報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「都営バスの旅」

2018-05-17 18:51:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[日本時間5月10日19:45.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 魔王城からの魔法陣で人間界に戻って来た稲生達。
 威吹にとっては何年振りかの人間界となる。

 稲生:「しまった!」
 マリア:「なに?」
 稲生:「1ヶ月後になったのは想定内ですけど、いま夜ですよ!?」

 稲生はスマホを取り出して言った。
 人間界と魔界とでは次元が違うせいか、流れる時間が違う。
 その為、並みの人間が偶然に行き来しても最悪数百年ものブランクが発生することもある。
 マリアのような一人前の魔道師であっても、1ヶ月から1年ほどのブランクが発生する。
 イリーナほどの大ベテランであれば1週間程度のブランクで済むのだが、肝心のイリーナはもう先に戻ってしまった。

 マリア:「マジか……」
 威吹:「どうする?ここで一泊するのか?」
 マリア:「エレーナのホテルには泊まりたくない」
 稲生:「急げば、今日中に仙台入りすること自体はできますが……」
 マリア:「何だ。それならそうしよう。今は一刻の猶予も無い」
 稲生:「そうですね」

 エレベーターで1階に上がると、フロントにエレーナがいた。

 エレーナ:「おっ、稲生氏とマリアンナ……と!?」
 威吹:「……しばらく見ない間に、やたら美人になっていないか?確かこの魔女を倒した時は、もっとブス女だったと思ったが……」
 エレーナ:「このクソ狐……」
 稲生:(だよなぁ。エレーナも何か魔法でも使ってるんだろうか……)

 稲生は窓の外を見た。

 稲生:「もう外は暑いのかな?」
 エレーナ:「暑くなったり寒くなったりだね。あなた達の屋敷の周りも、さすがに雪は融けたんじゃないの?」
 稲生:「……だろうなぁ」
 エレーナ:「ところで、うちに泊まるの?部屋空いてるよ?」
 稲生:「いや、急いでるからまた今度ね」
 エレーナ:「あら、そう。残念。……ああ、そうそう。イリーナ先生から伝言があるよ」
 マリア:「何だ?」
 イリーナ:「『良くない。先生の下着を勝手に流用するのは良くない。ダメだぞー』だって」
 マリア:「あ、ああ……バレたか……」
 稲生:「後で謝っておきましょう」
 エレーナ:「なに?ブルセラ?」
 マリア:「Huh?」
 稲生:「よく知ってるなぁ」

 稲生は別の意味でエレーナに感心した。

[同日20:19.天候:曇 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前バス停→都営バス東20系統車内]

 稲生達はホテルを出ると、バス停に向かった。
 そのバス停からは東京駅まで行くバスが通るからだ。
 それで東京駅まで向かい、そこから新幹線に乗るという計画である。

 威吹:「何だか湿っぽい。こりゃ、一雨来る予感だ」

 威吹は鼻をフンフン鳴らして言った。
 因みに彼の腰には刀は差さっておらず、代わりに江戸扇子が差さっている。
 刀が扇子に化けているのだ。

 稲生:「あっ、来た。あれだ」

 バスが接近してくる。
 行き先表示が赤枠で囲われているのは、最終バスという意味だ。
 大きなエアー音がして、前扉のグライドスライドドアが開く。

 威吹:「これを使うのも久しぶりだ」

 威吹は何年か振りにSuicaを使った。
 1番後ろの空いている席に座る。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは夜の三ツ目通りを走り出した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。この都営バスは東京都現代美術館前経由、東京駅丸の内北口行きでございます。次は森下五丁目、森下五丁目でございます〕

 威吹:「しかし、あれだな……」

 威吹が腕組みをして言った。

 威吹:「魔界からここまで来るのに1ヶ月かかったということだろう?実質的には」
 稲生:「感覚的には一瞬なんだけどね」
 威吹:「今回の件が解決して、また帰る時も1ヶ月経っているわけか?さくら達が心配だ」
 マリア:「上手いこと師匠が戻ってきてくれれば、1週間程度のブランクで済むよ」
 威吹:「断じてオマエの師匠を連れて来いよ?」
 稲生:「僕からも先生に頼んでおくよ」
 威吹:「それはかたじけない」

[同日20:31.天候:雨 東京都江東区富岡 永代通り]

〔ピンポーン♪ 次は富岡一丁目、富岡一丁目でございます。富岡八幡宮へおいでの方は、こちらでお降りください〕

 三ツ目通りを南下したバスは、木場駅前バス停から右折し、永代通りをひたすら西へ向かう。
 その途中、富岡八幡宮の前を通る。
 東京メトロ東西線と都営地下鉄大江戸線には門前仲町という駅があるが、この門前仲町とは富岡八幡宮の仲見世のことである。
 地下鉄よりもバスの方が、参拝するのには楽だ。

 威吹:「……何か、向こうの方から禍々しい霊気を感じるが、何か今日は儀式でもあるのかな?」
 稲生:「ああ……威吹も感じるのか。いや、多分儀式ではないと思うよ。うん」
 威吹:「そうなのか。有紗殿よりも強い念を感じるのだが……」
 マリア:「これだけ強い怨念では、有紗も近づけないだろう。勇太、まさかそれ狙った?」
 稲生:「いや、ただの偶然です」

 怪奇モノが流行した1990年代なら、やれ宮司の幽霊が現れただとか噂が出そうなものだが、この世知辛い時代となっては幽霊さえも【お察しください】。

[同日20:48.天候:雨 JR東京駅丸の内北口→東京駅構内]

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用くださいまして、ありがとうございました。次は終点、東京駅丸の内北口、東京駅丸の内北口でございます。……〕

 稲生:「ていうか、雨!」
 威吹:「うーむ……。バスを降りるまでには間に合わなかったか」
 マリア:「まあ、私達はフードがあるからいいけど……」

 マリアは魔道師のローブをブレザーの上から羽織った。
 そして、フードを被る。
 師匠クラスともなると、まるで占い師のように派手な装飾が付いていたりするものだが、まだ弟子の取れないマリアや、そもそも見習いである稲生はモノトーンの地味なローブだ。
 バスは赤レンガがライトアップされている所に程近い広場の前で止まった。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、東京駅丸の内北口です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください」〕

 中扉が開いて、ぞろぞろと降りて行く乗客達。
 稲生とマリアはフードを被ってバスを降りた。
 雨が降り出したら、なんだか肌寒い。

 稲生:「威吹は傘差さないの?」
 威吹:「ボクは別に濡れても平気だから」
 マリア:「サムライは傘を差さないらしいな?」
 威吹:「……片手が塞がるのが嫌なんだよ」

 威吹は面倒臭そうに答えたが、果たしてそれが本当の答えなのか不明である。
 横断歩道を渡ると、3人は赤レンガの中に入って行った。

 稲生:「ちょっと、新幹線のキップ買って来ます」
 マリア:「勇太、師匠のカード使って」
 稲生:「どうも」

 稲生はマリアからゴールドカードを受け取ると、それを手に指定席券売機の所へ向かった。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする