聖徳太子研究の最前線

聖徳太子・法隆寺などに関する学界の最新の説や関連情報、私見を紹介します

変格漢文に関する科研費プロジェクトの国際研究集会

2014年12月28日 | 聖徳太子・法隆寺研究の関連情報
 ながらくのご無沙汰で申し訳ありません。生来の浮気性により、芸能史に打ち込んだり、清末民国初の思想の発表をしたりで、聖徳太子研究からは離れておりました。もう少ししたら聖徳太子研究に復帰しますし、入門書も書きます。

 ただ、この間も、三経義疏や「憲法十七条」その他の著者問題研究に関わる研究プロジェクト、すなわち、私が代表をつとめる科研費の基盤研究B「古代東アジア諸国における仏教系変格漢文の基礎的研究」は進行しており、2014年度の「国際研究集会」のうちの発表会が、12月20日に開催されました。変格漢文に関する諸国の第一線の研究者揃いです。プログラムと各発表の概要は以下の通り。


石井公成(駒澤大学教授)
「盲僧が読誦した『仏説地心陀羅尼経』に見える変格語法-江田文庫本の李朝版に基づいて-」
 *駒澤大学図書館の江田文庫蔵のテキストを利用し、琵琶法師の源流であって高麗の盲僧が琵琶を弾きつつ読誦していたと推測される高麗の偽経『仏説地心陀羅尼経』の変格語法を調査。日本の変格漢文との共通点が目立つことを指摘。

森博達(京都産業大教授)
「『日本書紀』区分論と仏典表現--馬駿氏の「言語類の四文字語句」を資料として--」
 *昨年度の発表における馬駿氏の研究を活用し、正格漢文で書かれている『日本書紀』α群における例外的な表現を精査する試み。α群中のうち、四文字語句の変格語法は、後代の追加・潤色部分に限られることを指摘。変格漢文にも筆者による違いがあることも指摘。

馬 駿(中国・対外経済貿易大学教授)
「上代文学の文体と漢訳仏典との比較研究--提示句式の正格と変格を中心に」
 *日本の上代文献における「如是~」「如此~」「種々~」などの用例を分析し、中国の通常の漢籍に見えるもの、仏教漢文に見えるもの、変格の用例の三種に分類。

瀬間正之(上智大学教授)
「文字言語から見た古代日本の中央と地方」
 *木簡などを活用し、中央の用例と地方の用例の違いに注意したもの。訓読に基づく表記が地方でも7世紀半ばに見られることなどを指摘し、訓読の利用開始時期について、従来の説より年代をあげた。

崔植(韓国・東国大学副教授)
「元暁著述にみられる´爾´の変格用法の性格」
 *正格漢文と思われてきた元暁の著作には、「爾」を接続辞のように使っている用例が見られ、それは新羅の金石文に見える特異な用例と一致することを指摘。

金 文京(京都大学人文科学研究所教授)
「『釈迦如来十地修行記』について」
 *高麗の仏伝である『釈迦如来十地修行記』の特質、口語体・説唱体文体などの文体の混在を指摘し、おかしな語法を含め、特色ある表現について検討。

董志翹(南京師範大学教授)
「漢譯佛典中的“坏(杯)船”、“坏(杯)舟”――兼談“杯度”、“一葦渡江”傳說之由文」
 *漢訳仏典に見られる、「坏(杯)船」「坏(杯)舟」などの表現を検討し、これが菩提達磨が葦に乗って揚子江を渡ったとする伝説に影響を及ぼしたことを指摘。

藤本幸夫(富山大学名誉教授)
「日韓訓読研究の現在」
 *藤本幸夫編『日韓訓読の研究』の元となった研究プロジェクトや出版経緯の紹介。高麗の訓点や韓国で最近発見された様々な角筆から分かる訓読方法に関する最新の研究状況を概説。

以上です。これらの発表を聞いていると、資料のうちから目につく単語だけを拾ってあれこれ議論する時代は終わったことを痛感します。出典や語法に注意しつつ、文章として精密に読む努力が必要ですね。