったんだね。そこで、有紗のお姉さんと会った」
 威吹:「おお、そうか。それでボクもその存在だけは知っていたんだ。直接会ったというか、見ていただけだったからな」

 威吹達が駆け付ける前に、衛護隊が駆け付けたからだ。
 そして有紗の姉だという女性は、そのままどこかへ排除された。

 稲生:「威吹は顔を覚えているかい?」
 威吹:「いや。ただ、姉妹なのだから似てはいるだろう。……血が繋がっていれば、の話だが」
 稲生:「いや、血は繋がってるよ。それどころか、双子なんだからさ、そっくりそのままの姿のはずさ」
 マリア:「……ちょっと、それって……」
 威吹:「水晶球の映像で見た女というのは……」
 マリア:「有紗の双子の姉!?」
 威吹:「双子の姉が、どうして墓暴きなんかするんだ?」
 稲生:「元々お姉さんは、有紗の顕正会活動に猛反対だった。顕正会から見れば怨嫉者さ。僕は会内で知り合っただけだけど、まるで僕が引き込んだみたいに恨んでいたからね。キミがいない時だったけどさ、食って掛かられたこともあった。すぐに衛護隊に引きずり出されたけどね」
 マリア:「それが墓暴きの理由になるの?」
 稲生:「それがさっぱ分からない。さいたま市の青葉園は公営墓地で、顕正会が運営しているわけじゃないのにね」
 マリア:「その双子の姉とやらは、どこにいる?」
 稲生:「多分、仙台のどこかだと思う。僕の記憶が正しければ、有紗の両親は離婚していて、それぞれ片方の親に引き取られたらしいんだ」

 そこで稲生、大きく息を吸い込む。

 稲生:「もし有紗の墓を暴いたのがお姉さんで、その人が遺骨を持って行ったのだとしたら、その行き先は想像がつく。それも、取り戻した記憶の中に僅かにあるんだ」
 威吹:「どこだい、そこは?」

 稲生は仙台市内にある寺院墓地の名前を言った。

 稲生:「有紗の遺骨は分納されたらしい。要は、父方と母方と……。有紗が生前言ってた、『功徳を積めば、また一緒に両親と暮らせるよね』って言葉が却って、有紗の遺骨まで分かれさせることになったんだ」
 威吹:「それはボクも初耳だな。ちっ、やっぱり玉上を吊るし上げておくんだったな」
 マリア:「つまり、有紗の姉は妹の骨が分納されているのが嫌になって、合流させようとしたのか」
 稲生:「分かりませんが、恐らくそうじゃないかと」
 威吹:「あれからもう10年以上経つ。何故今になって、という疑問は残るがな」
 稲生:「いずれにせよ、仙台に行って調べる必要はあるかと思います」
 威吹:「それよりも当時の顕正会員を捜し出して話を聞いてみるというのは?」
 稲生:「それは無理だね」
 威吹:「どうして?」
 稲生:「どうせ今は、当時の人達は殆ど残っていないだろうさ。上手い具合に宗門に帰依してくれていればいいんだけど、そんな話は聞かない。恐らく、そのまま辞めて無宗派になったというのがオチだろう」

 哀しいことだが、それが現実。
 作者のいた第6隊の者が、作者のように1度でも宗門にて受誡した者がいるという話を聞いたことない。

 稲生:「僕は有紗の墓があると思われる場所に、心当たりがある。そこを当たれば分かると思うんだ」
 マリア:「分かった。そこに行ってみよう」
 稲生:「乗り掛かった舟だ。僕も付き合おう」
 マリア:「イブキ……!?」
 威吹:「この悪霊騒動の原因を作ったのはオレの身内だ。オレもまた責任を取る必要があるし、それにこの先、またあの有紗殿の亡霊が襲って来るかも分からん。この妖刀は亡霊は斬れぬが、それでも妖(あやかし)は斬れるのだから、力を弱らせるくらいのことはできるかもしれぬ」

 威吹はマリアに強く言った。

 威吹:「そういうわけだ。さくら、オレはしばらく留守にする」
 さくら:「分かったわ」
 威吹:「坂吹、しばらくの間、さくらと威織を頼むな?」
 坂吹:「分かりました」

 朝食を済ませると、威吹は急いで支度を始めた。

 マリア:「旅ガラスみたいな姿になったりして?」
 稲生:「いや、そんなことないですよ。着物姿のままではあるでしょうけど。しかし、よく旅ガラスなんて知ってますね?」
 マリア:「そりゃ、私も日本に住んで何年も経つから。それくらい知ってるよ」
 稲生:「そうですか」
 マリア:「それより、どうやって向かう?」
 稲生:「まずは、人間界に戻る必要がありますね。ワンスターホテルに戻った後、そこから東京駅か上野駅に向かって、新幹線に乗って向かった方がいいかもです」
 マリア:「分かった。その辺は勇太に任せるよ」

 そんなことを話していると、威吹がやってきた。

 威吹:「お待たせ。それじゃ、行こう。坂吹、辻馬車を呼んでくれ」
 坂吹:「もう既に連絡してあります」

 さすが坂吹は手回しが早い。
 因みに威吹は、そんなに大きな荷物は持っていなかった。

 稲生:「昔は髪の中に刀を隠していたけど、今はどうするんだい?」
 威吹:「おっと。人間界は帯刀禁止だったな。案ずるな。ちゃんと手は考えている」
 稲生:「そうか」

 神社を出ると、3人は辻馬車に乗り込んだ。
 まずは、魔法陣のある魔王城へと向かうことになる。
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“大魔道師の弟子” 「“顕正会版人間革命”より、『怨嫉者』」

2018-05-15 10:13:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 ※ここでは“ユタと愉快な仲間たち”の初期である“顕正会版人間革命”を一部公開致します。作者がバリバリの顕正会員だった頃に書いた作品ですので、思いっ切り顕正会を持ち上げる内容になっておりますが、ご安心ください。今の私は無宗派です。
 尚、掲載に当たり、現在の表現法に加筆修正しています。予め、ご了承ください。

[200◯年8月第2日曜日08:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区]

 稲生達を乗せた始発の東北新幹線が、仙台市内を走行していた。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、仙台です。仙石線、仙山線、常磐線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。仙台の次は、古川に止まります〕

 車内チャイムと放送が流れると同時に、スーツを着た男が立ち上がる。
 男は稲生が所属している男子部第6隊の隊長であった。

 隊長:「はい、皆さん!もうすぐ着きますよ!降りる準備をしてください!」
 稲生:「はい!威吹、そろそろ降りるよ」
 威吹:「うむ。それにしても、この時代の乗り物は速いな。奥州と言えば、ボクにとっては……」
 稲生:「稲荷神社の狐像に閉じ込められた忌々しい思い出の地でしょ?」
 威吹:「そうだな。おっ、寺があるが、あれはユタの所は関係無いのか?」

 稲生と威吹は進行方向左手の2人席に座っている。
 窓の外には大きな墓園を擁した邪宗の寺院が見えた。

 稲生:「全然関係無いね。どこの邪宗だかは知らないけど、いずれは浅井先生に捻じ伏せられる寺だよ。……いや、僕達が代わって破折かな?」
 威吹:「それは頼もしい」

 列車が仙台駅のホームに滑り込む。

 隊長:「おい、稲生君!早く降りる準備をするんだ!」
 稲生:「はい、隊長!」

 そして、ドアが開く。

〔「ご乗車ありがとうございました。仙台〜、仙台です。車内にお忘れ物なさいませんよう、ご注意ください。12番線の電車は……」〕

 ぞろぞろと降りて来る顕正会男子部員達。

 隊長:「それでは今度は、地下鉄に乗り換えます!浅井先生をお迎えする仙台市体育館へは、終点の富沢駅が最寄り駅です!このまま地下鉄の駅まで行くので、皆さん付いてきてください!」
 隊員一同:「はい!」

 夏場なので白ワイシャツにネクタイ姿であったが、その異様な光景に、他の乗客達は、まるで暴力団か右翼または左翼団体の一行だと思ったかもしれない。
 実際は、顕正会という宗教団体の一行なのだが。

 稲生:「仙台に帰って来たの、何年ぶりだろう?」
 威吹:「もう、かれこれ2〜3年ってところか。ボクもいい加減、この時代に慣れて来たよ」

 江戸時代初期に暗躍していた妖狐、威吹。
 巫女のさくらという者に封印され、奥州の稲荷神社に流され、そこで稲生に封印を解かれて出会った。
 最初はどこか異国の地に流されただけで、時代は変わっていないものと思っていた。
 だが、稲生から歴史書を渡されたり(但し、現代仮名遣いなどは読めなかった)、色々と調べて行くうちに自分が400年も封印されていたことに気づいて愕然とした。
 愕然という言葉ですら、甘い表現かもしれない。
 人間如きと蔑んでいた者に封印された上、仲間が誰も助けに来ない(つまりは見捨てられた)ことに絶望した。

 稲生:「そうだろうそうだろう。今回の大会に参加すれば、大きな功徳を頂ける。キミを封印した人についても、それで分かるかもしれないよ」
 威吹:「……期待しておこう」

 威吹は人間ではない為、入信資格は無い。
 あくまでここでは、稲生の随行者として来ている。

[同日08:15.天候:晴 仙台市地下鉄仙台駅]

 稲生達、第6隊の者達がぞろぞろと地下鉄乗り場に向かった時だった。

 稲生:「あっ!」

 別の方向から来る者に、稲生は目を奪われた。

 稲生:「有紗さん!」

 タッと脱兎の如く向かった者だから……。

 支隊長:「こら、稲生君!勝手な行動はやめろ!」

 直属の支隊長に怒られた。

 隊長:「あれは……。ああ、なるほど。まあ、いいじゃないか」
 支隊長:「ええっ?」

 稲生が駆け寄った先には河合有紗がいた。

 有紗:「勇太君、おはよう!」
 稲生:「おはよう!なに、有紗さんもこの時間なの!?」
 有紗:「私の組織は現地集合でね。私はこっちに姉がいるから、頼んで前泊させてもらったの」
 稲生:「へえ、お姉さんがいるんだ。その人も顕正会員?」
 有紗:「ううん。むしろ、怨嫉者」
 稲生:「怨嫉者なのに、よく泊めてもらえたね?」
 有紗:「まあ、そこは姉妹だから……」
 威吹:「2人とも、挨拶はそこまで。ユタ、団体行動中だぞ」
 稲生:「おっと、そうだった!有紗さんも一緒に行こう!」
 有紗:「ごめん。班員と待ち合わせて、一緒に行くことになってるの」
 稲生:「そうか……。じゃあ、会場でね」
 有紗:「うん」

 稲生と威吹は隊に合流した。

 稲生:「すいません!お待たせしました!」
 支隊副長:「ったく!今、女にうつつを抜かしてる場合じゃないんだよ!今日は浅井先生をお迎えする重大な……!」
 隊長:「まあまあまあ。別にいいじゃないか」

 上長達からの叱責を受けるが、隊長だけは庇ってくれた。
 隊長自身も妙信講時代に、他の女子部員と恋愛結婚した経験があるからだろう。

[同日08:30.天候:晴 宮城県仙台市太白区 地下鉄富沢駅→仙台市体育館]

 それまでずっと地下を走っていた電車が、急上昇を始める。
 そして、スポッと地上に出ると、そのまま高架線へと上がっていく。
 その様は、大宮駅を出発した上りの埼京線電車のようだ。

〔富沢、富沢、終点です。お出口は、右側です。お忘れ物の無いよう、ご注意願います〕

 電車が高架線へ上がる途中、進行方向右手を見ると仙台市体育館が見える。
 もう既に、多くの顕正会員が集まっていた。

 稲生:「あの人達は何で来たんですかね?」
 隊長:「前泊とか、地元に住んでいたりとか……。後は車とか貸切バスだな」
 支隊長:「仙台会館もこの近くなんですよね」
 隊長:「そうだ」

 大会終了後、是非とも近くの会館に立ち寄りたいのは顕正会員としての人情であろうが、地方の会館は概して規模が小さい為、大会参加者の全員を受け入れられるわけがない。
 その為、普段から仙台会館を拠点としている組織以外の参詣を遠慮するよう通達が出されている。

 富沢駅を出て仙台市体育館に向かって歩いた。
 そして、体育館の前にある公園に到着する。

 稲生:「おー、仙台市体育館だ。懐かしいなぁ」
 威吹:「そうなのか?」
 稲生:「子供の頃、たまに来てたよ」
 支隊長:「何言ってるんだ。稲生君、まだ高校生だろ?俺から言わせれば、高校生も十分に子供……」
 隊長:「でも誓願達成率は、既に大人並みだぞ?あなたの今月の誓願は?」
 支隊長:「あっ、いや、それは、その……」
 隊長:「とにかく、ここまでお疲れ様でした。早速中に入って、それから……」

 隊長が隊員を前にして、何か言おうとした時、騒ぎが起きた。

 隊長:「席を確保したら、少し休憩して……」
 支隊長:「隊長、すいません!あれを!」
 隊長:「ん?」
 稲生:「ああっ!」

 支隊長が指さした方を見ると、騒ぎの中心の中に有紗がいた。

 有紗:「いや!放して!私はこの大会に参加するの!放してよ、お姉ちゃん!!」
 稲生:「あ、有紗さん!」
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