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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第3回)

2023-11-08 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

一 汎西方アジア‐インド洋域圏

(3)多民族クルディスタン

(ア)成立経緯
主権国家のトルコ、イラン、イラク、シリアにまたがって散在していたクルド人集住地域が分立・統合されて結成される統合領域圏。「多民族」が形容的に冠されるのは、域内に多数の非クルドの少数民族も居住するためである。

(イ)社会経済状況
経済状況の異なる複数の国に分散していため、最も豊かなイラクのクルド自治区を筆頭に経済状況に大きな格差があったが、統合後は全域で環境持続的な計画経済が完備され、経済格差が解消される。経済的な中心は旧イラク領内クルド自治区の首都として油田開発を軸に資本主義的な発展を遂げていたアルビルを中心とした地域になるが、油田の管理は世界共同体の下に移される。領域圏全体を通じて農業は重要産業となる。

(ウ)政治制度
複数の国に散らばっていた地域の統合という異例の経緯で形成されるが、統合性を高めるため、連合領域圏ではなく、統合領域圏としてまとまる。政治代表都市はアルビル。かつて各国でクルド独立運動に関わった諸政党は、領域圏の創設に伴い、解散される。クルド語は方言差が大きいことや、多民族主義を徹底するため、エスペラント語を統一的な領域圏公用語としつつ、領内に居住するすべての民族の言語を各民族の教育言語に認定する。

(エ)特記
クルド人は「国家を持たない最大民族」と同情的に称されてきたが、国家を持たないことは、かえって非国家的な統合領域圏の創設に成功する要因となる。特に、旧シリア内戦下の北東部ロジャヴァで事実上の革命的解放区を形成し、革新的な協同経済と分権的な民主主義を実践していたシリア・クルド人勢力が領域圏の形成を主導する。

☆別の可能性
統合領域圏ではなく、四か国にまたがって散在していた各地域を準領域圏として構成される連合領域圏として成立する可能性もある。

 

(4)イラク

(ア)成立経緯
主権国家イラクを継承する統合領域圏。ただし、21世紀初頭のイラク戦争後、事実上の独立状態となっていたクルド自治区は上述のように、クルディスタンの一部として分立する。

(イ)社会経済状況
主権国家時代は石油産業が経済の圧倒的な中心であったが、油田管理が世界共同体に移管され、石油利権は失われる。しかし、自給的な工業力を活かして、計画経済が発展する。農業生産は元来、砂漠気候という地理的な条件と水不足により制約されがちであったが、工場栽培技術の発展により、自給率を高めていく。

(ウ)政治制度
主権国家時代はイスラーム教スンナ派とシーア派の二分的対立状況が激しく、国家の統合性を脅かしていたが、民衆会議制度の導入により、宗教別政治参加が禁じられたことで、宗派対立は止揚される。ただし、領域圏民衆会議は最大都市バクダッドと南部シーア派地域の中心都市バスラで一期おき交互に設置・開催することでバランスを取る。

(エ)特記
宗教紛争防止のため、キリスト教など少数宗派を含む各宗派の指導者で構成される宗教間評議会が常設される。

☆別の可能性
望ましい可能性とは言えないが、スンナ派優位の南部とシーア派優位の北部が独自の領域圏として分立し、南イラク及び北イラクの両領域圏で合同領域圏を形成する可能性、より望ましくない可能性として、合同もせず南北イラクが完全に別領域圏として分立する可能性もなしとしない。

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