報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「上りの旅」

2018-05-29 18:56:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月11日13:20.天候:晴 JR仙台駅・仙石線→東北新幹線]

 稲生達を乗せた4両編成の仙石線電車は、205系3100番台で運転される。
 元は山手線や埼京線で運転されていた車両を転用したものを、仙石線用に改造して運用しているものだ。
 中にはセミクロスシートに改造された車両もあるのだが、稲生達はあいにくと往復共にその編成に当たることは無かった。
 鉄ヲタの稲生でさえ狙うことを諦めたのは、全編成が共通運用だからである。
 ところが一部、“マンガッタンライナー”と呼ばれる編成だけは専用車として運転されることがある。
 どんな編成かは、【Webで確認!】

〔「まもなく仙台、仙台です。お出口は、右側です。新幹線、東北本線、常磐線、仙山線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです。仙台市地下鉄南北線と東西線ご利用のお客様は、次のあおば通駅でのお乗り換えが便利です」〕

 電車が仙台市内に入り、市街地近くの地下区間(仙台トンネル)に入ると車内が混み始めた。
 これだけ見ると、4両編成ではなく、6両編成は欲しいところ。
 利用者数だけ見れば、東武野田線(あえてアーバンパークラインとは言わない)に匹敵するのではと思う。

 稲生:「着きました」

 電車が到着すると、あちこちのドアからドアチャイムが流れる。
 タイミングがバラバラなのは、乗客がドアボタンを押した際にドアチャイムが流れるからだ。
 仙石線では全区間で半自動ドア扱いとなるが、仙台市内では全自動でも良さげな感じはする(あおば通駅での折り返しは除く)。
 この駅でぞろぞろと乗客が降りて行く。
 もちろん、稲生達も後から続いた。
 このホームでは専用の発車メロディをあおば通駅に譲っている為、発車ベル(電子電鈴)が流れる。
 まずは地上に出る必要がある為、エスカレーターで他の在来線コンコースに向かう。

〔ピンポーン♪ まもなく10番線に、下り電車が到着致します。危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください〕

 あおば通駅発の電車と入れ違うのだろう。
 地下ホームに、今しがた出て行った電車と、これからやってくる電車が風を巻き起こす。
 エスカレーターで地上に向かう威吹と袴とマリアのスカートが靡いた。
 威吹は特段気にしなかったが、マリアだけはスカートを押さえた。

 在来線コンコースに出ると、その賑わい方は電車が到着した時に限っては大宮駅のそれと大して変わらない。
 だが、電車が到着していない時は至って静かだ。
 で、そのコンコースの途中に新幹線乗換改札口がある。
 ここだけは静かだ。
 新幹線が到着していないからなのか、はたまたそんなに実は需要が無いのか……。

 稲生:「今度は新幹線特急券も一緒に突っ込みましょう」
 威吹:「承知!」

 在来線改札口よりも大きな新幹線改札機に全てのキップを投入し、今度は新幹線のコンコースに移る。
 ここからホームに上がるには、またエスカレーターや階段を上がらなくてはならない。
 但し、途中にはロビーのような待合所や売店が並んでいて……。

 威吹:「ユタ。まだ少し、時間あるかな?」
 稲生:「えっ?あー、まあ……。13時44分発だからね。トイレにでも行くの?」
 威吹:「いや、そうじゃない。ちょっと、欲しい物がある」
 稲生:「いいよ。ここでは全部Suicaが使えるから」

 稲生は自分のSuicaを威吹に渡した。

 威吹:「かたじけない」

 威吹はそう言って、ある売店に立ち寄った。
 そこで買ってきたものは……。

 マリア:「また食べる気か!?」

 マリアが目を丸くした。
 威吹が買って来たのは、牛タン弁当。
 これは仙台駅の駅弁でも特によく売れているものである為、いくつかのメーカーから色々な種類が出ている。
 で、そのうち威吹が買った物は、紐を引っ張ると温かくなるタイプのものだった。
 これ、実は仙台駅だけでなく、大宮駅でも売っていたりする。
 場所は【お察しください】。
 作者は確認していないが、どうも車販でも売っているらしい。
 威吹が目ざとく見つけて買って来るくらいなのだから、よほど人気なのだろう。

 威吹:「オマエも食べるか?」
 マリア:「いや、いいよ。ランチしたばっかりだし」
 稲生:「まあまあ。僕達の乗る列車、車販があるので、そこで何か買ってもいいですしね」

 と、稲生が言うと、マリアのローブのポケットの中からピョコッとミク人形とハク人形が顔を出した。

 威吹:「こ、こいつらは!?」
 稲生:「あー、そうか。いたんだな。すっかり忘れてたよ。いや、このコ達、車内販売と高速道路のサービスエリアで売ってるアイスが好きなんだ」
 威吹:「人形のくせに食べ物をねだるだと?生意気な人形だな」
 ミク人形:「
 ハク人形:「

 すると、ミク人形とハク人形は威吹に飛び掛かった。

 威吹:「うわなにをするやめr」
 稲生:「まあまあ、まあまあ」

 稲生がすぐに止めに入った。

 稲生:「ちゃんと後で買ってあげるから。威吹もここは1つ、黙ってて」
 威吹:「しょうがないな……」

 尚、特別編“ユタと森の魔女”(マリアとイリーナが初登場する物語)において、マリアの屋敷に進入した際、威吹が最初に蹴飛ばした人形というのがミク人形である。

 威吹:「はい、ありがとう」

 威吹は稲生にSuicaを返した。
 威吹としては目当ての物が買えたのだから、それで満足なのだろう。

 3人はエスカレーターで新幹線ホームに上がった。

[同日13:44.天候:晴 JR東北新幹線“やまびこ”142号10号車内]

〔14番線から、“やまびこ”142号、東京行きが発車致します。次は、白石蔵王に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 ホームにオリジナルの発車メロディが鳴り響く。
 本当にオーケストラを録音したもので、“青葉城恋唄”をモチーフにしたものである。
 客終合図のブザーと共に、客用扉が閉められ、列車は定刻に発車した。

 稲生:「あ、そうだ。威吹」
 威吹:「何だい?」

 威吹は弁当の紐を引っ張っていた。
 すぐに弁当内部から、まるで電気ポットのお湯が沸くような音が聞こえてくる。
 それでも弁当容器には、紐を引っ張ってから7〜8分は待つようにという注意書きが添えられている。

 稲生:「キミ、目がいいだろ。反対側の窓から、保壽寺の霊園が見えないかな?もし見えたら、有紗の墓がどうなっているのか見て欲しいんだ」
 威吹:「何だ、そんなことか。お安い御用でござるよ」

 威吹は席を立つと、デッキに向かった。
 進行方向右側に例の霊園はあるのだが、稲生達が座っている3人席は反対側だ。
 しかし、2人席は何だかんだ言って窓側席は全て埋まっている。
 だから威吹はデッキに向かったのだろう。
 乗降ドアの窓から見るつもりだ。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“やまびこ”号、東京行きです。途中の福島で、後ろに山形新幹線“つばさ”号を連結致します。次は、白石蔵王に止まります。……〕

 自動放送が流れている間、列車は件の霊園の横を通る。
 だが……。

 威吹:「ユタ、ダメだ。申し訳無い。ここからでは見えない」

 と、戻って来た威吹が申し訳無さそうに言った。

 稲生:「そうか。下り列車の左側窓からでないとダメか」
 マリア:「そんなに気になるんだったら、後で私が水晶球で見るよ?」
 稲生:「その手がありましたか。いえ、ちゃんとあの骨壺が警察に回収されたかなぁと思いまして」
 威吹:「回収されてなかったら、どうするつもりだ?」
 稲生:「そりゃ、僕が回収して青葉園に戻してあげたいよ。1番いいのは、日蓮正宗の墓地に埋葬してあげることなんだけどね」
 威吹:「それは却って火に油を注ぐことになるだろう。有紗殿は顕正会員として死んだ。生きてる人間なら諭して伏させることも可能だろうが、亡霊には無駄なことだ。だからこそ、回向というものが存在するのだろう」
 マリア:「それでもダメだったんだ。諦めな」

 マリアは少し苛立ったように言った。

 威吹:「そこの魔女の言う通りにしておいた方がいい。ボクからも忠告しておこう」
 稲生:「う、うん。分かったよ」

 列車は昼の日差しを浴びて、グングンと速度を上げて行った。
コメント (4)
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“大魔道師の弟子” 「お侍さん」

2018-05-29 11:14:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月11日11:30.天候:晴 宮城県宮城郡松島町 観瀾亭→牛たん炭焼 利久]

 この時、稲生のツイッターにこんなことが書かれていたという。

『縁側でお茶とお菓子を頂く連れが、どう見てもお侍さんな件』

 画像には、縁台で茶を啜りながら茶菓子を手にする威吹がアップされていた。
 着物に袴、草履、そして脇に立て掛けている刀が……。

 稲生:「威吹、後で刀隠しておけよ」
 威吹:「スマン、すっかり忘れてた」
 外国人観光客A:「なあ、キミ。あのSAMURAIはキミの知り合いかい?
 マリア:「まあ、一応……
 外国人観光客B:「そりゃ凄い!是非、写真を撮らせてくれ!
 マリア:「どうぞご勝手に
 威吹:「何だ何だ?何だか、やたら南蛮人が増えて来たぞ!?」
 稲生:「キミがだいぶ目立ってるみたいだねぇ……」

 というわけで、威吹のティータイムはここで終了。

 マリア:「船であれだけゲーゲー吐いてたのに、よく食べれるなぁ……」
 威吹:「おかげで胃の中が空になった。妖狐にとって、胃が空のまま長時間放置しておくことは、イコール次は人喰いをするということだ。それを防止する為だ」
 稲生:「怖い怖い」
 マリア:「取って付けたような理由付けやがって……」

 因みに刀は再び扇子に変化させた。

 威吹:「ユタ。甘い物を食べたら、早速胃が元気になったでござる。早いとこ、例のあれを……」
 稲生:「はいはい」
 マリア:「普通、逆だろ?食事をたらふくしてから、『甘い物は別腹』だろ?」
 威吹:「一流の魔法使いは、小さなことに拘らないものでござるよ」
 マリア:「師匠と同じこと言うなァ……」
 威吹:「その師匠殿がオレにも言ったんだ」
 マリア:「あ、そう。あの師匠ならやりかねない」

 目当ての店は、すぐ近くにあった。

 稲生:「はい、牛タン専門店」
 威吹:「おおっ!」

 早速、店内に入る。

 稲生:「威吹は1番高いの頼んでいいよ。持ち合わせ、あったかな……
 威吹:「さようか!」

 威吹は1番牛タンの量が多い定食を注文し、稲生はぐるなびでオススメとなっているものをチョイスし、マリアは牛タンシチューにした。

 稲生:「これで威吹への御礼も済んだし、後は帰るだけだ」
 マリア:「最後に観光をすることになるとは、さすが勇太だね」
 威吹:「まあまあ。これも、前の女を忘れる為だ。オマエにとっても、けして悪い話ではないはずだ」
 マリア:「!」
 威吹:「ユタから聞いた話だが、今回の件は、あくまで河合有紗殿の亡霊がユタに襲い掛かって来たことが発端だろう?そして調べて行くうちに、有紗殿の遺骨が盗掘されたと。その遺骨は発見したし、その犯人と思しき者も、今は警察の手に掛かっている。有紗殿にあっては冥界側からの仕置きで、しばらく亜空間内にいることになった。これでもう2度と、有紗殿の悪霊がユタに襲い掛かることは無いはずだ。その後で少々物見遊山しても、罰は当たるまい?」
 稲生:「100パー、消化したわけじゃないけどね」
 威吹:「というと?」
 稲生:「マリアさんが警察に突き出した人って、本当に有紗のお姉さんだったのかなぁ……なんて」
 マリア:「私が指摘したら、特に否定はしていなかったぞ?」
 威吹:「うむ。『返答無きは認むるに同じ』と言うからな」
 稲生:「それにしても、100メートル先から狙撃してくるなんてねぇ……」
 威吹:「銃弾など、妖狐と魔女には効かぬということを知らなかった。その時点で、向こうの負けだ」

 もっとも、直接体に被弾したら大ダメージは避けられない。
 あくまで、鎧代わりの着物やローブを着ていたおかげだ。

[同日12:30〜12:42.天候:晴 JR松島海岸駅→JR仙石線先頭車内]

 昼食を終えた稲生達は、足早に松島海岸駅に向かった。
 もっとも、それとて徒歩圏内である。
 結構、徒歩圏内のみ移動したと言える。
 この松島海岸駅には、みどりの窓口がある。
 そこで稲生は帰りの乗車券だけでなく、新幹線の特急券も購入した。

 稲生:「良かった。指定席空いてた。仙台始発だからかな」
 威吹:「狙うねぇ……」

 威吹は笑みを浮かべた。
 これにはマリアも同意する。

 稲生:「乗車券だけ入れてね」
 威吹:「了解」

 こういう地方の駅でも、今や自動改札機導入の時代。
 改札口を通ると、すぐに階段を昇った。

 マリア:「あの海鳥、お土産に……」
 威吹:「まだ言うか」
 稲生:(ぬいぐるみだけでも買っておけば良かったかな……?)

〔ピンポーン♪ まもなく2番線に、上り電車が到着します。危ないですから、黄色い線の内側まで、お下がりください〕

 電車がやってくる。
 往路と同じ205系3100番台。
 しかし、この路線もやはり冥鉄電車の運行区域になっているという。
 もしかしたら、旧・宮城電鉄時代の車両も運行されているかもしれない。

 稲生:「山手線時代は、こんな海の見える所を走ることになろうとは思わなかったでしょうねぇ……」

 稲生はドアボタンを押しながら言った。
 1面2線の島式ホームで行き違い設備のある駅だが、特段対向電車の待ち合わせなどは無く、すぐに発車した。

〔「次は陸前浜田、陸前浜田です」〕

 緑色の座席に腰掛けながら、マリアは後ろを振り向いた。
 と、すぐにトンネルに入る。
 この辺りは短いながらも、断続的にトンネルの続く所なのである。

 稲生:「どうでした?海は……」
 マリア:「凄く新鮮だった。山ばかり見ていたから……。たまには、海もいい」

 マリアは笑みを浮かべて頷いた。
 そして、続けた。

 マリア:「さっき言ってた、あの……イブキと一緒に船に乗ったっていう話……」
 稲生:「東京湾フェリーですか?」
 マリア:「そう、それ。私も、そのルートで移動してみたい」
 稲生:「いいですよ。今度行きましょう」
 威吹:「いいのか?湾内が荒れてると、大変な目に遭うぞ?」
 マリア:「魔道師をナメるな。ちゃんと天気の良い日を選んで行くさ」
 稲生:「ハハハ……」

 電車は沿岸部の線路を突き進む。
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