報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「自らの能力に気づかないこともある」

2018-05-08 19:21:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間4月9日12:00.天候:曇 アルカディアシティ・サウスエンド地区(通称、南端村) 稲荷神社]

 威吹の話が終わった。

 威吹:「オレは……ボクは身内の暴走を止められなかった。この事を知ったのは……カンジがボクの所に来てからだ。カンジが教えてくれたんだ。だけど……ボクは教えることができなくて……。申し訳ない……申し訳ない……」

 威吹はうな垂れて何度も稲生に謝罪した。
 カンジこと、威波莞爾は妖狐の里からやってきた若い妖狐で、威吹の押し掛け弟子となっていたが、その正体はダンテの作り上げた化身であった。
 確かにダンテなら、真相を知るのは造作も無いことだろう。
 この時から既に、ダンテ一門では稲生の弟子入りを企んでいたということが分かる。

 マリア:「それで、その玉上とやらはどうした?」
 威吹:「まだ……生きてるよ。処刑のしようが無いんだ。別に、掟に違反したというわけでもないのだから」

 特定の妖狐と盟約を結んだ人間に対しては、他の妖狐の手出しは一切無用という掟はある。
 だが、その友人・知人にまで手を出すなという掟は無い。
 家族に手を出すなという掟も無いのだが、こちらは無くても手を出さないことが不文律になっている。
 それは空気読めということだ。

 威吹:「但し、あいつは2度と人間界にも魔界にも出てこれまい。人間界に行けばユタに殺されるだろうし、魔界に来ようものなら、オレが痛い目に遭わせてやるからな。そう、オレは言ってあるんだ。里の長老も、苦い顔をしていたよ」
 マリア:「……取りあえず、使用者責任でその長老を引き立てるというのはどうだ?それとも、もう一度イブキを殴り飛ばすか?」
 威吹:「長老はさすがにムリだが、ボクを殴るのは一向に構わない」
 稲生:「……やめておくよ。キミを殴っても、長老さんに責任を求めても、何がどうなるというわけでもない。それに……マリアさんと初めて会って、キミと世界樹の葉を見つけても、何にもならなかったじゃないか」
 威吹:「う、うん……」

 死んだ人間を無理無く生き返らせる魔法の葉っぱという噂だったが、実際は煎じて服用した者から死亡した者に関する一切の記憶を消し去る魔法の葉っぱだった。
 この場合は稲生から河合有紗の記憶を全て消し去るというものだった。
 が、稲生は忘れなかった。
 当初は忘れていたのだが、それほどまでに稲生の霊力は強かったのだろう。
 マリアに惚れたのは、河合の面影があったからというのはある。

 稲生:「だから、もういいよ。むしろ、真実を正直に話してくれてありがとう」
 威吹:「こんなことを言うのも何だけど……、ボクも正直ホッとしたような気がする」
 稲生:「うん。そうだね」

 と、そこへ襖の戸が叩かれた。

 坂吹:「失礼します。あの……昼食の準備ができましたが、如何でしょうか?」
 威吹:「おっ、もうそんな時間か。ユタ達も食べて行ってよ」
 稲生:「そうだね」
 坂吹:「こちらにお持ちしてありますので」

 坂吹はお盆に乗ったどんぶりを運んだ。
 きつねうどんだった。

 稲生:「さすがは稲荷神社。やっぱり、油揚げとかお供えされて行くの?」
 坂吹:「そうだね。ユタにとっては邪教だろうけどさ」
 稲生:「いや、まあ、しょうがない。神社で言うなら、御神体に拝まなければいいんだ」

 ここでは殆ど威吹が御神体のようなものだ。
 妖狐の里というのは本来、稲荷大明神より使いを頼まれる狐達が寄り集まってできた村だという。

 坂吹が折り畳み式のテーブルを出して、その上に丼を載せる。

 稲生:「頂きます」

 稲生は早速、うどんを口に運んだ。

 稲生:「美味い!」
 威吹:「うむ。なかなかよくできてるな」
 坂吹:「ありがとうございます!」
 マリア:「あなたが作ったのか」

 坂吹が作ったようである。

 威吹:「こいつ、こういうのが好きで、何でも一から作っちゃうんだ」
 稲生:「ということは、うどんも粉から作ったということ?」
 坂吹:「そうです。いやー、踏みつけてコシを出すのに苦労しましたよ」
 稲生:「それはそれは」

 稲生が感心していると、マリアが箸を止めた。

 マリア:「踏みつけて?……足で?」
 稲生:「そうです。……って、いや、マリアさん。もちろん、直接足で踏むわけじゃないですよ。ちゃんと何かカバーをして、その上からって意味です」
 マリア:「変わった作り方だ。……でも、美味しい」

 マリアの髪はショートカットなのであまりしないが、セミロング以上の長さの女性だと、麺を口に持って行く際、片方の手で髪を避けるだろう。
 あれが萌えポイントなのだ。
 威吹も結婚前は腰まで髪を伸ばしていたのだが、総髪にしていたこともあってか、そのようなことはしなかった。

 稲生:「それにしても……。有紗殺しの犯人は分かったけど、それだけじゃなぁ……」
 威吹:「ん?」
 稲生:「それを有紗に伝えても、僕達を襲うのは止めないかもな。やっぱり、盗まれた遺骨を見つけて供養してあげないとダメな気がする」
 威吹:「確かにそうだな」
 マリア:「イブキは心当たりは無いのか?」
 威吹:「無いなぁ……。それに、ボクがいたから妖狐の里から色々と誰かが来ていたわけだからね。今や人間界に、どれだけの妖狐が住み着いているか……。それに、ボクがそうであるように、誰も墓に納められた遺骨なんか興味無いよ。その墓に、何か重要なものが納められていたというなら別だけど」
 稲生:「いや、無いはずだね。あったら、もう既に情報を掴んでいるわけだし」
 マリア:「うんうん」

 マリアはうんうんと頷いた。
 と、そこへマリアの手持ちの水晶球が光る。
 携帯用に、大きさはソフトボールくらいだ。

 マリア:「師匠からかな。……はいはい、こちらマリアンナです。どうぞ」
 威吹:「いつも思うんだが、何でこいつの水晶球の交信は無線交信みたいなんだ?」
 稲生:「他の人達からも言われるよ……」

 稲生は苦笑した。
 相手はイリーナからで、現在地を確認するものだった。
 魔界は往々にして水晶球同士のやり取りがしにくい。
 ましてや、アルカディアシティの郊外にある南端村は、殆ど水晶球での位置確認ができないのだろう。
 マリアは昼食を終えたら魔王城に戻る旨を伝えていた。

 マリア:「全く。あれだけ酔い潰れておいて……」
 稲生:「ハハハハ……」
 威吹:「大変だな。おもしろ師匠を持つと」

 威吹もついでに笑う。
 と、その時、威吹はこんなことを言い出した。

 威吹:「なあ、さっきの遺骨泥棒の話なんだが……」
 稲生:「なに?」
 威吹:「占いで分からないのか?その、泥棒が遺骨を盗み出す所とか見れないのか?」
 稲生:「あ!」
 マリア:「そうだ!その手があった!」

 2人の魔道師はポンと手を叩いた。

 稲生:「水晶球占いなんて身近過ぎて、逆に忘れていたよ」
 マリア:「私の腕じゃまだ未熟だけど、取りあえず何とか分かるかもしれないな」

 稲生達は急いで昼食を済ませると、早速マリアの水晶球で占うことにした。
 すると、だいたい上手く行った。
 性能の悪いカメラの白黒映像みたいな画質ではあったが、犯人を特定するには無理のない程度であった。
 それで、その映像を観た稲生達は狐に摘ままれる思いをしたという。
 それは何故だと思う?

 1:犯行時刻に何も映っていなかったから
 2:墓がひとりでに暴かれたから
 3:遺骨を盗んだのが有紗だったから
 4:想像もつかない
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“大魔道師の弟子” 「“妖狐 威吹”より『ユタの慟哭』」 2

2018-05-08 10:19:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[200×年7月31日18:00.天候:晴 宗教法人顕正会本部 芙蓉茶寮]

 ユタは隊長からの電話を切ると、勇むようにオレに話し掛けた。
 きっと、これから河合有紗殿に会いに行く。
 だから、オレに彼女の居場所を教えてくれ。
 そんな言葉を予想していた。
 オレは笑みを浮かべてその言葉を待っていたのだが、ユタは意外なことを言い出した。

 ユタ:「ビデオ放映はまた今度にしよう」
 威吹:「え?」
 ユタ:「もう1度……今度は、大宮競輪場辺りで折伏するんだ」
 威吹:「でも、誓願は達成したって……」

 コイツ、何言ってんだ?
 と、オレは正直言ってそう思った。
 ビデオ放映とやらを、河合殿と一緒に観るのではなかったか?
 オレが変な顔をしているのをよそに、ユタは立て続けに言った。

 ユタ:「いや、達成で満足しててはダメなんだ。誓願を大きく突破してこそ、支隊副長……じゃない。浅井先生へお応えしていく最良の手段だ。引いては一閻浮提広宣流布、僕達の成仏の為なんだよ」

 どうやら隊長に何か吹き込まれたらしいな。
 ユタは班長だったが、連続の誓願達成のおかげで、更なる出世をチラつかされたのだろう。
 向上心を持つのは大いに結構だが、どうもユタの目が危険だ。
 ここは少し、なだめておかねば。

 威吹:「……いや、今日はやめておこう。あまりあの妖術を使い過ぎると、怪しまれる」
 ユタ:「え?」
 威吹:「いや、実際怪しまれつつあるんだ。何しろ、いんたーねっととやらで、『催眠術を掛けて入信させる顕正会員の噂』なんて出てるそうなんだ。“あっつぁの顕正会体験記”とやらを見てみなよ?しっかりと書かれてるよ?」

 因みに、インターネットの使い方は河合殿から教わった。
 本来、顕正会ではインターネットの利用は禁止とのことだが、女子部ではそれが折伏誓願に繋がるものであれば、黙認されていたらしい。
 オレは人間ではないので仏門に下ることはできない。
 にも関わらず、河合殿はオレを仏門に引き込むことを目論んでいたようだな。

 ユタ:「ネットなんて、ただの便所の落書きさ。先生もそう仰ってる。それに、威吹のは催眠術じゃない」
 威吹:「その通りだが、やっぱりマズいって。本来、妖術ってのは伝家の宝刀なんだ」

 オレは子供の頃から里の大人達に妖術を教わったが、皆そう言った。
 そして、今ではオレもそう思う。
 もっとも、魔女達はそれを商売に使ったりするから、オレ達とは考え方が合わないだろうがな。

 ユタ:「伝家の宝刀も抜かなきゃ錆びる」

 ユタは尚も言い返した。

 威吹:「そりゃそうだけど、抜き過ぎるのも問題なんだって」
 ユタ:「どこが問題だ!御書のどこに、『妖術を持って折伏するべからず』なんて書いてある?先生だって、普段の御指導で禁止されていない!」
 威吹:「ユタ、前みたいにちゃんと連絡を取ってから、仏法の話をする方法に戻そうよ?何か、仏の教えに妖術を用いるのはおかしいって」
 ユタ:「それだと間に合わないんだ。キミも知ってるだろ?最近では顕正会という名前を聞いただけで、通報されるようになった。それじゃ、折伏にならない。何としてでも火宅の中にいる人々を御本尊様の前に連れ出すには、キミの妖術しか無いんだ!」
 威吹:「たまにならいいが、毎回はダメだ」
 ユタ:「威吹は何を恐れてる?封印前に君を封印したヤツのことか?」
 威吹:「あの時は刀よりも妖術をよく使っていた。それが為、巫女のさくらに見つかったからな」
 ユタ:「大丈夫。今の世の中、浅井先生以外に大信力をお持ちの方はいらっしゃらない。仮に先生が君の噂を知ったとしても、先生は大慈大悲のお方だから、むしろ喜んでくれるはずだよ」
 ユタ:「浅井昭衛殿とやらは、生き仏なのか?日蓮大聖人とやらと、どう違う?ただの人間ではないのか?」

 オレは顕正新聞やビデオ放映とやらで、浅井昭衛会長の写真や映像を見た。
 直に会った機会は無いが、それで見る限りでは、特に高僧という感じには見えなかった。
 何というか……そう、大店を構えている裕福な商人が、少し人より強めの霊力を持っているといった感じか?
 人間達はありがたがって拝んでいるようだが、少なくともオレ達妖怪にとっては取るに足らぬ人間であることに変わりは無いようだった。
 だが、それにユタはキレた。

 ユタ:「四の五の言ってんじゃねぇッ!!」

 例えとても強い霊力を持っているとはいえ、そこはケンカの弱い人間。
 ユタの拳など簡単に交わせたはずだ。
 だが、オレはあえて殴られた。
 それでユタが落ち着けばそれで良いと思ったのだ。
 妖怪の体は頑丈だから、ユタの拳一発程度は何でもない。
 ……はずなのだが!

 威吹:「!!!」

 拳が顔面に当たる直前、それが霊力を帯びているのに気づいた。

 威吹:(しまった!コイツ、霊気を……!)

 本来なら、蚊が止まった程度にしか感じないはずの人間の拳。
 だが、オレはものの見事に殴り飛ばされてしまった。

 威吹:(くそっ、油断した!まさか、ユタの霊力がここまで強くなっているとは……!)

 オレは鼻から出る鼻血を手ぬぐいで吹いた。
 茶寮内は騒然となったが、オレはそんなこと気にしていなかった。
 だが、そこでオレは鋭い視線を感じた。

 玉上:「人間の分際で……!よくも、威吹様の美しい顔に傷を……!!」

 天井裏から見ていたようだ。
 変な誤解をさせてはマズい。
 オレは急いで茶寮を飛び出した。

[同日18:45.天候:晴 大宮公園]

 玉上:「威吹様!某はもう我慢がなりません!あの人間を八つ裂きにして差し上げましょう!どうか、御命令を!」
 威吹:「待て待て待て。これはオレが仕組んだことだ。確かに、ここまで霊力が強くなっていたということはオレも想定外だったがな」
 玉上:「威吹様の二枚目の顔になんてことを!」
 威吹:「このくらい、すぐに治る」
 玉上:「某は我慢がなりません!」
 威吹:「おい、ユタはオレの獲物だぞ?勝手なことをするんじゃない」
 玉上:「威吹様はこのまま殴られ損にしておくと!?」
 威吹:「いいか、タマ?これは一時の借りだ。後でこの借りは別の機会、形で返してもらうさ。ユタはオレの獲物だ。お前が勝手に手を出すことは許さん。分かったか?……分かったら、返事!」
 玉上:「分かりません!」
 威吹:「あぁ!?」
 玉上:「あの威吹様が人間ごときに付き従うことすら理解不能であるのに、一方的に殴られることまでも容認するそのお気持ちが分かりません!」
 威吹:「理解できぬのというのなら、無理にとは言わん。理解できぬのなら、さっさと里へ帰れ」
 玉上:「……威吹様の手前、あの人間に手出しはしません。だが、しかし……」
 威吹:「お、おい!」

 オレは玉上が何かやらかさないか後を追おうとしたのだが、そこでユタに見つかった。
 あれだけ言っておいたのだから、少なくともユタには手出しをしないだろう。
 そう思っていたのだが……。

[同日19:15.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区寿能町 産業道路]
(ここから三人称になります)

 産業道路と呼ばれる埼玉県道。
 その上り線を1台の車が走っていた。
 そして、それがマクドナルド(※2018年現在、閉店)の向かい側で止まる。

 河合有紗:「支区長、ここでいいです」
 加藤支区長:「そう?じゃあ、私は車を止めて来るから、先に会館に行ってて」
 有紗:「はい!」

 有紗は支区長の車から降りると、そのまま歩道に上がった。
 上り線に車が止まったということは、会館に行くには道路を横断しなくてはならない。

 有紗:(ビデオ放映が終わったら、勇太君と……)

 因みにもう有紗はビデオ放映を見ているので、ユタを待つだけで良かった。
 横断歩道の信号は青点滅とはいえ、まだ赤に変わっていなかった。
 急いで有紗が横断歩道を渡ろうとした時だった。

 有紗:「!!!」

 下り線を凄いスピードで車が走って来た。
 そして……!

 玉上:「クククク……!妖狐族をナメるなよ、下等で愚かな人間め……!」

 歩道橋の上から残忍性を押し出した顔の玉上が見下ろしていた。
 
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