報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「南端村の狐さん」

2018-05-03 20:12:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間4月9日10:02.天候:晴 魔界高速電鉄環状線急行電車内]

 JR西日本207系電車の先頭車に乗り込んだ稲生とマリア。
 ブルーの座席に腰掛ける。

〔「この電車は環状線外回り、急行電車です。サウスエンドまで急行、サウスエンドから先は各駅停車となります。発車まで少々お待ちください」〕

 稲生:「何でこんな新しい電車が???」

 向かい側のホームに入線してきた内回り電車は、モハ40系というこげ茶色の旧型電車だ。
 反対側の中央線を見ると、そこに停車していたのはオレンジ色の旧国鉄101系。

 マリア:「そんなに珍しい?」
 稲生:「ええ」

 通勤電車ながらアクリルカバーに覆われた照明、座席の脇はパイプの手すりで仕切られているだけで、JR東日本のような仕切り板は無い。
 正しく、JR西日本の車両である。
 ボディの塗装は青を基調としたもの。
 デビューした当初の状態である。

 1番街駅で停車時分が多く取られているのは、乗務員交替をするからだろう。
 見た目、人間の運転士と思しき者が交替している。

 稲生:「すいません」
 運転士:「はい?」

 稲生は思い余って、交替してホームを歩き出した運転士に声を掛けた。

 稲生:「この電車、やたら新しいですよね?どうしてですか?」

 すると運転士はこう答えた。

 運転士:「もちろん、人間界では存在できなくなったからですよ。だから、当社で引き取ったんです」
 稲生:「JR西日本の207系ですよね?」
 運転士:「ええ」
 稲生:「……まだ現役で走っているはずですけど?」
 運転士:「この編成だけ事故で廃車になったということですよ」
 稲生:「事故?」
 運転士:「2005年に……」
 稲生:「あっ!」

〔「2番線から環状線外回り急行、発車致します。ドアが閉まります」〕

 2点チャイムを2回鳴らしてドアが閉まった。
 そして、東日本では耳にできないインバータの音が車内に響いた。

 稲生:「福知山線脱線事故の……幽霊電車か……」

〔「本日もアルカディアメトロをご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は環状線外回り、急行電車です。サウスエンドまで急行、サウスエンドから先は各駅停車となります。尚、この先のダイヤ状況によりまして、急行運転区間が変わる場合がございます。予め、ご了承ください。次は33番街、33番街です」〕

 高架鉄道の優等列車はダイヤの乱れを回復する為に存在するという。
 なので各駅停車であっても途中駅から急行電車に変わったり、遅延回復が済むと(思われる)区間から各駅停車になったりする。
 但し、適当な駅で種別が変わるのではなく、そこそこ大きな駅で変えるようだ(山手線で言えば東京、品川、渋谷、新宿、池袋、上野辺り)。
 ダイヤが乱れるのかというと、乱れるようである。
 “霧の都”であるが故、電車が濃霧に包まれると徐行運転を余儀無くされるからだ。
 JR西日本207系は通勤電車ながら最高速度130キロも出せる代物であるが、いくら急行電車とはいえ、魔界の鉄道ではそんなに出せないようだ。
 尚、一見して不便そうな高架鉄道だが、それでも街中とはいえエンカウントすることもある為、それが防げる電車の方が安全とも言えるのだ。
 また、エンカウントと言うと如何にも英単語のような響きに聞こえるが、これを英語圏の国の者に言っても通じない。
 稲生が以前、魔界で敵と遭遇することを『エンカウント』と呼び、RPG用語としては正しい意味・用法なのだが、いかんせん和製英語である為、マリアの頭を混乱させた経緯がある。
 英語では『エンカウンター(encounter)』と呼ぶのが正しい。
 意味はそのまま『(敵と)遭遇する』という意味。
 その為か、プレイヤーやゲーム業界関係者によっては、本来の用語である『encounter』と呼ぶ者もいる。
 高架鉄道沿線は概して治安の悪い所を通る為、エンカウント率も高い。
 鉄道施設内は治安が行き届いている為、こうして電車に乗っている間は敵と遭遇することはない。

[同日10:30.天候:晴 アルカディアシティ南部サウスエンド地区(南端村)]

〔「まもなくサウスエンド、サウスエンド、南端村。お出口は、右側です。この電車は環状線外回り、インフェルノタウン方面、デビル・ピーターズバーグ行きです。急行で参りましたが、サウスエンドより先は各駅停車となります。お忘れ物の無いよう、ご注意ください」〕

 稲生:「ここですね」

 本来の地区名と駅名はサウスエンドであるが、愛称が南端村。
 もちろん、サウスエンドを日本語に直訳したものである。

 マリア:「日本人街か……」

 電車がホームに停車した。
 JR山手線で言えば大崎駅辺りになる。
 環状線の営業キロは山手線の約2倍ほど。
 駅の数もそれくらいある。
 だから電車も各駅停車だけでなく、急行も走っているのだ。

〔「サウスエンド〜、サウスエンド〜、南端村〜。4番線は環状線各停、外回りです」〕

 電車を降りると、既に方向幕と種別表示は変わっていた。
 尚、区間急行みたいな運転をしていた為、ヘッドマークを付けていたのだが、それも取り外された。
『環状線外回り急行 サウスエンドより各停
 みたいな感じ。

 稲生:「うん。何か……日本史の教科書で見たような風景だ」

 電車を降りて駅の外へ出ると、まるでそこは戦前・戦中の日本統治の外地のような街並みが広がっていた。

 マリア:「さすがは日本人達が作った村だな」

 マリアが言う通り、南端村は人間界から魔界に迷い込んだ日本人達が構成された村である。
 元々は流刑地として存在していたが、いつの間にやら日本人村となった。
 安倍も迷い込んだ者の1人であるが、後に大魔王バァル討伐の『勇者』として蜂起することとなる。

 稲生:「威吹の神社までタクシーで行きますか」

 駅前に止まっているタクシー……と言っても自動車交通の無い魔界。
 止まっているのは辻馬車である。
 ご丁寧にも屋根の上に『TAXI』という表示がしてある。

 稲生:「すいません」
 御者:「タクシー利用ですか?どちらまで?」
 稲生:「稲荷神社までお願いします」
 御者:「それでは200ゴッズお願いします」
 稲生:「200ゴッズですか」

 1ゴッズのレートは凡そ10円。
 まだまだ物価の安い発展途上国である。

 マリア:「高い!150だ、150!」

 そこへマリアが値引額を要求した。
 発展途上国のタクシーと同じく、料金は交渉制である。
 稲生が唖然とする中、御者とマリアの料金交渉が進む。
 そこはさすが欧米人と思う稲生であった。
 尚、料金交渉に不慣れな者はドアマンが配置されているホテルで拾うと良い。
 ドアマンにチップを渡し、料金交渉を手伝ってもらうという手がある。
 タクシーの運転手もホテル側の意向には逆らえない為、不慣れな客と見ても大っぴらに吹っ掛けられないわけである。
コメント
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