報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ボーカロイドの謎」

2016-12-19 10:23:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月13日17:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 敷島はアリスに再び電話した。

 アリス:「今度は何?」
 敷島:「ちょっと聞きたいんだが、ウィリーがボーカロイドを狙った理由って何だ?」
 アリス:「は?」
 敷島:「いや、昔さ、うちのボーカロイドがウィリーに狙われたことがあるんだ。最初は南里所長に対する嫌がらせ的に思ってたんだけど、今にして思えばもっと他に理由があったんじゃないかって思ってさ……」

 少し間があって、向こうから驚愕の声が聞こえて来た。

 アリス:「そんなことも知らなかったの!?」
 敷島:「な、何だよ?何か、マズかったか?」
 アリス:「おっどろいたー!よくそんなんで、今まで何も無かったわねぇ!」
 敷島:「だから何だよ?」
 アリス:「タカオの強力な運について、研究したくなってきたわ」
 敷島:「だから何だってんだ!?ボカロが一体何だというんだ!?」
 アリス:「タカオ、ボーカロイドがどうしてあんなに人気が出ているのか知ってる?」
 敷島:「彼女達が頑張ってくれてるからだ」
 アリス:「それは当たり前。もちろん、タカオの売り方が上手だからというのもあるよ。だけどね、あのコ達には特殊な能力が……。あ、はい。……あ、そうですか」
 敷島:「何だ?どうした?」
 アリス:「ゴメン!ちょっと急用!また後で」

 アリスの電話が切れてしまった。

 敷島:「一体、何だって言うんだ……?」

[同日19:00.天候:曇 同地区内 某ライブハウス]

 初音ミク:「皆さーん!こんばんはー!初音ミクでーす!」

 敷島は、たまたま近くのライブハウスでミクがソロライブをやるというので、急いで駆け付けた。
 今ではもう井辺を総合プロデューサーに選任し、更には専属マネージャーを付けて任せている状態である。

 篠里:「あ、社長!どうなさったんですか?」

 ステージ裏に行くと、専属マネージャーの篠里が驚いた様子で敷島を見た。

 敷島:「いや、ちょっとミクの様子を見に来ただけだ。何しろ、俺が最初にプロデュースしたボーカロイドだからな」
 篠里:「はあ……」

 そうしているうちにミクの歌が始まった。

 ミク:「もっとずっと笑えるように♪流星にお願いしたら♪……」

 いつものミクの歌声。
 今では多くの固定ファンが付き、物販コーナーのグッズは売り切れ続出だ。
 『スター1人抱えられればビルが建つ』と敷島は親会社の役員に言われたが、正にその通りである。

 篠里:「いつ聴いても心に響きますね。僕もファンの1人でしたから、マネージャーになれて幸せです」
 敷島:「ああ。面接の時、キミのその様子を見てピンと来たからね。うん、期待してるよ」

 敷島はしばらくの間、ミクの歌を聴いていた。
 だが、いつものミクの歌だ。
 どこも変な所は無い。
 出力の調整によって、そのままロボットが歌っている声から人間と聴き間違うほどの歌声まで調整可能だ。
 歌の内容によって、ミクは自分で調整して歌う。

 エミリー:「お気づきになりませんか?」

 エミリーはこそっと敷島に耳打ちした。
 バックヤードには篠里の他、スタッフもいるからだ。

 敷島:「やはり何かあるのか?」

 するとエミリーは普段は見せない、人を小馬鹿にしたような顔になった。
 シンディならたまに見せなくもないが、エミリーがその顔をしたのは初めてだった。

 エミリー:「他のボカロとも聴き比べた方がよろしいかもしれませんね」
 敷島:「ミクだけが特別なのか?それとも、他のボカロも共通しているのか?」
 エミリー:「それは御自分で判断なさいませ」

 ミクが一通り歌い終わる。
 いつしか終演時間の21時に迫っていた。

 ミク:「ありがとうございまーす!あっという間に、時間が過ぎてしまいましたね。わたし、本当はもっともっと歌いたいんです。でも、2時間というお約束ですからね。……」

 エミリーが曲目を見てニヤッと笑った。

 エミリー:「ミクの歌はあと2曲です。その2曲が大きなヒントです。これを聴いて、どういうことなのか御理解ください。できなければ……アンドロイドマスター失格です」
 敷島:「あとの2曲?」

 折しもステージでミクがその2曲を紹介する。

 ミク:「最後の2曲は、あえて懐かしい歌を歌わせてもらいます。皆さんも何年か前、この東京の中心部を多くのロボットが暴れてご迷惑をお掛けした事件を覚えていると思います。この2曲はその時、私が歌ったものです。博士達はこの歌のおかげで、暴走ロボットの動きが止まったと仰っています。聴いてください。“初音ミクの消失”“浅黄色のマイルストーン”」

 ミクがタイトルを読み上げると、敷島はハッと気づいた。

 敷島:「そうなんだ。あの東京決戦の時……」

 
(“東京決戦”当日。降りしきる雨の中、日比谷公園を占拠した前期型シンディ率いるバージョン3.0の軍団。しかしミクの歌う“初音ミクの消失”を電波に載せて放ったところ、大手町界隈を除く他のロボット軍団は強制シャットダウンで活動を停止した)

 ミク:「ボクは生まれそして気づく所詮ヒトの真似事だと……」

 いきなりテンポの早いセリフから始まる。
 とても人間の口ではできないくらいだ。

 エミリー:「う……」

 エミリーが右のこめかみを押さえてフラついた。

 敷島:「エミリー!?」

 エミリーが床に座り込む。
 まるで貧血を起こしたかのようだ。
 ミクのあの歌はマルチタイプでさえも、出力を落とすほどの力があるのか。

 敷島:「! だから、俺がビルに突入してもシンディが待ち構えているということは無かったんだな!」

 放置されたバスを使い、それでバージョン3.0軍団の包囲網に突撃した敷島。
 そこからウィリーの潜むビルに飛び込んだが、シンディが待ち伏せしているということは無かった。
 エミリーがこうして倒れているように、シンディもまたどこかで倒れていたのかもしれない。

 エミリーが復帰したのは、ミクが“浅黄色のマイルストーン”を歌い始めた時。

 エミリー:「キツかったです。……お分かりになりましたか?」

 エミリーがよろよろと立ち上がる。

 敷島:「ああ。分かったよ。確かに、ウィリーなら悪用しそうだな」

 敷島はエミリーが立ち上がるのに、手を貸してやった。

 敷島:「ミク達ボーカロイドに出力のバカ高い歌を歌わせ続ければ、世界中のロボットがブッ壊れて大混乱になるってことだからな。ウィリーがやりそうなテロだ。それで狙ってたんだ。なるほどなるほど。MEIKOやKAITOをヤツから取り戻して正解だったよ」
 エミリー:「それもあるんですけど、まだ他にあるんですよ」
 敷島:「なにっ!?」

[同日21:30.天候:曇 ライブハウス→敷島エージェンシー]

 ミク:「たかお社長が来てくれてたなんて嬉しいです!」
 社長:「ああ。たまには俺も様子を見に行こうと思ってさ」
 エミリー:「初音ミク。あまり・社長に・引っ付くな」
 ミク:「あっ、ごめんなさい!」

 運転は篠里が行い、助手席にはエミリーが座っている。

 エミリー:「社長。後で・今回の・ライブに・対する・ファンの・アンケートを・よく・お読みに・なって・ください」

 エミリーはいつものロボット喋りになって、敷島にそう言った。

 敷島:「わ、分かった!」
 篠里:「アンケートの内容の精査なら、僕達でやりますよ」
 敷島:「あ、いや。ミクは特別なんだ。今回は俺がやる」
 篠里:「はあ……」

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