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ものまね番組で芸人が聖徳太子ものまねをやっていたら、ご本人が登場!(4月1日限定:特別記事)

2023年04月01日 | その他

 「2022年度も終わりか」と思いつつ深夜テレビを見ていたら、4月1日に日付が変わった途端、画面に「ものまねグランプリフール 聖徳太子のご本人が登場!」と表示されました。

 私の場合、4月1日には意外なことが起きることが多いのですが(たとえば、こちらや、こちらや、こちら)、そんな番組が放送されるとは知りませんでしたので、見始めたところ、驚くべき内容でした。

 ものまね番組で「ご本人登場」と言えば、普通は、ものまね芸人がその人のものまねをやっていると、背後からご本人が登場して驚かせるというパターンですね。

 この番組の場合、まず出てきたのは、髭をはやした女子中学生の姿をした芸人の脳みそ夫であって、「聖徳太子だって、修学旅行、行くっつうの! あたし、聖徳太子。飛鳥中学3年2組」と自己紹介を始めました。

 これは脳みそ夫自身が、所属するタイタンの公式ホームページ(こちら)で公開している彼の人気ネタですね。脳みそ夫については、ライブを何度も見ています。結婚直後のライブでは、奥さんが縫ってくれたという衣装を着てました。

 私は昔から芸能好き、とりわけものまね芸が大好きで、『<ものまね>の歴史ー仏教・笑い・芸能ー』(吉川弘文館、2017年)という本まで出しているくらいですので、この方面は詳しいのです。

 となると、ご本人登場というのはどういう形にするんだろうと思っていたら、背後から登場したのは、中国の南北朝末あたりの姿をした威厳に満ちた僧侶です。その僧侶は、「我是南岳慧思,因转世为日本的圣徳太子而闻名」と現代の北京語の発音で語り、画面の下に、「私は南岳慧思です。生まれ変わって日本の聖徳太子となったことで有名です」とテロップが出ました。

 いや、たまげました。日本に転生して聖徳太子となったという伝承で知られる南岳慧思を、他のものまね芸人が演じているのではなく、本物の慧思が登場したようです。まさに、「ご本人登場」です。

 ただ、慧思禅師は、聖徳太子が生まれた3年後あたりに亡くなっており、生まれ代わりはありえないのですが、昔のことですので、その辺のことは忘れているのでしょう。あるいは、これが古代のロマンというものなのか。

 脳みそ夫が驚きのあまり何も言えずに固まっていると、慧思禅師の後ろからさらにもう一人、インド人僧侶風な僧が車椅子に乗って現れました。こちらはカーキ色の衣を身につけた非常に高齢の僧で、車椅子の上に坐禅姿で座っており、片腕がない中国僧が、その車椅子を片腕だけで押して登場したのです。

 眼光鋭いその老僧は、無言のまま、手にしていたスケッチブックをめくりました。そこには、“मैं बोधिहर्म हूं” といったような文字が書かれていました。まったく読めません。

 ただ、フロアーにいたテレビ局の誰かが外語大のヒンディー語学科出身か何かだったのか、「ダルマだ!」と叫んでいる声が聞こえましたので、おそらく、禅宗の開祖である菩提達磨が「わしが菩提達磨じゃ」といったフィリップを見せているのでしょう。

 菩提達磨は沈黙を守っていたことで有名ですからね。となると、弟子らしい片腕がない僧は、自ら腕を切って決意を示し、達磨に弟子にしてもらった二祖の恵可ということになります。

 しかし、聖徳太子が片岡山で出逢った飢人は実は菩提達磨だったという伝承はあるものの、逢っただけですので、「ご本人登場」とは言えません。ただ、達磨が慧思と出会って日本に生まれるよう勧めたという伝説もありますので、老齢のダルマ師は、「昔の恩人と涙で再会」といった番組と間違えて出てきたのではないでしょうか。

 そう思った人は他にもいたようで、今度は優雅なサリー姿の若くて美しいインド女性が登場し、ダルマ師にインドの言葉で話しかけました。やんわりとたしなめているようです。

 聡明そうなその女性は、スマホを取り出してパシパシと入力し、ポンとクリックしました。インドの言葉を日本語に換える翻訳アプリを使ったようです。

 その女性はスマホの画面をカメラに向けたため、カメラが寄っていくと、その画面には「私は勝鬘夫人です」と表示されており、読み上げ機能によって日本語でなめらなかに読み上げられました。

 いやあ、驚きました。前世の太子と転生後の太子に会っただけの菩提達磨と違い、『勝鬘経』の勝鬘夫人なら聖徳太子に生まれ変わったと言われており、寛弘4年(1007)に四天王寺で発見されたという「御手印縁起」では、太子は「皇太子仏子勝鬘」と署名して朱で手印を押されていますので、これなら過去世のご本人登場と言って良いでしょう。

 すると、ここで画面の下に、「コンプライアンス上、この放送は4月1日限定です」というテロップが流れ、番組が終了しました。今日だけとはいえ、私はお気に入りの聖徳太子ものまね芸人の芸だけでなく、「前世のご本人」登場まで見ることができ、幸いなことでした。

 放送もこの記事も、本日、4月1日限定ですが、ブログに書いた脳みそ夫の記事は、以後もずっと見られますのでどうぞ(こちら)。