ノベラーエクスプレス関東

 自作の小説がメインのブログです。
 主にSF、ファンタジー、ミステリーの脳内妄想を文章化したものです。

“大魔道師の弟子” 「夜の東京駅」

2018-05-19 10:18:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月10日21:24.天候:雨 JR東京駅・新幹線ホーム(JR東日本側)]

〔21番線から、“なすの”275号、那須塩原行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 隣のホームから発車ベルの音が聞こえてくる。
 発車メロディが乱流している中、そして東海道新幹線でも発車メロディが使われている中、未だに発車ベルを鳴り響かせる所は珍しい。
 平日の夜ということもあって、東北へ行かない東北新幹線の車内は、隣のホームから見る限りにおいては、通勤客が殆どを占めているようだった。

 威吹:「よし、ボクはこれとこれだ」

 稲生達、ホームの売店で駅弁などを買っている。
 これから仙台で緊張が起こるというのに、何を暢気にと思うかもしれない。
 実際、稲生とマリアはそうだった。
 だが、威吹がそれを申し出たのだ。
 渋るマリアに、威吹が言った。

 威吹:「亡霊にオレ達とは違うところを見せてやろうではないか。即ち、食欲だ。死んでたら、物を食べることも叶わん」

 と。
 今は有紗の姿は見えないが、稲生は時折背筋が寒くなることがある。
 それは降雨による気温低下でそう感じるのかと思ったのだが、たまに霊気を感じることがある為、もしかしたら有紗が姿を現さないだけで、気配だけは向けているのではないかと思うのだ。
 それは威吹も気づいていて、あえてそんな嫌味なことを言ったのではと思った。

 マリア:「それにしても、酒まで買うとは……」
 威吹:「亡霊は酒など飲めん」

 威吹は駅弁と一緒にワンカップを手にしていた。

 威吹:「ユタの話では、今度乗る列車は車内販売が無いというではないか」
 稲生:「そうだなんだよね。“はやぶさ”で、グランクラスにアテンダント付きだっていうから、車販もあるかと思ったんだけど、いくら調べてもそんなのが出てこないんだ。最近は車販も縮小傾向にあるからね」

 その代わり、駅構内の販売店が拡充されてきた。

 威吹:「ユタは酒要らないの?」
 稲生:「いや、いいよ。弁当とお茶で」

 そんな風に色々と物色していると……。

〔「お待たせ致しました。22番線、まもなくドアが開きます。乗車口まで、お進みください。……」〕

 という放送が聞こえて来た。

 稲生:「おっと!もう開扉だ」

 “はやぶさ”は全車指定席で、キップさえ取れれば、あとは席にあぶれる心配は無いのだから慌てる心配は無い。
 だが、そこで気持ちがはやるのは鉄ヲタの哀しいサガか。

 稲生:「すいません、Suicaで払います」
 店員:「はい、ありがとうございます」

 稲生はSuicaで弁当とお茶代を払うと、車両に近づいた。

 稲生:「残念。H5系じゃなかった……」

 と、呟くと……。

 有紗:「相変わらずだね、勇太君……?」
 稲生:「!!!」

 背後から有紗の声がしたような気がして、稲生はバッと振り向いた。
 しかし、そこに有紗はいなかった。

 有紗:「私が生きていたら……」
 稲生:「有紗……」

 声だけがする。
 だが、車両の窓ガラスに反射する稲生の姿の後ろに確かに有紗は映っていた。

 威吹:「有紗殿、一緒に行きたいのか?だが、残念だ。幽霊が乗るのは、あちらの列車でござる」

 威吹はにこやかに後ろを指さした。

 稲生:「!?」

 稲生が威吹の指さした方向に行ってみると、東海道新幹線ホームに0系が停車していた。
 但し、随分と塗装がくすんでおり、しかもそのホームにいる乗客も駅員も誰一人その列車に気づいていないようだった。
 ホームには撮り鉄らしき者がN700Aの写真を撮っており、もしも0系がいようものなら明らかに失禁モノであろうが、それに気づいていないということは……。

 稲生:「冥界鉄道公社、ついに新幹線の運行始めたのか!?……いずれはやると思っていたけど」

 過去の古めかしい車両で持って、あの世とこの世を結ぶ鉄道を運行する冥界鉄道公社。
 一部列車は魔界のアルカディアに行き、魔界高速電鉄と片乗り入れをしている。

 威吹:「向こうは幽霊というだけで、特にキップは要らぬと聞いておる。まだ発車時刻になっておらぬようだが、如何かな?」
 有紗:「……!」

 有紗は納得行かぬという顔をしていた。

 威吹:「では、正規のキップを持っている我々は、こちらの列車に乗るとしよう。行こうか、ユタ?」
 稲生:「あ……う、うん……」

 にこやかな顔をする威吹に戸惑いを感じながらも、稲生は威吹に続いて“はやぶさ”のE5系車両に乗り込んだ。
 最後にマリアが乗り込むが、その際、ジッと恋敵の気配のする方を睨みつけていた。
 マリアにも直接有紗の姿は見えないらしい。
 が、気配はするようだ。

 稲生:「閑散期のド平日で良かったよ。3人席が取れて」
 威吹:「それはそれは……」

 稲生達は8号車に乗り込んだ。
 案の定、有紗は列車に乗り込んでくることができなかった。

 稲生:「列車内まで憑いて来るかと思ったんだけど……」
 威吹:「暗示だよ、暗示」
 稲生:「暗示?」
 威吹:「そう。『幽霊はこの列車に乗ることはできない』という暗示さ」
 稲生:「それも狐妖術なのかい?」
 威吹:「別に、妖術を使った覚えは無いが……」
 マリア:「胸糞悪い」

 窓側に座るマリアは不快そうに言うと、ピシャッと縦引きカーテンを閉めた。
 22番線は3人席側にホームがある状態だ。
 有紗の姿は見えないが、マリアには今度は見えたのかもしれない。
 恨めしそうな顔をして覗き込み、恋敵を睨みつける亡霊の顔が。

 威吹:「おいおい、ユタは車窓も楽しむのだ。それを奪ってはイカンでござるよ?」

 威吹はワンカップの蓋を開けて言った。

 マリア:「発車したら開けるよ」
 稲生:「大丈夫かな?列車の運行を妨害するようなことをしなければいいけど……」
 威吹:「今の有紗殿に、そこまでの力は無い」
 稲生:「そうなの?」
 威吹:「少しずつ霊力が削ぎ落されているようだ。理由は分からんが、もしかしたらユタの塔婆供養、今更ながらに効いて来たのかもしれんぞ?」
 稲生:「今頃!?」
 威吹:「日蓮仏法とやら、功徳の現証は遅効性のようだな」

 威吹は嫌味とも取れる笑みを浮かべた。
 そして断言通り、“はやぶさ”41号は定刻通りに発車したのである。
ジャンル:
小説
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