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僕の前世はたぶんオランダ人。

おもしろきこともなき世をおもしろく

カラスの親指(道夫秀介)

2024年08月12日 | よむ

そのインパクト強めのタイトルから
頭に残り
ずっと最新作だとばかり思っていたが
2008年の作品で
もう14年も前の作品なのね。
これは和製ユージュアルサスペクツですな。
途中途中で「ありえへん展開」がつづくわ、
多少無理のあるご都合主義にやや鼻白むも
読了すれば
ああそうだったのね。
と納得の内容。
含みをえらくもたせた
持って回ったような伏線も
最終章「カラス」で一気に回収する。
文体は全体的に
東野圭吾と伊坂幸太郎の中間のようで
ポップで疾走感があり
非常に読みやすい。
もしやと思い調べてみると
阿部寛主演で実写化済みとのこと。
これは原作ファンも納得のキャスティング。
もうちょっとさえないおっさん2人組が主演でもよさそうだが
不器用でまっすぐかつ姑息な役柄はピッタリ。
ヤミ金からの家庭崩壊という
重いテーマを喜劇で描き切る良作。
各章が鳥の英名になっており
ちょっとした勉強になる。

ある男(平野啓一郎)

2024年07月08日 | よむ

平野啓一郎作品では最速読了。
まさかの半日。
ストーリーを追いかけるだけなら
あっという間に読み終わる。
マチネ、空白、ある男と
実写化も多い作家さんだけど
この人のよさはストーリー展開ではなく
幕間に挟まれる
時事ネタだったり
唐突な主張だったりするんだよな。
今回は在日・倦怠期・震災を
ふんだんに突っ込んできており
ここが一番読み応えのある部分だけに
作家のメッセージを映像化するという意味では
本来、一番実写化が困難な作家さんだと思うのよね。
宮部みゆきの大傑作『火車』のようなストーリーで
君ほんとは誰やねん。
の謎解きなのだけど。
なによりも日本語遣いがとんでもなく上手で
起きている事象を正しく伝えたり
目に見えない心のひだを言語化して説明したり
特に深層心理の描写においては
当代髄一ではなかろうか。

告白(長州力他)

2024年05月11日 | よむ
UWFとか新日とか。
K1とかプライドとか
格闘技路線にマットを蹂躙され
混迷を極めた平成プロレスの舞台裏を
独白・対談スタイルでつづったものを一冊にまとめたもの。
UWFあたりはあまり詳しくないのピンとこないが
橋本の嫁さんの話は知らなかったので面白く読めた。
安生洋二は総合の噛ませ犬と思っていたら
思いのほか実力者扱いを受けているし
渕正信のマイクパフォーマンスも
親日のマットに上がるまでの道程を知ると
面白さが違ってくるし。
けどまぁこういう飲み屋で聞く与太話のようなたぐいの話は
どうせあっという間に忘れちゃうんだけどさ笑。


楊家将(北方謙三)

2024年04月30日 | よむ

初の北方謙三。
北方といえばハードボイルド作家の
二つ名の通り
男くさい男だらけの男のための作風で有名。
ながら今回はもう一つの作風の
歴史作家の中から
北方
時代背景的には大水滸伝の始祖ともいえる内容で
楊家将→血涙→水滸伝→楊令伝→岳飛伝
と200年にわたる宋の勃興を描く第一話となっている。
内容的についてサックリ言及してしまうと
ひたすら騎馬戦しているのだが
楊家の首領とその7人の息子を
丁寧に描き分けるだけでなく
敵将の描き方が実に魅力的で
誰が主人公なのか分からなくなるほど。
一進一退の攻防が繰り返される中
ラスト30ページの怒涛の展開は
ページが砂埃を上げて迫ってくるような迫力がある。
騎馬戦の後は必ず野営地にシーンを移し
満天の星空の下
つかの間の休息で英気を養う
緩急のつけ方が面白い。
なにより回収されなかった伏線がいくつかあり
おいおいおいと思っていたら
続きは【血涙】をお楽しみにってことなのね。

一九八四年(ジョージ・オーウェル)

2024年02月20日 | よむ

ザ・ディストピア小説。
行きつけの美容院の方からのお勧め。
まずこれが1949年に刊行されていることに
驚きを禁じ得ない。
村上春樹のIQ84もこの一冊がなければ
存在しなかったらしい。
たしかにビッグブラザーとリトルピープルだ。
幸いなことにここ日本での
1984年は国内はバブル前夜で
輸出に支えられた好景気で
世界は冷戦の真っ最中だった。
小説内での1984年は
現在のイギリスロンドンの管理社会が舞台となっており
南北米にイギリス・オーストラリアを含むオセアニア、
文字通りユーラシア大陸をほぼ網羅するユーラシア、
イーストアジアに由来すると思われるイースタシアの3勢力と
三竦みの空白地帯の計4ブロックに世界は分かれていた。
ただロンドン市民に直接的に関係あることではなく
目隠しされたまま中央局からの伝達事項として
一報通行に伝えられる程度のもの。
この辺りスターリンや毛沢東の統治に供するものがあり
戦争の延長線で統治をおこなうと
こんな世界がやってくるの
お手本のようであり、
また
現代も気が付かないだけで
この世界線を実は交わっているように思う。
愚者は経験に学び、
賢者は歴史に学ぶというが
個々が歴史に学ばず
考えるのをやめてしまったとき
ビッグデータという名のビッグブラザーに
我々が飲み込まれてしまう日も
実は近いのかもしれない。
救いなのは
文末付録のNEW SPEAKに対する注釈が
過去形となっており
ビッグブラザーによる統治が過去のものであることを
暗喩していること。