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牙を抜いた共産党

2021-10-20 | 時評

初めに本稿タイトルの留意点であるが、「牙を剝いた」でないことはもちろん、「牙を抜かれた」でもない。より補足的に言えば、「自ら牙を抜いた共産党」である。

今般総選挙で、主要野党が史上初めて共産党を含めた選挙協力及び「連合」政権構想を携えて選挙に臨む方針を示したことで、最大労組まで含めた反共勢力からの定番反共攻撃が強まっている。冷戦時代の黄ばんだイデオロギー教本が再び参照されている模様である。

しかし、ソ連解体以後の西側諸国における残存共産党のほとんどは、議会政党としてブルジョワ議会に参加することで生き残りを図ってきており、反共攻撃陣営の常套文言である「暴力革命」は妄想的強迫観念に近いものである。

そのことを最もわかりやすく、かつ素朴に語っているのが、日本共産党・志位和夫委員長の次の言葉である。


私たちのめざす社会主義・共産主義は、資本主義のもとで獲得した価値あるものを全て引き継いで発展させる。後退させるものは何一つないということです。例えば労働時間短縮など暮らしを守るルールは、全部引き継いで発展させる。日本国憲法のもとでの自由と民主主義の諸制度も、全て豊かに発展的に引き継いでいく。せっかく社会主義になっても資本主義より窮屈でさみしい社会になったら意味がないわけです。日本は発達した資本主義のもとですでに多くの達成を手にしています。(中央公論.JP


共産党が「資本主義のもとで獲得した価値あるもの(引用者注:ここで言われる「価値」はマルクス理論にいう「価値」とは全く別もの)」「発達した資本主義のもとですでに(手にした)多くの達成」を継承すると明言しているのである。もはや純正な共産主義をあえて追求しないという脱共産主義宣言と読んでもよい。

「暴力革命」を云々する面々は、共産党が「連合」すれば牙を剥くぞと脅しているのであるが、共産党は牙を剥くどころか、ブルジョワ議会に適応するために、革命政党としての牙を抜いているのである。政府の強制によって「牙を抜かれた」わけでもなく、自らの選択としてそうしているのである。

結果として、現在の日本共産党(以下、この意味で「現状共産党」という)は、かつての日本社会党に近い立ち位置にあると言えるだろう。共産主義社会を目指すのではなく、資本主義に相乗りつつ、護憲平和と労働者の権利擁護の限度で満足する名目的な“社会主義”路線である。社会党が事実上消滅した後に共産党が入ったと言ってもよい。

であればこそ、現状共産党は中道/保守リベラルその他諸派の離合集散態である新・立憲民主党と「連合」することも可能となっているのである。

このような牙を抜いた現状共産党をいかに評価するかは、評者自身の立ち位置次第である。真の共産主義を構想する立場からは、現状共産党はもはや真の共産主義の党ではなく、「リベラル」な修正資本主義の一党にすぎず、格別の魅力はない。

しかし、「リベラル」の立場からすれば、現状共産党は共産主義に拘泥せず、現実主義に目覚め、「リベラル」に接近してきたと見え、協力可能な歓迎すべき路線ということになるのであろう。

他方、冷戦時代のイデオロギー教本を現在も後生大切に抱懐する立場からは、共産党は牙を抜いたふりをしているだけで、いざ政権交代すれば牙を剥いてくるに違いない、排撃すべき危険政党ということにされている。

筆者は現状共産党に格別魅力を感じないが、一つ好感できるのは、選挙協力のために多数の自党候補者を取り下げながら、「連立」せず、閣外協力にとどめるとしている点である。

党派政治で選挙協力と言えば、通常は政権に加わることを想定しているが、共産党はそれを辞退している。つまり「大臣の椅子」を求めないという謙抑的姿勢である。現状共産党の路線はどうあれ、権力欲に取りつかれた党ではなさそうである。

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