報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「南端村の狐さん」 2

2018-05-04 23:14:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月9日11:00.天候:晴 アルカディアシティ・サウスエンド地区(通称、南端村) 南端稲荷神社]

 稲生達を乗せた辻馬車が神社の鳥居に至る階段の下で止まる。

 御者:「着きましたよ」
 マリア:「ありがとう」

 マリアは交渉した料金にプラス、チップを払った。
 料金の10%ほどのチップを上乗せして払っている辺り、イギリスの習慣であることが分かる(というか、欧米では大体こんなものらしい)。

 稲生:「久しぶりに来たなぁ……」

 稲生は馬車から降りると、階段を見上げた。
 階段を上り切った先には鳥居が見える。

 稲生:「じゃ、行きますか」
 マリア:「ああ」

 2人は階段を上った。
 鳥居を潜った先に、狐の石像が2対あるのはベタな法則。
 稲生が初めて威吹と会った時、彼は狐の石像の中に閉じ込められていたのだが、その神社には何故か狐の石像が3体あったので物凄く不自然だった。

 稲生:「おー、今度は上手く化けている」

 稲生がニヤリと笑ったのは、この2対の狐のうち、1体は威吹の弟子が化けたものだからだ。
 名前を坂吹死屍雄という。

 稲生:「やっ、こんにちは」

 稲生は向かって左側の狐に声を掛けた。
 だが、全く反応しない。

 マリア:「こっちじゃないか、勇太?」

 マリアは反対側の狐を指さした。

 稲生:「ありゃ、そうですか?」

 稲生が狐の石像をジーッと見ていると……。

 坂吹:「稲生様!お待たせしました!どうぞ、こちらへ!」
 稲生:「ありゃ!?」

 境内の向こうから坂吹がバタバタと走って来た。

 マリア:「化けてなかったのか!」
 稲生:「坂吹君、今日は狐の石像に化けてなかったのかい?」
 坂吹:「先生が『それはもういい』と仰ったので」
 稲生:「そ、そう?」

 威吹がどういう意図でそんなことを言ったのかは不明だ。

 坂吹:「こちらへどうぞ。先生がお待ちです」
 稲生:「う、うん。お邪魔します」

 坂吹は少し背が伸びた感じがした。
 確かこの前会った時は、昨年の夏くらいだったか。
 妖狐も往々にして稲生より長身者が多いもので、今現在は稲生と同じくらいの坂吹も、いずれは稲生より高くなるのだろう。
 もっとも、それはマリアも同じだ。
 やはり欧米人らしく、いずれは稲生を超えると思われる。

 坂吹:「先生!稲生様方の御到着でーす!」

 境内にあるいくつかの建物のうち、威吹達が居住している建物の中に入った。
 着物に袴姿の坂吹は草履を履いていたのだが、その爪先がプラスチックのカバーで覆われているものだった。
 これを見て、稲生は笑みがこぼれた。
 これは日蓮正宗の僧侶達が履いているものと同じである。
 威吹が稲生に憑いて大石寺まで行った際、僧侶達が履いていたものを見て欲しがったのが始まり。
 爪先が保護されることが非常に画期的だと思ったらしい。

 稲生:「お邪魔します」
 マリア:「失礼」

 稲生とマリアは靴を脱いで上がった。
 そのまま坂吹に付いて、畳敷きの部屋に入る。

 稲生:「やあ、ユタ。よく来てくれたねぇ……」

 稲生に憑いていた頃は長い銀髪を後ろで結んでいた髪型だったが、今では肩の所で切っている。
 どうも今の妖狐は短髪が流行っているらしく、坂吹に至ってはソフトモヒカンである。

 稲生:「やあ、威吹。久しぶり」
 威吹:「どうぞ、座って。何でも、ボクに話があるとか……」
 稲生:「そうなんだ。少し、長くなると思うんだけど……」
 威吹:「別にいいよ。今日はさくらも威織もいないしね」

 今や威吹も妻子持ちである。
 人間の巫女だったさくらと祝言を挙げ、息子の威織(人間名は伊織)を設けている。
 そのさくらは、ここでは禰宜だ。

 稲生:「どこかへ出掛けてるの?」
 威吹:「村の集会所さ。この村も、王都の治安を悪くする者達の脅威に晒されているからね」

 元々ゴロツキの魔族達もいれば、過激派のような者達もいる。
 今のブラッドプール王朝や安倍春明の民主政治に反対し、昔の大魔王バァル時代の絶対王制を求む者達のことだ。
 この村は安倍春明が大魔王バァル討伐隊を立ち上げ、蜂起した村であるから、当然ながら現政権・王権に対する支持が物凄く高い。

 稲生:「そうなのか」
 威吹:「今、坂吹が茶を用意している。話はその後でいいか?」
 稲生:「いいよ」

 座椅子に座る稲生達。
 稲生と威吹は胡坐をかいているが、マリアは正座をしている。
 正座というと日本人オリジナル座法のように思えるが、実はそうではなく、洋の東西を問わず、児童が床に座る際はしばしばこの座法が取られるという。
 イースター島のモアイ像は、実は正座しているとのことだ。
 そうしているうちに、坂吹が茶を運んできた。

 坂吹:「玉露におかきでございます」
 威吹:「すまんな。用があったら呼ぶ。下がっててくれ」
 坂吹:「はい。失礼します」

 坂吹は恭しく挨拶をすると退室した。

 威吹:「まあ、寛いでくれ。それで、話というのは?」
 稲生:「昔の話なんだ。威吹は僕が顕正会員だった頃は覚えてるだろう?」
 威吹:「ああ。覚えてる。それがどうかしたのかい?」
 稲生:「ということは、河合有紗についても覚えてるよね?」
 威吹:「ユタの初恋の女だよね。実に惜しいことをしたよね。ボクにとってもだけど……」
 稲生:「その有紗の遺骨が先日、誰かに盗まれたんだ」
 威吹:「ほう……?遺骨を……?」
 稲生:「そしてそれからなんだ。彼女が亡霊となって、僕達を襲うようになったのは……」
 威吹:「有紗殿の亡霊がユタ達を襲うって?何でだい?有紗殿はユタを恨みながら死んだわけではないはずだろう?……マリアは恋敵と認識すれば別だがな」
 マリア:「もう既に認識されて、何戦か交えてるよ」
 威吹:「でも、それが何だっていうの?もちろん、僕にその亡霊を倒してくれっていう依頼なら考えるけど?」
 稲生:「威吹は有紗の遺骨が盗まれたことについて、何も心当たりは無いんだよね?」
 威吹:「僕がやったとでも思っているのかい?」
 稲生:「そうじゃない。もしかしたら、『あいつならやりかねない』という悪い妖怪に心当たりがあったら教えて欲しいんだ」
 威吹:「わざわざ墓暴きをして遺骨を盗むヤツか……。いないわけではないけど、直に有紗殿の遺骨を狙うにしては時機が良過ぎるな……」
 稲生:「現実的ではない、と……?」
 威吹:「ないわけではないけど、そいつが犯人だっていう確率は低いと思うな。その低い確率で犯人だとしても、証拠が無いとダメだろう?」
 稲生:「まあ、そうだね。その犯人かもしれない人物については、後で教えてもらうとして、だ……。そもそも、有紗がどうして死んだのかについてもキミに聞きたいんだ」
 威吹:「有紗殿は車に跳ねられて死んだと聞いているが……」
 稲生:「もちろん。実際その通りだ。しかし、どうにもタイムリー過ぎる。あの事故は、僕がキミを殴ってしまったことで起きたような気がして仕方が無いんだ。どうだろう?この件については、教えてくれないだろうか?」
 威吹:「…………」
 マリア:「どうした?何を黙っている?実は、あなたが河合氏殺しの犯人だったのか?」
 威吹:「もちろん、ボクは全く手を出していない……」

 それにしても、威吹の反応がおかしかった。
 本当に手を出していないなら、堂々とそのように答えれば良いのだ。
 だが、威吹は歯切れの悪い返事をするだけであった。

 稲生:「キミは本当に何もしていない。だけど、有紗を死に追いやった犯人については知っているんだね?」
 威吹:「…………」
 稲生:「頼む!教えてくれ!もしかしたら、有紗を成仏させられる手掛かりになるかもしれないんだ」

 威吹は……。

 1:正直に答えた。
 2:答えなかった。
 3:話を変えた。
コメント (3)
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