『月読む人たち』
冷たい季節
部屋は暖かい
高齢女性の人
夜はテレビを
一人見ている広い食堂
めずらしくその高齢女性が
カーテンは開けて
夜空を見上げていた
満月だという
今年最後の満月だという
高齢女性は子供の如く
窓際で顔をくっつけていた
潮は
打ち際
陸の先にある
崎に立って
満月を待っている姿
町の街灯は明るく
星ひとつ見えず
車がたくさん
満月が見える方角も
時間を調べても
判らない
豊かで実りある高齢女性の人生
そんな人は
満月を待っている
時に
現れたのは
立ち葵の人 タチアオイの人
満月の話
すると
高齢女性の手を引いて
立ち葵さんが
人道回廊を歩いて行く
立ち葵さんと
高齢さん
その二人は廊下を進む
入ってはいけない場所に
危険な道ではあるけれど
ここは人道回廊
二人の進む姿
後ろ姿に未来が見える
「北に向かう」
言葉を食堂に残し
二人は人道回廊を
まっすぐ進んだ
迷いなく
涙は幾でも
打ち寄せ
波は幾でも
打ち寄せ
山に響く
鈴の音
草木と海のあいさつ
わたしは待っていた
二人は戻ってきた
人道回廊から戻った
二人は私に言った
「見えた」
「雲があるけど満月だったよ」
高齢さんは
子供の姿になって
菩薩様登場
立ち葵さんは
女性の姿になって
菩薩様登場
冷たい満月
12月27日の夜の空
夜の世界を
ツクヨミ様が
わたしたち三人を
見ている
「見えた」
はい
「満月 見えたよ」
うん
「よかった」
よかったね
私は部屋に戻って
ベッドで目をつぶった
実際に月は見なかったけれど
目を閉じると
大きな満月が
目の前に迫ってきたのだ
私を包まれた大きな月
これはもしかしたら
高齢さんと
立ち葵さんが
本物の月光菩薩様だ
涙は幾でも
打ち寄せ
波は幾でも
打ち寄せ
山に響く
鈴の音
草木と海のあいさつ
アァ月光菩薩様登場です
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