報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「朝の青葉通り」

2018-05-26 21:29:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月11日07:40.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 あおば通駅バス停→プロント]

 稲生達を乗せた市営バスは、朝ラッシュたけなわの市街地までやってきた。
 そこで稲生、終点の1つ手前のバス停で降りることにした。

 稲生:「いえ、先に朝食を食べようかと思いまして」
 威吹:「それもそうだな。ところで、2人は疲れておらぬか?実質的に徹夜だったゆえ、な」
 稲生:「そういえばあんまり眠くない。どうしてだろう?」
 マリア:「ポーションを使ったからだろうね」

 マリアはローブのポケットの中から小瓶を取り出した。

 マリア:「これで体力を回復させたからだと思う」

 DQシリーズでは専ら薬草だが、FFは水溶液としての薬剤だ。
 ダンテ一門では、専ら回復薬と言ったら後者を指す。

 威吹:「よく効くものですねぇ……」
 マリア:「エリクサーは高いから、取っておきだよ」
 稲生:「エレーナがボッた分も含まれてません?」
 マリア:「まあ、一応……」

 朝食を取る通勤客で賑わう店内。
 モーニングメニューも、もちろんある。

 威吹:「この後、どうするんだ?まさか、このまま帰るわけじゃないだろう?」
 稲生:「もちろん、威吹の希望通り、最後には牛タンを食べてからだよ。だけど残念なことに、朝から開いてる店は無いんだ。お昼頃まで、どこかで時間を潰さないと」
 威吹:「じゃあ、どうする?」
 稲生:「威吹は牛タンを食べられるのなら、どこでもいい?」
 威吹:「まあね」
 稲生:「せっかくですから、ちょっと新鮮な光景でも見てからにしようかと思いまして」
 マリア:「Huh?」
 威吹:「何か、物見でもしよってのかい?ユタらしいな」
 マリア:「もう1度、墓の様子を見に行くとかはしなくていいの?」
 稲生:「今は行っても無駄のような気がするんです。いくら有紗のお姉さんは黙秘するとはいえ、警察はライフルの被弾した所を調べるでしょう。で、その時、有紗の骨壺を見つけるはずです。当然それが、埼玉の青葉園から盗掘されたものだと気づくはず。今、その段階でしょう。捜査が終われば、遺骨はまた元の青葉園に戻されるはずですから、僕達が介入する余地は無いんです」
 威吹:「ユタの言う通りだな。有紗殿には気の毒だが、しばらくの間、亜空間隧道で彷徨ってもらうしかない」
 稲生:「もう1度、塔婆供養してあげようかな」
 威吹:「ユタは優しいな。だが、その言葉をマリアの前で言うのは止めた方がいい」
 稲生:「えっ?」
 威吹:「今カノのいる前で、前カノに気を使う発言は命取りでござるよ?」
 稲生:「おっと、そうだった……。ごめんなさい、マリアさん」
 マリア:「いや……。勇太と威吹のは……男の友情ってヤツか?」
 稲生:「あー……そうですねぇ……」
 威吹:「さよう。ユタとは長い付き合いなものでな」
 稲生:「威吹には色々と助けられたし、今みたいに色々教えてもらった」
 威吹:「良いでござるか?まず、魔女に通用するかは置いといて、女に対しては……」
 稲生:「ふむふむ。それで……」

 威吹、妻子持ちである。
 独身の稲生に対し、アドバイスする様は……。

 マリア:(もしかして、勇太が魔界に行って威吹に会った後、私への態度が変わってる理由ってこれか!?)

 マリアは複雑な気持ちになった。
 もちろん稲生がこうして同性からアドバイスをもらうことは何ら不思議ではなく、それは女同士でもよくあることだ。
 だが、稲生が威吹に入れ知恵されて動いていることは、あまり良く思えなかった。

[同日08:45.天候:晴 JRあおば通駅]

 朝食を終えた稲生達は、地下駅のあおば通駅に向かった。
 地下鉄ような構造だが、JRである。

 稲生:「8時53分発、普通、高城町行き。これでいいな」

 稲生と威吹は、改札内コンコースのトイレでマリアを待っていた。
 やはり、女性の方がゆっくりである。

 マリア:「お待たせ」
 稲生:「いえいえ、じゃあ行きましょう」

 朝ラッシュもそろそろ終わり掛ける時間。
 コンコースよりも更に下にあるホームへの階段を下りると……。

 稲生:「埼京線、最終電車……」
 マリア:「まだそんなこと言ってるのか。いいから、早く乗ろう」

 4両編成の電車が発車を待っていた。
 停車していたのは205系3100番台である。
 これは山手線や埼京線で運転されていたものを転用し、仙石線用に改造した電車である。
 元・山手線か埼京線かは、乗降ドアの窓の大きさで判断できる。
 稲生が冥鉄暴走電車に誤乗したのは、埼京線205系に扮したものだった。
 鉄ヲタとして、埼京線には既に205系がいなくなっていたことに気がつかないといけなかったのだが、予備車として1編成くらいは残っていたのかと誤った判断をしたのが運の尽きであった。

〔「ご案内致します。この電車は8時53分発、仙石線下り、多賀城、本塩釜、松島海岸方面、普通電車の高城町行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 威吹:「ほら。ちゃんと放送があったから、大丈夫だよ」
 稲生:「う、うん……」

 稲生達は最後尾の車両に乗り込んだ。
 そして、あの緑色の座席に座る。

 マリア:「そういえばイブキは、勇太に召喚されたんだったな?」
 威吹:「召喚?……ああ、ユタが死闘を繰り広げたという『最終電車』のことでござるか?確か、異世界の住人達とも共闘したとか……」
 稲生:「今思えば不思議な話だよなぁ……。僕、急いでキミを召喚しちゃったけど、迷惑じゃなかった?」
 威吹:「ちょっと驚いたけど、特に迷惑には思ってないよ。強いて言うなら、ちょうど風呂が沸いたところだったので、入ろうかと思っていたところだ」
 稲生:「いや、本当悪かったねぇ……」
 威吹:「いやいや。むしろ、風呂に入っている最中に召喚されるよりはずっとマシ……」
 マリア:「プッ……」( ´,_ゝ`)

 マリアは威吹が全裸で召喚される様子を想像して、笑いを堪えた。

 威吹:「おいおい、笑い事ではないでござるよ?」
 マリア:「Sorry...」

 仙石線を走る205系電車には、下り方向の先頭車がクロスシートに改造されたものもあるのだが、それは共通運用なので、どの電車に充てられるかは不明だ。
 あいにくと稲生達が乗った電車は、そのクロスシート装備改造車ではなかった。
 尚、そうでなくても205系には珍しく、全編成にトイレが付けられている。
コメント
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