報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「アルカディアシティを往く」

2018-05-01 19:22:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間4月9日09:00.天候:晴 魔王城新館ゲストルーム]

 魔道師達は各組ごとにゲストルームへ宿泊した。
 勇太がマリアと同じ部屋に泊まることについて、色々な想像ができるだろうが、ここは王宮。
 そんなに部屋が狭いわけがない。
 ホテルのスイートルームの如く、客室の中が更に分かれていて、そこで稲生は寝ることになった。
 尚、今度は枕元に河合有紗は出なかったもよう。
 いや、他の魔道師が噂していたようなのだが、稲生をストーキングしていた幽霊を更に上回るストーカー力を横田は持っていて、それで退散してしまったとのこと。
 JKという単語を聞くだけで幽霊以上にどこからともなく現れる横田に、さしもの悪霊も叶わなかったようである。

 マリア:「おはよう、勇太……」
 勇太:「あ、おはようございます……」
 マリア:「この分じゃ、あの女は現れなかったようだね」
 勇太:「そのようです。今回ばかりは、横田理事に感謝しませんと。何か、お礼でもしないといけませんかね?」
 マリア:「師匠の下着でもあげたら?そこに昨日、脱ぎっ放しのがあるよ」

 横田のストライクゾーンは幅広く、幼女から熟女までOKらしい。
 老女は【お察しください】。

 勇太:「それは先生に聞かないと……」
 マリア:「大丈夫。酔っ払って寝てるから、それで誤魔化せるでしょ」

 時々マリア、イリーナをディスることがよくある。
 一人前になったからなのだろうが……。

 マリア:「とにかく、私は朝の支度ができたから、勇太もしてきたら?もうすぐ、ルームサービスが来るよ」
 稲生:「あ、そうですね」

 宴会の終了時刻は日の出とされる。
 魔界には日の出など無さそうなものだが、要は人間界の日本時間に合わせてということだ。
 春先のこの時期だと、明るくなるのは6時くらいだろうか。
 それまでには稲生達は引き上げてしまったが、イリーナ達はギリギリまでいたらしい。

 稲生:「それまで先生、起きてくれますかね?」
 マリア:「無理でしょ。早くて昼頃ってとこだね」

 そこは稲生よりも一緒に長く過ごしているマリアのことだから、その予想はほぼ確実だろう。
 稲生はタオルや洗面道具を持って、バスルームの中に入った。

 それからしばらくして稲生が朝の身支度を整え、それが終わる頃になると、部屋のドアがノックされた。

 召使:「失礼します。御朝食をお持ち致しました」

 ワゴンに食事を乗せて、召使がやってきた。

 稲生:「ああ、どうも」
 横田:「横田です。先般の宮中晩餐会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 稲生:「うわっ、出たーっ!」
 マリア:「変態理事!」
 横田:「クフフフフフ……。稲生君の前カノさんは、とても美人でしたなぁ……。いや、それが命を落とされるとは実に惜しいものであります」
 稲生:「それがどうした?」

 だが、河合有紗が死んだから、マリアと出会えたというのもまた揺るぎない事実である。

 横田:「しかし、だからといって、ストーキングするなど言語道断であります」
 マリア:「どの口が言ってるんだ!?どの口が!」
 横田:「この魔王城を出入禁止にしておきました。もう2度とこの城内に入ってくることは無いでしょう。クフフフフフ……」
 稲生:「本当にそんなことができたのか?」
 マリア:「何かウソ臭い……」
 横田:「もしもこの禁を破るなら、今度こそ不肖横田めが実力行使に出させて頂きますがね。具体的には、着ている制服一式と下着一式は没収と致します!クフフフフフフフ!」
 マリア:「要は真っ裸(まっぱ)にするということか……」
 横田:「それでは安心して、ごゆっくり御朝食をお楽しみください。……因みに稲生さん、できれば私のこの功績に対して、何か報酬をば……頂けたら、とても幸いなのですが……ハァ、ハァ……」(*´Д`)

 そう言いながら、横田は稲生を見た後、マリアを見た。
 マリアは背筋に寒気を感じ、動けなくなってしまった。
 ここで拒否したら、今度はマリアがセクハラを受けてしまう!

 稲生:「と、取りあえず、これで!」

 稲生はイリーナの寝ている部屋から、イリーナが昨夜まで着用していたという下着(ブラ&ショーツ)を持って来た。
 横田の眼鏡の奥の目がカッと見開かれる。

 横田:「嗚呼!これはこれは……芳醇な大人の女性の香り……(*´Д`*)」
 稲生:「ど、どうですか?」
 横田:「はい。報酬としては十分です。それでは、失礼……。クフフフフフ……」

 横田はイリーナの下着を大事そうに持つと、召使と共に部屋を出て行った。

 稲生:「だ、大丈夫ですかね?」
 マリア:「酔っぱらって、どこかで脱ぎ捨てたってことにしておくよ」
 稲生:「それでいけますか?」
 マリア:「だって師匠、屋敷の中でも酔っ払ったら、すぐに脱いでるじゃない」
 稲生:「あ……!」

 その度にマリアやメイド人形達が取り押さえに掛かるのだった。
 それで稲生も、イリーナがローブの下に何を着ているのか知る機会を得たのだが。

 マリア:「ま、そういうことだから。さっさと食べよう。今日は行く所があるでしょ?」
 稲生:「行く所……?」
 マリア:「イブキの所に行って、真相に聞いてくるんでしょ?」
 稲生:「あ、そうだった!」
 マリア:「ダメだよ。本来の目的を忘れちゃ」
 稲生:「す、すいません」
 マリア:「私も一緒に行くから」
 稲生:「マリアさんもですか?」
 マリア:「何か悪い?」
 稲生:「あの、先生のことは看てなくても……?」
 マリア:「大丈夫大丈夫。グランドマスターは殺しても死なないから」

 それでも一応、出がけにメモとソルマックを一本置いていった稲生であった。

[同日10:00.天候:晴 アルカディアシティ中心街→魔界高速電鉄1番街駅]

 かつてアルカディアシティは『霧の都』と呼ばれる程に、年がら年中霧に包まれた町であった。
 今でも日本なら濃霧警報が出るほどの霧が出ることがあるが、今回はだいぶそれが薄い。

 稲生:「ここから威吹の住んでる南端村までは、環状線で一本です」
 マリア:「なるほど」

 魔界高速電鉄は愛称をアルカディアメトロとしており、地下鉄線と軌道線(路面電車)、そして高架鉄道を運営している。
 稲生達がこれから乗ろうとしているのは高架鉄道の方。
 高架鉄道は明るい所を走るせいか、人間の乗務員や乗客が多い。
 そして、霧の向こうから電車がやってきた。

 稲生:「あれ?」

 やってきた電車を見て、稲生は首を傾げた。
 魔界高速電鉄にしろ、冥界鉄道公社にしろ、今の日本の鉄道では運行されていない旧型車両が当たり前だ。
 それなのに、やってきた電車はヤケに真新しいものだった。

 稲生:「えっと……これは……」

 乗り込んでから気づいた。
 これは……JR西日本207系だと。

 稲生:「何で、こんな新しいのが走ってるんでしょうねぇ……」

 稲生は乗降ドアから内外を見比べてみたりした。
 編成は7両。
 4両編成と3両編成を2台連結したタイプ。
 一体、これは……?
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“大魔道師の弟子” 「トリックスター横田」

2018-05-01 14:38:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間4月9日02:00.天候:晴 魔王城新館]

 リリアンヌ:「現実を♪突き付けられることが♪Ah♪嫌なら死んでも悔しがれーっ♪Welcome to my heeeeeell!」

 エレーナの妹弟子であるリリアンヌが、趣味のデスメタルを披露している。
 普段は暗く沈んだ少女であり、吃音症も激しい見習魔女なのだが、彼女にエレキギターを持たせ、アルコールを体内に入れると豹変する。
 今彼女はデスメタルのメイクして、その衣装を着ているはずだ。

 稲生:「凄い盛り上げ方だ。さすがはリリィですね」
 マリア:「ああいう魔女も珍しい」

 稲生とマリアは別室にいた。
 そこにいても、コンベンションホールからのリリアンヌのデスボイスが聞こえてくるのだから凄い。

 リリアンヌ:「ヒャーッハッハッハッハッハーッ!そう!これ!これだぜーっ!!」

 稲生:「二重人格?」
 マリア:「いや、ちゃんと記憶はあるみたいだけど……」

 稲生は何をしているのかというと、腕に針を刺していた。
 そこに管が付いていて、その先には……。

 看護師:「稲生さーん、終了でーす」
 稲生:「はいー」

 白衣を着た女性看護師がにこやかにやってきたのだが、その肌は浅黒く、耳も尖っていたことから、魔族であることが窺い知れる。

 看護師:「じゃ、針抜きますね」
 稲生:「はい。……陛下に喉をカブリとやられるものだと思ってたんですが、まるで献血ルームみたいですね」
 マリア:「まさか変な期待してた?」

 マリアが稲生を射抜くような目で見る。

 稲生:「あ、いえ、そういうことじゃ……はい」
 マリア:「総理!献血に協力したんですから、ちゃんと対価はくれるんでしょうね?」
 安倍:「もちろんだとも。まずは、これを受け取ってくれ」

 安倍が稲生に渡したのは純金のインゴッド。

 安倍:「その大きさなら、日本の金相場で500万円といったところ……」
 稲生:「何で皆してインゴッド寄越してくるんですか?」

 稲生は呆れた。
 尚、ルーシーは後ですぐに稲生の血液パックを美味しそうに飲み干したという。

 稲生:「あ、マリアさん。僕、ちょっとトイレに行ってきますから、先に戻っててください」
 マリア:「分かった」

 稲生はマリアと別れ、薄暗い明かりが燃える廊下を進んだ。
 トイレの入口は扉が閉められていて、その脇にガーゴイルが鎮座している。
 ガーゴイルは扉の取っ手を掴んでいた。
 もしここで勝手に扉を開けようとすると、ガーゴイルがバクッと開けようとした者の頭に噛み付いてくるというデストラップが仕掛けられている。

 稲生:「はい、チップ。日本円でいいよね?」

 稲生は小銭入れから100円玉を出すと、それをガーゴイルの口の中に入れた。
 すると、ガーゴイルの目がピカーッと光って……。

 ガーゴイル:「毎度〜」

 ギギギと重々しくトイレの扉を開けた。
 要はチップトイレということだ。
 中に入ると、不気味な魔王城の廊下と違い、一転して高級ホテルのトイレのような空間が広がる。
 その間、トイレの扉は閉められるので知らないと一瞬焦るが、中からノックをするとまた開けてくれる仕組み。

 で、用を足し終わって内側からノックすると、ちゃんと開けてくれた。

 ガーゴイル:「またのお越しを……」
 稲生:「どうもどうも」

 そして稲生は、薄暗い廊下を会場に向かって進んだ。
 と!

 稲生:「うっ!?」

 突然、鋭い霊気が襲ったかと思うと、右肩が急に重くなった。
 そして、耳元に冷たい息……。

 河合有紗:「やっと捕まえたぁ〜……」

 
 (どうでもいいけど、画像使い回ししてんじゃねーよ! by多摩準急)

 稲生:「うあっ!?……あ、あ、有紗……!?何で……!?」

 そして、冷たい手が稲生の首を絞めつける。

 有紗:「この世界で……一緒に暮らすのよ……」
 稲生:「う……ううう……うっ……!」

 女の子の力とは思えない力。
 稲生は力が抜けて、そのまま前のめりに倒れた。
 しかし、有紗は稲生から離れようとしない。
 このまま、幽霊に絞め殺されるのか……。
 しかし!

 横田:「ハァ、ハァ……!く、黒……!そ、そうですか……!大人の階段を登っていた所だったのですね……!ハァ、ハァ……」(*´Д`)

 めくれた有紗のスカートの中を覗き込む横田が現れた。

 有紗:「んなっ……!?」

 有紗は驚いて稲生から手を放した。

 横田:「横田です。先般の女子部班長会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 稲生:「ゲホゲホッ!……カハッ!男の理事が参加できるわけないだろ……!ケホッ!」
 横田:「これはピーチジョンの勝負パンティー。……そうですか。それはさぞかし、未練だったでしょうねぇ……ハァ、ハァ……」(*´Д`)

 横田、ガシッと幽体のはずの有紗の体を掴む。
 心なしか、横田の手首から先が青白く光っているように見える。

 横田:「さぁさぁ!この不肖、私めが勝負下着についてのアドバイスをば!」

 横田、有紗の制服の上着を捲り上げる。

 横田:「やはりブラも黒ですか。んー、上下揃えて素晴らしい!やはりこれは、誰かに見せる為の!?」
 有紗:「きゃああああっ!変態!エロ親父!!」

 有紗は慌てて宙を飛びながら逃げ出した。

 横田:「嗚呼!可愛いJK!何処へっ!?ま、待ってくださーい!できれば、パンティーはお尻の右側に少し食い込むくらいの方が男は喜びますよーっ!」

 横田は有紗を追って走り去って行ってしまった。

 稲生:「な……何だったんだ……?」( ゚ ρ ゚ )

 稲生は呆然としていた。

 マリア:「勇太!大丈夫か!?」

 そこへマリアが走って来た。
 もちろん、横田達とは反対側からだ。

 稲生:「あ、マリアさん……」
 マリア:「あの女が現れたのか!?そうなんだなっ!?」
 稲生:「は、はい……」

 マリアはすぐに稲生の首元についた手の痕を見つけた。

 マリア:「畜生!油断も隙も無い!魔王城だと思って油断した!」
 稲生:「はい……」
 マリア:「よく無事だったね!?」
 稲生:「横田理事が助けてくれたので……結果的に……」
 マリア:「えっ、横田が???」
 稲生:「ええ、まあ……」

 ただでさえ薄暗い廊下なのだから、その奥は闇に包まれているのだが、そこから……。

 横田:「黒い勝負下着もいいですが、あえて紫というのも手ですよ!この私めがコーディネートをば!」
 有紗:「いやああああっ!助けてーっ!」

 というやり取りが聞こえたそうな。

 マリア:「どういうこと?」
 稲生:「横田理事、幽霊の有紗にもセクハラしやがったんです。ま、そのおかげで助かったわけですが……」
 マリア:「なるほど。横田らしい」
 稲生:「ええ。今のうちに戻りましょう」
 マリア:「ちょっと待って。さっきの勝負下着というのは?」
 稲生:「さ、さあ……?な、何のことやら……」

 だが、マリアは稲生の頬っぺたを抓った。

 稲生:「い゛い゛い゛い゛い゛っ!?」
 マリア:「正直に言わないと……!!」
 稲生:「ふ、ふぁい!」

 その後、勝負下着を買いに行くマリアの姿を見た者がいたとかいないとか……。
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“大魔道師の弟子” 「幽霊より怖い者たち」

2018-05-01 10:28:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間4月9日01:00.天候:晴 魔王城内コンベンションホール]

 司会者席にいるのは、あの横田。
 それでも一応、タキシードに蝶ネクタイを着けている。

 横田:「それではこれより、『ダンテ門流魔道師限定、宮中晩餐会』を開催致します。私、司会進行役を務めさせて頂きます、魔界共和党理事の横田でございます。よろしくお願い致します。先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。我らが究極にして至高の女王、ルーシー・ブラッドプール陛下は……」

 稲生は横田の挨拶などどこ吹く風で、辺りを見回していた。
 少なくとも、この中に河合有紗の幽霊が混じっていることはない。
 というよりも、魔女達が放つ魔力に負けてしまって、それどころではないのだ。
 ダンテ一門に所属する魔道師の9割は女性であり、稲生は残りの1割に過ぎない。
 ましてや、日本人は稲生1人だけである。

 横田:「……それでは御臨席賜りましょう!魔界の太陰王であらせられるところのルーシー・ブラッドプール陛下のおなぁーりーーーーーーー!!」
 稲生:「最後の呼び掛け方、違くね?」

 他の党員達が伏せ拝をしながら拍手で出迎える。
 だが、魔道師達はそこまではせず、ただ単に深々とお辞儀をしたり、拍手だけをする者、初見の者はその美しさに感嘆するだけの者と千差万別であった。
 何度か会っている稲生にあっては、まるで顕正会員が浅井会長を出迎えるがの如く、伏せ拝と拍手を行った。
 要は党員達と同じというわけだ。
 恐らくこのやり方を指導したのは、顕正会でも理事の横田であろう。

 ルーシーはマリアやエレーナと同じ、白い肌に金色の髪をしていたが、その肌の色はもっと白い。
 青白いといっても良いほどだ。
 そしてその瞳の色は赤色で、その目を見ると魅入られてしまって、動けなくなるのだそうだ。
 更には……。

 

 口を開けば牙が覗く。
 これが正にルーシーの出自が吸血鬼であることの現れである。
 もっとも、妖狐の威吹とて立派な牙を持っているので、人間を捕食する妖怪は洋の東西を問わず、牙を持っているというわけだろう。
 それにしても、魔女達と違って吸血鬼は男女比がほぼ同じというから、そちらの方が安定しているのかも。

 ルーシーが玉座に座ると、そこで拍手が終わる。
 それまでルーシーを先導してきた燕尾服の首相、安倍春明がマイクの前に立つ。

 安倍:「えー、魔道師の皆さん、こんばんは。首相の安倍であります。今夜は朝までコース、是非ともお楽しみください」

 心なしかルーシーの具合が悪そうだ。
 吸血鬼というからには、今が活動時間のピークのはずなのに。
 但し、一部の吸血鬼で人間の血が混じっている者は昼間でも活動可とのこと。
 ルーシーもそのタイプである。
 魔界に来るまでは、普通にニューヨークで生活していた。

 安倍:「えー、尚、皆様の中にも既にお気づきの方がいらっしゃるようですが、女王は空腹によってテンションが下がっております。それ以上は、【お察しください】」
 稲生:(吸血鬼が空腹って、それはつまり……)

 女王としての立場が無ければ、今すぐにでも外に出て行って、人間を捕食したいということか。
 安倍は日本人の……人間であるが、安倍の血は1度も吸わないらしい。
 それは安倍がかつて魔王討伐の『勇者』という立場もあるからだろう。
 尚、会場警備と称して会場内外に魔王軍が配置されているが、その隊長としているのがレナフィール・ハリシャルマン。
 安倍とは同じパーティーの『女戦士』だった。

 稲生:(有紗より怖い人達がウヨウヨいるわけか……)

 普通ならルーシーも何か喋るところだが、機嫌が悪いせいか、それは無かった。
 尚、人間の男として横田もいるが、横田もまた血を吸われたという話を聞かない。
 ルーシーはかなりの美食家であるようだ。
 こうして、パーティーが始まった。
 ダンテ門流創始者のダンテは、早速安倍と何か喋っている。

 イリーナ:「勇太君もマリアも、気にせずパーティーを楽しみなさいな」
 稲生:「は、はい」
 マリア:「大丈夫でしょうか?」
 イリーナ:「大丈夫よ。ここは幽霊でさえもデストラップに嵌まって動けなくなるほどのギミックが仕掛けられている魔王城ですもの」

 魔王討伐隊の半分ほどのメンバーがアルカディアシティではなく、この魔王城で命を落としたとされる。
 そのアルカディアシティ内でも、魔界高速電鉄・地下鉄線のトンネルを進んだ者達が魔王城に辿り着けたという。

 マリア:「まあ、師匠がそう仰るなら……。勇太、取りあえず一杯。ビールなら行けるな?」
 稲生:「は、はい。ありがとうございます」

 稲生はマリアからビールを注いでもらった。

 稲生:「じゃあ、僕もワインを……」
 マリア:「ありがとう。何か食べよう」
 稲生:「そうですね」

 稲生が適当に飲み食いしていると、鋭い視線を感じた。
 まさか、有紗!?
 稲生は恐る恐る視線がした方向に目を向けた。

 稲生:「あれ?」

 その先にあったのは、ルーシーの玉座。
 ルーシーが玉座に座りながら、赤い瞳をギラリと光らせて稲生を見ている。
 そしてルーシーは、安倍を呼び寄せた。
 で、何か耳打ちしている。
 安倍は大きく頷いた。

 安倍:「稲生さん、ちょっといいですか?」
 稲生:「は、はい!何でしょうか?」
 安倍:「陛下があなたの血をご所望です。ご協力願えませんでしょうか?」
 稲生:「ええーっ!?ぼ、ぼぼ、僕も吸血鬼になれと……!?」
 安倍:「いえ、そういうことじゃありません。稲生さんはあくまで魔道師ですからね。しかしまだ見習で、完全な魔道師にはなりきれていない。どうか空腹のルーシーの腹を満たしてあげられないでしょうか?」
 稲生:「何だか痛そう……」
 マリア:「……私は反対です。だいいち、市民からの献血制度はどうなったんですか!?」

 ルーシーへ献血をした者には、税金全額免除などの特典があった。

 安倍:「色々あって、大っぴらにできなくなったのだよ。この魔界も、段々と人間界に似てくるようになったということかなぁ……」

 安倍は複雑な顔をした。
 ふと稲生はまた玉座に目をやったが、何故かそこにルーシーの姿は無かった。

 ルーシー:「あなたの血液型は?」
 稲生:「わあっ!?」

 いつの間にか背後に回られていた。
 ルーシーが稲生の耳元に冷たい息を吹きかける。

 ルーシー:「あなたの血液型は何?」
 稲生:「お、お、O型です」
 ルーシー:「1番甘くて美味しい型ね……」

 振り向くとルーシーは……。

 

 口を大きく開けて牙を覗かせていた。

 稲生:(これ、断ったら絶対魔王城から生きて返してくれないパティーン……)
 安倍:「こら、ルーシー!やめなさい!はしたない!」
 ルーシー:「だってぇ……」
 安倍:「だってじゃない!」
 ルーシー:「でもぉ……」
 安倍:「でもじゃない!」

 首相が女王に盾突くなどあってはならないことだが、この2人の間では『勇者』と『魔王』なのだろう。
 稲生はほぼ半強制的に献血することを了承したのである。
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