kotoba日記                     小久保圭介

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その人はいつも泣いていた

2020年04月04日 | 生活詩
    



その人はいつも泣いていた
笑っている時も
怒っている時も
迷っている時も

その人はいつも泣いていた
めったに涙を流さず
眉間に皺を寄せ
何かを考えている時も
その人は泣いていた

お酒を飲んで騒いている時も
眠りにつく時も
太陽が昇っても
その人は泣いていた

世間がその人をほめても
人気があっても
その人はやっぱり泣いていた

時には泣きながら
さらに激しく泣いていた

人間らしく振る舞い
威勢の良いことを言っても
誰かれに逆らっていても
その人は心の奥で
常に泣いていた

町にいても
家にいても
自然の中にいても
故郷に帰っても
その人は泣いていた

その人が泣けば泣くほど
みんなその人を笑った
そしてまた泣いた

たくさんの欲があり
それを満たしても
まだ足りない
もっと欲しい
その人はもっと望み
もっと欲しいと叫び
そして泣いていた

みんなその人の気前の良さに
大物を見て
尊敬の念を持って見る
けれど
その人は泣いている

生真面目で
努力して
誰にもそれを見せず
威張らず
常に向上したいと望み
必死で日々を真剣に生き
そしてその人はずっと泣き続けて
前に進む

その人は足りないものを補うために
あちこち駆け回る
足りたものもあったし
足りないものもあった
「しょうがないか」
とひとりごとを言う時
その人はやっぱり泣いていた

その人が空に帰った時
みんな泣いた
その時
初めて
その人は泣きやんだ
「どうして泣くのだろう」
みんなの涙が不思議だった

その人は
みんなの思いでできている
その人だけじゃなく
すべての人が
みんなの思いでできている

この世から空に帰ることを
『旅立った』
とみんな言う
違う
帰るのだ故郷に

この世に生まれ
生きてゆく
それが旅

その人が空に帰った時
「どうして?」
とみんな思い
流行病の浮ウを
日本中に知らしめた
もしかしたら
その人の
最後の献身だったのか

空に帰った悲しみに
意味を付け
安心したがる
この卑しさよ

その人は海からやってきて
海の匂いをぷんぷんさせて
この世を生きた

どうやったら
笑ってもらえるだろう
どうやったら
じいちゃんばあちゃんを
笑顔にできるだろう

思いがその人を突き動かし
常に献身しかしなかった
笑わぬ人を笑わせようと
その人はずっと泣き続けた

孤独
寂しさ
彼女といても
友達といても
兄弟といても
足りないもの
欲しいけれど手に入れられないものがある
その人はその度に
また泣いた
どうして
と自問して
また泣いた

世界のしあわせより
目の前にいる人を
助けたいと願い
そうした
感謝されるたびに
その人はいつも泣いていた

その人は笑いながら
やっぱり泣いていた

空に帰って
その人はやっと泣きやんだけれど
未だに人間臭くてしょうがない

みんなその人間臭さに救われ
みんなが涙を流すと
その人はきょとんとして
「大丈夫かあ?」
と言った

そして
初めて
笑った




      似顔絵を発表した
      堀田明日香氏に
      感謝する







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