報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「“妖狐 威吹”より、『ユタの暴走』」 1

2018-05-06 20:17:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 威吹は稲生に強く頼まれたことで、重い口を開いた。
 あの時、妖狐達の間で何があったのかを紹介する為、当ブログでは未公開の“妖狐 威吹”の一部分を公開する。
 尚、作中で顕正会や浅井会長を持ち上げているシーンがあるが、これは当時の作者がバリバリの顕正会員だった頃の名残で、現在は違うことに留意して頂きたい。
 顕正会を持ち上げている描写だけを斜め読みして折伏に来られても相手にしないどころか、むしろ法華講組織の在り方について破折させて頂くのでご注意のほどを……。
 尚、ユタというのは稲生勇太の威吹からの渾名です。

[200×年7月31日17:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 宗教法人顕正会本部会館]
(威吹の一人称です。“妖狐 威吹”では一部を除いて、基本的には威吹の一人称でストーリーが進みます)

 オレは疑問を持っていた。
 いや、確かに仏教徒から見れば仏敵にも等しい妖怪がこんなことを考えるのは笑止千万だろうが……。
 如何に御本尊とやらの前に民衆を引き立てる為とはいえ、妖怪たるオレの妖術を使っても良いのだろうかと。
 ユタはそうすることで、オレも来世は人間に生まれ変わり、成仏への道を歩むことができると言っていた。
 しかし、オレはそれを望んでいない。
 そもそも、妖狐くらいの高等部類になると、そもそも寿命というものが無いのだが。
 ユタ達の宗教は頑なに否定しているが、オレとて稲荷大明神の使いの狐だった時期がある。
 もっとも、色々とやらかしてクビになったがな。
 そのユタは今、夕刻の勤行に出ている。
 全く、法華経の読経が耳障りだ。

 威吹:(芙蓉茶寮にでも行ってるか……)

 オレは一旦、建物の外に出た。
 ユタのことだから、夕刻の勤行が終われば夕食がてら芙蓉茶寮に来るはずだ。

 ???:「威吹様」

 その時、どこからともなく聞き覚えのある声がした。
 それは人間ではない。

 ???:「威吹様、少しよろしいでしょうか?」
 威吹:「いいだろう」

 オレは建物の裏に回った。
 すると、そこに同族の者がいた。
 緑色の着物にこげ茶色の袴をはいている。
 確か、名前を玉上と言ったか。
 玉藻の一族に近い方のヤツだ。

 威吹:「何か用か?」
 玉上:「先日からずっと威吹様の様子をお伺いしておりました。何と、実に嘆かわしい。下等で愚かな人間に従属し、しかも我々の敵でもある仏の味方をするとは……!」
 威吹:「オレが勝手にやってることだ。もっとも、ここの組織の弘教の仕方に関しては、オレも疑問を持っているがな」
 玉上:「これ以上、威吹様が惨めに人間に従属することは見るに耐えません。私と共に!私と共に妖狐の里へ帰りましょう!今なら私の御館様より、あなたが許しを得られるよう、口添えをしてもらえる用意がございます!」
 威吹:「せっかくの申し出だが、断る」
 玉上:「そんな、威吹様!」
 威吹:「せっかくユタという最上の霊力の持ち主たる人間を見つけたのだ。そして、そいつと盟約を結ぶことができた。みすみす捨てられるか」
 玉上:「それならば盟約の破棄を!何でしたら、私もお手伝い致します!もちろん、分け前などは要りません!」
 威吹:「バカ者!オレに恥をかかせる気か!」

 高等の妖怪であればあるほど、人間と結んだ盟約の不履行は認められない。
 もし不履行あった場合は、長年笑い者となる。

 玉上:「で、ですが……!」
 威吹:「くどい!オレは最低でも今の盟約を満了するまで里には帰らん!」

 そもそもオレは追放されたも同然だ。
 それが大手振って帰るには、この時代でも珍しいユタほどの強い霊力を持った人間を食らわなくてはならない。
 普通に獲物にするだけでも大変だ。
 それが盟約まで結べたのだから、これほど大きな収穫もあるまい。
 この玉上の莫迦者は、それをみすみす捨てろというのだ。

 玉上:「威吹様……某は諦めませぬぞ……!」
 威吹:「勝手にしろ!」

 オレは憤慨しながら芙蓉茶寮に向かった。

[同日17:45.天候:晴 芙蓉茶寮]

 勤行を終えた後、しばらくしてからユタがやってきた。
 どうも上長と少し話をしていたらしい。
 ユタの班は毎月誓願達成を褒められたとのこと。
 もちろん、その影にはオレの妖術があったことは内緒だ。
 にもかかわらず、ユタは非常に上機嫌だった。
 盟約者の機嫌は良いことに越したことはない。
 もっとも……。

 ユタ:「いやあ、威吹のおかげで今月も誓願達成できたよ。ありがとう」
 威吹:「こんなんでいいのか……」

 オレは腑に落ちない気持ちを禁じ得なかった。

 ユタ:「何が?」
 威吹:「いや、仏門に下る割には、随分と淡白な宗派なんだな」
 ユタ:「というと?」
 威吹:「いや、仏門に下るわけだから、こう剃髪して得度するのが普通だろ?」

 オレは自分の髪を指さした。
 坊主共は髪を剃っているからな。
 オレは後ろに結んだ髪を結び直した。

 ユタ:「そんなのは謗法の坊主のやることだよ。顕正会は坊主なんか要らない。御本尊様に縁することが大事なんだ」
 威吹:「しかし、このケンショーカイという信徒衆の概要すら教えないとは……。さっき入った男、仏について何か知ってるのか?」
 ユタ:「今も言ったろ?御本尊様に縁させることが大事なんだ。つまり、仏種を蒔くことだね。それから芽が出るのか出ないのか、出るとしてもいつなのかはその人の更なる縁次第だよ」
 威吹:「そういうものなのか……?」
 ユタ:「そう。誓願だってね、数をこなすようになっているように見えるけど、それもそのはずで、如何に多くの人を御本尊様の前に連れて来るかが勝負なんだ」
 威吹:「…………」

 違う!何か違う!
 妖怪のオレが言うのも何だが、やっぱりユタのやっていることは間違っていると思う。

 勇太:「ま、あいにくと威吹は人間じゃないから入信はできないけど、こうして僕の……引いては浅井先生のお手伝いをしていれば、来世では人間に生まれ変わって、そこで罪障消滅ができるようになるよ。ま、難しい話はここまでにして、夕飯食べよう。この後、ビデオ放映があるからね」
 威吹:「夏休みの宿題が控えてるんじゃなかったのか?」

 オレは先ほど、河合有紗殿と会った。
 ユタが惚れて口説いた女だ。
 もちろん、オレが少し口説き方を手伝ったのだがな。

 ユタ:「何で知ってるの?」
 威吹「河合殿がそう言ってた。河合有紗殿」
 ユタ:「ええっ?参ったなぁ……」

 案の定、ユタは顔を赤らめた。
 どうやら、初恋の相手らしい。
 うむうむ。
 ユタと河合殿とやらが一緒になれば、オレの盟約も更に厚みを増幅させることができる。
 オレは笑みを浮かべながら言った。

 威吹:「『ユウタ君、誓願達成もう少しみたいですけど、宿題を全然やっていないみたいで心配です』ってさ」
 ユタ:「有紗もなぁ……。誓願達成できれば、宿題もいつの間にか片付いているようになるんだって」
 威吹:「でも、せっかくのユタの彼女なのにねぇ……」
 ユタ:「あっ、ちょっと待って。電話」

 ユタはそう言って、携帯電話とやらを取り出した。
 全く。この時代は、随分とケッタイな機械が発明されたものだ。
 オレの時代(江戸時代前期)は、こういう通信は妖術で行うものだったのだがな。

 ユタ:「はい、もしもし。……あ、隊長。お疲れさまですー。……あ、はい。先日、誓願達成しましたよ。支隊長には報告したはずですが……?」

 どうやら、隊長と話しているらしい。
 先ほど話していた上長は、支隊長とやらだったかな。

 ユタ:「いえ。僕なんかまだまだです」

 なかなか盛り上がっているな。
 まあ、いい。
 今のうちに、うどんを食うとしよう。
 狐の好きな油揚げが入ってることから、オレの頼んだうどんはキツネうどんというらしい。
 まあ、確かに好物は好物だが。
 それにしても、河合有紗だ。
 どうもユタは奥手だからな。
 ここは1つ、オレがもう少し背中を押してやらねばなるまい。
 妖狐族の掟では、盟約を結べるのは1人につき、人間1人までということになっている。
 が、それには例外があって、盟約者たる人間に配偶者ができた場合、その配偶者も獲物にして良いことになっているのだ。
 配偶者だけではない。
 その配偶者との間に子供が生まれれば、その子供も食らうことができる。
 つまり、ユタの背中を押してやることは、オレにとっても旨味を増幅させることに繋がるのだ。

 そんなことを考えていると、ユタは電話を切った。
 どうやら、早々に食事を切り上げるようだ。
 早速、河合有紗に会いに行くのかと思いきや、ユタはとんでもないことを言い出した。

                                               続く
コメント (1)
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