報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「日本三景」

2018-05-27 19:13:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月11日10:00.天候:晴 宮城県宮城郡松島町 松島観光遊覧船]

 稲生:「これからまた内陸暮らしになりますのでね、せっかくだから海の上を堪能しようかと」
 マリア:「それはいいプランだなー」

 だが、威吹だけは何故か青い顔をしていた。

 威吹:「ユタ……鉄道愛好者のキミが、どうしてこんなことを……?」
 稲生:「え?なに?どうしたの?」
 マリア:「もう出港だぞ。早く乗ろう」

 稲生はマリアに促され、威吹を引っ張って遊覧船に乗せた。
 どうやら10時の便は、稲生達が最後の乗船客らしい。
 稲生達を乗せると、すぐに出港した。

 稲生:「今日は天気がいいから、眺めもいいですよ」
 マリア:「ホントだ。なかなかこういうことは滅多に無い」

 大型船での運航ということだが、遊覧船にしては大型という意味で、定員は大体300人強といったところか。
 2層構造になっていて、より眺めの良い2階席は『グリーン席』として追加料金を徴収される。

 稲生:「昔はウミネコに餌付けできたらしいですね」
 マリア:「あの海鳥のことか。可愛いからお土産に持って帰りたいなー」
 稲生:「そうですねぇ……って、ええ!?」

 外国人観光客は、たまに突拍子も無い考えをすると稲生は思った。
 と……。

 稲生:「あれ?威吹は?」
 マリア:「向こうに行ったみたいだけど?」

 稲生とマリアは船尾甲板にいるが、マリアが指さした先は船室の方だった。

 稲生:「わざわざ中に入らなくても……。今日は天気がいいから、海風も気持ちいいのに……」

 その海風がバタバタとマリアのボブヘアを揺らす。
 稲生は船室の中に入った。
 2階席はテーブルを挟んで向かい合わせのソファ席となっているが、1階席は進行方向を向いたロングシートである。

 稲生:「威吹?何かあった?」

 平日なので乗客数は少なかった。
 そのロングシートを1つ占領するように、威吹が横になっていた。

 稲生:「威吹?」
 威吹:「ゆ、揺らすな……」
 稲生:「ど、どうしたの!?」
 威吹:「気持ち悪い……」
 マリア:「Motion sickness!?(乗り物酔い!?)」
 稲生:「ええっ!?」
 威吹:「ユタ……忘れたのか……?オレは……うっ!」

 威吹は口を押さえてトイレに走り込んだ。
 船橋から船室に入る途中にトイレがあり、ちゃんとそこはチェックしていたらしい。

 稲生:「あっちゃー……」
 マリア:「列車やバスは全く平気だったのに……」
 稲生:「悪いことしちゃったなー……。マリアさん、船酔いを治す魔法って無いですか?」
 マリア:「聞いたこと無いなぁ……。薬ならあるんだろうけど、今は持ってない」

 もちろん、酔い止めの薬は市販薬として実在する。

 マリア:「師匠のドラゴンに乗っても平気だったのに、船がダメなんて初めて聞いた」
 稲生:「ぼ、僕もです」

 稲生は基本的に乗り物は全てOKである。
 もちろん、作者の私もだ。
 但し、作者の同級生には鉄ヲタであるにも関わらず、自動車全般がダメで、必ずダウンするヤツがいた。
 作者はおかげでバスファンを兼業できることになったが、彼は未だに鉄専門である。

 威吹:「ユタ……ひどいよ……。これが初めてじゃなかったのに……」
 稲生:「ご、ゴメン!……初めてじゃない?」
 威吹:「うう……。昔、東京湾を横断する船に乗ったじゃないか……」
 稲生:「え……?あ……ああーっ!」

 稲生はその時思い出した。
 乗り鉄の一環として、南関東を一周したことがある。
 その際、千葉県から神奈川県に渡る時に東京湾アクアラインではなく、東京湾フェリーに乗ってみた。
 たまには違う交通機関に乗ってみるのもまた余興と思ったのだ。
 ところがその時、天候不順で湾内が荒れていた。
 フェリー自体は運航していたのだが、何しろ船内放送でなるべく船室にいるようにという注意が流れていたほどだ。
 稲生はそんな大揺れの船内でも酔うことは無かったが、威吹が思いっきりダウンしていた。
 その為、本来なら江ノ島も散策するつもりでいたのに、そのまま横須賀線で帰った記憶が蘇って来た。

 稲生:「ご、ゴメンよ!牛タン食べ放題でお詫びするからっ!」
 威吹:「だ、ダメだ……!今、食べ物の話をされると……うっ!」

 第2波が来たのか、再び威吹はトイレに駆け込んでしまった。

 マリア:「私は平気なんだけどな」
 稲生:「素晴らしいです」

[同日10:50.天候:晴 同町内 遊覧船乗降場]

 遊覧船自体は何事も無く無事に帰港した。

 稲生:「だ、大丈夫かい?威吹……」

 稲生は威吹に肩を貸しながら下船した。

 威吹:「とんだ拷問だ……。塩責めならぬ、潮責めか……」
 マリア:「あそこにレストハウスがある。そこで休もう」

 マリアが指さした所は観光協会のある建物だったが、レストハウスにもなっている。
 取りあえずそこに入って……。

 稲生:「はい、威吹。取りあえず、水」

 自販機で水のペットボトルを買って来た。

 威吹:「ありがとう……」
 マリア:「しょうがない。エーテルで良かったら1つやるよ」
 威吹:「かたじけない」

 エーテルはMPを全回復させるアイテムだったが、乗り物酔いにも効くのか?

 威吹:「ふう……。少し元気出たかな」
 マリア:「それは良かった。ポーションより高い薬だからな」
 稲生:「大丈夫かい?無理しなくていいんだよ?」
 威吹:「いや、大丈夫。それよりせっかく来たのだから、散策を楽しもうよ。まだ、昼餉には早いし」
 稲生:「そ、そうだね」

 ここは観光協会である。
 稲生は様々な案内の中から、適当に見繕うことにした。
 尚、お土産用の笹かまぼこだが、あれは何も仙台市内だけでの専売特許ではなく、この松島界隈でも焼きたてを食べることはできる。
 が、稲生の見繕いの中には入っていなかったようだ。

 稲生:「取りあえず、あと1ヶ所くらい回るか……」
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“大魔道師の弟子” 「松島や ああ松島や 松島や」

2018-05-27 10:15:55 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月11日08:53.天候:晴 JRあおば通駅→JR仙石線最後尾車内]

〔まもなく2番線から、電車が発車致します。黄色い線まで、お下がりください〕

 あおば通駅の発車メロディは“青葉城恋唄”をモチーフにしたものが流れる。
 この路線に使用されている205系電車にはドアチャイムが後付けされているのだが、そのチャイム音が、どう聞いても首都圏JR車内で流れる運行情報のそれ。
 電車は定刻通りに発車した。
 しばらくの間は地下区間を進むことになるが、この地下トンネルの名前を『仙台トンネル』という。
 まあ、その……何だ。
 非常にシンプルなネーミングである。

〔「この電車は仙石線下り、普通電車の高城町行きです。まもなく仙台、仙台です。お出口は、右側です」〕

 放送が物凄い簡易的なのは、次駅までの距離が短いから。
 500メートルしかない。
 首都圏でこれだけ駅間距離が短い所と言えば、日暮里駅と西日暮里駅だろう。
 こちらも500メートルしか無い。
 向こうには英語放送も入っているのだが、その放送が言い終わらないうちに、もう次の駅のホームに差し掛かっている。

 稲生:「下りでも、結構乗ってくるなぁ……」

 仙台駅に到着した電車に、多くの乗客がドカドカ乗って来る。
 あおば通駅ではまだ空席があった電車もこれで満席になり、立ち客も出るようになる。
 仙石線は、そろそろ6両編成化した方が良いような気がするのだが……。
 ま、ホーム延長とか車内トイレ増設とか色々と面倒か。
 尚、発車メロディをあおば通駅に譲った仙石線において、仙台駅ではただの発車ベルである。
 最近では、これとて珍しいものとなったが。
 こちらでは駆け込み乗車があったせいでドアチャイムが何回か鳴ることになったが、首都圏のJR電車に乗り慣れていると、どこかの路線が止まったのかという感覚に捕われる。

〔「今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は仙石線下り、普通電車の高城町行きです。次は榴ヶ岡、榴ヶ岡です。お出口は、右側です。電車のドアは自動では開きません。お降りの際はドア横にございます『あける』のボタンを押して、お降りください」〕

 東北では地下鉄以外、基本的に年中乗降ドアを半自動扱いにしている。
 首都圏では時季や時間帯によるが、例えば上野駅低いホームに停車している中距離電車で体験できる。

 稲生:「ていうか……。埼京線とか武蔵野線に乗ってる気分……」
 マリア:「トンネルを出たら、その線路の上だったりしてね」
 稲生:「それじゃやっぱり冥鉄電車じゃないですか」
 マリア:「HAHAHA...いくら何でも、こんな真っ昼間からは走らないさ

 時折、自動通訳魔法具の効果が無くなるのは地下だからか?
 稲生はこれをポケットWi-Fiに例えたが、得てして妙なものである。

[同日09:36.天候:晴 JR松島海岸駅]

 電車が海沿いに近づく度、威吹の鼻がヒクついた。
 そこは妖狐、鼻がよく利くらしい。
 松島付近は内陸を走る東北本線との並走区間があり、ダイヤが合うと首都圏でよく見られる同方向の電車の並走シーンが見られる。
 かつてはキハ58系快速“南三陸”と103系快速電車が競走するダイヤがあった。
 現在は仙石東北ラインの開通により、そういったシーンは無くなっている。

〔「まもなく松島海岸、松島海岸です。お出口は、右側です」〕

 短いトンネルを出ると、車内放送が響いた。
 東塩釜駅を出ると単線になる仙石線だが、松島海岸駅は行き違い設備を備えた1面2線のホームがある。
 行き違い設備どころか、折り返し設備もある。
 その為、昔は臨時列車などで当駅終点・始発の電車も運行されていた。
 現在は稲生達が乗っているように、次の高城町駅折り返しがセオリーとなっている。

 稲生:「さあ、着きました」

 電車が駅に到着すると、稲生はドアボタンを押した。
 起伏の富んだ狭い土地に駅を造ったものだから、ホームはお世辞にも広いとは言えない。
 観光シーズンになると、ホームが観光客で溢れ返るのだという。
 目の前が海か湖か、ホームが長いか短いかの違いだけで、似たような構造の駅に中央本線の藤野駅がある。

 威吹:「……ックシュ!……ックシュ!」

 潮の香りにやられてか、ついに威吹がくしゃみを何度かした。

 稲生:「大丈夫か、威吹?」
 威吹:「すまん。嗅ぎ慣れぬ潮の匂いだったものでな……」
 マリア:(犬かな……)

 と言いつつマリアもまた内陸の国に生まれ、移住したイギリスも内陸の地域であった為、海は見慣れたものではなかった。
 更なる移住先、日本でも内陸の長野であった為、尚更だ。

 稲生:「でも、2人には非日常だと思うんだ。こういう海の風景を見るのも」
 威吹:「まあ、確かに」
 マリア:「悪霊騒動の時点で、既に非日常なんだけどね。でもまあ、だからこそ、日常的な非日常もいい」
 威吹:「それで、ユタはこの後どうしようってんだい?」
 稲生:「もちろん、海を満喫するつもりだよ」

 稲生が向かう先について行く魔女と妖狐。

 マリア:「海を満喫する、という時点で鉄道趣味からは離れそうだな」
 威吹:「海と言えば、だいぶ前、ユタにお台場まで連れて行ってもらったことがあったが、それ以来だなー」
 マリア:「なにっ?……勇太、私はまだ連れて行ってくれてないよ?」
 稲生:「えっ?あっ、いや、その……マリアさんは……」
 マリア:「私とじゃダメなのか!?」
 威吹:「まあまあ。女には見せられない本を買いに、夏の時期に行っただけでござるよ」
 稲生:「わわわっ、威吹!それ以上はダメ!」
 威吹:「その割には女も随分といたようだが、あの者達は別に目的があったのか?」
 マリア:「勇太、話は後で聞くから」
 稲生:「はい……」

 稲生もまたコミケ戦士の1人であった。

 マリア:「ダニエラから聞いたんだけど、魔道書という割に、随分と薄い本が本棚にぎっしり入っているというぞ?」
 威吹:「うむ。ユタにとっては、立派で貴重な魔道書でござるな」
 稲生:「あ、はい。威吹の言う通りでございます……」

 稲生はうな垂れた様子で、更に海の方へと向かって行った。
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